第90話「悪役令嬢ト デコトラ技術団」


「すっげー……」

俺様達は離宮『皇帝宮』の中にいたが中は豪華の一言だった。要塞ともいえる城の内部の建物とは思えない。

白亜の大理石で覆われた床と壁、金で縁取られた繊細な装飾が施されており、美しいだけでなく荘厳な印象を与えている。

所々に光を放つ魔道具が備え付けられており、夜になると魔法で光る仕組みになっているのだろう。


「余はここで寝起きしているのだが、ある日突然『あいつ』が現れたのだ」

「成りすまし?」

「そうだ、余は最初何者かの罠か呪いにでもかかったのかと思っていたのだ」

ここで皇帝陛下が出会った”成りすまし”は、まずは真っ黒な影のような姿だったらしい。何の前触れも無く突然現れたそいつは文字通りこの館のあちこちに出現したそうだ。

最初は本当にただの影かと思ったらしいのだが、次第に実態が現れ、ついには本物の人物と見分けがつかなくなっちまったらしい。

そのうちどっちが本物か周囲にはわからなくなり、成りすましの方が本物かのように振る舞いはじめ、実質乗っ取られてしまったとか。

しまいには皇帝としての執務も成りすましの方に乗っ取られてしまって今に至るとの事だ。


「あの時はさすがに困ったな、自分の居場所がなくなってしまい食事にも事欠いてしまってな」

「で、陛下へーかはどうしたの?」

リアさん、さっきから皇帝陛下にタメ口なのはどうなんだろう。陛下の方が特に気にして無さそうではあるんだけど。

「ん?仕事は代わりにやってくれるのだから楽であろう?あとは衣食住だが、その辺の貴族に任せればよかろう?」

やけにタカり……、いや甘え慣れていると思ったらそういう流れだったのか。

しかし陛下、自分の仕事を取られて楽だというのはいかがなもんかと思います。結果戦争が起こりそうになってるし。


「まぁさすがにそれもどうかと余も思ったのでな、同じような事が起こっている貴族がいないかと仮面舞踏会に潜り込んだのだ。さて、ここを調べるが良い」

良きにはからえ。とばかりに調査を丸投げされてしまった。この人本当にこういうの慣れてるのが為政者って感じがする。

調べろと言われた以上、俺様達は最初に現れたという皇帝宮の外れにある書庫にやってきていた。

ちょっとした図書館程の広さの部屋の中央に、本が詰まった棚が所狭しと置かれており、奥行きもかなりあるようだ。

とはいえ調べるのはマクシミリアンなのだが。


「何か残滓が無いかと思って調べはしましたが、やはり何の痕跡もありはしませんな。

成りすまされた人を調べた時も同様でしたが、魔法による現象ではやはり無いのでしょうな」

この件に関してはマクシミリアンはお手上げであるらしい、まぁここは最初から予想された事ではある。次はレイハだな。

「ふむ、こっちは反応があるの。闇の魔力の残滓らしきものはある、とはいえそれ以上の事はわからぬが」

レイハの勾玉には反応があったらしい、わかったから何だって話ではあるんだが。これ本当どうしたら良いんだろうな。

今の俺様達には闇の魔力を浄化する手段が無いのだ、聖女であるルクレツィアがいなくなってしまったからな。


「まぁここは元々期待はしておらんかったからな。では、名前の出た宮廷デコトラ技術団の方を調べるとするか?案内を頼む」

「その名前何とかならないかなー」

元々単なる離宮のここを調べるのは期待はしてなかったが、デコトラ技術団とかいうのは近寄りたくないんよね。

俺様デコトラだから近づいただけで気づかれるんじゃなかろうか?

【ご案内します。では『スキル:存在感知』の機能を反転させて気配を消しましょうか?代償としてこちらも敵の存在を感知できなくなりますが】

え?そんな事できるの?今は目立ちたくないのもあるし丁度良い。頼む!


「おいレイハ、俺様デコトラじゃなくなったから」

「お主、ついに……」

おい待て、俺様を可哀想なトラックを見るような目で見るんじゃねえ、違うから!

「違う、勘違いするな。俺様がデコトラだという気配を消したから。代わりに周囲の気配を俺様が感知できなくなったから、索敵を頼む」

「む、そういう事か、まぁここは城の中じゃし問題無かろう。向かう先はデコトラと名前の付く所じゃし用心に越した事は無いの」

だよなー、できればこのまま帰りたいぜ。そもそも何をしてる所なんだろう?皇帝陛下に聞いても知らないかも知れない。



「あのー、ちょっと聞いていいか?デコトラ技術団って何をやっている所なんだ?」

こういう事は知ってそうな人に聞くしかない、クリスティアンなら騎士団で小隊長やってくらいだから何か知ってるだろう。

「あ……、うむ、やはり気になるだろうな、うむ」

何故か歯切れが悪かった、何か聞かれたく無いような重要な研究でもしてるんだろうか?まぁそれが当たり前なんだろうが。


「あの者たちは、なぁ。名前の通りデコトラの研究をしてはおるのだが、なんというか変わっていてな」

「言っちゃ悪いが、研究者なんてそんなものじゃないのか?」

「いや……、あの者たちが変わっているというのはそういう事ではなくてな」

俺様達は離宮から本城の中にあるという宮廷デコトラ研究団の研究施設に向かっていた。どういう所なのかクリスティアンに聞いてみてもどうも要領を得ない。

尚今の俺様はデコトライダーの姿ではあるが、歩くのは【ガイドさん】に任せている。これで戦闘をするのは無理らしいけどな。

先を行くのが皇帝陛下なだけに誰も止めたりはせずフリーパス状態なのはありがたいが、この城って今もう一人皇帝陛下がいるんだよな?大丈夫なのか?

「それについては、『あちら側』の陛下は執務室だから心配は無いとは思うが」

そんな事を話してるうちに着いちゃったぜ。心の準備が……。重々しい音と共に鉄の両開きの扉が開き、見えたものは―――。



「デコトラを崇めよー!」

「デコトラ!デコトラ!デコトラー!」


「汝らに問う!デコトラとは何か!」

「デコトラとは真理!」「デコトラとは叡智!」「デコトラとは聖典!」「デコトラとは神!」

「デコトラを崇めよー!」

「デコトラ!デコトラ!デコトラ!デコトラ!デコトラ!デコトラ!デコトラ!」

「「「「デコトラ!デコトラ!デコトラ!デコトラ!」」」」

「「「「「デコトラー!」」」」」


「のぅジャバウォック、ウチ帰って良いか?」「変な人達……」

「奇遇だな、俺様ももう帰りたい」

「そう言わないで欲しい、ちょっと怪しいがきちんと成果は出しているんだ彼らは」

「いやちょっとどころじゃないだろあの怪しさは!」

彼らは手を妙な感じに組んで高く掲げ、口々にデコトラを称えていた。あの手の形って、もしかしてデコトラのキャビンを模しているのか?


「まぁ私も正直言うと、彼らとデコトラ教団の区別がつかないのだよなぁ……」

いったい何なんだよこいつら!こんなの城内で働かせてるこの国大丈夫か!?


次回、第91話「デコトラ技術団ト愉快ナ団員達」

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