第61話「悪役令嬢ト教会都市」
「それでは、行ってまいります」
「うむ、頼むから今回は騒動を起こすんじゃないぞ」
俺様達は『教会』への出発にあたってギルドマスターへ挨拶に来ていた。
そう思うなら派遣しなきゃ良いだろうにと思わなくもないが、
ギルドマスターいわく、「あっちが余計な事をして騒動になるならそれはそれでかまわん」との事だった。
どうも教会には色々と思う所があるらしい。
「あ!お嬢!今からクソ教会への出立ですか?お疲れ様です!」
「旅のご無事を!お嬢!」
「メイドの姐さんもどうかご無事で!大丈夫だとは思いますが!」
「お嬢!」
「姐さん!」
いつの間にやらリアはお嬢とか呼ばれていた。まぁお嬢様なんだろうが、こないだのダンジョンの件で色々と実力を認められたという事なのだろう。
良いんだろうかこれ、貴族のお嬢様というよりヤ〇ザのお嬢扱いな気もする……。悪役令嬢だの極悪令嬢だのからは多少マシになった……のか?
ついでにケイトさんも昨日の宴で大暴れしてから「姐さん」という事になったらしい。
そんな声に見送られながら俺様達は出発した。
「リア様、お茶をどうぞ」
「あ、ありがとうケイト。あの、大丈夫?」
「もちろんでございます。私はいついかなる時でもリア様のメイドとして万全でございますゆえ」
そう行ってケイトさんは走るデコトラの中で優雅にお茶の用意をしてくれる。
実際、ケイトさんの顔色は全く普段と変わっていなかった。昨日の宴会では何人もと飲み比べで勝利し、その後の腕相撲大会でも無双するという大暴れをしたというのに、
今日は全く顔色も二日酔いの様子も見せずにてきぱきと仕事をしている。
俺様達は『教会』へと向かっていた。
それにしてもリア・俺様・ケイトさん・ルクレツィア・フォルトゥナと結構な大所帯になってしまっているなぁ。まぁとはいえ半ば女子会的なノリで雑談しながらの旅だ。
ちなみに俺様も気分の問題なのでデコトライガーの姿で運転席にいる。
ルクレツィアは多少眉をひそめただけだが、前世では機械生命体とか知らないらしいフォルトゥナは特に何の反応も無かった、悲しい。
「ザルの酒飲みというより、もはや枠じゃな、溜まる桶すらついておらぬようだ。八岐大蛇と飲み比べても勝つかも知れんのぉ」
「私は参加できなかったですが、そんなに凄かったのですか?私にはごく普通にしてるようにしか見えないのですが」
「んー?でもあーしには、ちょっとだけ肝臓に負担がかかってるように見えるんですけど―?治癒させとこか?」
呆れるレイハにルクレツィアが不思議そうに尋ねるが、知らない方が良い事ってあるからね……。
それでもさすがに体調に影響はあったようで、猫の状態のフォルトゥナに治癒魔法をかけてもらっていた。
とはいえケイトさんのお腹に淡く光る猫パンチをたしたしと押し当てているものなので、傍目には可愛い事この上ない。
こらリア!羨ましそうな顔をするんじゃありません!
「お願いいたします、さすがに昨日は少々羽目を外し過ぎました。私とした事が」
「あれだけ羽目を外しておいてそれで済む方が怖いわ、リアのメイドだけあるのこやつも」
レイハは呆れているように、本当にケイトさん何者なんだろう……。
「そもそも今向かっている『教会都市』というのは何なの?大きな教会があるわけじゃないのよね?」
リアは屋敷で閉じこもって勉強漬けの生活だったからか今まで教会に行った事も無いらしい。
キリスト教でいう聖書にあたる聖典は読んだ事はあるが教養の一環といった感じだそうだ。
なのでそういう事をルクレツィアに告げると、「嘆かわしい事です、教会へ行くことすら許されなかったとは」と前置きしつつ教えてくれた。
「皆、『教会』と言ってしまうのは、光翼教の総本部であるために都市全体が巨大な教会そのものなのです。
都市全体が光翼教の為に存在しており、民もまた教会の為に存在しております。そこには民家や教会といった隔たりはありません」
前世で言うバチカン市国っていうやつみたいなものかな……。どうもピンと来ないが、宗教都市みたいなもんか?街全体が教会というのは想像がつかないが、まぁ行けばわかるのだろう。
「ところでジャバウォック様、少々お聞きしたい事があるのですが」
「な、なんだよあらたまって」
皆が会話する中、物静かに話を聞いていたルクレツィアが突然俺様に話しかけてきた。
「フォルトゥナにも聞いた事があるのですが、ジャバウォック様は前世の知識をどれほど持っていらっしゃいますか?特に技術や医学的な事ですが」
「前世の技術?いや全然知らん。そもそも俺様はただの荷物を運ぶだけの存在だったからな。オーナー……、つまり主を通して知識を得る事はあっても、詳しい事は何も知らないと言っていいし」
「やはり、その辺はフォルトゥナと全く同じですね、概念等で漠然とした知識はあっても、詳細を知らないのでこの世界に対する影響は限定的と。
むしろデコトラはその能力そのものが世界に強い影響を与えてしまいますね」
俺様巡航ミサイルとか撃っちゃったもんなぁ、あんなもんをばこばこ撃ってたら世界が変わってしまう。
【ご案内します。繰り返しますが巡航ミサイルは多大なDPを消費いたします。はっきり言ってダンジョン封鎖依頼で取得したDPの大半を消費しました】
「え!?あんだけの魔物を討伐したのに!?そういや、スキルウィンドウでどうもDPの値が少ないなぁ、後でくれるのかと思ってたら……」
「それに関してはむしろ【ガイドさん】に感謝すべきじゃぞ。九頭竜はそのじゅんこうみさいるとやらでも殺す事ができなかった。DPをケチってちくちくと攻撃していたのではそれこそどうなっていたか」
「【ガイドさん】すごーい」
【ご案内します。評価してくださりありがとうございます。単純な資金であれば、ダンジョン攻略の時に入手した素材を売却すれば相応に手に入るかと思われます】
レイハとリアの称賛に【ガイドさん】の声もどこかドヤ顔っぽいな。そういえば色々あり過ぎて素材の売却忘れてたよ。
「むー、やっぱり、じゃばっちズルくない?あーしもそういう色々と教えてくれる人欲しいんですけどー!(⑉・̆н・̆⑉)ھ」
「いや、そう言われてもな……」
「そもそもじゃばっちって、どんな感じでこっちに来たん?( * '-' )ノ")`-' )ムニムニ…」
「俺様は、まぁ何と言うか前世の事故の後、どうも取り違えが起こったらしくて俺様の方が転生させられてきて、気づいたらリアの部屋に出てきてしまったんだ。
で、あの神が『令嬢と共に使命を果たせ』とか言ってたからリアといっしょにいるんだけどな」
「へー、なんかあーしとは全然違くない?あーしの場合は、気づいたら教会で祈りを捧げてるレティの所に出ちゃってさー、最初は天使かいや悪魔の使いだとかでマヂ大変だったんですけどー(இ௰இ。)」
その辺はちょっと聞いた事があるけど、かなりの大騒ぎだったみたいだなぁ。教会にトラックが突然現れたらそうもなるか。
「あの時は教会は壊れるわ、人は怪我するわで大騒ぎでしたわ。そうしたら、突然あの子が『あーしが治す!』と言って人々の傷を癒やしたり、破壊された教会を元に戻したものですから、今度は奇跡だと大騒ぎになって」
「いやー、あの時はマヂ焦ったwww。あわあわしてたら、意味不だけど運転席にスキルウィンドウが開いて、よくわかんないから『治癒』とか『修復』とかいうのでポイント全部ぶっ込んだの(๑˃̵ᴗ˂̵)و」
「そうしたら、今度はこの子が突然動きを止めてしまって、結局、時間が経つと目覚めたのですが」
保有してるDPを使い果たして休眠状態にでもなったんだろうか、この子の場合、魔獣を狩ったりとかとは別にDPを取得できるらしい。
「そゆことね。あーしは何か知らんけど、信者の皆さんから感謝されたらDPってのが貯まるみたい、でもなー、少ないんだよなー ( ˙꒳˙ )スンッ」
「フォルトゥナ、感謝の心から得たものなのです、少ないだのと文句を言うものではありませんよ」
「だからレティはおカタ過ぎー\("▔□▔)/.•゜」
まぁなんやかんやで俺様達は目的の『教会』と呼ばれる都市に到着した、が、聞くと見るとでは全然違った、近くの高台から見るとマジで都市全体が教会だとしか言えなかった。
「きょ、教会しか無い……街?」
「教会ってこんなに要るの?1つで良くない?」
俺様もリアも驚くしかなかった、都市はいびつな円形状の形をしており、中心に存在する大教会と呼ばれる、巨大な尖塔がいくつも立ち並ぶ城のような巨大な教会を囲むようにして建物や家が立ち並んでいた。
が、建物というだけならまだしも、その建物や家の全てが教会にしか見えないのだ。一般の民家ですら教会そのものの作りになっており、この街には教会しか無いのかと思わせるほどだ。
「ですから、この街は全てが光翼教の為に存在するのです。皆日々の生活の中で教会にに祈りをささげているのです」
「……まぁそれも一つの宗教のあり方じゃろうな」
レイハが色々思う所はあるようだが、一応の理解を示した。そういえばレイハって巫女か何かをやってるんだっけ、遠く離れた異国の地でも自分が祀る神々を呼び出せるのだから相当なものなんじゃないだろうか。
「で、えっと、俺様達はどこへ向かえばいいわけ?」
「大教会です、この街の中心に向かって下さい」
えー、大丈夫か?俺様達何かのトラブルに巻き込まれたりしないよね?
次回、第62話「悪役令嬢ト 教会都市ノ静寂」
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