第36話 ゴブリン:小早川直子

幼稚園のガキの頃から、私の周りは異常だった…


一般的な子供と言えば、一歳までは大体ベビーベッドかベビーカー…

もしくは母親におんぶか抱っこされながら育ち、そこからハイハイやヨチヨチの歩行に入ると思うんだが…


私の家ではそんな甘ったれな環境ではなかった…



三歳までの記憶にあるとすれば…私は殆ど虐待を受けていた。


普通、三歳児になるまではオムツを替えたりするのは当たり前で、替えないと泣くのは当たり前。

むしろ、泣くのが赤ん坊の仕事だと思うんだ。


でも、私は…一日中適当に床に敷いた布団で放置。

しかも、オムツは一日に二、三回しか替えないくらいに酷いものだった。

母親は何をしていたかと言うと…父親からクスリを貰ってトリップの真っ最中。

そして、父親はクスリをばら撒く暴力団の中堅構成員であった。


親父は…所謂最低な男で、女には直ぐに暴力を振るって犯し、よくした女にはクスリを与えて楽しませる典型的な屑男。


母親はそんな女の一人で、男と愛して私を生んだのではなく、ただのやりマンでデキタ時に中絶おろす金が無かったから仕方なく生んだという糞最低思考だ。


早く死んで欲しかったらしく、何時も育児放棄ネグレクトを受け続けていて…

親父よりの下っ端な構成員の人が世話しなければ、間違いなく私は死んでいて、親父達は逮捕されていただろうな…

しかも、それが数年後に発覚する形で…

よく考えてくれたら、その下っ端の人にはお礼を言いたいぐらいだった…

でも、その人はもうこの世には居なかった。

三歳児を過ぎて、第一次思春期が終る六歳前の時に、親父達の暴力団に殴りこみがあって、発砲事件が起きた。

その時にその下っ端の人が死んじゃって…親父達全員逮捕されてしまった。

しかも、母親とかにクスリを売買してることも判明し、母親含め中毒者ジャンキーの女全員逮捕されたとか。

そして、そん時の子どもだった私は、児童養護施設に預けられる事になった。


そこでも、私にとっては不幸でもあった。


下っ端の人が世話をしてくれたとはいえ、禄に飯が食えなかった私は成長が未熟のままで、殆ど背が小さいままであった。

小学生の中でもダントツに低く、況してやガリガリに痩せていた。

それだけならまだマシだった…


あの親父の事を知ってる奴が施設にも沢山居て、親父の逮捕された事を出汁に私を虐めていた。


犯罪者の子どもだとか、ヤク中女のガキとか…

もうね、私からすればそん時は思ったよ。


こいつら何時かブチ殺してやる…


そう思いながら、施設でも学校でもいじめを受け続けていた…

そんなある日…私に光が差してきた。


「お前ら一体何やってるんだ!」


そう怒鳴りながら、何時も虐めていた男のガキ達をデッキブラシでボコボコになるまで殴り、逆にそいつ等を虐め返した男女が居た。


「君、大丈夫か?…酷い状態だ、冴子」

「ああ。錦治は保健室まで連れて行ってくれ」


小川冴子と横山錦治…私が生涯尊敬する二人…姉御と旦那様との出会いだった。




あの後、私は保健室で目を醒まし、二人が見守る中で起き上がった。

そん時の二人は綺麗なものだった。

教師すら避けて見捨てる私を、二人は真直ぐな目で私を見つめながら色々聞いて、私の生い立ち等も全部調べた上で私に接してきた。

無論、ずっと虐められてきた私だから逆に罵ったりして警戒をしていたが…

二人の熱意と守ってくれると言う言葉に、次第に心を開いていき…

私は…二人の友人になることに決意をした…


特に、私を心底心配し、親の力を使って私を施設から引き取ってくれた冴子さんに感謝をする気持ちで、当時の親の関係で、つい姉御と呼んでしまって以降はずっと定着してしまった。


これ以降、私は冴子さんとは呼ばずに姉御と呼ぶ事になったが、冴子さん自体も満更でもなく、私を舎弟として扱ってくれたのは、嬉しかった。

そして、錦治さんもまた、兄貴と呼ぼうとしたが本人からは止めてくれと言われたから、仕方なく当時は錦治さんと呼んではいたが…やはり愛称が言いたかったのかつい錦治っちと呼んで以降は、そっちが親近感があると言われてからは、この名で呼ぶようになったかな。


そんなわけで、小学校の札付き悪二人に私が加わった事で、学校内での不良として名を馳せることになっちゃったけど、それも悪い気がしなかった。


そんな小学校の生活も…直ぐに終ってしまった。


姉御と共に知った、錦治さんの別中学への移動だった。


親の離婚とは神妙深いものであったが…私としてはそんな事よりも別学校で隔離になるのは納得できなかったが。

姉御からも何か出来ないかと聞いたけど、結局は無理だったとか。


そんなわけで、二人になってしまった私達であったが…

それでも中学はなんとか一緒に暮らす事が出来た。


姉御の家に引き取られてからは、使用人っぽい生活をしていたのが、姉御と二人になる時は何時もの友人兼舎弟の関係は続いていた。

というより、姉御の事をお嬢様お嬢様と呼ぶ連中の目は、私は大嫌いだった。

あの母親とそっくりで、媚売ってから恩恵を頂こうする女狐の目とそっくりで…

吐き気を覚えるようなものであった。

その上、同姓同士の使用人前だと互いに罵りあいながら敵味方を作る女の社会に、反吐が出そうだった。

…こいつら全員、一回は中毒者ジャンキーになって捕まってしまえばいいのにと思う。


そんな生活も、姉御の為なら我慢はできた。

そして…その姉御にも、見合いの話を聞いた時は驚いた。


錦治さんの異母兄弟に当たるあの男…西園寺勇助との見合いだ。

それを聞いた時、私は錦治さんの父親を激しく憎んだ。

あの糞親父と同じ女タラシと…

当然、そんな男とエリートの女の間で生まれた優等生だったあの男と見合いになると聞いて私は姉御の元へと向かった…


そん時の姉御の姿は一番綺麗だった。


何時もはボサボサではっちゃけている姉御が、綺麗に化粧をしており…

令嬢らしい綺麗なドレスと宝石を着込んだ姿を見た時は、姉御がとても美しいと思うぐらい素晴らしい姿だった。


だが、同時に…姉御から聞いた医者の話もあって、複雑な気分であった。


生涯、自力で子どもを産む事が出来ない卵巣の障害に持っていた事を…


私はそんな姉御を抱きしめてしまったが…逆に姉御は笑ってくれた。


ちょっと、行って来るわ…と。


その後は、専属使用人として私はだんまりと姉御に付き合っていたが…

あの西園寺の言葉は許せなかった。


”子どもの産めない女なんて、価値の無い女だ”


その瞬間、姉御が暴れて西園寺に掴みかかろうとした時、私はあの男に睨んでいた。

この男、何時か殺してやると…


だけど、当時の私達が居た場所は日本。


当然そんな事をすれば犯罪者だ。


況してや、西園寺の一族という組織の跡取りとなれば、話は変わってくる。

恨み所か社会すら抹消されるだろう。

しかも、犯罪者の子どもである私などからすれば、西園寺の一族からすれば、ゴミのような女だ。


そんな気持ちを抑えながら、私は姉御を押さえながら守っていた…


その後は、姉御が小川家を追い出される形で家を出され、私も解雇されて家を追い出されたが…私は姉御と共に居ることにした。

まだ、恩返しは終っていないからだ…


中学を卒業するまでの間は、姉御の世話は殆ど私がしていた。

炊事、洗濯、掃除などの家庭をする合間、姉御が入学予定としていた高校への受験勉強をしながら、ついでに姉御の教育もしていた。


おかげで、姉御よりも勉学は付いてしまったが、それでもなお良しとしていた。


結果、自力で姉御が居る進学校へと入学する事が出来、金は今まで使用人として溜めていた貯金を全部果す事で達成はしていた。

…ていうか、使用人如きに金使いすぎなんだよ。


そんな感じで姉御と共に入学できたのは良いんだけど…何故か姉御と共にE組へ追いやられていた。

…どうやら、理事関係が私の生い立ちを調べていたらしく、親父が犯罪者だと判明した制裁と、姉後の世話係をしていた経験を踏まえてからの恩情らしい。

全く以って嫌らしい屑だと思ったわ。


そんなわけで、姉御と仲良く底辺の屑をやるつもりであったが…まさか再会をするとは思わなかった。


あの錦治さんとの再会は…本当に嬉しかった。

だけど、当時の錦治さんと比べて…随分と変わってしまった。

以外とその関係に敏感だった私は、つい尋ねてしまった時…後悔してしまった。


あの西園寺の腹違いの弟であり、その西園寺の一族の愚行にぶち切れて暴れた挙句に、D組の奥村加奈子をA組のエリートからの苛めを救う為に、不能になるまでソイツを半殺ししてから、こっちに回されてきたとの事。


その上、父親とかの関連を潰してきたのがばれて、監視対象となったとか…


そん時は泣きながら叩いたよ。

私以上の大馬鹿だと。

だけど、そんな錦治さんは私の頭を撫でながら言ってきた。


”笑え。お前には涙は合わん”


その言葉に、私はこの人に信頼し続けることにした。

この人の為なら、私はなんでもすると…



それ以降、何時もの札付き不良三人となった私達は、例の奥村加奈子も加わり、後の土呂口美恵と雑賀良子も加わって、E組のメンバーの誕生となった。

最初は寂しい三人であったが、残りの三人も加わってから楽しかった。







…その後の話は、異世界に着てからずっとあんな感じだった。


大半が姉御と共に居て、共に体験してきたから驚きの新鮮だった。

ただ、昔姉御と見ていたファンタジー物で出てくる最弱のゴブリンになったのは、ショックだったな。

小さいし、緑だし…

でも、胸がボインになったのは嬉しかったけど…皆よりかは力が弱かった。


でもまぁ、次郎さんから魔法を教えてもらってからは、色んな事が出来る様になって、錦治さんや姉御達を驚かせていたのは面白かった。




そんなこんなで、美恵の策もあってか…錦治さんに処女も授けちゃってさぁ…


姉御よりも一番早く子どもも出来ちゃったんだよね。


うん、ゴブリンの繁殖能力すげぇと思った。

次郎さん達のゴブリン達から聞いたけど、一回するだけで子どもが一ヶ月内に出来るんだって。

これには本当に驚いたわ。

ただまぁ、一つ不安があったのは…私がちゃんと自分の子どもを愛せるか…だ。


あの両親の事を思い出すと、思わず吐きそうになる事もあったが…あの時の…

あの時の下っ端の人を思い出すと、無碍に出来なかった。

それに、私には…赤ちゃんを自力で産めない姉御の為にも産みたかった。


例えゴブリンの子どもでも、抱かせてやりたかった。


そう考えながら、村で生活をしていた時…

あの西園寺達の姿を見て、怒りがあった…


あの男は…自分の都合の良い女を侍らせながら、自分の尋常じゃない力を降って恐怖に叩き落す糞最低な男だった。


それは、錦治さんと姉御達を足蹴にしながら笑うあの男の姿で物語っていた。


無論私は反撃に出ようと風刃ウィンドカッターの魔法を乱射してやったわ。

でも、全部取り巻きでグラマーなエルフとサキュバスの女にかき消された挙句、反撃の巨大な魔法…古代魔法が村に襲ってきた…


咄嗟の判断で結界を張って、亜人の皆を助けたのは良いんだけど…

あとの老人達と家畜は全滅だった…


その後、錦治さんが旅に出ると聞いた時、私は荷重なのを黙って参加した。


まぁ、直ぐにバレたけどね…

二日ぐらい経った時の、ドワーフの城塞町に付いた時に遂に起きれないぐらいに苦しくなっていた。


おかげで、何時もの悪戯餓鬼の性格は出せず、元の地の性格に戻ってしまった。


その時に、錦治さんが看病しに着てくれた時は…思わず甘えてしまった。


まぁ、その後は赤ちゃん…つまりは、私の子どもが生まれるまでの間は、ずっとドワーフの診療所で安静していた。


産みたい、その一心で…


その後は無事に生まれたわ。

私とそっくりな、人間っぽいゴブリンの女の赤ちゃんを…

して、前から決めていた名前があったから、早速名付けた…


あかり…


ひらがなだけど、色んな「あかり」と言う言葉に当てはめる意味を込めて…

私が命名した…


産んだ時に大量に出血したものの、私は真っ先にドワーフの院長から受け取った我が子を抱きしめてあげた…

この子は、あんな親の様には育てまいと…


その後は、修学旅行前の時に姉御と約束していた通りに、私の赤ちゃんを姉御に渡して抱きしめさせてあげた。

子どもを産めない姉御に味合わせたいと願って…





その後は、一日で回復した自分の生命力に驚きつつも、旅団と共に森へ向かっていった…


その時に、幸せだった私は思い出したくない事を思い出させられた…




森で戦闘になったダークエルフ達が…あのヤク中母親と同じドリップした顔で、狂っていた事に…


そして、A組の根暗ガリ痩せ女なメガネザルの後藤弥生が、ダークエルフ達に禁制ハーブのクスリを与えて中毒者ジャンキーさせていた事に。


しかもだ…ダークエルフの女性の中には、お腹を抱えた人まで居た事に、私は激怒した…


あの糞親父と同じクスリをばら撒く屑を、死の罰を…!!


そう思っていた時、私は美恵が監視使用人だったという事実とか如何でもよくなって、美恵にビンタした後は子どもを預けて、奴に怒りの制裁を与える事に専念していた…





その時に誕生したのが…私の創生であった。


誰よりも先に駆け巡りたい…


誰よりも先に怒り…


誰よりも先に罰を与えたい…


そう願った時、私の創生魔法は形成され、後藤をボロ雑巾の様に切り裂いて、トドメを刺そうとした。


ただ、その時に錦治さんから咎められた。

もういい…と。


分かっていた。

ただ殺してしまえば、私が悪者になるだけだと。

罪人には罪人らしい裁きをを与えねばならない。


それを教えられた時、私は錦治さんの胸の中で泣いていた…



その後は後藤を逃がしてしまったが…私と姉御と錦治さんの秘密を、他の皆の秘密を披露する事で、皆の仲が良くなっていった。


これからはそれで良い…



そして、私は決意をした…

美恵の次に手に入れた創生を持って、私は皆を守るんだと…


その為にも、あかりと共に強くならねば…


ねぇ…錦治さん。


「長くは無いが…ゆっくりと考えよう」

「そうだね…」


私の旦那様。

ずっと、一緒だからね…






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