第68話「公爵ト聖女」


「で、わざわざ帰って来ずとも良かったのではないか?」

「だって、このままここを出たら、また入るの面倒だもの、ルクレツィア放っておいて帰るわけにもいかなかったし」

枢機卿との面通しが終わったリアは、そのまま外へ出たがるかと思ったが、また(一応)監禁されてた部屋に戻ってきた。

というかぶっちゃけ教会側からも「帰って良いぞ」とか言われたのを「いえいえせっかくですから」「そんな事言わずに」と居座っている状態なのだ。

見張りに立ってるらしい僧侶とかはものすごくものすごく帰って欲しそうだけどな。


「リアよ、ルクレツィアの場所ならフォルトゥナがわかるそうじゃが、どうする?助けに行くか?」

「よし、デコトラドリルで掘っていって」

「はいリアさんそこまで。助けるかどうかはさておき、今日の夜にでも一度会いに行くか?説得すれば出たいって言うかもしれないし」

レイハの話ではフォルトゥナは主であるルクレツィアの場所が本能的にわかるらしい。

俺様にも似た能力はあると思うが、そういえばリアと離れ離れにはなった事が無かったな。

「あの子は頑固な所あるし、レティがどうするかだなぁー。でもでも、一度くらい会って話はしたいかなー? (ㅍнㅍ)…」


教会のとある一室、大公爵アルフォンソはベッドで眠るルクレツィアを見下ろしていた。

「で、これがお前達が『聖女』と呼ぶ者か」

「今は飲ませたものが効いているのか眠っておりますのでご容赦の程を」

「かまわん、別に話がしたいわけではないからな。それよりもさっさと始めろ」

「ははっ、我々としましても彼女が独自の判断で動き始めたのは少々問題と思っておりましたからな、良い機会です。おい、連れて行け」

枢機卿が命じると動向していた僧侶数人が担架のようなものにルクレツィアを乗せて運んでいった。


「公爵様が監査されるとの事ですが、本当に立ち会われるので?危険かもしれませぬが」

「以前のように『デコトラ』を手に入れたというのを信じず、むざむざと契約させてしまうような愚は犯したくないからな」

「ははっ、あれは我々としても半信半疑でしたので、気付いた時には契約が終わっていたのは失態でした。

そういえば、ルクレツィアとは違い、あのアウレリアとかいう貴族令嬢には興味を持っておられたようですな?」

「余計な詮索はするな、さっさとその『人造デコトラ』に案内しろ」


地下施設に向かう一行、担架で運ばれて揺らされていても、ルクレツィアは目覚める気配が無かった。

「しかし公爵様、このような薬をどのようにして手に入れられたのですか?」

「お前には関係無いと言いたいところだがな、デコトラの製法同様、あのエンシェントエルフが売り込んできた」

「あの薬もですか、しかしどうも理解できませぬな、ハーフエルフならともかく、彼らは森の奥に引きこもって世と関わろうとせぬものですが」

「その者は自分から森を出たと聞いたな」

「なんと、神代の時代から生きるエルフがそこまでするのは、よほどの事があったのでしょうな」



教会の地下の研究施設、『人造デコトラ』が培養されている巨大なカプセルの前に設置されている手術台のような物の上で、ルクレツィアは眠ったように横になっている。

その前にいるのは大公爵と枢機卿、そしてもうひとり研究者のような男がいた。

「フレムバインディエンドルク、本当に大丈夫なのだろうな?」

「理屈の上では問題無いと思いますよ公爵様、少々強引ですがな。しかし良いのですか?せっかくの攻性魔力の持ち主だというのに」

「攻性……?」

「こんな弱い力では意味があるまい、元々デコトラとセットで成長するように仕組まれているのだろう。

だがそのデコトラも契約済みだ、ならばデコトラもろとも利用するのが早い」

「エルフの私が言うのもなんですが、人を人とも思ってないんですねぇ。

 ありとあらゆるものは貴男の道具ですか、いつか全てに裏切られますよ?」



「そういえばルクレツィアの事、全然知らないんだけど、どんな子なの?」

「どうって、見たまんまの子。っていう事を知りたいわけじゃないんだよね?

 あの子はさー、小さい頃に『光の魔力』に目覚めちゃって、困った両親が教会に預けたのよ。

 あーしが来るまではちょこちょこと治癒やら浄化やらをしてたんだけどね ٩( 'ω' )و」

俺様達は夜になったので教会の中をフォルトゥナの所へと向かっていた。

フォルトゥナによると、この世界では時おり正体不明の魔力が湧き上がる事があり、それにより人が死んだり病に冒されたりするそうだ。とはいえその原因が『闇の魔力』らしいと判明したのはつい最近で、この国や光翼教でも知るものは限られ、それに対抗しうる『光の魔力』を持つのはこの大陸でもルクレツィアただ一人なのだそうだ。


「手の施しようが無くなった人?とか?がこの教会に担ぎ込まれて、時々それを浄化したりしてたんだよね ( •´ω•` )ﻭ」

教会は「これこそ神の奇跡」と喜ぶ者と、「聖典に載っていないこの世の秩序を乱す忌まわしいものでは?」とその存在を抹消しようとする者とで二派に分かれていたそうだ。

「一応、人は救ってるワケだし?それ以上はルクレツィアをどうこうしようとしない人達もいたんだけどねー。ʅ( -᷄ω-᷅ )ʃ」


「神の奇跡とか認定しなければそこまで揉めなかったんじゃないの?」

「リア、この場合仕方あるまい。光翼教の主神が姿を消している今、この教団そのものの存在が問われているからな。ほんの少しの力しか無かったとしても『神の奇跡』としたかったのじゃろう」


「俺様達デコトラに対してももだけど、神ってよくわからん事するんだな……。そういやフォルトゥナってデコトラの神に会った事あるのか?」

「あーしは声だけー、『聖女を守れ』って声がしたと思ったら、レティの所に突然出てきたの」

「そうか、ところでその声って……、あれ?」


「あれ?消えちゃったよ?」

「え?え?どこ?どこ?」

【ご案内します。個体名:フォルトゥナは主であるルクレツィア様の召喚により、強制転移させられたものと思われます】


次回、第69話「大公爵トエルフト『人造デコトラ』」

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