第49話「悪役令嬢ト新タナ迷宮」
俺様達は北方の村での調査を終え、ギルドマスターへ報告をしたが、ギルドマスターの表情は今ひとつだった。何故だ。
「北方の村での調査ご苦労だった、……と言いたい所だが、ギルドに苦情が来ておるぞ。お前たち、何やった」
「何、ってデコトラに化けて暴れてたのがいたから、」
リアが口を挟もうとしたが、ギルドマスターが手で制した。
「うむ、それはあの村との依頼を中継したギルド支部からも連絡を受けておる。村の近くまでやって来ていた『デコトラ』を、見事村人の前で退治してみせたという事で、それについては感謝の言葉が来ている。だがな、その他が問題なのだよ」
やけに情報が早いなと思ったら、村からギルドの地方支部経由で俺様達が戻るより早く連絡が来てたらしい。早いな、俺様達はどうがんばっても戻るのに2日はかかったからな。
俺様達はデコトラに化けていたギギを闇の魔力から解放した後、このまま帰ったのでは村人も安心できないだろうと一芝居打ったのだ。
内容としては見た目とか色を変えた俺様が村を襲うふりをして、途中でダミーと入れ替わってリアがそれを退治した、というもので、ダミーの残骸も村長に見せた事で一件落着したと思っていたのだ。
「どうして魔物の調査に行ったというのに、別の魔物が増えたりするんだ。ギルド支部からの連絡では四本脚で人の上半身を持ち、背中に黒髪の女性を乗せた恐ろしげな全身鎧の怪物が夜な夜な奇声や咆哮しながら出没したとあるぞ?」
あー、それは……。
悪気は無かったんだけど、相手が強い魔物におびき寄せられるなら、自分たちが魔物になればいいじゃない。というのを少々悪ノリしてしまった気がする。
「他にもだ、突然日食が起こって、何か得体の知れない威圧感のある存在がすぐ近くに出現して、この世の終わりかと村人がパニックになって、
正直な所問題が解決したのか増えたのかわからない、とギルドに苦情が来ていた。お前たち、何も知らんとは言わせんぞ」
「レイハ……」
俺様はさすがにそれは隠し通せないとレイハに助けを求めたが。
「ウチは何も知らぬ、そしてそのような事はもうあの地では起こらぬ、としか言えぬ」
「……まぁ、そういう事ならそう返事しておこう。ご苦労だった、下で報酬を受け取ってくれ」
レイハが珍しくこの事については口をつぐんだ。闇の魔力の事を話さないのか?暴れていた原因とかくらいなら報告してもよさそうなもんだけどな?
ギルドマスターも何かを察したのか、それ以上は追求しようとはしなかった。
「珍しいな、レイハがそういう事を隠すなんて」
「お前達だから話すがな、これはウチの国の恥とでも言うべき大問題なのだ。なのでウチは立場上何も話せぬとしか言えぬ」
ギルドマスターの部屋から出て一階に戻る時(ちなみに階段だ)、俺様はレイハに聞いてみた。取り付く島も無しという程ではないが多くを語ろうとはしなかった。
レイハは胸に下げていたネックレスに手をやる。その目つきから、俺様はもしかしてレイハが俺様達の旅から抜けるのでは?と思った。
「えっと、それ以上深くは聞かないけど、その手がかりを手に入れたんだろ?これからどうするんだ?」
「うむ、実のところ、何か手がかりを手に入れたら一人で痕跡を辿ろうと思っておったのだがな。
この一件に”デコトラ”が関わっていたというのであれば、お主らと離れるのは得策ではないと判断した、よってもうしばらくやっかいになるぞ」
「それは有り難い事です。あの村ではこの世の終わりかとばかりに皆様が騒がれまして、私も身の危険を感じた程です。どうかこれ以上お嬢様達が色々とやり過ぎないよう
ケイトさんの言葉の最後の『お互いに』、ってのはレイハもやらかしたのに気づいてるなー、これ。
ともあれレイハがこの後も同行してくれるのは有り難い。リアはまだまだ冒険者としては素人も良いところだからな。
「俺様達は特に目的も無いからレイハの探しものを優先してもいいけど、具体的にどうするんだ?」
「うむ、デコトラの影ある所に闇の魔力あり、という事がわかったのであれば、それらしい依頼をこなして尻尾を掴むしかあるまい」
ギルドマスターからも、デコトラ絡みの案件があれば声をかけると言われていたし、それが無かったという事は今はデコトラが関係してそうな事件は無いという事なのだろう。自分達で探すしか無い。
とはいえ、一階の依頼掲示板に貼られている依頼を見てもそれらしいものは無い。
「でもレイハー、『デコトラ退治して下さい』みたいな依頼があるわけ無いよねー」
「ウチも別に焦ってはおらぬよ、西へ西へと移動する痕跡を辿っておるだけじゃからな」
「西かぁ、とにかく西の依頼を受けるとかいうので良いのか?」
俺様もリアの胸元で依頼の紙を見てみるが、まだ読めない字も多いので何がなんだかわからんぜ。
「そんな安直なもんでは無いじゃろうが……」
「これなんてどう?新しいダンジョンの魔物討伐、ただし内部の詳細がわからないので、むやみな競争を避ける為に探索討伐隊を編成する、とあるけど。新しいなら何かあるかも」
「ダンジョンって事は、お宝とか期待できるのか?」
ちまちまとお金稼ぐのも良いんだけど、もう少し効率よく稼ぎたい所だぜ。何しろ働いてるのは俺様だからな。
いやリアにさせろって?だからこういうのは段階が大切なんだよ。
「その辺はあまり期待せぬ方がよいぞ。ダンジョンの種類によっては宝物なぞ皆無の事もある、今回の場合は魔物が湧いて出てくるので、その駆除が目的とあるな」
「どっちにしても
この間のデコトラ調査は結局退治したとは言えないのでDPはあまりもらえなかったのだ、はっきり言って赤字と言って良い。ここらでぱーっとDPを稼いでおきたい所なのはその通りだった。
俺様達はその依頼を受ける事にして、その日は街の外で泊まった。
数日後、俺様達は街の西にある地下迷宮の前にまで来ていた。迷宮といっても普通の洞窟みたいな入口で、他のとどう違うのかはわからないくらいの見た目だったが。
既に何組もの冒険者たちが来ている、総勢50人くらいかな?時間が来たのでギルドの係員らしき人が前に出てきた。
「これより、新ダンジョンにおける魔物・魔獣駆除の為の行動を開始する。このダンジョン内では宝物の類はほとんど発見されていないが、無闇な競争を避ける為、順番に潜ってもらう」
ダンジョンに名前って付いてないのか。毎回格好良さげな名前付いてルイメージだったのだが。
内部に入るまでには順番待ちなのだが、そのうちに周囲がざわつき出した。
「おい……、あいつ、例の新人じゃないか?」
「あの『極悪令嬢』か。何でも冒険者志願試験を同じように受けていた受験者を皆殺しにしたとか」
「他にも巨大な鉄の魔獣を召喚して暴れまわったとか、ギルドマスターと相打ちになったとか、いったい何が本当なんだ?」
「最近受けた依頼でも、赴いた先で天変地異を引き起こしたり、とんでもない魔物を呼び出して辺りを壊滅させたとか」
なんか色々言われとる……、しかも微妙に事実と異なっている。
「……色々言われとるな、リア」
「言われてるねー」
「レイハ、原因の一端はお前にもあるからね?」
「あながちデタラメでもないのが困りものよねー」
「というか、俺様達ボロ負けだったぞ。どこからギルドマスターと相打ちになんて情報が来たんだ」
「人の噂には尾ひれが付くものじゃろう。面白い方へと話が逸れるのはよくある事じゃ」
だが、陰口だけでは済まなかった。
「おいお前!新人のくせに何故この依頼を受けれるんだよ!」
次回、第50話「悪役令嬢ト冒険者タチ」
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