第91話「デコトラ技術団ト愉快ナ団員達」


「デコトラを称えよー!」「デコトラ―!」

俺様達が王城の中にある『デコトラ技術団』の研究施設で見たものは、恐らく団長と思われる男性が、施設の中で一段高くなっている所から団員たちに、『デコトラを称えよ』と呼びかけ続け、

団員たちも異様なテンションでそれに応えている光景だった。

彼らは一様に技術者らしく”つなぎ”のような服を着用しており、マスクと真鍮製のゴーグルのようなものを付けているのでどんな顔なのもよくわからない。

唯一団長らしき男性だけが顔を見せているが、それが無ければ他の団員と見分けがつかないだろう。

「よぉーし、朝の一斉号令は終わりだ、各自持ち場に戻れ!」

思い切り大声でデコトラに対する思いのたけを叫び倒したので上機嫌のようだ。

「「「デコトラ―!」」」

それ返事なの?


「で、彼がデコトラ技術団の団長で、ここの統括責任者なのだけれど、おいちょっと、どこへ行くというのだ」

どこへも何も、俺様ここにいたくないだけなのだが?

「離せ! 関わりたくぇよあんな奴ら!」

「そう言わないでくれ、私達も正直持て余し気味なので若干困ってるんだ。この一件に彼らが関わっているとなると、私達が調査しないといけなくてだな、私を、いやこの国を見捨てる気なのか?」

「知るか! 滅べば良いだろこんな国!」

だんだん腹が立ってきた、クリスティアンも最初は”成りすまし”に取って代わられて不憫に思ってたが、自業自得なんじゃないのか? 俺様もうとっととこの国からおさらばしたいんだけどー!?

「じゃばばが怒ってる……」

「さすがに悪ふざけか冗談みたいな連中じゃからな、あいつら……」


研究施設の中は意外にも普通の研究施設っぽかった。いや研究施設なんて見た事は無いけど、映画とかで流れてるあんな感じだ。研究しているものを除いては。

彼らが調査・研究しているのは、何かの残骸とか、それから取り出したらしき機械のようなものだった。あれデコトラの何かなわけ?

「ここでは古代デコトラ文明の遺物や、デコトラそのものの解析・研究を行っているのだ」

いるのだ、とか皇帝陛下に言われてもだ、もうあーそーですかと俺様聞き流してるぜ、まともに相手してると頭おかしくなりそうだ。

【ご案内します。ご自分がその冗談みたいな存在だというのをお忘れなく】

俺様は今も昔も善良なデコトラだよ! 間違ってるのは世界の方だ!


「おお陛下! このような場所までご足労いただき痛み入りますぞ!」

「ははは、何、たまにはな」

ずかずかと大股で団長がこちらに歩いてきた、近くで見るとでかいなこいつ! 2mはあるんじゃないか?


「して、陛下、こちらは……? 見事な鎧ですな」

「うむ、余の旧知でな、ごらんの通りデコトラには一家言ある者でな、見学させに来たのだ」

え? 一家言あるって俺様? あ、デコトラ模した鎧着てるからか。やばい、ウザ絡みされないと良いけど。

団長が俺様の鎧を見て、ずぃっと顔を寄せてきた。うわぁ……、近くで見るとさらにでかく見えて威圧感あるぞ。

俺様兜被ってるから顔つきとかわからんというか、中に顔なんて無いんだがせめてもの抵抗で目だけはそらさなかった。


「うむむむむ、なんと見事なデコトラ型の鎧……! これは相当に名のある職人の手によるものですな?

 デコトラの意匠を再現しつつ鎧の形状に落とし込むというのは、なかなかできる事ではありませんぞ!」

めっちゃベタ褒めしてくるが、再現も何も俺様の元の姿のデザインが入ってるからデコトラそのまんまなのは当然だ。

「ほほぅ、うむうむ、なるほど、これの素材は何なのですかな? ちょっと削らせてもらいますぞ」

「は!?おいこら待て!」

削るとか何考えてるんだ! これ俺様の身体そのものだぞ!  しかし団長は俺の制止も聞かずに本当に削ろうとする。


「だから、やめ、デコトラフラッシュ!!」

俺様思わず自衛のためにゼロ距離からの発光を使ってしまったよ。

「ぐおおおおお!!」

団長は目を押さえてるよ、ま、こうなるわな。だが一応正面のライトのみの使用に絞ったとしても、

「目が、目がぁー!」「ジャバウォックー!」

うむ、お約束でリアとレイハまで巻き込んでしまった。


「陛下! ご無事ですか!?」

「うむ大事無い、よきにはからえ」

あ、皇帝陛下いたの忘れてた。お付きの人が慌てて駆け寄るが陛下は無事だったらしい、運の良さは流石だな。

無事だったなら都合が良い、レイハに怒られる前に抗議してごまかしておこう。

「おい皇帝陛下! 何なんだよこいつ!」

「うむ、この者がこのデコトラ技術団の団長、ヘルムート・リュストゥングである。少々変わった者であるが優秀であるぞ」

「優秀とかどうとか以前に大問題があるだろこいつ!」

「はっはっは、良きにはからえ」

この皇帝陛下いい性格してやがるな……、このまんまこいつの相手まで丸投げする気か。



「ふ、ふふふふふ、なかなかの一撃でしたな。今のは間違いなく古代デコトラ文明の技術! 魔法も使わずに自然界の雷の力を行使するとは!」

「お、おう……」

「その鎧!まさか見た目だけではなく機能もデコトラ文明の技術が使われておるのですな!ぜひともその技術を調べさせてくだされ!」

ダメだこいつ、デコトラの技術を調べる事に執着してて話が進まない。強引にでも聞き出さないと。


「”成りすまし”、ですと?聞いた事の無い機能ですな」

「聞いた事無いって、あれってデコトラの機能じゃないのか?」

【ご案内します。この者達はデコトラの表面的な機能しか理解しておりません。『スキル』までは再現できていないようです】

あー、そういえばコピーって何も無い空間から出現してたっけ、機能としてデコトラに装備されているものじゃないから理解できないわけだ。


「我々もデコトラの技術の解析には苦労しているのだ、一口にデコトラと言ってもどれ一つとして同じ個体が存在していない、

何故あのように多種多様に進化し、分岐していくのか解明できていないのだ」

「多種多様って、どこからそんなにデコトラの部品やらを手に入れたんだ?」

実際、この技術団の研究施設には所狭しと部品が並べられている。壊れているものから明らかに元となった車の部品までその種類は様々だ。

「あれらは、国中から集められたのものあるが、その中でも原型を保っているものはダンジョンから発掘されたものだな」

「ダンジョンって、俺様達もいくつかダンジョンには潜ったけど、そんなもの見た事が無いぞ?」

「それは古代デコトラ文明でも後の方に作られたものであろう。我々が調査しているのはそれよりも古い、デコトラ文明発祥の頃の『遺跡』だ」


次回、第92話「悪役令嬢ト デコトラノ遺物」

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