第37話 ダークエルフと新たな創生
翌日。
旅団全員分の物資を揃え終えた俺達は、早速王都へ出発を開始した。
残っていたドワーフ達は、連絡を受け次第出発すると言う事で合意していた為、何の心配もなかった。
むしろ、早まってから一緒に来られていた方がきつかったから、助かっている。
しかし、王都までの道のりで、草原ばっかりとは限らず…少なくとも、小さな森林地帯と渓流地帯を通らざるを得なかった。
「始原の森」からドワーフの町までは平坦な草原道であったため、そんな実感はあまりなかったが、直幸達や宏達曰く、森林地帯と渓流地帯にはD組C組の勇者面子はかなりの苦戦を強いられていたとか。
次郎さんも、その森林地帯を抜ける事が出来ないでいたため、「始原の森」へと引き返して生活をするしかなかったとか…
ただ、国中を徘徊するベヒーモスの通り道もあってか、なぎ倒された木々により道が出来上がっていることがあり、旅人はその道を通って、森林地帯を突破しているとのことらしい。
いずれにせよ。
そういった道は普通に目立つ為、俺達はあえて森林地帯へと進む事にした。
理由としては、先ほどの目立つという事で、待ち伏せされてる事もあるだろう。
そして、もう一つは…食糧確保だ。
森の中にいる動植物によっては現地補給も出来る上、待ち伏せするにも難しい森林内での活動は早々にない。
そんな一石二鳥の提案で、あえて森を進む事にした。
「その点を考えるならば、フェイシャ達が加わったのは助かったな」
「森は、エルフ族の住処だからね。天職の僕達に任せてよ」
そう言いながら、フェイシャが先導するのを俺達が後を追う形で移動していた。
しかしまぁ…先日の泣いていた子どもとは思えないぐらいに、ハキハキしてる。
ただ、なぁ…
「女の子とは思えんぐらいに凛々しいな…」
「集落では男手が少なかったからな。こうでもしなけばやってはいけない」
そう…まさかフェイシャが女のダークエルフだったとは想像つかなかった。
最初見た時は男の子っぽい服装をしていた上に、僕と呼んでいたから気付かないぐらいにボーイッシュになっていたとはな…
隣に居るリューミャと並んだら、男女のカップルに見えても可笑しくないぐらい違和感がなかった。
…内の女性陣の指摘がなかったら、今ですら気付かないぐらいにだ。
「でもなぁ…落ち着いたら女の子らしい格好でもしてみたらどうだ?化粧には、自信を持っている奴等ならたくさん居るぞ」
「ご冗談を。それに僕は男にもなりたかったぐらいだし、今更女らしくしろと言われても、はいそうですと言ってなりたいわけでもないからな」
「…なんて言うか、僕の真逆な子だね。兄さん」
「うわっ!?びっくりしたぁ…いきなり出てこないでください、レン師匠」
俺の後ろから蓮が現れた事に、フェイシャは飛び上がって驚いていた。
…そういえば、ドワーフの町での事だが、フェイシャが蓮の
最初は渋っていた蓮であったが、余りの熱意に押され、止む終えず弟子に…
しかも、蓮が元男の娘で両性持ちのアラクネだと教えた瞬間にほれ込むほどに蓮を心酔していたのは驚きだ…
無論、ばらした事に蓮からお叱りを受けたんだがな…
女の子っぽい男に男の子っぽい女のカップル…
コレは如何に。
一方、シャルトーゼも蓮の心陰流の剣術を学んではいたが、中々付いていけず嘆いてはいたが、俺からのフォローも入れておいたから大丈夫だろう。
…やはり、俺も剣を握った方が良いかな。
「そういえば、キンジさんも剣を握ってたとレン師匠からお聞きしましたが」
「ああ。俺も心陰流は使えるが…殺しの剣は使えないぞ。むしろ、活法の剣で学んでいたからな…」
「かっ…ぽう?」
「活かす法と書いて、活法。これは剣や拳などといった武術における作法だ。古来、武術での殺法によって殺めた武術家が、敵を殺さずに相手を倒すという法の道を歩めて以来、殺法と活法の二つに別れ、両方極める者を居れば、片方極める者も居る事もある。俺の場合は、必要以外の殺しをしたくはないという理由で、活法の剣を学んでいた。…まぁ、それも三年ぐらい前には、辞めてはいたんだがな…」
「ふーん…だから、そんな斧みたいな武器と大筒にしてるわけか」
「そう言うことだ。というより、蓮のお師匠…つまりは蓮の祖父に当たる人、俺のじっちゃんだが…あの人の”殺し”の目となった時の姿は…今でも覚えている。あれは尋常じゃなかった。必要以上に人を殺してきた人間みたいな…、一歩間違えればヤバイ人だったな」
「確かに…爺様の目は、僕以上に異常だった…本気で人を殺す事に愉快を持つ様な目つきだった」
蓮のその言葉に、フェイシャは唾を飲み込む音を出して緊張していた。
普通、そんな人間が居たら、恐怖を覚えるだろう…
「だけど、兄さんが言うように活法の剣術を使う時の爺様の目は、違っていた。例えるならば…不動明王の様な全てを見通すものだったかな」
「ふどう…みょうおう…?」
「そういえば、この世界には仏教の概念がなかったな。俺達の世界の宗教では、沢山の神が住んでいてな。その中の一部の神である仏様を崇める宗教が仏教だ。その仏様が悟りを開いた時に、3000の世界の先におわす神々の奉り上げ、西方浄土の守護神の神の名に、
「罪人を裁きに来る…怒りの神様なのか?」
「そうだ。不動明王は一振りの剣と炎を持って、罪人のを一つ残らず滅罪する。例え、どんなに優れた武人や英雄だろうと。但し、滅罪すると言っても、殺しはしない。あくまでも罪人を裁きに来るだけだ。故に、滅罪され許しを請う者には救うという慈悲も深い神でもある」
そんな俺なりに解釈した不動明王の話をフェイシャは「へぇ…」という感じに聞いていた。
まぁ、異文化の人間が聞いたなら、多分同じ反応だろう。
「そんなわけで、そんな憤怒の化身でもあり慈愛に満ちた神の様な威風をもったじっちゃんの剣は凄まじい物で、剣先を突き出すだけで相手を畏怖させ、相手を改心させてしまうという殺さない剣術を持っていた。それが活法だ」
「奥が深いんだね。普通、殺したらほっぽり出すのが人間だと思ってた」
「あながち間違ってはいない。剣を扱う奴にも必ずそんな奴がでてくる。しかし、俺達の世界…しかも、俺達が住んでいた国ではそうはいかなかった。殺した後に、恨みの余りに幽霊などになって祟られるのを恐れる余り、殺した後も相手に対し敬意を称する民族でもあったからな。…今じゃあ珍しい方になってしまったが」
「恨みが怖いから御免なさいって…なんかなぁ」
「恨みを馬鹿にするんじゃないぞ。一番有名な恨みによる祟りとしては、都を全焼させるほどの雷を落とし続けた大怨霊となり祟り神として崇められた人物がいるぐらいだからな。それに、俺の国では一つの言い伝えがあってな。人の恨み、七代先まで祟るというぐらい、その子孫まで呪うぐらいにやばいからな」
「うわぁ…凄い物だ…僕達ダークエルフでもそこまで呪う奴はいないな…」
そんな話をしていたら、腹の虫が鳴り始めてきた。
よく考えたら、結構時間経っていたな…
「この続きはまた今度な。とりあえず飯にしよう」
そういって、俺は皆に飯時の準備を促して言った。
本日の昼食は…
羽鳥の干し肉と野菜サンドイッチと、根菜スープの二つ。
どっちもシンプルながらも、ちゃんと塩味が効いていて美味しかった。
それにしても…
「ダークエルフは雑食だったんだな…」
「あれはハイエルフ達の噂だよ。大体僕達ダークエルフと
「つまりは、全ては必要最低限での採取だったと言うわけだな」
「そう言うことだよ。森の恵みは、森に住む皆のものだからね。人間は愚か、動物でも我が物顔で種族による独り占めする奴らは、ダークエルフ達の制裁があったからね。多種族に排他的なのはハイエルフの様な傲慢な種族だけだよ」
「そうか…色々と、エルフ族に対して誤解があったな」
「それは僕も同じだよ。人間や他の亜人族はもっと野蛮だと教えられてたから。でも、キンジさんとあってからは、大分変わったな…」
「そうか、それはありがたい。だが…」
「分かってる。既にお嫁さんが居るんでしょ?だから、こうしてお友達として話しているんだ」
「そう言うのに関しては、一歩前に出ているんだな」
「失礼な。こう見えても君達よりも100年以上は生きてるつもりだ。…まぁ、無駄に100年過ごしたと言うのもあるけどね」
「それは、これからの経験で補っていけば良い。現に俺達が何時もそんな感じだからな」
そんなフェイシャとの会話をしていたら、さり気に冴子とかが俺に寄り添って座り始め、他の四人も同じ様に寄って来た。
「…妬きもちか?」
「半分は…」
「すまんな…入りたての奴に、積極的に話してやらんとね…」
「確かに、コミュニケーションは大事だからね…」
「でも、ちょっと妬いちゃうかな…錦治っち」
「その分は、夜の相手をして貰いましょう…」
「そうね…夜のお話は、私達の領域だから」
そういって迫ってくる五人に対し、俺はフェイシャにジェスチャーを送って、「まぁ、こんなんだからな…」と無言で伝え、フェイシャも「仕方ないね」と返してきた。
そんな時である。
異常な気配を察した俺達は直ぐに警戒に入り、辺りを索敵した。
その瞬間、リューミャがすぐさま矢を射ち、威嚇をしていってた。
…出てきたのは、腐乱したゾンビやグールといったアンデッド族であった。
「げっ…動く死体…」
「そういや、姉御はゾンビ映画は駄目でしたね…」
「して…アンデッドは潰しても駄目だったよな?」
「た、確か…通常の武器では死なないと聞いてたよ…」
加奈子がそういっていたら、旅団の周りにアンデッドに囲まれていた。
…拙いな。
俺達六人や直幸達…次郎さんやギルバートさん達ならともかく…
戦い慣れてない普通のゴブリンや村人亜人には、長期戦は厳しい。
そんな風に考えていたら、良子とフェイシャが前に出てきた。
「フェイシャ、確か…アンデッドは炎に弱いよね?」
「そうですね。して、リョーコ殿はどうされます?」
「無論、森は焼かずに焼き払うまでだわ」
そう言いながら、良子は右手から炎を出し、詠唱を始めていった…
まさかな…良子も創生を持っていたとは。
「”活目せよ。御身達は滅罪しようぞ。我は御身達の不浄なる不死を焼き払い灰すらも残さず燃やし尽くしてやろう。我が名は
良子の創生魔法が発動した瞬間に、右手から出てた炎を握り潰した瞬間、アンデッド達が燃え始め…崩れ去っていった…
だが、一部のゾンビ達は燃えてもなお動き出し、スケルトンになってまでも、動いて襲い掛かろうとしていた。
「やはり未完成であったわ…」
「なるほど…全エルフ族で一人でも創生魔法使い手が出たら英雄となる理由が分かりました。エルフには渇望がない…貪欲すぎないからだ…だけど」
そういって、フェイシャは同じ様に良子とは対称的に左手から青白い炎を出し、詠唱を始めていった。
ちょっと待て、フェイシャも創生持ちなのか…!?
「”おいでなさい。冥府を守護する
フェイシャが詠唱を終えて創生魔法を発動した瞬間に、良子と同じく左手に出た青白い炎を握り潰し終えると、
「やるわね」
「お互い様です。僕の番犬ではゾンビを撒き散らすだけになりますから」
良子とフェイシャは互いに語りながら、お互いを見ていた。
…どうやら、馬が合うというのはこういう意味を指すのだな。
「…まさか、創生魔法使い手がこうも増えるとはね。錦治君」
「ええ…だが、まさか現地人からも生れますとは、長老の懸念が当たらねばいいですが…」
次郎さんとそう交わしながら、俺は燃え盛るアンデッド族の残骸を目の当たりにした…
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