第17話「悪役令嬢、脱出ス」
「なぁリア、もうそろそろ良いんじゃないか?気が済んだだろ?」
「えー、まだもうちょっとダメ?」
だからゲームをおねだりするみたいに恐ろしい事をおねだりしないで欲しい。マジで末恐ろしいよこの子。
だからリア、壇上の国王夫妻を轢きたそうにしないの。あれ轢いたらさすがにタダじゃ済まなそうだからね?
一通りホールにいた人々をなぎ倒した俺様達は小休止していた。
正直言うと公爵夫妻やら王太子やらにはまだまだ言いたりん気もするが、そろそろ逃げないとまずい気がする。
「も、もうちょっとしたら衛兵やら兵士やらが山ほどやってきて面倒な事になるだろ?そうなったら逃げるのにも苦労するからね?」
「別に、その人達もさっきみたいに跳ね飛ばしちゃえば良くない?どうせ治るんだから」
「リアさん!?その考え方は物凄く危険だからね!?何事にも限度ってものがあるから!」
【ご案内します、対象の服装にご注意下さい。その兵士達が金属製の鎧等を来ていた場合、鎧が修復されません。
その場合、身体は修復されても潰された鎧で再度身体を損傷し、結果死に至るものと思われます。
更に付け加えますと、このスキルで死者を生き返らせる事はできません】
「あ、この会場って貴族服とかの人ばかりだから問題が少なかったのか、思わぬ欠点あるなこのスキル」
【ご案内します。欠点ではなく、特性です】
あっはい、そこはこだわりがあるんですね。
「ここの窓を破って下に降りる、ってのも無理があるよねー?」
【ご案内します。ここは地上4階で30mはありますので現実的ではありません。
ジャバウォック様の身体は耐えられても主様の身体が耐えられませんし、現状そこまでのスキルは獲得できませんので廊下を走って行く事をおすすめいたします】
現状……って、あの、それって
【現状、兵士に囲まれて『スキル:スタンボルト』で失神させでもすると、進行を妨げる邪魔者が増えるだけになります。早急なこの場からの退避をおすすめいたします】
やっぱここでボケっとしてる暇なんて無いな。おすすめ通りさっさと逃げないと。
「よし!なら城内を通って降りさせてもらうか!」
俺様はコントロールが効くうちにバックで人の間を縫って広間の壁をぶち抜き廊下へと出た。
が、廊下の半分くらいでもう車体が
「【ガイドさん】、俺様の車体のサイズを半分にして、リア1人乗りに変形できるか?」
【問題ありません。それでは車体のサイズをちょうど半分に、リア様を中央に配置する形で車体を小さくいたします】
おお便利。前世でのデコトラを知っているともの凄い違和感を感じるだろうけど、リアの椅子がキャビンの中央に移動して1人乗りの状態になりマイクロバス程度の大きさになった。これなら廊下も通れるな!
「どけどけ! どけどけやー!」
俺様は大声で廊下にいる人達に警告を発しながら走っていく。邪魔しそうな人はスタンボルトで眠らせた後避けて走る。
【ご案内します。前方に扉がありますのでご注意下さい】
俺様は走る速度を緩めた。向こうに何があるのもわからずにぶち破るのはちょっと嫌だな、それこそ鎧を着た衛兵さんとかいそうだけど。
【ご案内します。それでは『スキル:存在感知LV1』を習得されますか? 10m範囲内の生物の気配を感じ取る事ができます】
おお便利! たった10mじゃなぁと普段なら思うけど、こういう石壁に囲まれた所では凄い役に立つ。
さっそく取得して周囲を調べてみると、視界に被さるように半透明の人のシルエットが浮かび上がった。やはり扉の向こうには人がいるなぁ。
変にぶち破ると開いた扉でケガさせてしまいそうだ。ノックでもして開けてもらうか?それとも人のいない所に体当たりして穴を開けて通るとか、でも車体が傷つくのは嫌だなぁ。
【ご案内します。それでは『装備:デコトラドリル』を取得されますか? 必要最小限の穴であれば人的被害を抑えられます】
……何だって?
【ご存知有りませんか? ドリルとは回転して物に穴を開ける……】
いや知ってるけどさ、何だよデコトラにドリルって! もはやトラック用の部品ですら無いだろそれ! 工事現場の重機じゃねぇよ俺様は!
【ご提案します。この際固定観念は捨てて下さい、デコトラなんだからドリルくらい生えるでしょう? だいたい貴方にデコトラの何がわかると言うのですか】
よりによって生まれも育ちもデコトラの俺様にそれを言う!? 誰よりも深く深く知ってますが!?
断言するけど古今東西津々浦々で、ドリルの付いてるデコトラなんて実在しねぇよ! ……他に何か方法無いの?
【それでは『装備:デコトラ波動砲』の提案を】
あ、ドリルの方でお願いします。もうこれ以上デコトラ離れしたくないです。
「ねー、じゃばばー、さっきから何を無言で話し合ってるの? 何か不満がある感じの走り方なんだけど」
「あー、ちょっとな、【ガイドさん】とで俺様のカスタムの方向性が食い違ってな」
音楽の方向性ってやつでバンドが解散する時の気持ちが今わかった気がするぜ、誰にだって譲れない一線ってあるものだよな。……俺様そんなわがまま言ってないよな? 言ってないよね?
「えーと、『装備:デコトラドリル』! で良いのか?」
すると、キャビン前面下部のグリルやパネルが左右に開き、中から本当にドリルが出てきたよ……。銀色の螺旋溝が切られている円錐形のそれは、ドリルとしか言えないドリルだった。
俺様の体内から出てきただけあってかなり巨大ではあるけど、これで穴を開けた所で俺様が通れる程の穴が開くのか?
と思っていると、そのドリルは本体とはつながっておらず、ちょっと浮き上がってからゆっくりと回転を始めた。
回転が速くなるに伴ってドリルはどんどん巨大化してゆき、ついにはフロントガラスを覆うほどにまでになった。
「うわー……」
俺様は自分の体内から出たものでありながら、そのあまりの巨大さにドン引きしていた。
「じゃばばー?これで前に進んだらいいの?進めるよ?えいっ」
いつも思うがこういう時はためらいが全く無いよなリアって。
俺様達は扉をぶち破ってくぐり抜けた。後方で驚く声が上がるけどまぁそりゃそうだわな。
そのままドリルを出したまま突っ走る。いくらなんでもこんなわけのわからないものに正面から相手をしようなんて者はいないだろう。
が、方角が悪かったようだ。前方から多数の兵士の気配がする。このまま突っ込むのは得策じゃないなぁ。
【ご案内します。その横の部屋に入り込んで下さい】
「おい! なんだかわからない物が城中を走り回ってるそうだがこっちか!」
「あそこだ! 穴が空いているぞ! 総員剣と盾を構えろ!」
「隊長、大丈夫でしょうか? 上の方ではかなりの被害が出たようですし、うかつに突っ込むと我々もただでは済まないのでは」
「だとしてもだ、我々が守るべき城で好き放題されて黙っているわけにはいくまい、行くぞ」
「……壁に穴が開いていますね。外に出たのでしょうか?」
「ひっ!」
「誰だ! そこにいるのは!」
「き、ききき斬らないで下さいまし! 私は何もしておりませんわ!」
「あ、いや失礼! 御令嬢を脅かすつもりではありませんでした。何か妙なものがこの部屋に入ってきませんでしたかな?」
「よくわかりませんが、尖ったものがぐるぐる回ったようなものが、そこの壁から外に……」
「やはり! 外だ! 外を捜索しろ! 御令嬢、貴女も安全な所に避難をお願いいたします」
「え、ええ。それでは侍女が控えている場所を教えてくださる? はぐれてしまったのでそこで聞いてみますわ」
「ははっ、それでは場所はここになります。ですが今は上層階の騒ぎが鎮静するまで部屋を出ないようにと勧告が出ておりますので呼び出していただきましょう。
おい、誰か彼女を護衛して……、あれ?どこ行った?」
「しかし面と向かってもバレないものなんだなぁ」
兵士の皆さんの前から姿を消した俺様達は堂々と廊下を歩いている。普通に歩いたほうがバレにくいというのは盲点だった。
【ご案内します。主様はずっと領地の屋敷にいたという事は、社交界では全く顔が知られておりません。普通にしておれば誰も疑いを持つ事は無いでしょう】
「だったらあの兵士さんに案内してもらっても良かったんじゃないか?」
【あれだけの騒ぎになったのですから、ドラウジネス家の者にも何らかの影響があるでしょう。侍女やメイドの方々にしても同様です。呼び出してもらおうものなら何があるかわかりません】
「まぁそうなんだけど、どうしてまたケイトさんを探してるんだ?一刻も早くこの城を逃げ出したほうが良い気がするんだが」
【ご提案します。仮にこの場を脱出したとして、その先の生活はどうされますか?どう考えてもメイドであるケイト様の存在が重要になってくると思うのですが】
俺様は二つ返事でケイトさんの合流に全力を尽くす事にした。
俺様にリアのお世話なんて不可能だからな、マジで生活能力なんて皆無だから。
料理洗濯掃除をした事のあるデコトラがいたらお目にかかりたい。
「大雑把な場所しか聞いてないから、会えないかも知れないねー」
「それに、メイドさんだっていっしょに来てくれるとも限らんしなぁ」
【ご案内します。それでも、別れの一言くらいは言えると思います】
意外と人情家だったのか【ガイドさん】。
次回、第18話「悪役令嬢、王妃ト邂逅ス」
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