第72話「悪役令嬢ト教会ノ上空戦」


『人造デコトラ』は触手を出してルクレツィアを絡めて取っており、デコトラ姿のフォルトゥナはその胸の穴に取り込もうとしている。

フォルトゥナの方は防御壁のようなものを展開してなんとか耐えているようだが、ルクレツィアは金属製の殻のようなものに覆われてしまっている。

リアはそれに対抗すべく『デコトラガントレット』を装備したとはいえ、すぐ戦う事はできなかった。

【スキルを仕様する為の因果力が足りませんのでDEを変換いたします。リア様はデコトラガントレットに因果力が充填されるまで待機願います】


「リア! 雑魚はウチにまかせろ! 今からウチがお呼びするお方の目を見るなよ! 『神威招聘:ヤトノカミ』!」

レイハが呼び出したのは額に角の生えた20m程もある巨大な蛇だった。

呼び出されたからには神なのだろうが、どう見ても穏当な感じには見えなかった。

全身から邪悪な気配というかどす黒い怨嗟、恨み、憎悪、殺意といった負の感情が漏れ出している。漏れ出しすぎていて実体化しており、オーラのように全身を包み込んでいるのだ。

その蛇神は新たな神になろうとしている彫像を見ると敵意を剥き出しにしたかのように咆哮した。

体中から光る粘りのある液体のようにも見えるオーラ的なものを放出し、それでルクレツィアや他の触手を絡め取り始めたのだ。

金属製の触手はそれ自身もかなりの力があるはずが、ヤトノカミに絡めとられたものは身動きが取れないようだ。


「物理攻撃は効かずとも、呪いや祟りは効くであろう? 簡単に抜け出せると思うな!」

怖っ、レイハは自分が呼び出した神様を使って、相手を呪う形で身動きを取れなくしたようだ。

さらに、多少なりともエネルギーを吸い取る適な能力があるらしく、ヤトノカミ近くの触手が明らかに動きが鈍くなり萎れ始めた。

つくづく神様を呼び出せるって何でもありだなおい。

あれ? エネルギーとか吸い取られるという事は、ルクレツィアとかどうなんの? あ、ダメージ受けてるのか苦しんでいる。

「ルクレツィア! 多少力を吸い取らせておるが、供物を捧げぬわけにはいかぬのでな! 多少は我慢しろ!」

えぐい、いかにもな神様なだけに代償もえぐい。


彫像はこれ以上精気を吸い取られてはかなわんと追加の触手を放ってきたが、それすらも次のエサだとばかりにヤトノカミは絡め取っていく。それどころか、もっと、もっとよこせと絡め取った触手を引き寄せ始めた。

これでは最初にルクレツィアを吸収しようとした人造デコトラと変わらんな。

俺様がドン引きしている気配をレイハも感じたらしい。

「あのお方は姿を見ただけで一族郎党を根絶やしにする程の祟り神じゃからな。人に祟るという執着では、まだ神ならぬ人形に負けたりせぬわ!」

そんな恐ろしいもの呼び出すなよ! 姿だけでも思いっきり見ちゃったよ俺様!!!

その後もヤトノカミの呪いは勢いが弱まる事が無く、ついにはルクレツィアを覆っていた金属製の外殻の一部が剥がれ、本来の肉体が露出し始めた。だが、直後にそれは瞬時に修復されてしまう。


「おいレイハ、治ってしまったぞ」

「あれは恐らくルクレツィアの治癒魔法じゃな。操られているのか洗脳されているのか、ウチらの攻撃に対抗しようとしておる。

 ならば!ヤトノカミの中にまします奇魂クシミタマよ、あの者の心を縛りたまえ!」

触手を絡め取っていた呪縛が、今度はルクレツィア本人を絡め取ったようだ。苦しみ始めている。

「おい、大丈夫なのかあれ」

「ヤトノカミ様の持つ精神的な御力であの者を精神的に縛っていただいた。祟りという精神面に長けた神ならではじゃ。これでしばらくは動けまい……む?」


なんと、それまで動かない彫像のようだった人造デコトラが、少し動き始めたのだ。手足代わりに使っていた触手を逆に絡め取られ、ルクレツィアまで動けなくされたからだろうか。自ら戦う気になったようだ。

「ねー、まだー? フォルちゃんちょっとまずそうだよ?」

リアの言う通り、動き始めた彫像は、まずはフォルトゥナを吸収しようと狙いを変えたようだ。強引にフォルトゥナが張っているであろう防御壁ごと体内に収めようとしている。

「ああー! こら!ウチを食べようとすんなし! たーすーけーてー! ヘ(*′Д`)ノ゛」

どうにも緊迫感の無い声ではあるが、実際ピンチなのに変わりはないのだろう、早く助けないと。


リアの両腕のデコトラの形状をしている籠手が発光を始めた。胴体部分のマーカーランプ、電飾全てが眩しく発光し始めている。普通ならエネルギーを貯めている格好いい所なんだろうが、発光するデコトラではどことなくめでたいものに見てしまうなぁ。

【ご案内します。因果力の充填が間もなく完了いたします。

やむを得ません、順番を変更いたします。まずはフォルトゥナ様を時間転移させる方に計画変更いたします。デコトラガントレットでフォルトゥナ様を殴って下さい】

……殴って助ける、というのがどうにも納得できないが、デコトラの姿に戻って撥ねろと言われるよりはまだマシだ。だよな?


【ご案内します。今です】

「よし! リア! 行くぞ!」

「おっけー、おおーりゃぁ―――!」

リアは掛け声とともに、思いっきり助走をつけてジャンプした。フォルトゥナに向けて。

巨大なデコトラ型ガントレットの手を振りかぶり、思い切り殴ろうとしていた。

「え? え? え? ちょ! リアっち!? あーし? ちょ! あーしを攻撃すんなし! あっち! あっちー! ∑(๑ºдº๑)!!」

思い切りぶん殴られそうになっているのでフォルトゥナが抗議の声を上げていた。

だよなー、このスキルの発動の為とはいえ、リアに全力でぶん殴られそうになってるんだもの。

だが、リアの振りかぶった右デコトラは問答無用とばかりにフォルトゥナの胴体に叩き込まれた。

衝撃と共にフォルトゥナの姿が発行し、瞬時に姿を消した。【ガイドさん】の言った通りちょっと未来に送られたのだろう。

【ご案内いたします。これより皆様を『人造デコトラごと』転送いたします、衝撃にご注意下さい】


【ガイドさん】の声がした瞬間、俺様達は目眩にも似た感覚と共に別の場所移動していた。

そこは、ルクレツィアが捕らえられていた大教会の上空だった。わぁ教会都市が眼下に広がり綺麗だなー。

「飛んでるねー」

「いや、リア、これは落ちているというのじゃ。……おいジャバウォック、一つ聞きたい事がある」

「奇遇だなレイハ、俺様も聞きたい事がある、空飛んだりできない?」

「常々!思うて!おるが!少しはスキル使った後先を配慮しろ! ええい祝詞を省略誠に申し訳ない!『神威招聘:天鳥船アメノトリフネ!』」


レイハが再び呼び出してくれたのは……、船!? 両サイドに鳥の羽根が生えた空飛ぶ船だった。ご丁寧に鳥居や小さな神社まである。

「あれに乗せてもらえ!くれぐれも失礼の無いようにな!」

「え!? 失礼って、あれ神様なの!? 蛇とかはともかく船だぞあれ!」

「細かい事言うな! 八百万の神々の中にはあのようなお方もおわす! そもそもお前だって元はトラックだろうが!」

「元はって言うな! 俺様は今も昔もデコトラだよ!」

「そのような鎧の姿になっておいて何を言うておる!」


「えい」

レイハと俺様が言い合ってるうちに、リアはわりとドスンという感じに着地していた。大丈夫?神様怒らない?

レイハはというと、スッと音もなく着地すると、そそくさと鳥居を抜けて小さな神社にお参りしていた。そういうシステムなわけ?

「リア、一応きちんとお参りするんだ。レイハの真似したら良いから」

「えー? あっちは良いの?」

リアが指さす先を見ると、『人造デコトラ』は大教会の上空に浮いていた、飛べるのかあれ。

本格的に稼働し始めたらしく、単なる彫像のようにしか見えなかったのが、背中にある翼が生物のように羽ばたき始めていた。

ルクレツィアはというと、胸に取り込まれて胸飾りのようになっている。

それよりもまずいのが『人造デコトラ』の頭上にある輪だ、まるで天使の輪のように浮かんでて消えていない。あんまり良い状態じゃないよなぁあれ。


「だからさっさとお参りしよう!な! レイハも終わっちゃうから!」

「はーい」

俺様達はいそいそとレイハの横に並び、レイハも待っていてくれたのかご丁寧に三礼三拍手一礼するのをゆっくりと真似させてくれた。

こんなんか?もっと回数少なかった気がするが、まぁ良いか、考えなければいけない事は山程ある。



「まずいの、異界への門は閉じたようじゃが、力の供給が完全には止まっておらん上に、ルクレツィアまで吸収されておる」

「あの頭のうえの輪っかなんて、天使みたいだよねー」

「大丈夫かよ、あんなのと戦ったら俺様達悪者じゃね?」

とはいえ、この場で戦えるのは俺様達だけだろうし、逃げるわけにはいかんのだろうなぁ。


次回、第73話「悪役令嬢ト神々ノ闘イ」

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