第51話「悪役令嬢ト ダンジョン」


「ちょいと目立ち過ぎちまったなぁ、俺の名はフェルド、C級冒険者だ。まぁ色々あってこの辺で活動している」

「私はマクシミリアン、B級冒険者です。何が色々ですか、要は家出して勝手気ままに旅をしているだけでしょうに」

「別に良いだろあんな家、兄貴だっているんだからよ」

「私にはその兄上こそが危ういと思っているのですがね……、おっと、話が逸れました。

 まぁ私はこいつのお目付け役みたいなものです。で、C級冒険者のリーリア嬢と、間違ってなければレイハ嬢ですな?」

俺様達はダンジョンに入る為に順番待ちしてるんだが、何故か並んでる俺様達の後ろに2人の冒険者も並んできた。いや場所的に仕方ないのはわかるんだけどさぁ……。



「お嬢様呼ばわりされる程の者ではないがな。ウチはレイハ、B級冒険者じゃ」

「び、B級!? お前みたいなちんちくりんが?」

フェルドという男が目をむいて驚く。実際レイハはまだ13歳とかだから仕方ないけどリアよりも小さいもんなー。フェルドという奴は180cm超えくらいの身長なので大人と子どもみたいなもんだ。

だからって親愛の表現のつもりなのか頭に手を置くのは良くないと思うぞ。

さっきもだけど女の子って基本髪触られるの嫌がるし、もろに子供扱いしてるからな。案の定レイハは不機嫌そうにその手を払った。


「だから頭の上からうるさいぞさっきから! ギルドが認めたのだから問題無かろう。ほれ」

「マジか……。どう見ても強そうには見えんぞ」

「わりと有名な話ですよ? 突然やって来た東方人の少女がギルドマスターと相打ち寸前まで持ち込み、B級冒険者の位をもぎ取ったとか」

レイハが見せた登録証を見てフェルドが驚いた顔を見せた。というかマクシミリアンとかいう方の説明で俺様も驚いたんだけど!?

あの筋肉の塊みたいなギルドマスターとの試験で相打ち寸前まで持ち込んだって、そんな強かったの!?


「べつに誇るつもりも無い、修行の成果を出しただけじゃ。どこぞの実力も見抜けぬような愚か者には納得できんかも知れぬがな」

「お、お前……!」

「え? やっぱりやるの? んじゃちょっと準備するから待って?」

「やんねぇよ! お前は何だか不気味だから何もするな!」

レイハの挑発にフェルドが乗りそうになった時、何故かリアが参戦しそうになってフェルドの方が慌ててしまう。リアさんさっきの揉め事の時、本当にやる気だったらしい。



「で、この迷宮で何をするの?」

「ここはわりと最近発見されたばかりの迷宮なんじゃがな、妙に魔物の出現数が多いそうじゃ。

普通は魔物から得られる素材が多くなるから歓迎すべき所なんじゃが、希少な魔物が出るわけでもなく、多すぎるので討伐してしまおうとなったそうじゃ」

「へぇ、魔物って迷宮からどんどん出てくるんだ」

俺様もレイハの説明に内心驚いた。そういえば一番最初に挑戦したダンジョンでは罠ばっかりで敵なんて出なかったもんな。魔物ってそんなに増えるもんなの?


「中には普通に子供を産む事もありますがね、ダンジョンコアが活性化していると自然発生的に魔物を生み出してしまうのです。迷宮の外にまで出てこられてはたまらんという事でしょう」

「規模もそんな広くないそうだからな、これだけの人数なら今日中には終わるだろうさ」

リアに説明するレイハの話を聞いていたのか、マクシミリアンが説明してくれて、フェルドがそれを補足する。

この迷宮はそんなに広くはないとはいえ、1日中戦うのは大変そうだなぁ。最悪デコトラで逃げないと。


「でも、ダンジョンコアって破壊できないんじゃないの? どうやって止めるの?」

「何だそりゃ? ああ『主無キ創滅ノ墓所』の事か、ありゃ特殊なやつだ。

 だいたいはダンジョンコアを破壊すれば迷宮の活動はしばらく止まる。魔力がよっぽど強い所なら再生してしまう種類の迷宮もあるがな」

リアの疑問にフェルドが答えるが、そういえば最初のダンジョンとではコアの特性が変わっているのか。あれはひたすら修復するやつだったしな。


「結局元に戻ってしまうのもあるの?」

「すぐに、ってわけでもないがな。どうなってるのかは知らんがダンジョンコアが再生して戻るタイプのは数年はかかる」

「古代文明の遺跡なのだから、破壊せず保存すべきな気がするのですがねぇ」

「迷宮内が魔物で溢れかえるじゃろそれ、下手をするとダンジョンバーストが起こりかねんぞ」

なんかもう色んな単語が飛び交うな……、どんどん増えていく。


「ダンジョンバーストって?」

「お前、本当に何も知らないんだな……、よくそれで冒険者になろうって考えたな。

 滅多には起こらんが、過去にはそれで滅んでしまった国や都市もあるくらい恐ろしい現象だぞ、起こらないに越した事は無い」

「ダンジョンバーストというのは、ダンジョンの魔物生産能力が暴走する事ですよ。魔物というのは生物のようでいて魔力から生じたものですからね。

 ダンジョンを密封した状態で中の魔物の数が一定数を超えた瞬間、連鎖的に魔物が発生し、文字通り爆発的に魔物が出現するのです」

マクシミリアンが丁寧に説明してくれるが、それって危険じゃないか。魔物出るだけなら放っておけばいいんじゃないかとちょっと思ってたが、そんな危険なものだったのか。


「えー、でも、私の国ではそんな事聞いたこと無いけど?」

「お前なぁ、こっちが詮索しないでおこうとしてるのに自分から情報を口にするなよ……」

「その辺は学者間でも意見が分かれている所ですがね、一説にはこの世界に満ちている魔力には限りがあって、魔力持ちの人間が多い地域では魔物の発生も抑えられるという話です」

暗にリアは魔法使いが多い地域の出身だと気づいてますよ、と言ってるようなもんだよなこれ。

たしかテネブラエの隣国にはグランロッシュという魔法大国があるおかげで、あの国もそれなりに魔法使いも多かったはずだ。

この辺では魔法使いが少ないという事は、魔力はダンジョンに吸い取られて溜まっているという事なんだろうな。


「よし、次のパーティ、中に入ってくれ。お前たちは入って右のルートの探索だ」

順番が来たがいつの間にか俺様達はパーティー扱いになっていた。まぁ悪い連中では無いだろうからかまわんのだが。

入ってみると迷宮とはいうけれど、中は洞窟のようだった。一部には石壁があるものの、大半は岩がむき出しだ。それでも各所に灯りは灯っているので中が見えなく無い事も無い。

「おい、お前本当にその格好で迷宮に入るつもりか?ここは半洞窟型だから足場も悪いぞ?」

「それもそうね、んじゃ鎧を着るわ」

フェルドがリアがドレスを着たまま迷宮に入る事に難色を示したが気持ちはわかる。足元はハイヒールのようなヒールの高い靴でこそないものの、どう見ても危なそうだもんな。

で、俺様が光とともにドレスアーマーの姿に変わってリアの身体に装着されると、武装したリアの姿を見てフェルドが目をむいた。


「なん……だ? いきなり鎧が現れた?」

「ほほう、興味深いですね。原理は不明ですが異空間か何かに収納されていた鎧を取り出したのか、それとも魔力か未知の力に分解されていた鎧を再構成したのか。実に興味深い、ちょっと鎧を削らせてもらえませんか?」

うおこいつヤベえ! マクシミリアンって方は学者肌っぽい感じだったけどマッドサイエンティストの方かよ!研究の為だろうがなんだろうが、一応俺様の身体なんだから削られてたまるか!


「だめ、これは家に伝わる超凄い鎧、傷も付けちゃダメ」

「いやどうみても今の時代っぽくないんだか? 本当にお前何者だよ。そういえば何か巨大な鉄の何かを呼び出したという話があったが……」

「もしかすると、前文明の遺物かもしれませんねぇ。遺跡からは時おり原理も動力源も不明な道具が出るそうですし、とはいえこのように鎧が一式まとめてそろっているなど聞いた事もありませんが」

「おい、ごちゃごちゃうるさいぞ。これで足手まといにならんのじゃから良いじゃろ、先を行くぞ」

リアの鎧が物珍しいのか二人が質問攻めにするので足が止まっていた。まだ迷宮入って10mも歩いてないぜ。さすがにレイハが苛立ってる。

皆足早に進むが、一番年下の子にせかされるという構図はいかがなものだろうか。


歩いていくが、半洞窟型というだけあって、石畳の所と洞窟そのものの部分が混在している。このタイプの迷宮には罠の類は少ないそうだが、警戒しないわけにはいかないので歩みは遅い。

「面倒だなぁ、ばーっと焼き払う方が早くないか?」

「あなたの魔力を一気に放出したらダンジョン内の魔力密度が一気に上がってしまって、それこそバーストを誘発するだけですよ。お願いですから今回は魔法を使わないでくださいね?」

リアは冒険者として全くなのでレイハ頼みだったのだが、この二人も怪しい。しかもマクシミリアンの言ってる事が穏やかではないんだが。

大丈夫かなこの即席パーティ。二人組の方は魔法は使えるようだけどさっきの話からすると微妙に頼りにくいし、リアは基本俺様の能力頼み、残るはレイハだけなのだが頼り切るわけにもいかない。

魔物出てきても俺様がデコトラの姿で戦うわけにもいかんよなぁ、そもそもこの迷宮だと戦いにくいし。というか最近俺様戦ってない気がするぞ、いや待て、俺様はトラックだ、戦ってどうする。



先導するのはレイハなのだが、一番慣れているので仕方ないとはいえ頼り切りなのは情けないぜ。

「ほれ、そこの岩、触ってはならぬぞ。何かまではわからぬが仕掛けが作動する」

「お前、本当にB級なんだな、そこまで有能とは思わなかった」

「ケンカ売っとるのか、お主は」

「純粋に褒めてんだよ。大体の上級冒険者は能力が突出し過ぎてて戦闘にしか役に立たなかったりして探索に向いてなかったりするからな」

「旅をする上で必要に迫られて覚えただけじゃ、褒められる程の事でもない」

フェルドはレイハに感心しているようだが、もともと口が悪いせいかどうもレイハは気に障るようだ。


「レイハ何でもできるもんねぇ、私なんて魔物解体するのも無理だよ」

「まぁお前さんの方は見たまんまだな。……つか解体出来なきゃどうやって依頼をこなしてるんだよ」

「おしゃべりはそこまでじゃ!魔物が出たぞ!」


迷宮の奥から、大人の胴体程もある太く長い魔物が何匹もやって来た。両サイドに無数の足が生えていてまるでムカデだな。

百足センチピード蜘蛛スパイダーじゃ!油断するな!ウチでもてこずる!」


次回、第52話「悪役令嬢ト ダンジョン戦闘」

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