第3話「【ガイドさん】、デコトラヲ御案内ス」


「なるほど、つまりあなたは意思を持つ”デコトラ”という種類の”トラック”と呼ばれる存在で、生まれ変わる前は物を載せて運んで回っていた、というのです……ね?」

意外にもメイドさんは俺様の存在をあっさりと信じてくれた。理由としてはこの世界には魔法もあるし魔法生物の類いもいるから、らしい。転生してきたというのはさすがに半信半疑といったところか。

それにしても魔法って、大丈夫なのかこの世界……? 俺様ただのトラックなんだけど。


「そういう事だ。前世での俺様はいわば陸の船でな、大量の荷物を乗せて日本という国の北から南までを走ったものよ」

「それにしても派手な見た目ですね、どうしてそのように飾り立てられているのですか。走る事には何の意味も無い気がするのですが?」

それに関しては返す言葉も無い。何がどうなってこういう様式になったのかはわからんが、デコトラってのはとにかく派手な見た目になる。

今の俺様は元の大きさよりちょっと小さめのサイズになってるけど、見た目が変わってないなら派手に見えるだろうなぁ。


「まぁそこはだ、トラック乗りというのは船乗りに似てる所があってな、自分の乗るいわば船を飾り立てるのに夢中になった結果なんだよ。元々はサビ防止に板を貼ったりとかが始まりらしいんだが」

「はぁ……、馬車を飾り立てたようなもの、なのですか?」

この世界には馬車があるのか、ならちょっとは説明がしやすいかな?

「俺様の前の方が馬車みたいになってるだろ?そこがキャビンと呼ばれる所でな、そこに人が乗るんだよ。で、後ろの箱みたいな所が荷物を積む所な」

「馬はその前で引っ張ると、何百頭も要ったのではないですか? 少々小さくなったそうですが、元は相当な巨体のようですし」

「いや、俺様は自分で走れるんだよ、ほら」

俺様はつい先程気づいた、自分で移動できるのを披露した。いやちょっと動いただけだよ?

それにしても今の俺様って排気ガスを出してないな? エンジン音もしないし。動いてる感が弱くなったの悲しい。


「ああなるほど、すごい技術ですね。この黒い樽のようなものが車輪だという事ですか。しかし長いですねこの荷台は、これほどの物資を移動させないといけない文明だったという事ですか……」

「まぁなぁ、それでも俺様はちょっと時代遅れの存在でな。もっと効率的な運び方とかがどんどん出ちまって、おまけにこの威圧的な見た目だろ?

 反社会的……、つまり荒くれ者にしか見えないのでどんどんすみっこに追いやられた」

「まぁたしかに威圧的な装飾ではありますね、山程付いている透明なものは宝石か何かなのですか?初めて見る素材なのですが」

メイドさんは警戒を多少解いたのか近づいて俺様を観察し始めた。今言ってるのは多分車体の各所にずらっと並んで付いてるマーカーランプだな。プラスチックは見た事無いんだろう。

本来は車体の大きさを認識してもらう為のものなんだが、装飾目的で必要以上に付いてるんだよなこれ。


「マーカーランプの事か? いや光るんだよこれ、お前さん達の世界にもあるだろ?ランプみたいな光るもの。ほら」

俺様は走った時と同じ要領で、光らせる事ができるかやってみたら、全部点いちゃった。

「まぶしっ!」

あ、お嬢様がまともに見ちゃったな。メイドさんがお嬢様を自分の陰に隠しながら睨んできた。

「派手ですね……、恐れ入りますが眩しいのでそろそろ止めてもらって良いですか。こんなのを点けて走っていたのでは目立って仕方ないでしょう」

「すまん。いやまぁ、これは光らせる事ができるだけで、これ全部を点けて走ってたわけじゃないよ?全部点けて走ったら違法だったしな。本当になんでこんなに付いてるんだろうな……」

「荷台も巨大なのは良いとしても、何なのですかこの絵は。まるで巨大なタペストリーのようですが、見せびらかして走るのはちょっと趣味が悪いですよ」

俺様の荷台の側面には手書きの巨大なペイントがされているからな。エアブラシなど軟弱なのは認めん!とか言って職人に描いてもらったものだ。


「格好いいだろ? 職人の絵だぞ? 荒波に舞う鯛に翻る大漁旗!背面には舞妓!これぞ陸を征く船としての格というものがだな」

「いえ? ドラゴンとそれに立ち向かう勇者のような絵が描かれておりますが? あとは魔獣や神獣らしきもので、どちらかと言うと私達にも馴染み深い絵柄なのですが」

「え? 嘘!?」

部屋にあった姿見で俺様の荷台側面を見てみると、たしかに言われたような絵が描いてあった……。

あいつうううううう!こんな重要な所を異世界ナイズするんじゃねぇよ! 俺様のアイデンティティだぞこれ!しくしくしくしく……。


「落ち込む馬車っているのねぇ。初めて見たわ」

「お嬢様、このお方は馬に引っ張られるわけではありませんし、車で良いと思いますよ? ……で、どうしてお嬢様の所に現れたのです」

落ち込む俺様を、お二人は慰めるでもなく、珍獣を見るような目で見てる。悲しい。たしかに物珍しい見た目だろうけどさぁ。気を取り直して質問に答えよう。

「俺様にも何がなんだか、とにかく転生して女の子を助けろ、って言われたし。出てきた先がこのお嬢様の部屋だから多分このお嬢様だと思うんだけど。

 というかこの子何者?もしかして凄いブルジョワだったりする?」

「ブルジョワという言葉の意味はわかりませんが、アウレリア・ドラウジネス公爵令嬢様です。先程から思っていたのですが頭が高いですよ。もっとかしこまれないのですか」

「俺様の見た目でわかるだろ、これでどうかしこまれってんだよ……、俺様には手足も何も無いのに」


【ご案内いたします、DPを消費してスキル:『車体サイズ変更』を取得しますか?】

「うぉっ! なんだこの声? まだもう一人いたのか?」

突然聞こえてきた声に俺様が狼狽えていると、お嬢様とメイドさんが顔を見合わせている。

「いえ? この部屋には少なくとも私達二人とあなたしかいませんが?」

「え? いやだって、どこからか声が聞こえるんだけど? ……いやちょっと待って、そんな目で見ないでくれる?」


「ケイト……私この車怖い。突然声が聞こえるって言ってる……」

「車が言葉をしゃべる時点で、色々頭のおかしい状況ではあるのですが。頭までアレだとは……、正直ドン引きしますね」

ちょっと待って!? この2人、ついに俺様を変な人を見るような目で見始めたよ! どうしてそこで普通の人間相手みたいな反応するワケ!? 凄い傷つくんだけど!? 本当に聞こえるんだけど?


【ご案内いたします、私はデコトラの神からあなたの旅をご案内する為に実装されたヘルプ機能です。何でもご質問下さい。また、空気を呼んで様々な『スキル』を提案させていただきます】

「……え? 俺様を案内する機能? そういやあいつもそんな事言ってたな。そんなの必要なデコトラって何よ、つか『スキル』って何?」

【ご案内いたします、『スキル』とは、DPデコトラポイントを消費してあなたの身体に様々な能力を実装できる機能です。現在のDPは10000Pです。計画的な使用をおすすめいたします】

「……すまん、ついでに教えてほしい。何だそのデコトラポイントってのは?凄まじく頭悪そうな単語なのだが? 大丈夫? マジ俺様の身体大丈夫? 俺様の身体いったいどうなってるの?」

【ご案内いたします、DPは、あなたの身体を進化・発展させる為のポイントです。魔獣討伐等の善行を積む事で貯める事ができます。『スキル』獲得にはDPが必要なのでご注意下さい、また、DPは身体の修復にも使えます】

「魔獣? 修復? ……おい、この世界には魔獣がいるのか?」


「いますよ?」

「いやメイドさん、そんな当たり前じゃないですか、みたいに言われても」

ああそういやドラゴンがどうのって言ってたねー、って、あんのやろおおおおお!

どこの世界に魔獣が歩き回るような所にデコトラを派遣するやつがいるんだよ! 俺様は荷物運びしかできねぇんだぞおおおおお!


【ご案内いたします、あなたの身体は現在荷物運送の機能しかありませんが、DPを消費する事で『武装』を追加する事ができます、実行いたしますか?】

えっちょっと待って、もしかして心の中で思うだけで良かったの?そういう事はもっと早く教えてくれない!? 自分で空気読むって言ってるんだからさぁ。

【ちっ、細かいですね。どうせデコトラなんだからそんなの気にしなくても良いでしょう?】

急に扱いが雑になったー!? やっぱあのクソ神から派遣されてくるだけあるよこの人!

【ご案内いたします、人ではありません、あくまであなたの身体に対しての機能説明をするだけの存在です】

ああもう、ややこしいから【ガイドさん】って呼ぶね? で、【ガイドさん】? 最初に戻るね? 最初に何って言ったっけ?

【ご案内いたします、最初に私が『ご案内いたします』と申し上げた事ですか? これはあくまで決まり文句で……。

 などとベタなボケはいたしません。私は空気が読めて出来る機能、【ガイドさん】ですので。

 いいなー、羨ましいぜこのやろー。ひゅーひゅー】

この人もダメっぽい。もう不安しかないよ、俺様のこれからのデコトラ生どうなるわけ?


次回、第4話「令嬢、デコトラヲ命名ス」


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