第50話「悪役令嬢ト冒険者タチ」
ギルドの依頼で魔物討伐の為にダンジョンにやってきた俺様達は、並んで待っている時に冒険者達に囲まれて因縁をつけられていた。
いつの間にか俺様達は目立つ存在になってしまっていたようだ。気に入らないという奴らもいるという事なのだろう。
「お前らみたいな新人がいると迷惑するんだよ! 行く先々で問題起こしやがって!」
「この間も、北方の村で大騒ぎ起こしたそうだし、お前みたいなのがいると迷惑なんだよ!」
「そもそもお前ら、本当に冒険者活動してるのか? 何だよその格好」
言いがかりも混ざっているが、北方の村で騒ぎを起こしたのは本当だし、この場合リアにも問題が無いわけじゃないんだよなー。
リアが冒険者に見えないのも無理はない。だって今も普通にドレス着てるんだもの。
「リア、お主のこだわりもわからなくはないがな、いい加減この仕事に馴染む為にも、その格好は何とかした方が良いのではないか?」
「お前が言うなよ東方娘!お前の格好だって似たようなものだぞ!」
「だいたいお前らには他にも色々と変な疑惑がついてまわってるんだからな?
お前が冒険者ギルドに加入する少し前、東方の村で巨大な鉄の箱が現れて村人を虐殺した、そしてその場には東方人の冒険者もいるって事件があったが、お前らじゃないのか?」
「お前ら2人が向かった先では必ず何か起こるし、そもそもその前には桃色の鎧を来た馬車強盗が出没したという噂もあるんだぞ!」
俺様達ってもしかして目立つのかな? あっちこっちで目撃されてて噂になってしまっているようだ。
「だったら、何?」
リアが静かに言い放ち、冒険者達の前に出てくる。その物怖じしない態度に冒険者達の方が気圧されていた。
人間逃げる相手には強気に出られるものだが、向かってこられると弱いものだ。
「だったら、って、お前」
「私が本当に問題を起こしたんなら、ギルドから除名されたり何らかの罰則を受けているはずでしょう?
そもそもこの依頼を受ける事なんてできないわ。それをどう思っているの?ギルドの決定に逆らうの?」
リアの理路整然とした反論に、因縁を付けてきた冒険者はたじろいて後ろの仲間を見やる。
「そ、いや、お前、なぁ?」
「なぁじゃねぇだろ! お前が気に入らない、シメてくるって言ったんだろが」
「いや、オレはその……、な?」
「な? と言われても、どうするんだよこれ」
「あら、あなたが言い出した事なの?」
ずい、とリアが前に出て、冒険者達は一歩下がってしまう。はっきり言って勝負付いてるなー。
と、このままナメられたままではいかんと思ったのか、相手の冒険者の方が腰の剣に手をやった。
まずいな、今のリアはただのお嬢様状態だ。万が一どころか、今の一触即発は命の危険がある。
幸いレイハが止めようとしてくれるが、それを遮った者がいる。
「おいお前ら、探索も始まらんうちから人手を減らすような真似をするなよ!」
その声の主は大剣を肩に担いだ別の冒険者だった、後ろには学者のような姿の男性もいる。
「おいお前ら、敵が誰か間違えてんじゃねぇよ。これ以上やるってんなら、俺が両方ともぶちのめすぞ」
「フェル……、その場合、貴方がぶちのめ返される可能性も捨てきれないのですが? 私の手を煩わせないでもらえませんかね」
「おいマックス! どっちの味方だよ!」
「私は私の味方に決まっておりますが何か?」
「この野郎……」
勝手に割り込んでおいて、何か別の喧嘩が始まってしまった。
「だいたいてめぇはなんで俺の旅について来るんだよ! 誰も頼んでねぇぞ!」
「貴方に頼まれなくても私が命令されてしまったんですよ!呪い付きで!人の迷惑も考えてほしいものだ、これ以上迷惑をかけられる前に始末されたいのですか」
「ンだとこらぁ! 今日という今日はどっちが強いかはっきりさせるか?」
「ほほぅ、魔術をさぼってばかりいた貴方が私にかなうとでも? この火力バカが」
「じょーとーだ、今ここでケリを付けてやらぁ」
どんだけ血の気が多いんだよこいつら、俺様達を放置して突然魔法を使おうとし始めたぞ。冒険者ってのはこんなのばっかりかよ。
「あ、いや、俺達の為にそんな事をしなくてもだな」
自分達以上に過激な行動を取る2人の登場に、因縁を付けてきていた方が逆になだめ始めた。もうめちゃくちゃだな。
「フェルド! マクシミリアン! またお前らか! 報酬を無しにされたくなかったら今すぐやめろ!」
さすがにこれだけ目立てばギルド職員の方から注意が飛んで来るわな。
「ああ!? なんだとコラぁ! そもそも揉め事起こしてたのはこいつらだろうが! こっちは良いのかよ!」
「より大きな問題を起こしそうになってる奴に言われたくないわ! お前らもさっさと並べ! あとお前らはあっちへ行け!」
「あ……はい」
因縁を付けてきた方が「助かった」と言いたそうな顔で、そそくさと退却していった。
「あれ? やり合うのは無し?」
「リア……、お主丸腰じゃろうが、良くそれでケンカ買おうとしたな」
フェルやらマックスとかいう奴はそんな事を言い合っている俺様達の後ろに並んできた、何故だ。
「危ない所だったなお嬢ちゃん達、怪我無いか?」
危ない所の半分以上の原因はお前らでは……? という疑問がさすがに周囲からも出ていたようだが、フェルと呼ばれた男は全く気にしていないようだ。
年齢は10代後半くらいか? 短く刈った髪は銀色寸前の金髪で、戦士風の姿でありながら、どことなく品のある顔立ちではあるのだが、いかんせん口が悪いのがそれを損なって余りある。
「揉め事を起こしたのはむしろ貴方でしょうに、毎回毎回よくもまぁ」
こっちはマックスと呼ばれてたか? こちらは同年代であるものの、フェルと呼ばれた方よりも背が高く、青みがかった銀髪が印象的ではあるが、痩せぎすなのであまり健康そうには見えない。
「危ないところを助けていただき、感謝いたしますわー」
リアはあまり相手にしたくないと判断したのか、とりあえずお礼を言っておこうとばかりにスカートをつまむ淑女の礼をしていた。セリフは棒読みだったが。
「おう、気にすんな。あんなの相手にしてたらきりがないぜ。お前さんが『極悪お嬢』のリーリアか?」
「……何ですの、その呼び方は」
「お前さんが冒険者志願試験でムチャクチャやったってんで、そう呼ばれてるぜ。しかし本当にドレス着て冒険者やってるのな」
「試験の方はともかく、私はこれが一番過ごしやすいから着ているだけですわ」
過ごしやすいというか、着慣れているだけだと思うのだが、普通迷宮探索にドレスは着て行かないよなぁ。リアの場合はドレスアーマーがあるから問題無くなるんだけど、俺様の目から見ても異物感が物凄い。
「噂だけ聞くと格好だけの貴族気取りですが、実際の所作や礼儀はきちんとしたものですな?もしかしてどこぞの貴族のご令嬢か何かで?」
マックスとかいう方が、リアの所作から貴族ではないかと疑い始める。が、その質問をレイハが止めに入った。
「おいお主、冒険者どうしは互いを詮索しないというのが不文律であろ? それに、貴族令嬢の所作の良し悪しがわかるお主等こそ何者じゃという事になるがのぅ?」
「一本取られたなマックス。このお嬢ちゃんの勝ちだぜ、これ以上突っ込むのはよそうや」
「誰がお嬢ちゃんじゃ! お主がうすらでかいだけじゃろうが!」
頭をポンポンされたのが気に障ったのかレイハが怒り出した。
壁ドンもだけど、相手をきちんと見ないとねー。結局は互いの親愛の元に成り立つ行為なわけだし、初対面でやるのは地雷だ。
「おい、お前らもいい加減にしろ!そろそろ内部に入ってもらうから準備だ!」
え、これってこいつらとダンジョンに入る流れなわけ?
次回、第51話「悪役令嬢ト ダンジョン」
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