第11話「令嬢、デコトラヲ改造ス」
ドライブと言う名の爆走を終えて屋敷へ戻ってきた俺様は、また階段を出して二人が降りる準備をしようとした。
「しかしこの階段、折りたたみでもないし収納式でもないのに、どこから出てきてるんだろうな」
【ご案内します。ジャバウォック様の身体は、現在魔法力によって構成されており、この階段もその一部です。また、これら全ての構成物は
「へー、じゃばばってそういう存在だったんだ」
「半ば魔法生物か使い魔のようなものなのですね。とはいえこのようなものを作れる魔法使いなど聞いた事もありませんが」
俺を転生させたのはあの神だからな、それが本当ならそりゃ人には不可能だろう。
「でもこの内装、もう少しどうにかならないの?私とは趣味が合わないんだけれど」
「あえて言うなら、公爵様の部屋に近いですね。男性向けの要素がかなり強いですから」
【ご提案します。主はジャバウォック様の内装がお気に召さない様子でしたが、こちらも自由に変更できます。まずは壁紙を薄桃色で統一してはいかがでしょうか】
「おいちょっと待て、俺様の中を勝手に変えないでくれる?これには俺様とオーナーの思い出がだな」
俺様は転生してきたわけだから、この身体は前世のデコトラと同一ではないのだろうが、それでもオーナーの趣味で統一された車内の内装には愛着がある。
「おねがーい。できたらベルベットの壁布でねー。模様は百合に蔦とかの植物を銀の刺繍でー、ワンポイントで所々鳥とか欲しいかな?」
あっさりと情緒も無く変えられたー!しかも注文が細かっ!それを皮切りに他の内装もガンガン変えられていっている。
「そうなりますと、この眼の前の少々無骨な棚も気になる所ですね。そもそもデザインが気に入りません。この並んでいる丸い窓のような所も何を意味しているのかわかりませんし」
そこ家具じゃなくてダッシュボード!車でも超重要な所なんだからね!?運転手にとっては命を預ける所なんだよ!?
【ご提案します。それでは現在のダッシュボードを、木製のアンティーク家具のようにいたしますか?計器類は置き時計のような形状に変更できますが】
「えっ?そんな事できるの?だったら今座っているこの椅子も
「ついでに私の椅子も布貼りソファに変更をお願い致します。革のようですが座り心地というよりあまりにも身動きが取れません」
「運転シートを変えるな!そんな事したら運転の時揺さぶられて危ないだろ!振り落とされるぞ!いやそうじゃなくてだな、これ以上変えないで欲しいんだけど!?」
「まぁそう言われると、そもそも寝椅子を置ける程広くもありませんしねぇ」
「えー、寝椅子欲しいー」
ああもうこいつら好き放題言ってやがるな。だからね、ここは運転席であってだね、くつろぐ為の部屋とかじゃなくてだね。
【まとめて解決いたします。まずは『空間制御:LV1』で車内の大きさを拡張いたします。続いて車内に『重力制御:LV1』を施します。これで広さと安全性を確保いたしました。いかがでしょうか?】
【ガイドさん】!?もしかして【ガイドさん】もこの内装が気に入らなかったりするの!?というかそれ俺様が取得するスキルだよね!?勝手に取得されて俺様の自由にならないスキルって何なの!
【ガイドさん】の声と共に、突然運転席の広さが倍になり、四畳くらいのちょっとした小部屋くらいの大きさになった。フロントガラスが窓みたいになってるし。
部屋の真ん中に運転シートがあるのはシュールな光景だな……。ダッシュボードがテーブルのようにちょこんと置かれてるのだけは違和感しか無いが。
しかし俺様の車体自体は大きさが変わっていない。どうなってるんだこれ。
「おや、これで少しは過ごしやすくなりそうですね。足が伸ばせます」
「『空間制御』ってのはともかく、『重力制御』ってのは何なの?」
【口で説明するよりは走ったほうが実感できると思います。リア様、車を走らせてみて下さい】
お?走り始める時の反動とか慣性的なのが消えたな?フロントガラスの風景だけが動いてる感じだ。
「揺れも何だか無くなったねー。普通に立てるよこれ」
「ちょっと!リア!ハンドルから手を離さない!」
俺様が運転を代わると、リアは普通に立ってその辺を歩き始めた。俺様は走っているのに、車内は静止しているかの状態になっているようだ。
「不思議な状態ですね、多少の揺れはありますが、走っている感覚が全く無くなりました。まるでどこかの部屋の中にいるようです」
「よし!部屋になったって言うんなら家具とかソファを置けるね。さっきの目の前の棚をアンティーク調にするのに合わせて置いて行ってちょうだい」
「俺様の運転席が部屋扱いされ始めたー! この人達、車に対する常識が無さすぎるよー!」
【ご案内します。この方たちにとってデコトラは馬車と変わりがありません。であれば御者によって動かしてもらう応接室のように捉えられたとしても、それがこの世界の普通だと思われます】
「いやそんな事言われてもだなー!」
あれやこれやと追加されていくうちに、俺様の運転席は妙にファンシー感のある貴族の御令嬢のお部屋みたいになっちゃった。ゴスロリ趣味のお姉さんとか喜びそうだぜ……。
すまぬ、オーナー、俺様、もう作り変えられてしまったの……。もう貴方の知ってる俺様ではないの、もう貴方には逢えないの……。
【ご案内します。デコトラの
そうは言ってもだなー!デコトラのデコはたしかにデコレーションだけどさー!こんな感じにデコられたデコトラなんて俺様くらいじゃないかなぁ!?
【ご案内します。現在の主はアウレリア様ですので、主の趣味に合わせられたのはむしろ喜ぶべきかと思われます。あまり文句を言っていると主が悲しみますよ?主の味方になってあげないのですか?】
ぐっ……、弱い所を!
「んー!良い感じになったねー!」
「【ガイドさん】様、色々と心づくしをありがとうございました、お嬢様にとっても貴重な経験でしょう」
【お役に立てて何よりです。ね、ジャバウォック様?】
「お、おう……」
ああ、俺様が変えられていってしまう。今は車内だけだけど、外観とかも変わって行ってしまうんだろうなぁ、なんか武装追加とか言ってたし……。
「あー!自分の好き勝手できる部屋って最高ー!もうここに住みたーい!」
「リア様……、やはり、あのお屋敷は、嫌なのですか?」
「ちょっと、ね」
「リア、さっきも言ったけど、俺様ならいつでも旅に連れて行ってやれるからな」
「んー、でも、逃げるのもちょっと嫌だなぁ。せっかく舞踏会に招待されてるわけだし、それだけでもきちんと出席して区切りをつけておきたいの。婚約者の顔をつぶすわけにもいかないでしょ?」
意外と負けず嫌いな所あるんだな、俺様としてはあの王子に気を遣う必要なんてないと思うんだが……。
次回、第12話「令嬢、舞踏会ニ出席ス」
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