第2話 亜人へ

光が消えて、目が開けるようになった俺達は…バスの外を見て、驚きを隠せなかった…

どう考えても、見たことの無い木の植物が生え、日本じゃあ中々お目にかかれないぐらいに青色に澄んだ川が流れていた…


あの神と名乗った得体の知れない馬鹿が言うとおり、俺達は異世界へと飛ばされたのだろう…


「あいたたた…急に止まったからきつかったよ…うわぁ!?」


いきなり小早川が悲鳴を上げて、俺の姿に指差して驚いていた。


「き、錦治っち!なんだよ!?その緑色した体は!?」

「何言って…っ!?」


小早川の指摘どおり、俺の手を見た瞬間に驚いていた…

俺の手が…ゴリラ並みにでかくなり、更には肌の色が緑になっていた。

だが、その瞬間に俺は冷静に判断し、諦めた態度で溜息した。


「…なるほど、これがあの神と名乗った馬鹿の仕業か…直子」

「な、何よ?」

「お前、自分の手足を見てみろ」


俺の指摘通りに、小早川も自分の手足を見て…泣き出していた。


「なんだよ…なんだよコレ!!」

「あの神って奴の悪戯だろう…俺達は、よくあるファンタジーに出てくる。緑色の怪物にされた。顔以外は」

「ひ、酷いよ…あんまりだよ…!!」


何時もは捻くれながらも明るい小早川も、流石にコレばかりは堪えたのか…女の子座りをして泣き崩れてしまった…

そんな小早川…いや、直子の頭を俺は優しく撫でてやった。


「あっ…」

「泣くなよ…お前が泣いていたら、俺まで泣きたくなる…」

「うっ…うっ…」

「よしよし…他の皆は、どうしたものか…」


未だ気絶してる、小川…冴子、奥村…加奈子、土呂口…美恵の三人であったが、あと一人の雑賀…良子の姿が見当たらなかった。


「あれ?良子はどうしたのだ?」

「良子っち?あっ、そっちの座席に」


直子の指摘した席で、緑肌をした良子の姿があったが…

本人はずっとすすり泣いていた。


「良子…?おい、良子」

「来ないで!錦治君、来ないでぇ…」


その隙間から、良子の顔が見えたが…

あの凛々しい良子の目が、単眼に変えられていたのだ…

そういえば、あの馬鹿…良子をサイクロプスと言ってたな…


「直子、ここは任せてくれ…」

「あ、うん…錦治っち…頼んだよ」


流石に空気を読んだのか、直子は下がって他の三人が起きるの待っていた。

そして、俺は…


「良子…」

「錦治君…私、化け物になっちゃった…」

「良子!!」


単眼の瞳で泣き続ける良子を、俺は良子を引き寄せて抱きしめ、優しく頭を撫でてやった…


「馬鹿やろう…何勝手に一人で化け物なんて言ってるんだよ…」

「だ、だって…こんな一つ目のお化けなんて…気持ち悪いでしょ!」

「気持ち悪くなんか無い!どんな目をしていても、良子は良子だろ?なら、何時までも同じでいいじゃないか…だから、泣くなよ…もし、お前を化け物と呼ぶ奴が居たら、俺がそいつをボコボコにしてやる。だからさ…今は落ち着いてくれ…」

「うん…!うん…!!」


俺は、未だ泣き続ける良子であったが、俺の答えに応じるかのようにギューっと抱きしめ続けながら俺の胸で泣き続けていた。

その良子の姿を、俺は大きな手で優しく撫でてやった。






「というわけだ」

「なるほど…私らはよく冒険物の映画に出てくる怪物になったわけか」


あの後、泣き終わった良子と共に、目が覚めて驚いていた混乱していた他の三人に宥めて、後の二人の合わせて六人で輪を作り、話し合いを始めた。

なお、良子に関して単眼と呼ぶことは俺が禁じたが…

良子を除いた四人全員は暗黙の了解にした。

皆、それぞれのコンプレックスの要素を持った亜人怪物になったからな。


んで、俺と加奈子で皆に分かりやすく、よくファンタジーに出てくる、怪物の種族を説明していった。


まず、冴子。

頭には立派な角、そして前以上に身長が伸びて、下顎の八重歯が鋭くなった事を推測して…ファンタジーの中でも一位二位を争う鬼、大鬼のオーガとなった。


あまりファンタジー物を見ない冴子に分かりやすく説明するに、日本で言うなら赤鬼や青鬼の欧米版といってやったら納得してはいたが…こちらのオーガは赤鬼等と日本の鬼とは違い、とにかく凶暴な種族で、何かしらと暴れている風潮があり、自慢の怪力で何でも破壊してしまうほどの力を持っているとの事。

ただ、本人は「実感が湧かないな…しいて言うなら、身長伸びたと同時に、おっぱいがでかくなって肩こりが酷く感じる」というぐらいだ。

…ある意味、オーガらしく物事考えない性格だから助かる。


次に、加奈子。

ぽっちゃり体型を更にぽっちゃりになりながらも、筋力が付き、巨乳から爆乳と呼ぶぐらいに大きくなった胸を見るに、おそらくは中型の鬼、オークとなった。

ただ、加奈子自身がオーク=豚怪人というのを思い出して落ち込んでいたが…あれは日本人の勘違いイメージだと説明してやったら、多少は気を取り戻していた。

基本的に、オークとオーガは見た目以外は余り大差はなく、しいて言うならば雌の種族が少ないと言う事に説明すると、「じゃあ…珍しいのですね?」とモジモジと返して来たのを見ていた。

…なんていうか、余り変化無いな。

ただ、本人は元から体力が無かったので、体力と怪力が手に入れたことに喜んではいた。


次に直子。

こちらは完全にゴブリン。

今ではファンタジーの中で欠かせない小型の鬼で雑魚として出てくる事が多いイメージがあるため、割りかしらと知ってる直子にとって、落ち込む要素であったが、手先が器用かつ商い等の交渉に優れた種族と説明したら割とあっけらかんになって納得し受け入れていた。

というより、元から計算深い直子からすれば、問題は無いらしい。

むしろ、ゴブリンになって幼児体型だった寸道体型から、体型差による巨乳を手に入れたことに歓喜を上げて他の四人見せていた方が、俺としては複雑であった。


次に、美恵。

元々寡黙で根暗なイメージとは違って、俺と同じく手足が若干肥大し、背もでかくなった大地を愛する巨人、トロールに。

最初はトロールと聞いて、映画をよく見る冴子と直子もピンと来なかったが、元々は大地の妖精が呪いで巨人みたいな怪物と説明したら、納得していた。

その性質上、土に関してはエキスパートで、土の質で作物が育つかを見極め、元が妖精だから再生力もあり、魔法も若干ながら土魔法をも扱えると言ったら「…暇があったら、調べてみよう」とぼそりと呟いていた。


最後に、良子。

正直、俺はこの中で一番凄い種族を引いたのだと思った。

一つ目でありながら、物作りをさせたら何でも出来るほどの才能がある神の末裔の巨人族サイクロプスになっていたのだから。

あの神は嫌がらせで良子をサイクロプスに変えたつもりであったが、こればかりは良子の天職と呼べるに等しい種族であった。

見た目は一つ目で怪力の有る粗暴な亜人種族と思われているが、その器用さはどの亜人怪物の中で勝てる種族は居らず、鍛冶道具と材料があれば、どんな強い武器や防具を生成できるといった特技を持つほどである。

それを聞いた良子は「フフフッ…私をこんな姿に変えた事に後悔する事ね」と呟きながらも、フォローを入れた俺に対しては微笑んでいた。

目はアレながらも、何時もの良子の笑顔に、俺は良子の頭を撫でていた。


して、俺は美恵と同じトロールであるはずが…

何処か違和感があるんだよな…キング?と言う事は、王?


「錦治っちは確か、キングって言ってたよね?」

「トロールの王様?」

「なんというか、王様というよりリーダーだよな」

「…同感」

「言われて見れば、確かにリーダーね」

「そうか?確かに何時も仕切ってはいたが…」

「そこだよ、錦治っち。皆を纏めていた。たぶん、素質があったんだよ」


直子の発言に、大体納得していた。

となると、あとは…どんな能力があるかだ。

俺より詳しい加奈子に聞こうとしたら、ちょっと気まずい顔をされていた。


「あの…錦治君。非常に言いにくいんだけど、良いかな?」

「別に良いよ。むしろ、話さない方がキツイ」

「たぶん、錦治君が一番成長が遅いかも…」

「どういうことだ?」

「前に、ファンタジー物のゲームの中で、魔物を仲間にするゲームで、キングとつく魔物は大半が上級魔物で、強いかわりに凄く成長が遅いの。そして、今の私達は全員レベル1だと思うの。その点でいくなら、たぶん錦治君がレベル1上がるのが、私達より物凄く時間かかると思うの」


…思わぬトラップがあったようだ。

どうやら、俺は美恵よりも上位怪物だったが、成長が遅いらしい。

成長が遅いと言う事は、育ちにくい、つまりお荷物になりやすい。


「あちゃあ…それは困ったな」

「錦治っち…ファイト」

「…大丈夫」

「私達が、その分守ってあげるから…!!」

「えっ、えーっと…頑張っていこう」


幸先の悪いスタートだ。

まぁ、全員こんな下級の緑色の怪物モンスターになったんだ。

ならば、こんな怪物に変えた神や他のクラスに下克上してやろうじゃないか。



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