第64話「悪役令嬢ト投獄サレル聖女」
「レイハさん……、先程からの物言い、聞き捨てならないのですが?」
「それはウチもじゃ、お主らこそ信仰を何だと思うておる」
やばい、レイハとルクレツィアが宗教性の違いから物凄い険悪な雰囲気になってきた。
光翼教の本拠地であるこの街の雰囲気は俺様にもちょっと馴染めない所はあるが、レイハはもっと思う所があったようだ。
「何を言うのです、人は神の被造物。であるならばいついかなる時にも、神への思いを胸に祈るのは当然の事ではないですか!」
「お主の言うように朝から晩まで祈り続け、食事の時も買い物の時も祈り、いちいち何かをする神に祈り許しを乞うておったら生活すらままならんわ。人の人生を何だと思うておる」
「人が神に過ちへの許しを、祈るのは宿命というものでしょう、生まれながら過ちを犯す不完全な存在なのですから」
「お主なぁ、神の被造物である人が不完全というのであれば、それ作った神も不完全だという事にならんか? 知らんうちに自分の神を貶めておるぞそれは」
「なっ……」
「人が不完全なのが罪と言うなら、人は生まれた瞬間に残らず神に罰せられておるわ。
なぜ人が不完全なのか悩みもせず、最初から自分たちは
俺様もリアもあとケイトさんも二人の会話に全く割り込めなかった。
というかリアさん、お茶菓子片手に見物しないでね? 見世物じゃなくて割とシャレにならない状況だからね?
「な、なんという不敬な! 人は生まれながらの罪人であるからこそ、生存を許していただいておられる神の愛に感謝せねばならないですよ!」
「その生まれながらの罪人というのが危険だと言うておる!! お前は権力者にでもなりたいのか!」
それまで
その剣幕にルクレツィアはたじろぎ、リアもお菓子を食べる手を止めてレイハを注視している。だからせめてお菓子は置きなさい。
「なっ……、私がいつ権力を」
「よいか! そんな事を言うて人々に罪悪感を植え付け、『ならば我々が許してやる』という立場に立つという事は、神の威光を権力化して利用している事に他ならんぞ。
お前は聖女と呼ばれておるが、ウチには権力者にとって都合の良い道具にしか見えぬわ」
「あ、あなたに何がわかると言うのです! 私は神の奇跡を我が身に宿した事でどんなに葛藤したか」
「誰よりも良くわかっておるわ!」
「えっと、レイハそれってどういう?」
リアがレイハの剣幕に思わず口を挟むが、その時ドアをノックする音がした。
「聖女様、枢機卿様のご準備が整いました、どうぞお越しください」
枢機卿とか言う人の所へ行く間、俺様達は無言だった、いや、無言でも普通は周囲のものに目を向け、目で『すごいねー』とか感想を言い合うものだ、しかし今はそれすらもなく、ただ歩くだけだった。
ほどなく俺様達は大きな扉の前にたどり着いた、扉を開くと神々しい光の奔流に包まれる。光に目が慣れると、そこは大広間のようになっている祭壇の部屋だった。
一番向こうの壁は全体がステンドグラスになっており、色ガラス細工の絵が天高くまで無数に描かれている。その前には羽を広げて立つ天使のような像が立っている。これがこの宗教のシンボルなんだろう。
その前には祭壇があり、一人の男性が立っていた。あれが枢機卿とかいう人か?その人物は老齢というにはまだ少々若く、豪華な飾りの付いた僧服を身にまとっていた。
「すごいねー」
無言だったリアも、さすがにこの光景には心が動かされたようだ。
しかし何だって俺様達をこんな所へ?話があるなら執務室にでも連れてくれば良いだろうに。まるで何かの儀式だ、
【ご案内します。人がわざわざこのような状況を用意する場合は、大抵は己の権力を誇示して自らの立場の安寧を図る為ですが、裏を返せば権力の後ろ盾が無く自信がない事の現れです】
え?どういう事?こんなの見せられたら今更後ろ盾も何もないだろ。
「聖女ルクレツィアよ、よく戻りました。心配いたしましたよ、さぁおいでなさい」
俺様達はまだ入室していないのに聞こえるくらい良く通る声で枢機卿と思われる男性はルクレツィアに声をかける。
立っているのもなんなので、俺達はゆっくりと中に入っていく。両脇の座る所には誰も座っておらず、枢機卿の側に男性が一人いるだけだ。
「どうしたというのです。突然飛び出して、教会の皆も心配していたのですよ」
「はい枢機卿様、実は……」
ルクレツィアはどうも教会の皆にも無断でダンジョンコアを封印しに来たらしい。枢機卿と呼ばれた男性は黙って事情を聞いていたが、どうもあまり良い気がしていない感じなのは気のせいか?
「ほほう、それでダンジョンコアを封印した、と。それは今もあるのですか?」
「フォルトゥナの中に収納しております、まだ危険な状態なので浄化していただきたいのです」
「良いでしょう、ではいつものように手配させます。
それよりもルクレツィア、今までは目を瞑っておりましたが今日こそは貴女を罰さないといけませんね」
枢機卿が手を挙げると、どこからか僧侶らしき人達が何人も俺様達の周囲に現れた。
「ルクレツィア、何度言っても聞かない貴女の行動は神への冒涜です。他の者への示しが付きませんので牢にでも入ってもらいましょう」
「ちょっと! ルクレツィアは良いことをしたのよ! どうして牢屋になんか入れられないといけないの!」
リアが抗議の声を上げるが、枢機卿はルクレツィアの方を向いたままだ。薄い笑いを浮かべたままだがその目は笑っていなな。
「それは、この者が人心を惑わすからですよ。何らかの善行を成したようですが、教義の中にはそのようなものは記されておりません」
「教義教義って、書いていないから何なの! ルクレツィアは汚染されたダンジョンコアを光の魔力で浄化してくれたのよ!」
「その、光の魔力と称するものが厄介なのですよ。ルクレツィア、魔力とは聖典に曰く?」
「か、『神はこの世に魔力をお遣わしになられた。すなわち、火、水、土、風の四種である』と……」
「はい良くできました。『光の魔力』などとはどこにも書かれていないのですよ。
確かに何らかの力を持っているようなので聖女の称号を与えはしましたが、どのような行動も認められると思ってもらっては困ります。少々反省してもらいましょう、連れていきなさい」
リアや、レイハまでルクレツィアをかばうように前に立つが、ルクレツィアはそれを手で制して自ら枢機卿に近づいていく。
「いえ、覚悟しておりました、どのような理由があろうと罪は罪、私は受け入れます」
「おい、じゃから自分の頭で考えろと言うておろう、聖典に書かれていないから何だというのじゃ」
レイハがルクレツィアの肩に手をかけて言うが、ルクレツィアは何も言わず自ら枢機卿の前まで行く。
「安心しなさい、少々反省してもらうだけなのでね、手荒な真似はいたしませんよ。それよりもルクレツィア、持ち帰ったというダンジョンコアを渡しなさい」
「ふざけんな! いつもいつも思ってたけど! 今日こそは許さないからね! あーしはお前らの言う事なんて聞かないからー! 三三三٩(◦`꒳´◦)۶」
猫の姿のフォルトゥナはそう言うとルクレツィアの肩から降り、どこかへ走り去ってしまった。
「全く、主に似てわがままなデコトラだ、早く探しなさい、教会の外へ出してはなりませんよ、さて、貴女達はどうしたものでしょうね」
枢機卿が指示を出してルクレツィアをどこかへ連れて行かせ、残った者はフォルトゥナを探しにいったのだろう、あとは薄い笑いで俺様達を見る枢機卿とその側近らしい男性だけが残った。
「私がまともに話をすると思う?」
「お互い、少々頭を冷やす必要があるようですね、貴女達も少々拘束させてもらいます。まぁ地下牢とは言いませんよ、しばらくおとなしくしてもらうだけです」
珍しくリアが怒りをあらわにしているが、枢機卿は余裕で対応している。側近らしき男性が近づいてきたが、こいつについて行けという事なのだろう。
「まったく何なのこの教会は!良いことしたら罰せられるってどういう事!」
俺様、リア、レイハ、ケイトさんは教会の一室へと案内された、とはいえベッドや多少の家具がある程度の部屋だ。窓はあるが開かないようになっている。
リアは怒りの形相のままベッドに飛び込んだが、「ぐっ」という鈍い声がした。ベッドが硬かったらしい。
「あれは、おそらくルクレツィア自分の判断で勝手に動き始めたのを潰す為じゃろうな」
「先ほどレイハ様が言われていた権力者の都合の良い道具、でいて欲しいからという事でしょうか?」
レイハとケイトさんが話しているが、リアはベッドに突っ伏したままもぞもぞと動いている、これはあれか、本格的に寝るためにポジションを決めようとしているな。
「あー、ベッドが固いー、こんなのじゃ眠れるかなぁ」
「お主はずっと貴族のような生活しかしとらんからな……。宿屋とかに泊まったの見た事も無いし、丁度いい、せっかくだから教会で質素な生活の経験でもしておけ」
「ジャバウォックー、私のベッドが入るくらいの大きさになれるー?」
「この部屋そんな広くないからなぁ、シングルベッドが入るくらいで良ければなれるが?」
「仕方ない、今日はそれで我慢するー」
「お主もだから甘やかすなというに……」
とはいってもリアが眠れないというのはそれはそれで困る。俺様は部屋の真ん中でコンテナ部分だけになった、ギリセミダブルのベッドくらいなら置けるか?
その夜、そのコンテナをたしたしと叩く者がいた。
「じゃばっち、じゃばっち!起きてる?」
「起きてるも何も、俺様はトラックだから別に寝てないぞ?帰ってきたのか、どうした?」
「ちょっと来てくれる?見せたいものがあるんだけどー」
「見せたいもの?」
「んー、それ見たら、あーしが何故逃げたかもわかると思う」
次回、第65話「デコトラト教会ノ地下」
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