第25話「悪役令嬢、人助ケヲ実行ス」

「ひゃあああああああああああああ!!!」

鎧になった俺様と、それを着込んでいるリアは絶賛お空を飛行中だ。いや飛んでいるというよりは飛ばされてるんだが。

鎧が無ければジェットコースターみたいなアトラクションだと思えば、いくらか楽しめるか……?

「じゃばばばばばばばばあばばあああああばばばばああああああああああ!!」

楽しめてないようだな。

「落ち着けリア、ゆっくりと空の旅を楽しもうぜ」

「たのしめないいいいいいいいいいいいいいい!」

ダメだったか、いくら俺様でも鎧で空を飛んでる女の子に声をかける経験なんて無いからな。それはそうとこれ着地はどうするんだ?

【ご案内します。着地までは私が制御いたしますのでご安心下さい。その後はジャバウォック様におまかせいたします】

鎧の中に【ガイドさん】の声が響いた。完全に放置されて放り出されたわけではないようだ。


「至れり尽くせりだけどさー、最初から【ガイドさん】が全部やれば良かったんじゃないの?それか【ガイドさん】もいっしょに戦う感じで」

【ご案内します。デコトラ本体の車両を放置するわけには参りません。また、場合によってはその鎧を私達の意思で動かせますが、ジャバウォック様と私の制御が相反した動きになりますと、場合によってはリア様に関節技を極める事になりますので】

「上半身と下半身が逆方向に行くだけで、リアの身体が物凄い事になってしまいそうだな……」

【ご案内します。そろそろ着地いたしますので、ご準備をお願いいたします】

「ごじゅんびできないいいいいいいいいいいいいいいい!」

お願いされてもぶっつけ本番しかないんだろうなぁ。とかぼやいていると、衝撃音と共に俺様達は地面に墜落した、いや着地したのか?


「な、何だ!?」

「岩でも落ちてきたか?がけ崩れとか」

「どこに崖があるんだよ!」

着地の衝撃で粉塵が舞い上がって俺様達の姿が見えないのだろう、馬車を襲っていた盗賊達は混乱した声でこちらを見ているようだ。

こちらの姿を確認される前に、相手の戦意を削ぐような事でも言っておくべきか?

とりあえず全身の電飾やらを発光させておこう、粉塵が照らされて正体がよくわからなくなるだろう。

リアがゆっくりと立ち上がる。着地の衝撃やらは鎧が吸収してくれたのか、ダメージとかは無いみたいだ。

「リア、大丈夫か?」

「死ぬかと思った……、声がする方に悪い人達がいるの?」

いまだ粉塵は収まっていない。そういえばリアは咳き込んでいるわけではないので、この空気を吸ってはいないみたいだ。

状況がイマイチ掴めていないのか、リアはよたよたと歩き始め、周囲の粉塵も収まり始めた。

煙の中から現れた俺様達を見て、盗賊達からどよめきの声が上がる。


「な!? なんだこいつ!」

「鎧!? 魔物か!?」

「い、いや金属でできたドレスの女にも見えるが……。何故光ってるんだ?」

「止まれ!邪魔するならお前も殺すぞ!」


「(ねぇじゃばば、こういう時って何を言えば良いのかな?)」

「(俺様に聞くなよ……、とりあえず悪党と語る事なんて何も無いんだし、全員ぶっ倒そう。剣を空振りし続けてれば良いから、後は俺様にまかせろ)」

「(おっけー)」

言うが早いかリアは盗賊達の眼の前まで一瞬で駆け、剣を横薙ぎに振った。剣に実体は無いから空振りだけどな、すかさず俺様はスタンボルトを順番に当てていく。

「ぐあっ!?」

「うっ……」

盗賊達は次々と気絶して崩れ落ちていく。何も知らなかったらリアがどんどん切り倒していくようにしか見えないだろうな。

リアの方は普通に動いているだけなので、自分の動きが加速したという感覚は薄いらしい。


「なんだこいつ!?強いぞ!?」

「おいやれ! お前が一番体格がでかい! ひねり潰してやれ!」

「ごあっ!」

男達の中でひときわ背が高いやつが前に出た。でかいな! 身長が2mくらいはある、言うだけの事はありそうだぜ。

そいつはリアを殴り飛ばそうと腕を振るうが、あいにくと俺様達は感覚が全体的に強化されているのか、精神を集中すると相手がスローな踊りを踊ってるようにしか見えない。

リアはその腕をかいくぐり、構えも無茶苦茶ながらアッパーのように拳を殴り上げた。まぁ相手との距離を測りそこねて思い切り空振りだけどな。はいスタンボルト。


「嘘だろ!? こいつも一撃かよ! もうバラバラにかかってたんじゃ駄目だ! 全員で殺るぞ!」

口々に盗賊たちが剣やら棍棒を振るってくるがそれも当たらない、だんだんリアも避けたり攻撃するのが楽しくなってきたのかテンションが上ってきたようだ。

「あははははははははははははははは!!」

リアは高笑いしながら拳や剣を振るい、一人、また一人と昏倒させていく。全部空振りだけどな。剣はともかく訓練もしてないと相手に拳を当てるのって難しいのな。


しばらくすると、立っていたのはリアだけだった。リアは一応全身を動かしたので肩で息をしていた。そういや身体が丈夫ってわけでもなさそうだもんな。

「(おい、リア、大丈夫か? まさかあの動きだけで息が上がったのか?)」

「(だい、じょう、ぶ、じゃない)」

「(ひ弱だなおい……、まぁ良い、あの馬車の人達を安心させてやろうぜ、一言くらい声をかけよう)」

「(ん……)」


だがそれが失敗だった。リアは予想以上に疲れてたらしく、肩で息をしながらゆっくり、ゆっくりとぎこちなく馬車の人々に近づいていったが、それが不気味で怖かったらしい。それもそうだわな。

「おいこっちに来るぞ!今度は俺たちだ!」

「逃げろ! 今のうちに逃げろ! おいそいつを馬車に乗せてやれ!早く乗れ」

「馬車を出せえええええええええええ!」


「(あー、行っちゃった。)」

ともあれ、リアの初戦闘はこうして終わったのだった。いやどうしよこれ、リアは疲れ果ててこの場から一歩も動けないみたいだけど。

【ご案内します。緊急時はジャバウォック様の意思でデコトラアーマーを動かす事ができます、主様の代わりに歩いてこちらに来て下さい】

いやあの、俺様車だから、人の姿で歩いたりできないんだけど? ちょっと迎えに来てくれない? 四つん這いで這っていくならできるけどさ、時間かかるでしょ?

【……ちっ、使えないですね】

あのー、歩けって簡単に言うけど、俺様デコトラだからとんでもない無茶を言ってるの、いい加減理解してくれないかなぁ!?



「うーん誤算だったな、まさかリアがここまでひ弱だったとは」

「公爵令嬢は普通盗賊と戦ったりいたしませんからね。リア様、大丈夫ですか?」

「うー、痛い、体中が痛いー」

車に戻ってきたリアは疲れ切っていた。鎧を脱がせるのは着せた時と同じく全自動ではあったが、その間にもフラついている有り様だったのだ。

まさかリアに衝突治癒コンクリフトヒールをかけるわけにもいかないので、お風呂に入れる事にした。

「とりあえず風呂で自分の身体マッサージしろ、筋肉痛だから楽になる」

「ええー、ちょっと温いんだけどー」

「我慢しなさい、筋肉痛にはこれが良いんだよ。ゆっくり筋肉をもみほぐすんだぞ」

「うー痛い、痛いよー。でも人助けしたから我慢するかぁ」

「相手は怖がってたけどな、助けた相手に逃げられてしまうのはどうなんだ」


「あの派手な鎧姿では怖がられるのも仕方ありませんわねぇ。何かそれっぽい事を言って、助けに来たと名乗りを上げればよろしかったのでは?」

事の顛末を聞いてケイトさんも少々あきれていた。

「えー、何を言ったらいいかわからなかったんだもの。私の名前言うわけにはいかないし」

「別にリアで良いんじゃないか? 遥か遠くに来たんだし適当な名前名乗れば良いんだよ」

「うーん、じゃぁ一応リーリアで」

「わりとそのまんまだな。まぁ人を助ける事なんてそうある事じゃないだろうけど」

「えー、私、あれで終わりって何か嫌だなぁ。そういうお仕事無いの?私にも出来るような人助けの」

何だかんだで味をしめたな……。困っている人助けるってのは良いことだとは思うけど。


「お仕事……って、リア様、働かれるおつもりなのですか?」

「だってこのままダラダラと旅を続けても仕方ないでしょう?あとお仕事してお金稼がないとケイトへのお給金も払えないし」

意外とリアは色々と今後を考えていた。ケイトさんだって、この旅についてきてもらうというのは無償というわけにもいかないだろう。

それこそ俺様が狩りをしてきてDPデコトラポイントで衣食住を賄っても良いのだが、やはりお金が無いとな。

【ご案内します。主様の言う条件を満たす職業となると、冒険者、でしょうか】

「冒険者?何なのそれ」


「お嬢様、冒険者というのは基本的には流れ者の戦士です。冒険者ギルド等に所属・登録して、そこから仕事を得て報酬を得る人々の事です。

 魔獣や盗賊等の退治といった仕事をそのギルドから請け負って報酬を得たりしますが、命を落とす者も多い危険な仕事ですよ?」

「よし決めた、私冒険者になる」

即決だなおい。


次回、第26話「悪役令嬢、始メテノオ使イス」

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