第89話「悪役令嬢ト皇帝宮」
翌日、正午も近い頃に俺様達はダルガニア帝国の城に向かう馬車に乗っていた。当然、皇帝陛下をお送りする為だ。
馬車の中にはデコトライダー姿の俺様と皇帝陛下、子爵家親子、リアにレイハ、フェルドにマクシミリアンとかなりの満員状態だ。子爵家の豪華な馬車でなかったら入らなかっただろうな。
夕べは夜も遅かったから皇帝陛下は子爵家のタウンハウスに宿泊した、子爵は恐縮しきっていたがその辺の宿屋に泊まってもらうわけにはいかないだろうからな。
それはいいとして、なぜか俺様達までもが子爵家に泊まる事になってしまったが。
子爵いわく「自分達だけにしないでくれ」との事だったが、俺様達を万が一にも逃がさない為だったんだろうなと思う。
一応俺様達にはそれぞれ逃げるわけにはいかない理由がある。リアはテネブラエの王妃様を放っておけないだろうし、レイハは闇の魔力絡みの事件なので同様だ。
フェルドとマクシミリアンはどうやらグランロッシュ王国の出身みたいだし、戦争になるような事態を放置できないわな、子爵はそれを知らないので逃げると思われても仕方ないのだが。
そして皇帝陛下はというと、それを当然の権利としてごく普通に子爵家に宿泊された。なんというか下々の者達に接待され慣れてる感じだったぜ。
意外にもこのメンバーは全員貴族屋敷に宿泊する事に全く抵抗が無かったようだ、庶民感覚なのは俺様だけだったらしい。
子爵って貴族としては下の方のランクなはずだけど、それでも対外的には十分過ぎる程豪華な部屋やら寝台に食事。
これ高級ホテルで泊まったら一泊いくらになるんだろう、とか考えてしまった。俺様デコトラだからそんな所泊まった事無いけどな。
馬車の中でもマイペースな雰囲気を崩さない皇帝陛下を見ながら、しかしこの人、偽物が城にいるというのに普段はどうやって衣食住とか生活してたんだろう。とか思ってると、リアもそれは同感だったらしい。
「ねぇねぇ皇帝
リアさん……、これほど敬意のこもらない”陛下”も珍しいぜ、子爵はもうあきらめ顔だ。
「うん?そのようなもの、その辺にいる貴族をつかまえればどうにでもなろう」
と、本当にその辺の貴族の家を渡り歩いて生活してたらしい、貴族達も名誉な事だからと我先にもてなしていたとか。つくづくうらやましい身分だ。
「お城の中にもう一人皇帝陛下がいるに誰も気づかないの?問題になると思うんだけど」
「誰も彼もが余の行先や業務を知っているわけではないからな、城の中で余が別の余と鉢合わせでもしない限りは問題になるまいよ」
らしいが本当かなぁ?まぁなぁ。この世界はそういう連絡とか通信の技術がそこまで追いついていないからそんなものなのかも知れない。
「リヒャルト皇帝陛下、具体的な案とかおありなのですか?」
「うん?そこを何とかするのがそなた達の仕事であろう」
これには質問したフェルドもあきれ顔だった、俺様達に丸投げでしたよおい。
「そうは言われても、はっきり言って”成りすまし”の正体もわかっていないのに、対処法もわかってないんだぞ、どうしろというんですか。まったく、俺達は違法薬物の調査をしていただけだなのに」
フェルドやマクシミリアンも冒険者なので、今回の依頼に加わってもらう形で今回の事件のあらましは聞かされていたが、違法薬物?もしかしてあれか?微妙に今回の依頼に関係しそうな依頼中だったのか。
「お主ら、
「ちょっと待て、レイハも何故その薬物の名を知っている」
「それについては私がお答えしましょう、私が成りすまされた原因というのが、魔王薬絡みだったのです」
フェルドのレイハに対しての質問は、騎士隊小隊長でもあるクリスティアンが説明してくれた、本当はもっと前から知っているんだがこの場合ありがたい。
「なるほど?デコトラ教団絡みと……、またデコトラですか」
「お前さん達、どうしていつも行く先々でデコトラに巻き込まれるんだよ」
マクシミリアンとフェルドにあきれられたが、それについては本当に帰す言葉も無いし、俺様の方が何故だと世界に聞きたい。
「となると、この一件もデコトラ絡みか……?もうデコトラの呪いだな、何だよその呪い」
「クリスティアン様を少々調べてみましたが、魔法による痕跡はありませんねぇ。こ失われた古代デコトラ文明の技術による可能性はありえますよ」
マクシミリアンはクリスティアンの事を調べていたらしい。魔法でないならデコトラ、というのは安直な気もするんだが。
「つかぬ事を聞くが皇帝陛下、この”成りすまし”は貴族の間で広まっておるそうだが、特にどういった層が成りすまされているか、という傾向はわかるか?
ウチが昨日の仮面舞踏会で関係しているであろう貴族の名前じゃが」
と、レイハがメモ用紙みたいなのを皇帝陛下に渡していた、ちょっと待て、どうして仮面舞踏会の参加者の名前がわかるんだ。
「ちょっと人を使って尾行させた。どこそこの家が絡んでいる、というくらいなら調べるのは簡単じゃからな」
昨晩のうちに調べさせたのだろうが、その使う人を呼ぶ暇なんて無かったはずなんだが、一体どうやったんだ。考えたらつくづく謎が多いよなこの子。
「うむ、これを見る限り宮廷デコトラ技術団に対立するものが多いように見受けられるな?いやフィッシャー子爵家は賛同派だったように記憶しておるが」
「拝見させていただきます、たしかに対立する家の者が多いように思えますな。当家に関しては、クリスティアンの経緯から言って任務遂行中の事故のようなものかと思われますが…」
宮廷では何かしらの派閥があるもので、大きく分けて騎士団、魔法師団、デコトラ技術団に分かれているらしい。
だいたいの貴族はどれかの派閥に属しているものだが、デコトラ技術団は新興の派閥なので評価も分かれているんだとか。
”成りすまし”がデコトラの技術を悪用したものだというなら、対立する家を潰すか仲間に引き込む為なのかも知れない。【ガイドさん】、何か似た技術に心当たりある?
【ご案内します。ジャバウォック様も時おり使っている、ダミーを生成する技術の応用かも知れません。ダミーはDEを消費して己の複製を作り出すわけですが、もっと高度な『スキル:分身』というのがありますので】
デコトラの技術を調べてるとか言ってるもんなぁ。そんな便利な技術があれば仲間増やすのに悪用しそうだ。
「何か方向性が見えてきたの、とりあえずその宮廷デコトラ技術団を何とかして調べる所から始めるか?」
「何とかも何も、余が見せろと言えば良いだけだろう。何も問題は無い」
レイハも皇帝陛下も色々と場当たり的過ぎる気もするが、やるべき事は見えて来た。やみくもに”成りすまし”を見つけるよりは大元を調べた方が早そうだ。
俺様達が向かう城は、テネブラエの城とは違い、少々近代的な印象を受けるものだった。
基本は中世の石造りの城なんだが、あちこちに砲台が置かれていたりと、
俺様達の乗っている馬車はそう言っている間にも城にたどり着き、城門を超えた。当然門の側には詰所があるんだけど、大丈夫なのか?
「失礼いたします。馬車の紋章からフィッシャー家の子爵様とお見受けいたしますが、本日はどういった御用でしょうか」
「あ、うーむ」
「余が昨日はこの者の家に世話になったのでな、送ってもらった所だ、ほれ、騎士団小隊長のクリスティアンもいるであろう」
「こ、これは皇帝陛下!それにクリスティアン様も!大変失礼いたしました!どうぞお通り下さい!」
重々しい音と共に城門が開き、とりあえずは安全に中に入る事ができたな。しかし皇帝陛下にしろクリスティアンにしろ、多少見た目が変わっているだろうによく疑問に思われないな?
「あの者達が余を見たのは遠目からくらいだろう、それくらいなら多少顔つきが変わってもわかるまいよ」
なるほど、写真とかが無いから、肖像画で見る事はあっても実物はじっくり見た事が無い事が多いのか、モンタージュ画像程度に似てても納得してしまうんだろうな。
おまけに子爵やらその息子の騎士団小隊長までいたら疑念を差し挟むのも難しくなる。基本顔パスで判断するしか無いもんなこういう場合は。
「城内に入ったとして、この後はどうする?特に皇帝陛下やクリスティアンは成りすまされているんだろう?」
さすがに俺様も不安になってきたので、これだけは聞いておきたかったのだ。
「私見だが、この場合注意すべきは皇帝陛下のみだろう、クリスティアンの成りすましは先日盗賊団を助けたりと、相手の手ごまのように扱われていて城には出入りしていないはずだ」
子爵の言う通りなら、クリスティアンの存在は相手にとっても不測の事態という事か。普通ならそのまま小隊長の座に居座って成り代わろうとするんだろうな。
さて、いざ入った城の中はというと、とにかく広い、馬車での移動が必要なわけだ。
高い城壁に囲まれた中には広場があり、様々な訓練が行われていたりする。道行く人々も大半が貴族か文官・女官といった感じで、誰も彼もが小走りに歩いている。
「とりあえずはあそこだな、皇帝宮に向かえ、本城には余の偽物がいるであろうからな」
皇帝陛下が向かえといった皇帝宮は、なんと城の中にある宮殿だった。城って要塞だよね?そんなものの中に宮殿があるって、よほどこの城の護りに自信があるって事なんだろうか。
「いわゆる、離宮ですね。本城とは別に皇族や高位貴族の方々が住まわれているはずです」
「うむ、”成りすまし”は最初あそこに出現してな、それ以降は本城で活動しているゆえ、ひとまずはあそこを調べるかするとよかろう」
次回、第90話「悪役令嬢ト デコトラ技術団」
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