第88話「悪役令嬢ト皇帝」


「えーと、皇、帝?」

「うむ、余がダルガニア帝国第12代皇帝、リヒャルト・ヴィエ・ヴァイスハイトである」

今、俺様達はリアが仮面舞踏会で拾ってきた自称皇帝を、子爵のタウンハウスに連れ込んでいる。いやざっくり言うとそういう事にしかならんのだ。

俺様達は”成りすまし”の手がかりを得ようと、とりあえず関係してそうな貴族を見つけられないかと思ったのだが、

その過程でこの男にそれを知られてしまい、「自分の為にその力を使え」と命じられてしまったのだ。


「どうするんですかフェルド、自分から厄介ごとに飛び込んでしまって」

「いや俺は!こ、こいつが何か揉め事に巻き込まれてそうだと思ってだな」

「レイハ嬢の見た目が思いの外好みだったから気になってたのはわかりますがねぇ……、あの皇帝陛下、貴方の正体に気づいてますよ?」

「ば……!誰があんな元ちんちくりん女にだなぁ!それに俺は国外では顔は知られて無いはずだ!」

「慌てて仮面被っておいて何を、説得力が全くありませんよ」

「なんじゃ?お主、ウチのような女子おなごが好みじゃったのか?ほほぅ、フェルくんがウチをのぅ」

「な、ち、違うぞ!何勘違いしてるんだお前!」

俺様達を置いてけぼりにフェルドとマクシミリアンとついでにレイハは3人でわちゃわちゃやってるが、正直腹立つな。


「ねぇ、この人本当に皇帝なの?」

「だから!さっきからそうだと言ってるだろうが!さっきから頭が高いぞ!あと指差すな!」

「はっはっは、よいではないかよいではないか。そなた、なかなか面白いな」

子爵はリアの無礼を叱りつけるが、皇帝の方はたいして気にしてないようだ。

というかこの皇帝という男、仮面を取った顔を見ると意外と若いな。20代半ばくらいに見える。

印象的な金色の瞳は、まるで何もかも見透かしているかのようで、ソファに座っているはずなのに壇上の玉座から傲然と俺達を睥睨するかのようだ。



「ところで陛下、国が乗っ取られたというのはどういう事なのでしょうか」

子爵はもうリア達を無視して話を進める事にしたようだ、俺様もその方が助かる。

「うむ、余の顔を見て何か感じぬか?」

「は、言われてみれば、かなり印象が弱く、なったような気がいたしますな。やはり私の息子と同じく被害に遭われたようですな」

この威圧感で印象が弱くなってるのかよ、実物はどんなだよ。

「そういう事だ、今、城には2人の余がいるような状態でな、しかも偽物の方が執務室に居座っておるのでどうにもならんのだ。

下手に騒ぎを起こすと余の今後に差し支えるかも知れんのでな。しかしそやつが色々と勝手な動きを取っておるので放置もできん」

「勝手な動きといいますと?」


「お主達、この国のそこかしこで軍隊が色々と目立つ状態なのに気づいておるか?」

そういえば俺様も見た、どうにも物々しく軍隊が国のそこかしこに配備されていたのを。

軍事国家と聞いていたからそんなものかと思っていたのだが。

「あれはその偽物がやらせておる事でな、このままでは戦争が始まる」

「なんですと!い、いったいどこへ!」

「まずは隣国のテネブラエ神聖王国だろうなぁ、その勢いでグランロッシュ王国にまで向かうかも知れんが」

リアはさすがにちょっと眉をひそめた、捨てた国とはいえ生国だからな、それよりも反応が大きかったのがフェルドだ。


「ちょっと待て!どうしていきなりテネブラエを攻める!今あそこと事を構える必要性は無いはずだ!」

「余が決めた事ではないからなぁ、やはり気になるか?フェルディナンド殿」

「ぐっ……」

「ほら、無駄な事はやめて仮面を取りなさい、無駄だから」

無駄って2回言った。マクシミリアンも否定しない所をみるとフェルドの本名ってフェルディナンドっていうのか、どうも座りが悪い名前だと思ったぜ。


「貴公にとっても他人事ではあるまい?今この国が隣国となっても困るだろう」

「だからここでいちいち俺の情報をバラすな!」

フェルドが抗議してるけど、皇帝?に思い切り弄ばれてるなぁ、格の違いってやつかね?

って事はフェルドってグランロッシュ国の出身なのか?


「くく、まぁそういきり立つな、余も困っているのだ、貴公も余の助力を惜しむまい?」

「ぐっ、この野郎……」

「あなたの負けですよフェルド、のこのことこんな所までついてきたのが悪いんですから」

「うーむ、ウチは罪な女子よのぅ。かかっ」

皇帝に弄ばれて悔しがるフェルドとそれをなだめるマクシミリアン、そして何故かドヤ顔のレイハだった。


「で、皇帝陛下、私めは陛下への助力を惜しむ事はありませんが、いかがせよと仰るのですか?」

なんか俺様達までまとめて皇帝陛下をお助けして、この国を取り戻す事になったみたいだけど、逃げられないんだろうなぁ。

「ねぇ、さっきの話なんだけど」

「お、おいだからもう少し敬えというに!」

リアが珍しく口を挟んできた、何か気になる事があるらしい。珍しく表情も険しい、子爵は完全に無視だ。


「テネブラエへ攻め込むって話、戦争を起こす気なの?」

あ、テネブラエはやっぱり無視できないのか、そういえばあそこには王妃様もいるもんな。王妃様もそういえば近いうちに戦争が起こるとか言ってたっけ、それがこれだったのか。


「他にも候補はあるがな、状況からいってまず間違いあるまい?何だ?そなたやはりどこかの貴族か?」

「そんな事はどうだっていいわ、だったら私も手伝う」

そう言うリアを、皇帝は面白いものを見るような目で見ていた。

普通ならドレスを着た貴族令嬢にしか見えないリアがこんな事を言ったら、「お前のような者に何ができる」とか言いそうなのに。

かくして、国を捨てた公爵令嬢が、国を盗られた皇帝を助ける事になったのだった。

何事も無ければ良いけど……。

【ご案内します。諦めて下さい】


次回、第89話「悪役令嬢ト皇帝宮」

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