第71話「悪役令嬢ト『人造神』」


俺様達はデコトラで無理やりといって良いくらい強引に地下の研究所へと押し入った。まぁドリルで壁に穴を開けてなのだが。

「抜けた!って、何だありゃ?」

「あ、ルクレツィアだ、あの大きい人形の胸の所!フォルトゥナもいるみたいなんだけど!」

「それもじゃが、天井近くにに浮かんでるあの輪は何じゃ?まるで神々の領域のような何かを感じるが……」

【警告いたします。この場からの即時撤収を勧告いたします。明らかに異常な規模の存在が誕生しようとしております。

また、その中にはデコトラ因子も大量に検知されますので、デコトラを超えた何かが生まれかねません】

「ヤバそうな雰囲気なのは見りゃわかるけどさ……、いったい何が起こってるんだあれは」


俺様達が壁を抜けて例の研究施設にたどり着いてみると、いきなりとんでもない事になっているようだった。

『人造デコトラ』が入っていた巨大なカプセルは割れ、代わりに金属製で巨大な人型の彫像のようなものが出現していた。

単なる置物ならまだしも、そいつは体中から触手のようなものを生やしてルクレツィアを捕まえており、一部はルクレツィアの身体にまで突き刺さって一体化しつつあるようで身体はもう血だらけだ。

また、彫像とルクレツィアの間にはフォルトゥナらしきデコトラまで挟まっていた。

それだけならまだしも、その上空に光の輪というか、渦のようなものが発生しており中から妙な光が差し込んでいるのだ。……情報多すぎない?


【時間が無いので端的に説明いたします。この場には『人造デコトラコア』『デコトラコア』『光の魔力』の3つの力が入り乱れております。

その作用によりこの世界の境界が曖昧になり、上位世界とつながった模様です。現在そこからあの神像に向けて力が流れ込んでおり、非常に危険な状態です。

その力の流入で、『人造デコトラ』に劇的な変化が起こりつつあり、どのようになるかは情報が不足しておりますので予測不可能です。

ですがそのような状態でフォルトゥナ様が吸収されでもすると、異常な進化が起こってしまうものと思われます。そして、それは神と見分けがつきません。最悪『人造神』が誕生いたします】


「えーと?」

うん、リアもわからんよね?俺様もわからない。

【ガイドさん】が端的と言いながら物凄く丁寧に色々説明してくれたんだけど、あまりにも色んな要素が絡んでるので理解できてなかった。つまりどうなるんだ?

【ご案内します。要は神が誕生しそうなので、下手すると天罰食らってこの国が滅びます】

はい、思ってた以上にとんでもない事になってましたー!


「ちょ!なんでそんな事に!?」

「大変だねー」

「お主らの行く先はこんな事ばっかりかい」

「私、ただのメイドなのですが、何故こんな場所に立ち会っているのやら……」

【ご案内します】

四者四様の感想の中でも【ガイドさん】は淡々と説明してくれるのだった、いつもお世話になっております。


【ご案内します。神にも何パターンかあります。

この世を創り、始まりから存在している通常の神々。

長く使われたモノに魂が宿ったり、人々の想いが集まって誕生する下級神、これは付喪神等が挙げられます。

最後に、現在発生しようとしている、強引に力を集めた事により存在だけの神が誕生してしまい、そこに外部の意思が取り込まれたもの。

これは行動の予測が付きません、取り込まれた人格かデコトラがベースになるはずですが、膨大すぎる力に意思が追いつかず、暴走して手当たり次第に天罰を食らわすか、最悪この世の滅亡を選択いたします】

「おいおいおいおい、レイハやギルマスの言葉じゃないけど、どうして毎回とんでもないのが現れるんだよ!」

ケイトさんじゃないけど、俺様ただのデコトラなんだけど……。


こんな状況だというのに周囲には枢機卿とか誰もいないし、誰にこの状況の説明を要求すりゃいいんだ。

「枢機卿とかどこにいるんだよ、こんなの放置して無責任だなあいつらー」

「ジャバウォック!そんな事よりさっさと助ける!早く!」

「ははははっ、はい!」

珍しくリアに怒られてしまった、皆を降ろすとリアはアーマードレスを着込み、ヴォーパルソードを構えた。もう今回は出し惜しみしてる場合ではないのだ。

ケイトさんはできるだけ隅っこの方で隠れてもらっている。



【ご案内します。現在、フォルトゥナ様が『人造デコトラ』に取り込まれないよう抵抗している模様、あの巨大な彫像の方を破壊して下さい】

「破壊しろっていうけど、側のルクレツィアはどうするんだ?」

「守りながら助けて破壊するしかあるまい!行くぞ!『能力開放:人鬼転身』!」

レイハも鬼の姿に変身し抜刀すると、金属製の触手に斬りかかった。だが、彫像の方からそれをさせまいとばかりに別の触手が迫ってきた。

「こやつの相手はウチがする!リアはルクレツィアを!」

「おっけー、ルクレツィアー!フォルちゃーん!だいじょーぶー?」

どうにも気の抜けるリアの言葉だが、それでも2人からは反応があった。


「あ……が」

「リアっちー! じゃばっちもー! たーすーけーてー! ヽ(๑•́ ₃ •̀๑)ノシ」

どうもフォルトゥナの口調もちょっと気が抜けるが、それでも彼女の状況はお気楽には見えなかった。

巨大な彫像、多分あれが『人造デコトラ』なんだろうな、そこから金属製のタコの足みたいなのが何本も伸びててルクレツィアを絡め取っている。

問題はルクレツィア自身の身体が、金属製のそれに置き換わっていっているように見えるのだ。

フォルトゥナはその間に挟まって、これ以上事態が悪化しないように踏ん張っていた。

だが、それにも限界があったようだ、上に浮かんでいる輪、触手に絡め取られているルクレツィア、両方から明らかに異常な量の力が注ぎ込まれ始めた。

【警告いたします。逃げるのが最良の選択では無くなりました。一刻も早くルクレツィア様と『人造デコトラ』の接続を断ち切らなければなりません。あの触手を切断して下さい】

【ガイドさん】がもう逃げる事すら言ってこなくなった。あの巨大な彫像に流れ込むエネルギーはそれ程に膨大なのだろう。


「えい」

ルクレツィアを捕えている金属製の職種に、リアが気の抜ける掛け声と共にヴォーパルソードを振り下ろすが、それはあっけなく跳ね返された。

「やはりその剣でも刃が立たぬか!硬度は中々のものであるな!祝詞のりとを省略する事のご不敬をどうかお赦しいただきたく!『フツヌシ招聘』!」

別の触手を引き付けていたレイハが呼び出した神様が刀の姿に変わってブーメランのように飛んで来た。

それは触手を両断しようとしたが火花を散らすばかりだけだった。あの魔物の軍勢をあっさり両断した攻撃が通じていない。


【ご案内します。エネルギー供給を絶てば硬度は落ちますが、現在正体不明の異世界から、ルクレツィア様の光の魔力、フォルトゥナ様のDEデコトラエネルギーまで吸収しているので手が付けられない状態のようです】

「えー? だったらどうしたら良いの?」

「放っておいて逃げるわけにも行かんぞ。ちらりとあの渦の中を見たが、下手な者があれを見ると魂を奪われる。なんとかあれだけでも閉じないとこの世界が浸食されかねんな」

つまり、今は巨大な金属の神が誕生しようとしている上に、デコトラも聖女も捕えられて、その上空には異世界への出入り口まで開いてて手詰まり、と。どうにもならなくないかこれ?


「よし……、俺様の奥の手だ。困った時の【ガイドさーん】! 何とかならない?」

【何とかしましょう。『装備:デコトラガントレット』リア様の両腕に装着いたします】

すると、【ガイドさん】の声と共に、リアの両腕の籠手の形が変わり……、デコトラになった。

いや何を言っているんだと思うかもしれないが、本当に両腕がデコトラになったんだって!全長1mくらいのデコトラに!


「頼んでおいて何だけど、【ガイドさん】、なに……? これ?」

「ウチが聞きたいわジャバウォック、おい【ガイドさん】よ、こんな模型みたいなものを腕に付けてどうするつもりじゃ」

「これだと殴るくらいしかできないねー」


【ご案内します。それはジャバウォック様を模した籠手ガントレットで。これで殴る事で、デコトラの状態で使えるスキルの一部を再現できます。

 物理的にどうにもならないのであれば、時間的にどうにかいたします。これで『スキル:時空転移』を打ち込み、

 ルクレツィア様をほんの少し先の未来へ、『人造デコトラ』をこの教会の上空にでも転移させて無理やりにでも分離させましょう】

ちょっと待って、それがあれば、城とかあんな所色んな所で人を撥ねて回らなくても良かったんじゃないの?

【色々都合がありましたので】

本当かよ。


「まぁ良い! 要はそれで殴れば、お主らがこの国まで飛んできたように、強引に転移させて引き離せるという事じゃな! リア! 雑魚はまかせろ! お主はそいつで思い切りぶん殴れ!」

【ご案内します。まずはルクレツィアを時間転移させますのでそちらからお願いします】

「よーし!いっくよー!」


次回、第72話「悪役令嬢ト教会ノ上空戦」

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