第59話「聖女、ギルドマスタート交渉ス」


「お初にお目にかかる、儂がギルドマスターのゲオルグだ。巷で話題に登っておられる『聖女』様ですな?」

「ご丁寧に痛み入ります。私の名はルクレツィアと申します。教会からはそのように呼ばれておりますね」


俺様達がギルドに帰着してギルドマスターに面会を申し込むと即、執務室に通された。

ギルドマスターって暇なのかと思ったが受付のシンシアさんいわく普通は数日待たされるとか、今回は聖女が会いに来たというのが大きかったんだろう。


「今回、原因は不明だがダンジョンコアが何かよからぬ事になっていたとか。さらにはダンジョンバースト阻止に協力いただき感謝いたします」

「いえ、例には及びません。私は最後の一押しをしただけですので、実質的な討伐や解決はこの方々の成果だという事になりますので」

「それは聞いたが、……しかしお前ら、毎度毎度大騒ぎになるのはどういう事だよ」

ギルドマスターには俺様達から今回の事の顛末を説明したが、毎度の事ながら良い顔はしなかった。

ごまかそうにも俺様達は封印されたダンジョンの中にいたはずがいつの間にか出てきた上、何故か聖女を連れて帰ってきたしな。

ダンジョンでも中に閉じ込められていた他の冒険者達をデコトラで撥ねて転移させたし、

迷宮の外にダンジョンコアを転移させて闇の魔力で強化された九頭竜が出てきたので巡航ミサイルを打ち込んだけど、あれ絶対近隣の方々に爆発見えてたよなぁ。

……たしかに色々とやらかしてはいる気がする。俺様達は最善を尽くしただけなのに、まぁ手段を行使する過程に問題が無かったとは言わんが。


「俺様に言われても困るんだけど……」

「いえ、今回はむしろリーリア様達に助けられたと言って良いでしょう。それに闇の魔力が仕込まれていたのはあのダンジョンだとは限りません。

他にも多数のダンジョン等が同様に汚染されている可能性があるのです」

幸いにもルクレツィアは俺様達のフォローをしてくれた。とはいえ他のダンジョンでもああなってる可能性があるのか、できればもう出くわしたくないなぁ。


「おいおい聖女殿、闇の魔力なんて初めて聞いたが?いったい何だそれは」

「あまり詳しくは話せないのですが、この世の理の外にある力、とだけ申し上げておきます。『魔界』と言えばわかりますか?」

「おいそれは」

ギルドマスターの顔色が変わった、やはりこの世界の一部の人にとって『魔界』や『大襲来』はただ事ではないらしい。


「いえそれはまだ不明です、現状はとても小さな動きでしかありません、今のままでも多少厄介なダンジョンバーストが何度か起こるくらいでしょう」

「十分すぎるくらい大事だぞそれは」

「それで済むなら良いくらいなのですよ。私が把握しているのは、何者かが闇の魔力を手に入れ、この大陸を西へ西へと悪さをして回っている、というくらいですね。

 元々私の暮らしていた教会の周辺で最初にそれを発見して以降、足跡を辿ると東からやってきて西へと動いているようですが」

「東からやってきた、と?」

聖女様のお言葉に皆がレイハを見る、東と言えばレイハの故郷ヒノモト国だからな。

「すまぬが、ウチの口からはまだなんとも言えん。こちらにもメンツというものがあるのでな」

レイハはギルドマスターの無言の圧力をさらりと受け流した、ギルドマスターの方も軽くため息をついた程度でそれ以上は追及しなかった。



「で、ダンジョンコアを破壊するのではなく、浄化して下さるという事でよろしいか?」

ギルドマスターはレイハをこれ以上追求しても意味がないと判断したのか、ルクレツィアに今後の話を振ってきた。

「あの地にダンジョンコアがあるのは何か意味がある事なのでしょう、下手に破壊しない方が良いとの判断です」

「ふむ、それは領主の方にも伝えておこう、元々封印しようとしていたものだ、文句も言うまいさ。

で、本題に入ろう、ダンジョンコアについての申し送りだけでわざわざギルドにまで来たわけではあるまい?何が目的だ?」

「話が早くて助かります。結論から先に申しますと、ジャバウォック様を教会預かりにしていただけませんか?」

「はぁ!?」

「え?」

聖女の言葉に俺様もリアも驚いた。何故俺様達が!?



「おい、教会は既にデコトラを一頭確保しているんだろう? 二頭目も、ってのは少々強欲すぎないか?」

おいギルマス、動物みたいに頭で数えるな。

「いえ私も職務上言ってみただけです。ですが今後の事を思うと、一度光翼教会に来ていただき、無害な存在と認定してもらった方が良いのではないかと思うのです」

ギルドマスターもルクレツィアも俺様を見てくる。特にギルマス、そんな怖い顔で見なくてもいいだろう、俺様悪いデコトラじゃないよ?

「……教会が神敵とでも認定して、討伐対象になっても困るわなぁ、こいつら無自覚とはいえ力が有りすぎる」

「はい、私もその戦闘力の一旦を見ましたが、この世界の軍事力の均衡を崩しかねません、いずれ権力者達も知る事となるでしょう。単に冒険者ギルドに所属しているというだけでは逃げ切れるかどうか」

「その戦闘力というのは、それほどか?」

「闇の魔力で強化されていた九頭ナインヘッドヒュドラゴンを、一撃で半死半生にまで追い詰める攻撃を放った、と言ったら理解していただけますか?」

「……お前ら、九頭竜と戦って生き残ってきたのか。素材は手に入らなかったのか?」

ややこしくなると思ってダンジョンコアが呼び出した魔物の種類までは言わなかったのだが、どうも九頭竜は素材として相当な価値があるようだ。

「聞くことはそれかよ。魔石は砕いたし、なんか知らんが黒い霧みたいになって消えてしまって何も残らなかったよ」

「もったいない事をしたな、ひと財産できただろうに、いや、即座に消えたからそうもいかないのか。

さっきの話から行くと、ダンジョンコアの中に溜まっていた闇の魔力に汚染された魔力から生成されると普通とは異なる末路なのか……?」


「ギルドマスター様は先ほど『教会は既にデコトラを確保している』と言われましたが、この子はたまたまとはいえ、持っている能力は治癒・浄化といった能力のみなのです。

 戦闘力に関してはそれほどでもないのですよ。ですが、逆にジャバウォック様はあまりにも戦闘力に偏り過ぎています。何も知らない教会にとっては脅威としか映らないでしょう。

 ですから一度教会に人となりを知ってもらっておいた方が良いのではないかという事なのです」

「だが、教会はジャバウォックをも手に入れようとする、という事にはならんのか?最強の剣と最強の盾が揃うようなものだぞそれは」

「おっしゃる通りですが、その時はその行為そのものが、世界中から批判・非難されるかと思われます。だからこそ、この場合はリーリア様の存在が重要になってくるのです」

「え?私?」

それまで黙って聞いていたリアがいきなり名前を呼ばれてきょとんとした。自分はもう無関係と思ってお茶飲んでて完全に油断してたからな。


「はい、フォルトゥナもですが、デコトラ達は自由意志こそあれど、基本的には主の命令に逆らう事はできません。

 リーリア様が教会からの申し出を断れば教会もそれ以上の手出しはできないでしょう。

 あとは、そうですね、リーリア様がどこかの貴族の令嬢だという事を示せればより効果的なのですが……」

「ずまんが、この子も色々とわけありでな。今回の所はこのままの姿で会わせる事で、暗にどこかの国を敵に回すぞという事で頼む」

「テネブラエを敵に回すと聞いても教会は何とも思わないでしょうが、まぁとりあえずはそれで何とかなるでしょう。」

この子にもというか、教会にまでリアの正体がバレてるのかよ。ますます目立ない方が良い気がしてきたぜ。


「というわけでだ、リア、次の依頼は聖女様を教会まで送り届けてくれ、ついでに書状をしたためるからそれを渡して面接を受けてきてくれ」


次回、第60話「悪役令嬢ト宴」

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