第35話 ”乱の時”と創生魔法とは
アレから二日ぐらい経過…
再びドワーフ達の城塞町に戻った俺と旅団は、物資を補給しながら次の段階へと進ませていた。
一度、王都への襲撃を試みると。
無論、今回の作戦は総攻撃の本作戦ではない。
あくまでも敵情視察での襲撃作戦だ。
現状を知れば、大体の動きが把握できる。
そのためにも、物資の補給…それも火薬類の補給が最重要であった。
いくら美恵を含むうちの旅団の錬金術師達では、火薬の生成は難しい。
その点で考えるならば、底が付いたら一気に戦力がダウンするだろう。
その為にも、ドワーフの町への数日の滞在が必要だからだ。
それに、今回の「鎮守の森」での事件は…長老を含めドワーフ族全員が怒り心頭状態になっていた。
「俺達ドワーフ族はエルフ族に恨みがあり、何時も仲たがいをしていた…だが!今回ばかりは糞エルフ達に同情するどころか、あの糞餓鬼勇者の一行をぶっ殺す程の怒りが込みあがってくる!!よくも俺達亜人達を愚弄しおって…!!」
「長老…ここは落ち着いてくれ。仇討ちは俺達だけで良いから…」
「いいや!連れて行け!若造!!これは種族間とかの問題じゃねぇ!!もはや、あの男と引き連れてる奴らは人間じゃねぇ!!あいつ等こそが邪悪な存在だ!!糞エルフやダークエルフを薬漬けにして殺すような連中を儂が許さん!!」
「長老!お気持ちは分かりますが!今は準備を練ってください!!このままでの特攻は、他の若者にも影響が出ます!ドワーフを絶滅させる訳には行きません!」
「むぅ…じゃあどうするというのだ?エルフ以外にも、儂らの仲間が殺されてると言うのに…」
「敵の出方が分からない以上、無策での特攻は無謀です。まずは、我らの情報を待ってから、突撃するのが吉です」
「じゃが、主らだけで何になるのだ?たった30人も居らんのに」
長老がそういってきたので、俺は透かさずあの魔法の事を教えた。
「我らには、創生魔法があります」
その言葉に、長老は怒りの顔から驚愕の顔へと転じて俺を凝視していた。
…余ほどの代物だな。この魔法は。
「おめぇら…あの魔法が使えるというのか…!?」
「ええ。現に二人ほど居ます。先日の鉱山坑道内に居た巨人族を一掃したのは、自分の妻の一人が闇の創生魔法を使ったからです。そして…敵側にも、創生を扱う奴も居ます」
その一言に、長老は怒りから我に返って椅子に座り、頭を抱え込んでいた…
「…少し頭を冷やさせてくれ。主らに任せることにする」
「長老…申し訳ない」
「いや、儂とした事がつい熱くなってしまった…まさか、創生魔法の使い手がこうも沢山出現するとは…ついに、乱の予言が来るとは…」
「乱の預言とは…?」
俺がそう言うと、長老は一冊の古びた手帳を取り出し、その中に書かれていた文字を読み上げていった。
「”創生の使い手が増える時、人と魔と亜人の間における乱が起こる。それは、とてつもない争いとなり、やがてはこの大地は滅び、真の大地へと融合するのだろう。融合した後は二つの世界の種族同士で争いが起こり、絶えず滅びへと向かうだろう…”。数十年前の爺様から言葉だ。お主等異世界人が、定期的に入る時に…爺様は代々から伝わるこの言葉を信じ、後世のドワーフ達に言って来たのじゃ…。主ら二人も創生使い手が居るとあるが、いずれは沢山増える。その時が着たら…」
「長老。俺達はこの魔法を悪用する事はありません」
「分かっている。だからこそ、主らに託したいのじゃ。同じ創生魔法使い手の、あの連中を抑える役目を持つ主らに」
その言葉に、俺は長老の目を見ながら答えていった。
「分かりました。ならば、俺達は守りましょう…同じ亜人として」
「うむ…少し疲れた…儂は早々に休もう。後は使いの者に任せる」
「ええ。約束の時までは、ゆっくりと…」
そういって、俺は長老の屋敷を後にした…
あの後、長老の家を後にした俺は、直子と共に色々と研究をしていた。
念の為、創生魔法が自由に制御できるかの実験を込めてである。
「という訳で、直子。しっかりと頼む」
「任せて、錦治っち」
そういって、直子は静かに魔力の念を集中させ…風の魔力を練り始めていった。
「”ああ、私は願う。この地に汚す
直子の創生、ラース・ゲイルの魔法が形成され、目標とされた藁人形を包んで纏って行き…風の魔力の中に入った藁人形はズタズタに引き裂かれて、地面に落下していった。
「これが…ナオコの創生魔法とやらか…」
「凄い…ものです」
ギルバートさんとデュミエールの二人は、直子の創生に驚きながら傍観をして見つめていた。
「なんていうか…魔法の師である俺を越えた感じだな…」
「何時かは子は越えるものよ。あなた…」
魔法の師である次郎さんと花子さんの二人も、直子の創生に関心をして見つめ、師を超えた弟子を見る感じでいた。
直幸達学生達や村人達…特にゴブリン側の人達は直子に拍手を送ってはいたが、肝心の直子は何か納得をしていない顔であった。
「おっかしいなぁ…もうちょっと威力があった様な…」
「そう言われると…直子。今、どんな気分で撃ったんだ?」
俺のその言葉に、直子は「ん?」という顔をした後、少し考えてから口を開き、答えていった。
「んーとねぇ…冷静になって一撃で倒したいなぁという形だったかな?」
「そうか…あの時の後藤の向かって放った時の気持ちは?」
「あの時は…余りの怒りに、『こいつだけは絶対に罰したい』という気持ちで一杯になっていたからかな?…あっ!?」
どうやら気付いたようだ。
今回直子が放ったラース・ゲイルが満足しない威力になったのは…怒りの渇望が足りなかったからだ。
「ごめん、錦治っち。やっと気付いたわ」
「そう言うことだ」
二人で納得したような会話をしていると、直幸達が手を上げて答えてきた。
「なぁ。どういう意味なんだ?」
「創生魔法の威力は…はっきりに言えば術者の渇望によって決まってる。それが原因で、直子が今放ったラース・ゲイルの威力が弱まったのは怒りの渇望が足りないからだ。だから、通常魔法みたいな威力に留まったわけだ」
「そうなのか…それでも、かなりの上位クラスの威力だぜ」
「普通の雑魚ならいいが、これが術者同士での戦いとなったら話が変わるだろ。前回の鎮守の森での場合、直子と後藤の相性が、直子の風属性が後藤の土属性の相性差で有利だったのと、直子が後藤への激しい怒りと、後藤自身の罪の重さによる罰せる力が強かったから、ラース・ゲイルの威力が強まったと言える。逆に言うならば、今の直子の冷静状態で、火の熱血野郎みたいな奴が創生魔法を使い手が襲って来たら、今度は直子が不利となるだろう。まぁ、属性の相性云々は専門である次郎さんに聞いた方が早いだろうが…気持ちによっては相性さを埋める事が出来る事があるから、気をつけた方が良い」
「そ、そうなのか…」
未だに納得をしていない直幸であるが、コレばっかりは仕方ない。
あの女…国塚萌の言葉にあった「まだ初期段階」の部分が引っかかって気になるばかりであった。
むしろ、やっと俺達はスタートラインの足を乗せる事が出来たというレベルだと認識させられた、あの言葉が忘れられない。
そんな風にグダグダと考えていたら、直子が顔を覗いてきた。
「錦治っち…私は大丈夫だから…」
「いや、お前だけの事じゃ無いなと思ってな…」
そう言いながら、俺は軽い直子の体を持ち上げて、肩車をしてあげた。
「キャ…!?も、もう…♪」
「長くは無いが…ゆっくりと考えよう」
「そうだね…」
そう言いながら、俺達はドワーフ達の訓練場を清掃した後、後にした。
やっぱり、なんだかんだ言って…使用したらちゃんと清掃せねばな。
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