第93話「悪役令嬢ト『遺跡』」



「文章の末尾の顔を表すようなこの箇所にはもしかすると何の意味も無いのか、いやデコトラともあろうものがそんな無意味な事を表示するか?と我々の中でも議論が分かれておってな……、どうされた?」

「……いや、少々驚いただけだ、何でもない」


俺様が膝から崩れ落ちたのは俺様だけの責任ではない、【ガイドさん】も意表を突かれて俺の身体の制御を誤ったのだ。

皆が大真面目に解読しようとしている文章を見せられて、それが前世のギャル文字混じりの文章だったら誰だってずっこけると思う。

そりゃ読めんわな、俺様だってちょっと悩むもの。

【ご案内します。この文章が解読困難なのも無理はありません、通常の日本語に加えてラテン文字、タミル文字、ギリシャ文字等が無節操に使われておりますので、文字の分類だけでも一苦労では済まないと思われます】

【ガイドさん】も俺様をずっこけさせたのをごまかすかのように解説してる……。


これって、どう考えてもあの白いデコトラのフォルトゥナだよな?

しかも文章の中身を考えると、ルクレツィアとはいっしょじゃないみたいだし、放っとくわけにもいかんのだろうなぁ。

なんかDEが無くなりつつあるなんて言ってるし。

でもなぁ、どうしようかなぁ、これ読めるの教えたら俺の前世ってのがあるのバレるんじゃないかしら、でもなぁ。


俺様が腕を組んで悩んでいるとリアが声をかけてきた。

「ねぇじゃばば、どうしたの?この文字がどうかしたの?」

「いや何も?それよりこっちの遺物でちょっと見て欲しいんだけどな」

聞かれたらまずいので俺様はちょっと離れた所に移動する。

「(いやな、俺様これ読める。前世で使われてた文字なんだけどな、これ書いたのフォルトゥナだ)」

「(えっ、そうなの?昔のデコトラとか言ってたけどそれがフォルトゥナだって言う事?)」

「(どうもそうらしい、向こうも困ってるみたいだけどな)」


「何をこそこそと話しておるのじゃ」

「(あ、レイハ、あの文字ってジャバウォックが読めるんだって。フォルトゥナが書いてるものらしいんだけど)」

「なんじゃ(と?いったい何と書いてある?ルクレツィアはどうなった?)」

レイハは何だかんだルクレツィアの事を気にかけてたからな、やっぱり気になるか。

「(どうも今の場所から出られなくて困ってると言ってる。ルクレツィアはフォルトゥナとは別行動か、離れ離れになってるみたいだ。彼女自身もDEが切れかけて動かなくなる寸前らしい)」

「(大事おおごとではないか!すぐ助けに行かねば!ルクレツィアの身にも何かあったのやも知れぬぞ!)」

「(放っておくわけにもいかないよなぁ。)」


「ねぇ、その文字、このジャバウォックが読めるんだけど?」

いつの間にやら団長の所にいたリアがいきなり言ったので技術団の面々は色めき立った。

もしかしたら物凄い事が書いてると思ってるかもだけど、そんな大した事は書いてないよ?

とはいえ驚いたのは俺様もだ。もう何も知りませんみたいな事は言えなくなったけど、どうする気なんだろ。


「ジャバウォックはこう見えてもデコトラについて色々詳しいの。

趣味でデコトラの研究をしつつ旅をしているそうよ?鎧見たらわかるでしょ?」

しゅ、趣味と来ましたか。ちょっと無理が無いかなぁ?

「おお何と!では読んではもらえないだろうか、正直我々ではお手上げなのだ」

「さっき聞いたけど、これだけだと無理みたい、色々文字が欠けているんですって」

「何?そんなはずは、できるだけ正確に写し取ったもののはずなんだが」

「現地で見るのが一番だそうよ?」

え?結局行くの?


というわけで俺様達は遺跡に来てしまった。遺跡とは言うが鉱山の奥の奥なのだ。

採掘途中でやたらと機械が出始めて、調べた所デコトラが埋まっていたそうだ。

俺様達が立っているところは鉱山の奥が大きくくり抜かれており、その中は巨大な空洞が広がっていた。

デコトラの発掘現場というがその大きさが尋常じゃない。天井の高さは10m以上、掘り進められてる横幅も30m以上ある

眼の前にはまだ岩や土に埋まっている建物とかが見える。そして、その奥にある巨大な機械の塊、あれがデコトラの一部なんだろうな。


とはいえ遺跡と名が付くだけあってその規模はちょっとした都市に及び、もはやデコトラといえる形ではないそうだ。

デコトラの発掘というよりは大きさも広さも尋常じゃないので

それでも、それがデコトラ由来のものであるというのは見ればわかるそうだ、

うん、見ればわかった。遺跡の飾りやら装飾がどう見てもデコトラだもの。


「……遺跡って感じじゃないなぁ」

「我々も最初は驚いたぞ、金属によっては全く錆びておらんし、まるでつい最近まで使われていたかのようなのだ」

俺様の呆れ声に団長が解説してくれるけど、よくイメージされる遺跡って石とかだろ?

それが全部ステンレスとかの金属なんよ……。しかも全然錆びてないの。

遺跡を照らす魔石灯の光を受けてやたらにギラギラ光って豪華絢爛に見えなくもない。


「で、ここが恐らく都市を貫く大通りなんだがな」

案内してくれるのは団長だ、今回はさすがに皇帝陛下やら子爵は来ていない、こんな危なそうな所には来れなさそうだもんな。

俺様達もあまり長時間の滞在は許可されていない。

この都市はほぼ円形に構築されており、どうもここに昔からあるような様子ではないそうだ。あえていうなら、ある日突然転移してきたような様相なのだという。


「普通の都市遺跡であれば、そこには長年人が住んでいたという事で、階層状に何層も遺跡が積み上がっていくはずが、ここにはそれがない。多少建築様式に違いはあれど一気に建造され、ある日突然ここに遺棄されたとしか思えんのだ」

とはいえ、わざわざこんな鉱山の地下深くにまで埋める理由が見当たりはしないんだがなぁ、と団長は首をひねる。


「しかし、趣味が良いとは言えんな。家屋の様式は強引に言えばウチの国に近いが、装飾のセンスが致命的にウチと合わん」

レイハの言う通り、立ち並ぶ家はどちらかと言うと古い日本家屋みたいな感じで屋根には金属製ではあるが瓦まで葺かれている。

「ええー?良いじゃねぇか、派手で格好良いと思うぜ?」

「こんな家に住んでおっては落ち着かんわ」

何故かフェルドまでついてきている、最近妙にレイハに対して距離を詰めようとしてる感じがあるな?


「しかしジャバウォック、お主のそれ、何とかならんのか?」

「良いだろ?明るいんだし」

今の俺様はデコトラ鎧全身の電飾を光らせて歩いている。鉱山の中なので基本暗いのだ。魔石灯はあるにしても限界というものはあるからな。おかげで誰も近くに寄って来ないぜ、団長すらも、寂しい。


「それで、その文字が書かれていた板ってどこにあるの?」

「ああ、すぐそこの通路の奥だ」

「あ、そう。ジャバウォック。こっち来てー」

リアが俺様を呼ぶけど、何か珍しいな。

「おう、何だ?」

「私達以外に、すたんぼるとー」

「へ?」


俺様はリアの命令には基本的には逆らえないので、団長以下の技術団の面々や、果ては立ち会っていた鉱山の人まで全員失神させてしまった。

「リアさんんんんんん!?何をさせますのん!?」

「え?だって邪魔じゃない。さ、奥に行こ?」

「相変わらずこういう事には容赦無いのお主……」

はい、レイハはおろかみんなドン引きですよ。


次回、第94話「悪役令嬢 再会ス」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る