第38話 橋の乱戦、一つの散華…
アンデッド族を撃退し、森林地帯での補給を終えて突破した俺達は、渓流地帯を突破する前に、野営をする事にした。
流石に、そう簡単には川を突破できるわけでもないし、皆の疲労感が半端ない。
一旦は平野部で休息が必要だろう。
幸い、見通しが良い場所だから、警護班を作っておけば大丈夫だろう。
ただ…
「むぅ…こうも川の流れが速いとはな…」
予想以上に川の渓流が速く、生身で渡るのは厳しい所。
況してや、竜車を渡らせようなどと考えれば、ほぼ不可能だろう。
「どうすんだよ、錦治」
「そうだな、冴子…ちょっと、やってみるか。あの大木で良いな」
俺はそう言いながら、目の前の長い大木を無理やりぶっこ抜いて見て、川の中へ
投げ込んでみた。
…沈まずに刺さったのを見ると、水深はそこまで深くはないだろう。
ただ、大人一人分の深さがあるから、厳しいな。
「いっそう、橋を作って渡るという案が出たんだがな…」
「橋を作るって…対岸まで軽く500mはありそうだが…」
「うーむ…回り道を探すしかないな」
そう言う会話をしていたら、偵察に出ていたハーピーのシャイナさんが帰還し、俺の前に立ってきた。
「キンジさん、ここから下流に下った辺りに大きい橋が見つかったよ」
「そうか。そっちが中央街道なんだな…目指すしかないな」
「ただ…その橋の方には、騎士団の人たちが常駐していましたよ」
戦闘は避けられんようだな。
流石に、強引に突破した所で、竜車に積んである火薬が湿ってしまえば、使用は不可能になる。
そうなれば、突破した所で戦力はダウンに繋がるだろう。
橋を避け、強引に突破が出来ないなら…そうだ。
「船を作るのはどうだ?そんなに大きい奴でもない物で良いから」
「それも厳しいと思うな…そもそも、そんな時間があったら敵が気付いちゃってこっちに来るんだぜ。結局は戦闘は避けられんな」
「そうだな…ならば、橋を占領してしまえば良いか」
結局、俺達は橋の上での騎士団たちとの戦いは避けられなかった。
「うわぁ…予想以上に警備が厚いな…」
「アレは第三騎士団部隊だな。水上戦も得意として、対水棲魔物用の雷魔法も会得している連中も居る」
「数を見た限りでは、軽く200人はいますね」
ギルバートさんが言う第三騎士団の数は並の比ではなく、たぶん今までの中で一番数の多い精鋭騎士の多さだろう。
この前のボンクラな騎士隊長よりも屈強で歴戦の強者が間違いなく居る。
どうしたものか…
「錦治。ここは何人かで囮を作って、誘い込んだ騎士達を各個撃破した方が良いんじゃないか」
「そうだな…ガタイの良い奴で囮になって、引っ張り出すか…それじゃあ」
「待て、錦治」
俺が言う前に、冴子が先に口を出してきた。
「どうした?冴子」
「何時もお前や私が先頭に出てるだろ。でも、あんまそればっかりでは、他の連中が育たない。ここは、直幸とか面子を前に出させて実戦経験を高めた方が良いと思う」
「むむむ…難しいな。無駄に被害を出したくはないが…いつまでも甘えさせる訳にも行かないしな」
「そう言うことだ。特に、創生魔法を使える奴は今後は戦いを控えた方が良い。下手すれば、奴等に手の内を読まれる可能性がある」
「それもそうだな。西園寺の一派ならやりかねん」
冴子の提案通りに、俺は編成を組んでみた…
「と言うわけだ。念の為、俺達は一番後ろで控えておく。魔法部隊の面子は俺達より前に控えさせておくから、遠慮なく引っ張ってこい」
「無茶言うなよ…」
「で、でも…やっと私達の出番が出たと言う事だし…」
「むしろ、張り切りさせて貰いますわ」
面子として、直幸と江崎四姉妹のミノタウロス五体、デュミエール達オーガ三体、上島と上村のドワーフ二体、十体で前線を出し、村人であったオーガの子どもやオークの子ども達は弓兵として後ろに待機、その後ろにケンタウロスなどの女性達全員も弓と小筒を持って待機していた。
一応、俺達が一番後ろに待機したのは、挟み撃ちを阻止する為であった。
簡単に言えば、俺達が普通に森林地帯を突破した事により、待ち伏せした面子が合流してくる可能性もあるからな。
そうなると、たった数十人の俺達亜人旅団は壊滅は必死だ。
そのために温存する形で今回の編成として苦慮する事していた…
なお、ギルバートさんも「100点とまでは行かないが、止む終えない状態だ」と返してきたぐらいだからな…
と言うわけで、早速直幸達が橋の入り口へと向かっていった。
…早速、来たな。
だが、予想よりも少ない人数しか前に出てこなかった。
様子がおかしい…
その時である。
橋の中心から水棲魔物達が出現し、騎士団を集中的に襲っていた。
「な、なんだ!?これは!?」
「これは…!?魔王軍精鋭部隊!?」
デュミエールが言うように、どうやら魔王軍の部隊らしい。
まさかな、奴等も西園寺達を襲い始めてきたとは…
「直幸!デュミエール!上島!お前ら全員こっちに戻れ!!」
「わ、分かった!幸恵!お前達も来い!!」
「う、うん!?」
「ジュラ!デュラ!!他の皆様をお守りしなさい!!」
『了解です!姫様!!』
「俺達もずらかるぞ!美佳!!」
「う、うん!!」
前線に出ていた全員が一斉に戻って合流し、もう一度編成をし直したが…
騎士団を相手していた魔物達は俺達の存在も気付き、亜人だと問わずに一斉に襲い掛かってきた。
「糞っ!来るぞ!!総員!戦闘配置に付け!!」
『りょ、了解!!』
俺の掛け声と共に、旅団総員で水棲魔物達の総攻撃を迎えていった。
「糞っ!こいつ等強いな…!!」
「油断するな!キンジ!!あの水棲亜人のサハギン達は魔王に忠誠をしている奴らだ!!」
ギルバートさんが言うサハギン族の奴らは、全員黒い鱗に覆われており、並の刃物では通らないほど硬いものであった。
「直子!!通常の
「了解!姉御!!」
「ならば、私は
「美恵、私と連携して魔法に
「よし、ならば私はお前らの盾になるから、ガンガン掛けてくれ!!」
『了解!!』
冴子達五人はお互い掛けながら、魔法でガンガン攻めていった。
蓮達アラクネ達も、お得意の糸で水棲魔物達の動きを封じ込め、各個撃破をしていった…
デュミエール達も、随分と良い動きをする様になって、攻守が出来る様に動きが良くなっていた。
これもギルバートさんの訓練のおかげだ。
そして、ギルバートさん夫妻と次郎さん夫妻達は、村人達に的確な指示を与えて、水棲魔物と騎士団に両方に弓矢と小筒の鉛弾を飛ばして撃退していた。
「順調ですか…?」
「かも知れんな…だが、何か臭う」
フェイシャの問いに、俺は最後まで油断をせずに居た。
そろそろ、両者共に大将格の奴が出てくる。
必ずこの騒動に乗じて出てくるだろう。
その予想が…見事に的中した。
橋のど真ん中にて、爆炎の柱を立てながら出現した。
魔力の波動からして…創生魔法の使い手だと判断した。
同時に、川の方から暴風が巻き起こり、竜巻となって現れた奴が居た。
…こちらも創生魔法使い手か。
しかも、どっちも見た事がある顔だから、忘れはしなかった…
爆炎の方は、A組の
A組の問題児で、加奈子を暴力で虐めていた主犯格の男だ。
対する魔物側の水棲魔物であるセイレーンは、B組の
高校の風紀員で、俺達E組の連中はおろか、学内の不良を目の敵にしていた、所謂、堅物女であった。
無論、両者共に俺達の敵に代わりはなかった。
「あのセイレーン…見覚えがある」
「…フェイシャ?」
「アイツは…僕達の前の集落を襲った奴だ!!」
そういって、フェイシャは怒りに染まった顔をして剣を携えて突撃しようと、飛び出していきそうだった。
無論、そんな無謀を俺が許すわけではなかったので、すぐさま服を掴み上げ、じたばたするフェイシャを取り押さえた。
「何故ですか!?」
「ボケッ!策も無しで勝手に突撃するな!!死にたいんか!!」
流石の俺の一喝に、フェイシャは悔しそうな顔をして抵抗を止め、大人しく下ろされていた。
正直、あいつ等の能力が分からない以上、下手に動くのは危険だった。
だが…フェイシャばかりに気にしていた俺は、”もう一つ油断をしていた”。
フェイシャの”隣にいた”リューミャが突撃していたのを。
「リューミャ!?」
「いかん!追うぞ!!フェイシャ!!」
「う、うん!?」
無論、俺達二人はリューミャの後をすぐさま追いかけていった。
そして、奴等二人がにらみ合いをしている所の近場まで来てしまった…
「久しぶりだなぁ…水鳥…その羽をもぎ取りたいぜぇ…」
「あら、相変わらず下衆な顔してるわね、猿渡。今すぐにもズタズタにしてやり、魔王様の血肉に変えたいわ」
「ほざけぇ!!おめぇ如きの創生など!!俺様の炎に勝てるわけねぇだろ!!」
どうやら、あいつ等は因縁同士であったな。
だが、好都合だ…
今のうちにリューミャを…
「キンジさん!アレ!!」
「…!?リューミャ!!よせぇ!!!」
その時であった。
リューミャは橋の上に立ち、弓矢をギリギリにひっぱり、水鳥の方へ向けて矢を射っていた。
「…!?ダークエルフの小娘!?小賢しい!!」
無論、矢は水鳥を掠めるわけでもなく、全部風に叩き落されていた。
そして、水鳥から
「”我は命ずる。汝、その愚かたる行動において、裁きの剣により、汝を罰則を与えよう。我こそは、三女神の一人、
水鳥の創生が形成を終えた瞬間、嵐の風そのものが巨大な剣の形と成っていき、リューミャがいる場所へと振り下ろされた。
「キャ!?」
直撃は避けたものの、衝撃で吹き飛ばされたリューミャは橋の地面へと落とされ、転がる様に倒れていった。
無論、衝撃の際で出た風刃の余波により、全身に浅い切傷を付けられていた。
「リューミャ!?」
フェイシャは叫びながら俺を追い越して飛び出そうとしていたが…
その瞬間、転がっていたリューミャの背中を、猿渡が踏みつけてきた。
「糞餓鬼がぁ…てめぇみたいな小便くせぇダークエルフのガキなど、西園寺の雌にされる癖に…よくも俺の水鳥との勝負を邪魔してくれたな!!」
そういって、猿渡が拳に填めていた鉄の爪で、リューミャの背中を突き刺そうとしていた。
その瞬間、俺は大筒で弾を放って、猿渡の腕を吹き飛ばしてやった。
「いでぇ!!誰だぁ!!俺の邪魔をするのは!!」
「甚振りはそこまでにしろ!!猿渡!!」
「ああぁん?その声は…横山かぁ?ここでもお前の邪魔されるとはなぁ!!」
「寝言は地獄に落ちて言え!!糞男が!!」
俺が猿渡と互いに暴言を吐いて気をそらす事で、フェイシャがリューミャの回収をさせてやった。
無論、フェイシャも同意し、リューミャの回収してから離れていった。
勿論、まだ創生を持っていない俺自身も、二人と戦えるとは思えないので…
大筒に弾を装填して構え直し、そのまま後退して行こうとした。
「逃げんのかよ?このビビリが!!」
「てめぇみたいな化け物を禄に相手するほど、俺も頭が悪くはないからな。そこの水鳥とのメンチでも楽しめ!!」
「良い事聞いたなぁ…お前、創生持ってないだろ?国塚から聞いたぜ」
ちっ…国塚の奴…
A組の奴ら全員に情報を漏らしていやがったか…
だが、それでも相手するわけには行かない。
ここは冴子辺りと合流して、一気に蹴りをつけないと。
「へぇ…E組の横山は創生はまだ覚醒してないのか…良い事聞いたな」
「へっ、アレは西園寺がくれた俺の獲物だ。魔王軍のてめぇが手を出すなよ」
「抜かせ。A組の狂犬が。アレは魔王様の獲物だ」
やはり、両軍から睨まれていたか…
そう思っていた俺は、すかさず大筒で猿渡を砲撃した後、荷物となった大筒を地面に放り出して斧を構えていった。
「…!?キンジさん!!」
「先に逃げろ!!怪我人を抱えた奴が援護しても無駄だ!!」
俺のその言葉に、フェイシャは苦痛の表情を浮かべて退却してくれた。
…それでいい。
あとは、援軍が来るまで持ちこたえられるかだ…
「横山の加護がない小娘どもなど、どうにでもない」
その瞬間、水鳥から非常なる
フェイシャの肩に担がれていた…リューミャの心臓を貫いていった…
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