第4話「令嬢、デコトラヲ命名ス」
「おおー、凄い。小さくなったー」
リアが喜ぶように、今の俺様は凄く小さくなってしまっている。【とりあえず手始めに】とおすすめされてDPを500消費する事で得られたスキル『
今はできる事が少ないので小さくなるだけだ。今はだいたい子供がまたがって乗れるくらいだな、このスキル自体には何の意味があるかまだよくわからんが。
「本当に、『スキル』なるものが使えるようですね、最初は本当に頭がアレかと思いましたが」
メイドさん!? 色々と俺様の評価厳しくない!? 俺様だって好きでこんな事になってるわけじゃないからね!?
『けどこれじゃ中に人は乗れないよな? 緊急時に小さくとかなって回避! も無理じゃないか?』
【ご案内いたします、その場合は登場者を車の外に出す事をおすすめいたします。身体の中でミンチを作りたくはないでしょう?】
『心の中の会話で逃げ場無いんだから、あんまグロい事言わないで……』
「役に立つんだかよくわからんスキルだな。まぁこの部屋がいくら広いとはいえ、邪魔にならなくなったって事で良しとするか……」
「おっしゃる通りですね、小さくなったので破壊してでも部屋の外に出す必要が無くなったのは手間が省けました。お茶でもいかがですか?」
「メイドさん!? さらっと怖い事言わないでくれる? 俺様は邪魔するつもりも騒ぎを起こすつもりも全く無いんだけど?」
「突然部屋の中に現れて、自分に武器を追加できるだ、特殊能力を身につけられるなどと言い出す得体のしれない存在を、邪魔者と言わずして何と言うのです」
「ですよねー」
メイドさんが言うように俺様ってどう考えてもこの世界の異物だよなぁ、あの
「ところで車さんって名前あるの?」
「ああ、転生前のはあるけど、どうなんだろうな。こんな身体になっちまって同じ名前名乗るのも何か違う気がするんだが」
【ご案内いたします、現在名前は登録されておりません。主による名付けにより、契約は完了いたします】
「名前無いの? んじゃジャバウォックで」
【ご案内いたします、名前:ジャバウォックとして登録が完了いたしました。これにより契約は完了となります】
「ちょっと待てー! 俺様の意志を無視してそんな重要な事決めるなよ! せめて俺様に確認取ってくれない!?」
「えー良いじゃんジャバウォック、格好いいし何となく可愛いし」
「お嬢様、それは絵本に出てくる怪物でしょう?」
あ、しかも絵本からですか、もういいですそれで。
そうこう言っていると、リアの手首が突然光り始めた。何かの文様が腕輪のようにぐるりと浮かび上がっている。
「え、何これ?」
【ご案内いたします、主の契約が完了した事により、権能の一部を譲渡いたします】
『おーい?色々と一方通行なんだがー?』
「おいデコトラ、あれは一体何なのですか、事と次第によっては……」
メイドさんから殺気が漏れてきてる! 待って!? 俺様何もしてないからね!? 俺様だってよくわかってないからね!?
「あ……、消えちゃった」
【ご案内いたします。主の腕にあるのは”契約の腕輪”で、登録名:ジャバウォック様の各種機能の使用を許可するものです】
「えーっと、ミア、その腕輪は俺様との契約の証だったらしい」
俺様は物凄く物凄く説明を省いた、何だよ各種機能の使用許可って。これ以上おかしな事になってたまるか、俺様はただのトラックだっての。
「さて、お嬢様、もういい加減日も高いので起きていただけませんか?」
「えー、またお勉強ー?眠いんだけど」
「リア様、これは公爵家に生まれた者としての義務です、勉強するだけでこんな良い生活できるんだから良いご身分じゃないですか」
メイドさん、後半はちょっと身もふたもないんじゃないかな? ともあれ、お子様が勉強するのはとっても大切な事だ。
「そうだぞ、俺様の時代の子供も勉強嫌いだったけどな、みんな将来の為に勉強してるんだ。我慢を覚えないとろくな大人になれないぞ」
「ケイトはともかく車に説教された……、私、そんなダメな子なんだ」
アウレリアさん!? どうして俺様の言葉にそんな落ち込むのかなぁ!?
「おい、その言い方俺様に失礼じゃない!? ちょっと勉強するだけだろ!?」
「ハイハイ、リア様、お勉強しないとあんな車にまで説教されるんですよー」
メイドさんまでー!
「俺様の扱いが物凄く雑なんだけど! 俺様マジ納得行かないんだけど! ……ん? というかまだ朝の7時頃だろ?慌てなくても良いんじゃないか?」
日が高くなっているというが、太陽の上り具合は会社員の皆様はそろそろ出勤かな?と言った感じだ。まだ子供なら寝てても良いんじゃないか?
【ご案内いたします、現在7時18分です】
ほら、ん? ここって前世の地球と同じ24時間なのか?
「いえ本日の授業は朝8時から始まりますので、いい加減置きないとまずいのですよ。授業は夜の9時まで続きますので」
「ちょと待て、今から夜の9時まで!? ああそうか、この世界は一日が48時間くらいあるんだな」
「何をおっしゃっておられるのですか、一日は24時間に決まっているでしょう。あと一時間で身なりの支度をして食事し、12時間勉強しなければならないのです」
受験生もびっくりの勉強時間だよ。この子眠たそうにしてるのって、その勉強時間のせいじゃないかなぁ!?
「前言撤回だ、ちょっと勉強させ過ぎじゃないか?そんなんじゃ身体にも悪いだろ」
「ほらこの車も言ってる! じゃばば偉い!」
じゃばば、って俺様? 名付けておいてジャバウォックだの何だの、好き勝手に呼ばれているなぁ。
「そういうわけにも行かないのです。リア様はいずれこのテネブラエ神聖王国の王太子様に嫁がれ、王太子妃となられるのですから。勉学の時間はいくらあっても足りないのですよ?」
めっちゃ重要人物じゃん! なんか俺様が側にいて良い存在じゃ無い気がしてきたよ! 俺様ただのデコトラだよ!?
「はい、ではジャバウォック様、お嬢様の着替えをいたしますので、クローゼットルームの中にでも入っていてもらえますか?」
いや俺様は転生したと言っても元は付喪神か妖怪みたいなもんだし、性別なんて無いんだが……。メイドさんにがしがし蹴られながらクローゼットルームに押し込まれたよ。納得行かない。
まぁ女の子の着替えとかはデリケートな問題だ。俺様は紳士なので黙って待ってるぜ。
「んぎゃー!」
「我慢して下さい!」
「折れる折れる! 骨折れるから!」
おい何が起こってるんだ!?
「おい! 大丈夫か! 何やってるんだメイドさん!」
「ジャバウォック様は黙って待ってて下さい。」
「痛い痛い痛い痛い!」
いや気になるだろ! ああもう手が無いからドアノブも掴めないよ。手とか生えないのかな?
【ご案内します。手は生えませんが『スキル:念動力LV1』を取得されますか?いわゆる超能力で物を掴めるようになりますが】
『なんか嫌だなぁ。ますます妖怪じみてきた。手を生やすのじゃダメなの?』
【デコトラに直接手が生えたら不気味でしょう。妖怪か化け物になりたいですか?】
『それもそうか。そりゃそうと今DPっていくつ持ってるの?』
【ご案内します。新規出店大サービスで50000ポイントあります。計画的なご運用をおすすめいたします】
『……ポイント運用って、電子マネーじゃあるまいし。いったい俺様の身体どうなってんのマジで』
ガイドさんに頼んでスキルを手に入れた俺様は、試しに何かを持ち上げ……、どうやるんだ?
【ご案内します。手でつかむ事をイメージして下さい。そうすれば意識の中に感触が返ってきますので】
『いやそう言われても、こちとら手があった事なんて無いんだよ?生まれてこのかたずーっとデコトラやってきたわけでさ』
【ちっ、面倒くさいな。先程前に進もうと思ったら前進できたでしょう。あの容量でやればいいんですよ。さっさとやれや】
【ガイドさん】って素は結構口悪いのな……。そうは言われても今まで無かったものを意識しろと言われてもな~。
【提案いたします。ご自分のドアを開ける事を意識してみて下さい。先ほど前進・後退したように自分の意志で開く事ができますので】
『ドア?ああ身体の側面の前の方に付いてるやつか。なんかむずむずするな。これを動かすイメージを……。おお!開いた!』
【提案いたします。それと同じ事です。ドアが思い通りになるなら、眼の前の物体も”持ち上げられる”とイメージすれば動くようになります】
『そんなものなの? ……おおっ! 眼の前の靴がちょっと動いた! 凄いなこれ。んじゃあっちの箱……、全然動かん!』
【ご案内します。今は『スキル:念動力LV1』ですので、有効範囲は60cm,腕力1kgとなっております。それ以上は”ランク”を上げないと強化できません】
んー、なんかまた単語増えたぞ……、聞くの怖いから後回しにしよう、それより今はあの子だ。今はドアを開けられるくらいで十分だ。
「さて……、覚悟は良いですね?」
「やめてやめてやめて、本当にやめて」
「ちょっと待ったー!って……何やってんの?」
次回、第5話「令嬢、オ勉強ス」
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