第18話「悪役令嬢、王妃ト邂逅ス」


俺様達は、とりあえず周辺が落ち着くまでは近くの部屋で大人しくする事にした。

既に夜も遅くなりつつある事から、上で俺様達が起こした騒ぎが沈静化するのと、犯人探しもあって城の出入り口は厳重に封鎖されるであろうという【ガイドさん】の分析からだった。

実際、城門の近くには多数の兵士が集まっており、城の中は戒厳令が出たかのように人の往来が無くなっている。

それに反して城内からは人の気配が消えていった。【ガイドさん】いわく、城内の多くの人は俺様達の捜索の邪魔にならないように退避させられているのだろうとの事だ。


「誰もいなくなっちゃったねー」

「というより、俺様達の事を探す為に他の人達は全員部屋に押し込められたような感じなんだろうな」

【ご案内します。今なら誰にも見つからずケイト様の控え室まで行けると思われます、行きましょう】

俺様は『スキル:存在感知』を使って、誰にも見つからないように控室のあるエリアにまで移動した。とはいえそこも要所要所で兵士が立っており、簡単には入り込めなさそうだ。

「兵士さん邪魔だねー」

「あの人達はお仕事だからね?別にリアを邪魔しようと思って立ってるわけじゃないからね?とはいえどうしたもんだろうな。どの部屋にケイトさんがいるかもわからないし、探すのは難しいぞ」

【ご案内します。では出てきていただきましょう】



「ん?何だあれ?」

「光る……猫?なんだあの大きさは!?」

「背中に誰か乗ってるみたいだが……、おいこっちに来るぞ!」


「あははははははははははははははは!!」

「がおー」

俺様はデコトライガー形態になってリアを背に城の廊下を走り回っていた。全身の電飾ランプを点灯させ、背中に高笑いするリアを乗せて走り回る姿はたいそう目立っていただろう。

兵士さん達は俺様達を見て思いっきり困惑していた。まぁこんなわけのわからないものが現れたらな。

「まだまだ暴れ足りませんわよおおおおおおおおおお!」

「がおー」

リアは俺様の背中で異様に楽しそうだった。夜更かしして夜遅くにこういう事するのは異様にテンションが上がるので気持ちはわかる。というかこの子悪戯自体初めて経験したんじゃないか?


「何だ!?舞踏会のホールに現れたのとはまた別のゴーレムか怪物か?」

「落ち着け!取り押さえるんだ!」

「囲め!そっちへ回り込め!」

「おほほほほほほほ!こっちですわよー!」

「がおー」

光るだけにまぁ目立つのでワラワラと兵隊さん達が寄ってきた、俺様達は騒ぎたてながら廊下を走る。リアは心底楽しそうに。

ある程度の兵士さん達が集まった所ではいスタンボルト。雷球を食らった兵士さん達は気を失ってバタバタと倒れていく。

当然、しーんと静まり返る。表の騒々しさが突然消え失せたので不安になったのだろう、あちこちの扉が開き始めて光が漏れる。


「あらあらぁ!もう終わりぃ?私を止められる人はいないのかしらぁ?」

リアの声を聞いて当然、ばたんと扉は閉まる。しかし1つだけ閉まっていない扉があった。あそこか?俺様はそのドアに向けて走っていく。すると案の定ケイトさんがそこにいた。

「リア様、何をなさっていらっしゃるのですか」

「ケイト!良かった!見つかった!」

「がおー」

「……ともあれ中に入って下さい」


ケイトさんがいたのは控室というか家具が特に無い泊まれるようになっている部屋だった。リアの荷物の方が目立つくらいだな。

部屋に俺様達を招き入れたケイトさんは少々怒っていらっしゃるようだ。

「……で?いったい何がどうなってこうなったんですか」

「あーメイドさん?あのね?リアの話も聞いてあげてやってくれないかな?」

「正座」

「え?」

「ジャバウォック様は正座してて下さい」

「あっはい」

ケイトさんが怒っていたのは主に俺様のようだった。まぁ大人である俺様がリアを監督すべきだったという事なんだろうけど、あの状況ではなー。

この世界にも正座ってあるんだね……。っていうかネコ科の動物の関節で正座ってどうやるんだ?招き猫みたいになるんだが……。

「正座だと言っているでしょう」

「あっはい」

いやちょっと待って!?この関節構造だと、人間で言うと足首を真後ろに曲げて座るようなもんなんだよ?曲がらないから!そんな方向には!


「……で、リア様、何があったのですか。舞踏会場でデコトラらしきものが出現し、多数が殺されたが一人の死者も出ずにリア様が逃げ去った。という意味不明な事だけは漏れ伝わってきたのですが」

「ケイト、あのね……」

俺様が骨格の違いから正座できないので足だけ人間のに変形させようとしていると、

【ご案内します。さすがにキモいので止めて下さい】と【ガイドさん】に邪魔されて脚を変形させられないでいる中、リアはケイトさんに事情を説明していた。


「……で、もう我慢できなくなって、ジャバウォックを使って騒ぎを起こして逃げてきたの」

「そんな事が、あのボケども、どこまでも腐っておりますね。

わかりました、逃げてきたという状況ではないようですが状況は理解できました。で、お嬢様、これからどうなさるのですか」

ケイトさんはリアを責めなかった。ケイトさんの中でもさすがに我慢の限界だったんだろう。何も言わずこれからの事だけを聞いてきた。


「私、この国を出ようと思うの。もうこんな所にはいたくない、ジャバウォックならどこにでも行けるもの」

「それで、どうして私の所にいらっしゃったのです」

「えっと、その、ケイトも私の旅について来てくれないかな、って。ダメならダメでさよならくらいは言っておこうかな、って」

「わかりました、行きましょう」

「「えっ」」

ケイトさんは色々考えていたのが拍子抜けするくらいに即答だった。切り替え早すぎだろ。


「私もお嬢様にお供すると言ったのです。さぁ早く行きますよ、最低限のものは持っていきましょう。

……何をなさっているのですかジャバウォック様。さっさとお嬢様のお荷物を収納して下さい」

「何をってケイトさんが俺様に正座しろと言ったんだろ!?酷くない?」

俺様は猫科の骨格でヨガをするという器用な状態になりかけていたところを、ケイトさんからの無情にもありがたいお言葉をいただいてしまった。

色々文句を言いたい所ではあるが、「物を収納して運ぶ」という、この世界に来て一番トラックらしい事をできるのであれば何も言う事はない。いやマジでどうなってるんだ俺様の異世界転生は。

【ガイドさん】によると、一旦デコトラの状態に戻れば後部の荷台に荷物を収納できるとの事だった。収納して以降は俺様が『スキル:形態変化』で何になろうが一旦収納された荷物には影響が無いという便利さだ。なお、収納できる限界は本来の俺様のサイズのまでとの事だったが、十分過ぎるな。

さすがに元の大きさには戻れないが、小さめのデコトラに戻って後部ドアを開けて中にどんどんとお嬢様の荷物を入れていく。


「では、さっさとこんな城からは出てしまいましょう。表側は騒がしいので、裏側を通って目立たぬように出ていきましょう。……騒がしく出る方が良いですか?」

「いえ静かな方でお願いします」

俺様もこれ以上の騒ぎを起こすつもりは無いので、またリアのネックレスに擬態する事にした。

「では、裏側の離宮の方から回り込んで裏から出る形になりますね。私も詳しくは知らないのですが」

「問題ない、とにかく人のいない所にさえたどり着けたら、壁に穴を開ける手段を手に入れたから」

「また非常識なスキルを手に入れでもしたのですか?」

まぁ非常識なのは否定しないけどさぁ、当たりきついよねケイトさん……。

俺様達はとにかく一旦城から出るべく、裏側を目指して城の中を進んでいった。

いくら警戒が厳重になってるとはいえ、俺様達を捜索する為に城中の兵士が総動員されている状態では、広ければ広いほど警備に隙が生まれる。


「あそこが、裏手への出口みたいだな、兵士は一応立たせてはいるけど警備は手薄だ」

「どうやって逃げるの?」

「スタンボルトをギリギリまで絞って撃つ、ほんのちょっと意識を失うだろうけど、居眠りしたとでも思うだろう」

「あの兵士さん大丈夫?後で怒られたりしない?」

「すぐ目を覚ますさ、こんな所だれも来ないし、目が覚めたらまた仕事に戻るだろう」

こうして俺たちは城から抜け出す事には成功した。しかし目の前にはまだまだ広大な敷地が広がっている。あてどもなく歩いているとまた別の建物に近づきつつあった。


「まだまだ先がありそうですね、どうも離宮側の方に向かっているみたいですね」

「周囲に人の気配は無くもないしなぁ、もう面倒くさいからあそこに見える壁に向かって進むか?」

【ご案内します。安易に方向を変えると危険です。このまま道なりに進むべきかと思われますが】

「そうは言ってもこのまんま離宮に向かっても仕方ないだろう。ちょっとくらいなら大丈夫じゃないか?」

「誰です!」

【ほら見つかった】

「あなたは……、アウレリア嬢ね」

あ、この人、あの舞踏会で王様の横に座ってた人だ。王妃様ってやつか?不思議と、その顔に敵意は感じなかった。


次回、第19話「悪役令嬢、アデライド王妃ト内談ス」

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