第27話「零羽(レイハ)、登場ス」

リアは村人に案内されて肉屋にやってきたが、村人も店の外から遠巻きにそれを見物していた、見世物だなまるで。

肉屋自体は規模の小さな村だけあってさほど大きくなかった。 店の中に入ると店主がカウンターの前で椅子にどっかりと座って待ち構えていた。

店の中にはずらりと肉が並んでいるが、何らかの魔石具でも使用されているのかひんやりとした冷気が漏れ出ており、きちんと保存されているようだ。

店主はどことなく不機嫌そうだ、まぁ予想していた通りだがあまり歓迎されてない雰囲気だな、顎で肉を示すと口を開いた。

「お前さんか、肉を売りたいとか言うのは、小さいくせに妙に威圧感のある鎧着てるな。何だよその色、そんなんじゃ誰も寄ってこないだろ」

「家宝の鎧だもの、文句は言えないわ。ねぇお肉買ってくれない?」

「肉と言ってもなぁ、一角兎アルミラージを一羽とかは困るぞ?」

店主の冗談に店外の村人からも笑いが上がる。リアが鎧以外は人畜無害に見えるので徐々に気が緩んできたのだろう。

一角兎というのは額にユニコーンのような角がある兎で、一般人でも狩るような魔物だとか。一応ストックの中にもいたな。

「そんな小物じゃないわ、もっと大きなのよ。とにかく見て」

「はいはいお嬢様、拝見いたしましょう」


馬車を店の前にまで誘導し、軽く憮然としたリアが肉を取り出して見せると、その価値がわかるのか店主は顔色を変えた。

「こ、これはエルダーワイバーンの肉や鱗じゃないか! 牙や角まで、お前さんこれをどこで!」

「旅してたらちょっと東の方で襲われたのよ。なんだか魔獣の群れを追ってたみたいで、まとめて襲われたから返り討ちにしたわ」(プロローグ参照)

「お前さんが、一人で? あのメイドは?」

店主はリアが一人でエルダーワイバーンを討伐したというのが信じられないようで、馬車の所で待っているケイトさんも手伝ったのかと思ったようだ。

まぁ実際は俺様を使ったのだが、わざわざそんな事を言う必要もあるまい。


「あそこにいるケイトはただのメイドよ、戦えるように見える?」

「まぁ……、たしかにそうだが、お前さんはもっと戦えるように見えんぞ?」

「失礼ね、この鎧でわかるでしょ」

「そんな妙な鎧だから余計に信じられないんだよ。何だよピンクの色とか妙なごて盛りの装飾とか」

デコトラアーマーは元々デコトラばりに山程の装飾とかの上に、リアの趣味で色が変わってるからな。戦闘用に見えないというのは無理もない。


だがこういう時、物怖じしないリアの性分は良い方向に働くようだ。挙動不審になる事が無いので基本疑われる事は無い。

「色々あって旅をしてるんだけどね、お金が無くなっちゃったのよ。お願いだから何か買ってくれない?」

「たしかに貴重な素材ではあるんだが、この村じゃ高級過ぎて扱えんしどうしようも無い。

 おかしな恨みを買いたくないから冒険者ギルドの方で売ってくれ、こっちの羽猪ウイングボアとかは買ってやるから」

羽猪というのは巨大な翼で空を飛び、上空で翼をたたんで弾丸のように降ってきて襲ってくる猪という冗談のような魔物だ。

こいつもデコトラで走ってる時に何度か襲ってきて、荷台の屋根部分に突っ込んできて大きな凹みを作られたりしたもんだ。


「良いわよ、で、いくら?」

「これなら……、一角兎5羽と羽猪1匹で銀貨2枚って所か?」

「あら、そこに並んでる肉は角兎一羽だけで銅貨50枚よ?そんな安いの?一角兎だけで銅貨50枚くらいにはなるでしょ?」

やはり足元を見られて買い叩かれる所だったのか。店主はリアが計算ができるようなタイプには見えなかったようだ、舌打ちして次の値段を切り出してきた。

まぁこの店主も商売だからな、こういうのは騙されたりうっかり安く売るのが間抜けなのだ。

「……銀貨4枚」

おい、いきなり倍になったぞ。前言撤回だ、買いたたき過ぎだろ。

「銀貨10枚」

「そんな値段出せるかよ、銀貨5枚」

「んじゃ間を取って銀貨8枚でどう?」

「それだと微妙に間取れてないだろ、微妙に高い方を言いやがって。銀貨7枚と銅貨50枚だ、これ以上は出せんぞ」

おおすげぇ、単純計算で最初の3倍以上には上がった、意外とリアってしっかりしてるのな。


「まぁそんな所か、んじゃそれで。あとこの街で色々話聞けそうな所ある?冒険者ギルドの支社とか」

「そんな上等なものはここには無ぇよ。街道を西に2日ほど行けば街がある、そこになら冒険者ギルドがある」

「あらそう。んじゃこれは情報代ね」

リアは受け取った中から銅貨を1枚テーブルにパチンと置くと店を出た。


「(あんな感じで良かった?)」

「(良かった、んじゃないか?俺様は貨幣の価値をよく知らんから何とも言えないけどさ)」

「(私も知らないわよ、自分でお金を使った事なんて無いもの)」

「(え!? さっきのやり取りは何も考えてなかったのか?)」

「(うん)」

恐ろしいぜこの子、全く何も知らずにハッタリだけで世の中渡っていけるんじゃないか? と、俺様は思っていた。

だが調子が良かったのもそこまでだ、馬車が何人もの人に取り囲まれていたのだ。何事だ?

「あの鎧の奴だ!あいつが俺たちを襲おうとしたんだ!」


なんかこっちを指さして叫んでる人がいるけど、あれってこないだの馬車の人達か?やっぱりこの村に来ていたのか。

あの件は襲おうとしたというか、疲労で動きが怪しくなっていたリアの事を勘違いしただけだと思うのだが。

「おい……、やっぱり怪しい奴だったんじゃないか?」

「あんな鎧着てるしなぁ」

周囲の村人も勝手な事言ってるけど。酷い言われようだなおい。俺様達はこの村には換金と情報を求めて来ただけだってのに。


「あの~、何か勘違いしてませんか?」

「は? え? 女、の子?」

近づいてきたリアはもう兜を取っているので、顔を見た馬車の人達は毒気の抜かれた顔になった。

リアの見た目だけは人畜無害に見えるからな、見た目だけなら。


「と、とにかく、あいつはあの盗賊共をあっという間に皆殺しにするような奴だ、危険極まり無いぞ。

さっさと捕まえて冒険者ギルドにでも付き出そう、こんな奴がこの辺りをうろついていたんじゃ安心して眠れねぇ」

「いえあの、私、冒険者なんですけど……」

冒険者志望、な。まだギルドにも登録してもらってないんだから。

「だったら冒険者の登録証を見せてみろよ。冒険者なら持ってるはずだ」

あら、そんなのがあるのか。まずいな、俺様達はそんなの持ってないし、どんなのか知らないから偽造する事もできない。さすがにリアがどうしようかと戸惑ってると、やはり怪しまれたようだ。


「ほらみろ!お前みたいな目立つ冒険者の噂なんて聞いた事も無いぞ!おおかたどこかの国から流れ込んできた騎士崩れか何かだろう」

騎士じゃなくて令嬢だけど半分当たってるというか、内容だけは全部当たってるから何も言えないなぁ。身分証無いのはこういう時困る。

「あらそう、で、どうやって私を捕まえるの?」

おお、リアは特に気にしてないというか、開き直って相手の事を不敵に見つめ返している。

そういう反応をされるとは思わなかったのか、馬車の人は慌てて後ろの誰かに合図した。


「お、お前を相手にするのは俺たちじゃ無い!おい!来てくれ!レイ……なんだっけ?その為に雇ったんだからな!」

「ウチの名前は零羽レイハじゃ、いい加減覚えんか」

「『ヒノモト国』の名前は覚えにくいんだよ、とにかく頼む」

「はいはい、雇われたからには仕方ないがのう。ウチが相手せねばならぬような相手か?」

出てきた人物を見て俺様は驚いた。日本人かと思ったのだ。


次回、第28話「悪役令嬢、真剣勝負ス」

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