第60話「悪役令嬢ト宴」


俺様達がギルドマスターの部屋から降りてくると、噂でも聞きつけたのかフェルとマクシミリアンが待ち構えていた。

「おいリア!無事だったのか!?」

「フェルド……、見ればわかるでしょう。他者を転移させる事ができたのだから、もしかしたら自分をもと思ってはいましたが」

そういやこの2人、ダンジョンから外へ逃がしてそれっきりだっけな。リアの安否を気遣ってくれていたのか。

ギルド1階には他にも冒険者たちがそこそこ集まっていた。


「あーリア、えっと、何が何だかよくわからねーが、ダンジョンでは、助けてくれたんだよな?」

「えーと、一応……?」

さすがのリアもこの空気は読む。

素直にハイと言えないんだよなぁ、何しろ衝突治癒はデコトラで相手を撥ねる必要があるので、皆をダンジョン内で追いかけ回したわけだし。

お互いに微妙な空気が流れる、そしてそれは周辺で見ていた他の冒険者達もだ。


「そう、か。助けてくれて?ありが、とう」

「いえ、どういたしまし、て」

握手でも求めているのか差し出してきたフェルドの手をリアも握り返す。

しかし歯切れが悪い、どうにも歯切れが悪い。助けたにしても絵面とか行動が最悪すぎるんだものあのスキル。本当にどうにかならないのだろうかデコトラのスキルって。


それを見た周囲の冒険者たちからもお礼の言葉が上がってくる。

「まぁ、何にしても助かった。あのままだと閉じ込められて全滅だった、からな?」

「転移させられた時、死ぬほど痛かったが、まぁ生きてるから何も、文句は言えんよな」

「極悪令嬢だの何だの言ってすまなかった。命拾い、した?」

ぱちはちぱちと空々しい拍手が起こる中、リアは冒険者代表のフェルドと握手をしていた。めでたしめでたしという事にしておこう。



「えっと、それではリーリア様、この度の依頼の報酬をお支払いしますので、こちらに来ていただけますか?」

受付のシンシアさんが丸く収まったのを察したのか受付に来るようリアに促してきた。そういやこれ依頼だったっけな。

結構な数の冒険者が参加してたけど、みーんな転移させてしまって実質リアとレイハで完了させたようなもんではある。もしかして報酬って2人で総取り?

俺様達が受付に行くとシンシアさんが報酬らしき袋を用意してくれたけど、ちょっと多くない?何袋あるんだよあれ。


「それでは、えーと、リーリア様、報酬をお支払いさせていただきます。ちょっと多いのですが……」

「その事なんだけど、逃がす為とはいえ皆にひどい事しちゃった気がするし、報酬はあの時の参加者で山分けにしない?」

リアさん、気がする、なんだ……。とはいえ報酬の扱いにはギルド側も扱いに困っていたようで、シンシアさんの表情が明るくなる。

「良いのですか?正直申しますと、ダンジョンバーストを未然に防いだという事で国からも報奨金が出ているので、

 リーリア様とレイハ様2人だけでは少々金額が大きすぎてギルドとしても困っていたんです。

 九頭ナインヘッドヒュドラゴンの討伐まで含んでおりますし」

「ちなみにいくらなの?」

「金貨にしますと100枚程になりますよ? 本来数十人にお支払いする予定でしたので」

「いい、九頭竜の所以外はみんなで山分けして」


【ご案内します。貨幣価値で換算すると2000万円程になりますね。余計な反発を受けない為にも賢明な行為です】

金額えぐっ!ダンジョンを封印するっていうくらいだから、元々大掛かりな依頼とはいえ凄い事になるな。

こんな金額を独り占めしたらどんな事言われるかわからんな、レイハも隣で特に不満そうな顔はしていないし問題無いだろう。

しかし九頭竜の名前が出た所で周囲の冒険者達からどよめきの声が上がる。


「おいシンシア、九頭竜討伐って、どういう事だよ」

「ダンジョンコアに残っていた記録から判明いたしました。ダンジョンコアは最終的に溜め込んだ魔力全てを使って魔物を召喚しており、それが九頭竜でしたのでその討伐分も含まれています」

「マジか……、よく生きて帰ってこれたなお前ら」

まぁ実際やばかった。それどころか闇の魔力の影響を受けていたのか通常よりも強い個体だったみたいだし。

そこまでの事情は知らされてはいなくても、九頭竜を討伐したという事で冒険者達がリアを見る目が少し変わった。


「それでは、リーリア様の取り分は金貨にして10枚になります、こちらは九頭竜討伐を含んでの金額になります」

「そう、じゃぁ生きて帰ってこれたお祝いも含めて、これの半分使うから皆で食べて飲んでよ」

リアの言葉で冒険者達から最大級のどよめきと喜びの声が上がる。

金額にして100万円をぽーんと奢るというようなもんだからな。貴族のお嬢様育ちだからというだけあって、リアはお金に対する執着が薄いようだ。

とはいえ、隣のレイハも肩をすくめるだけみたいだし、似たものなのか?


そこからの冒険者たちの喜びっぷりは物凄かった。この場に来ていなかったパーティ達を呼び寄せ、皆の合意の元でこの場で打ち上げパーティみたいなものの準備が始まってしまった。

聞いてみると、元々冒険者ギルドの1階フロアでは大規模な依頼が終わった後には、このような形で宴が催されたりするそうだ。

周辺の店から料理や酒が持ち込まれ、どこからか大量の机や椅子が持ち込まれてセッティングされるまでまぁ早い早い。

こういう時にタダ酒が飲めるというのはやはりテンションが上がるようだ。

「まったく、お前ら、こういう時は一致団結するんだな……」

1階の騒ぎに何事だとギルドマスターまで執務室から降りてきて呆れ返っている。



かくて、冒険者達が一同に会して宴が始まった。というか既に乾杯の合図してないのに飲んでて出来上がってる奴もいるな。

「えー、それでは本日はリーリア様からの心づくしで依頼料と報奨金は皆で、山分け!となっております! さらにはこの宴はリーリア様の奢りですので、心配せず飲み食いして下さい!」

司会役のシンシアさんの言葉で冒険者達から歓声が上がる。その声はリアとレイハにもかけられていた。

「それでは、報酬の分配に移ります。無くしても再度お支払いはしませんので注意して下さいね。それでは、ギルドマスターお願いします」


「あー、この度の依頼では、見通しの甘さの為に皆に余計な危険を冒させてしまい、誠に申し訳なかった。

 あの一件では現地で分析を行っていた宮廷魔術団からも謝罪が来ている。

 また、そのような事態にも関わらずダンジョンバーストを未然に防いだという事で、リヒトシュテルン冒険者ギルドは高く評価されて国から報奨金も出たというのが今回の経緯だ。

 まぁ実態と少々異なるが、もらえるものはもらっておこう」

ギルドマスターの言葉に、冒険者達は半分笑い、半分苦笑いだった。

実際、内容としてはリアの運転するデコトラに追い回されて撥ねられた。というもんだからなぁ、金さえ貰えれば文句は無いという声も多いだろうが、そうでないものもいる。

ギルドマスターはその辺の所も気を遣って軽い冗談で流してた。


「今回の最大の功労者はリーリアとレイハという事になるのだが、自ら報奨金含め山分けを申し出てくれた事を感謝する。

 一応この宴にかかる費用はギルドからも少々色を付けてあるから、渡る金はそれ相応の金額になるはずだ。

 それでは、近場のパーティリーダーから報酬を受け取りに来てくれ」


ギルドマスターがそう言うと、報酬の受け取りに各パーティのリーダーが前に出てきて受け取っていく。

最後の大トリとばかりにリアが出てきた時は拍手が沸き起こっていた。それを合図に宴は始まった。

ちなみに、聖女のルクレツィアは一応聖職者なのでこういう所に来るわけにはいかないとの事で欠席だ。

代わりと言っては何だがメイドのケイトさんが来てる。なんだか凄い久しぶりな気がするなぁ。


「おうリーリア!とりあえずお前のおかげで助かった!まぁ飲め!」

「お待ち下さい、リア様はまだ年齢的に飲酒をさせるわけには参りません」

「あー?なんだと?ならメイドのねーちゃん、お前が呑むか?」

「いただきましょう」

あ、あら? ケイトさん!? リアに差し出されたエール酒のジョッキを受け取り、グイッと一気に呑んでしまった。

「おお! 良い呑みっぷりじゃなメイドの嬢ちゃん! 儂とも呑むか!」

「いただきましょう」

おい、今度はドワーフの戦士が来たぞ、ドワーフって酒豪じゃなかったっけ?

だがケイトさんはまだまだ余裕そうだ、飲み比べが始まったぞ……。


「け、ケイト? 大丈夫なの?」

「何の問題もありませんよ?どうかされましたか?」

いやリアも心配する通りこちらの言葉なんですが、ケイトさんは既にでっかいジョッキを2つも空けている。

が、クール美人といった感じの表情には一切の乱れも無い。

「ほっほぉ……、なかなかやるようだの」

相手のドワーフの闘争心に火が付いたようだ。ジョッキがどんどん運ばれていく、大丈夫なのかこれ。


「はっはっはっはっはっは! 大した事ありませんねぇ、次は誰ですかぁ?」

「け、けいとぉ~? あの、ね?」

「いえいえいえ私は何の問題もありませんよ? 私は貴女のメイドとしての実力を皆に見せているだけです」

「でもぉ~」

「諦めいリア、この手のはもうこうなったら手が付けられんぞ」

レイハに止められているリアが心配するのも無理はない。今のケイトさんは冒険者達を相手に腕相撲大会をおっぱじめていた。

既に10人抜きで、中には腕をへし折られて床でのたうち回って治癒魔法をかけられている者もいる。

ねぇあの人メイドさんだよね? ただのメイドさんだよね? 何なのこの腕っぷし、実は物凄く強いとか無いよね?


「何者だよあのメイドマジで! 負けたあいつ、このパーティーでも最強だぞ!?」

「つーか、あんなのを従えてるあの極悪…いやお嬢はマジで何なんだよ。あいつ以上に強いってのか?」

「九頭竜を討伐したそうだしなぁ。あのメイドは街で待機してたのはみんな言ってる」

「やべぇ……、もう俺ちょっかい出さないようにするわ」


腕相撲大会はしばらく続いて、最終的にはケイトさんが圧勝していた。

周辺はそれでも大盛りあがりで、ついでにリアに対する評価も良くなったようだが、良いのかなぁ、これ。


次回、第61話「悪役令嬢ト教会都市」

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