第39話 黄泉ノ胎動
俺にも、何が起こったか分からなかった。
ただ、フェイシャの隣に居たリューミャが血を流して倒れてしまったのだけしか認識できなかった。
「リュー…ミャ?うそ…だよね…?リューミャ…?おきてよ…ねぇ…」
幼馴染が…心臓を貫かれて…冷たくなっていく姿に、フェイシャは正気を失った目で…見つめていた…
その瞬間、俺の中から…どす黒い魔力の胎動が始まったと同時に、水鳥の方へ顔を向けて、吼えた。
「み…水鳥ぃぃぃぃぃ!!貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!!それでも元人間かぁぁぁ!!」
そんな俺の憤怒の咆哮に、水鳥は鼻で笑い、蔑む目で見つめて来た。
「はっ…何任侠もどきな事をしてるわけ?別に人間亜人が死んだぐらいで問題があるわけ?私達は戦争をしてるのよ。たかが一人死んだぐらいで熱くならないで欲しいものだわ」
「同感だぜぇ…ああ、貴様をぶち殺してぇ…そこのダークエルフのガキを殺したあとは…奥村がいるんだろ?あいつをじわじわとなぶり殺してやりたいぜぇ…」
…所詮は、下衆の極みか。
俺達の世界の住民は、枷を外せば屑な奴が多い…か。
ソンナヤツラニ、リフジンニツブサレテイイカ?
イナ。
ソレハユルサレナイボウキョ。
トコヨノセカイヲヒライテ、ダンザイスルベキダ!!
その瞬間、俺の中にあるどす黒い魔力が深淵の渇望と共に具現化した。
「キンジ…さん?」
「フェイシャ…その子と共にこっちに来い…死にたくないなら!!」
明らかに、自分で暴走している事には気付いているが、既に押さえられる物ではなかった。
フェイシャが泣きながら、瀕死のリューミャを抱えて俺の足元にしがみ付いて、体を震わせていた。
そして、俺はドス黒い渇望と共に誕生した創生を発動した。
「”日は沈み、天孫が下る時、かの者は還ろう。我は水面の流れに反り、栄光と衰退、再生と滅び、創生と破壊を見届ける。ならば、我もまた根の国の川を上り、黄昏の時を乱す者を根の国へと誘おう…”」
詠唱を終えた瞬間、空が一瞬にして夕暮れ時の黄昏…夜が来る前の妖怪が活発になる大禍時をような世界を、この橋を中心に展開させていった。
「創生…!!
俺の創生魔法が発動した瞬間、俺の体から放つ魔力が根の国に居る死者として具現化され、水鳥が率いる水棲魔物軍勢を…猿渡が率いる騎士団の人間を襲い初めていった。
「ひっ…!?な、何…この化け物達は…!?」
「く、来るな!来るなぁぁ!!!」
空を飛んでいた水鳥は、一目散に上へ飛んでいこうとしたが、俺から飛び出た死者の形をした魔力よって撃墜され、地面に落とされた所に袋叩きにされて、金きり声の悲鳴を上げながら、創生も形成する前に飲み込まれ…
川の中に居た水棲魔物共々にズタボロにされながらも死に掛けで生き延び…
猿渡の連中もまた、同じ様に俺が形成した死者軍勢に騎士団が悉くに殺されて行く合間に、千切れた腕を再生させながら創生を発動させていった。
「”暴虐の宴よ!始まれよ!全ての命は俺様の為にあり!!俺様を楽しませる為に生れてきた!!猛よ!!炎と共に俺様の糧となれ!!創生!!
猿渡の炎の創生が発動し、爆炎の拳を叩きつけられて吹き飛んだ俺の死者達であったが…すぐさま形成をし直し、再び猿渡を襲い始め、集団リンチの如くに猿渡の体を殴り、引き裂き、引き千切りながら蹂躙していった。
人から見れば、悪夢…いや、この世の終わりと呼ぶような光景であろう。
だが、俺の怒りと悲しみはそれ以上であった…
軽率すぎた行動が…一人の命を今失おうとしていた…
ならば、命を軽々しく奪う者は俺は絶対に認めない、許さない。
だからこそ、こいつらの様に忠義の為、自分の欲望の為に満たそうとする奴は、常世の国から這い上がる者達に、俺が裁きの許可を与えよう。
狂え、怯えろ、竦め。
これは、お前達が軽々しく扱った者達への懲罰だ。
泣いて詫びて命乞いをしろ。
だが、以外にも俺の創生は幕切れを起した。
源である魔力が一気に枯渇したからだ。
その瞬間、具現化した常世の国の死者達は根の世界へと帰り溶けて行った…
後に残ったのは…川には水棲魔物の大量の屍骸と…
橋の上では騎士団達の屍骸と、ズタボロになって瀕死となった水鳥と猿渡の姿であった。
「糞が…ちくしょう…」
そうぼやきながら、俺は手に持っていた斧を震えながら握り…水鳥と猿渡の所へ歩いていった。
「…言い残す事はないか?」
「くそが…お前如きに…」
猿渡が言い終える前に、俺は斧を振り下ろし…猿渡の頭を叩き潰して絶命させた…
残った水鳥も、同じ様に処断するべく俺は歩いて近づいた。
「ひっ…た、助け…て…」
「今更命乞いかよ…あの世でリューミャに詫びろ…糞女が…」
そういって、俺は再び斧へ力を込め、振り上げようとした。
その瞬間、俺の足元からフェイシャが飛び出し、持っていた
「がはっ…!ああぁ…!!」
「死ねよ…!!よくもリューミャを…!!死んじまいな!!この阿婆擦れが!!」
そういって、フェイシャは水鳥の心臓目掛けて何度も突き刺し、手が痺れようと何度も突き刺し、自身が血まみれになり、手から短刀が滑り落ちてもなお、殴り続けていた…
既に事切れていた水鳥であったが、それでもフェイシャは…何度も何度も水鳥の死体を殴り続けていた。
だけど、見ていられなかったのは俺の方であり、フェイシャの肩を引いて抱き、頭を撫でてあげた…
「もういい…それ以上は止めろ…リューミャが泣くぞ…その怒りをぶつけるなら俺にぶつけろ…俺を殴り続けろ…」
俺がそう言うと、フェイシャは泣き顔の状態で俺の胸に叩きながら泣き崩れた。
「貴方は悪くはない…!!僕が…僕がリューミャを目を離したからだ…!!」
「いや、俺の所為だ…俺の…」
互いにそんな言葉を言いながら、俺は泣き続けるフェイシャを抱きしめ続け…
フェイシャは俺の胸を叩きながら泣き続けた…
「私のミスだ…私が…」
「冴子。誰のミスでもなければ、全員のミスでもある…。これは…俺達への教訓でもあり、警告でもあるんだ…」
あの後、駆けつけてきた冴子達全員に、瀕死のリューミャの治療処置を行おうと、花子さんと加奈子の二人係で回復魔法を掛けようとしたが、俺が無理だと言って止めさせた。
心臓…それも心筋を貫かれた体では、もはや蘇生は無理だ…
だが、最後の奇跡とはあるものだ…
リューミャが最後の力を振り絞って、フェイシャに語りかけていた。
「フェイ…ごめんな…さい…」
「リュー…なんで、なんで僕よりも先に…」
「わか…っていた…むりでも…やりたかった…」
「リュー…嫌だ…置いていかないで…!僕を…私を置いていかないで…!!」
「ごめん…なさい…フェ…イ…だい…す…き…だ…よ…フェ…イ…」
それを最後に、リューミャは事切れて…動かなくなった。
「――――――ッアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
フェイシャの余りの悲痛な叫び声に、旅団全員が一同して泣き声が木霊した…
そんな時、俺はフェイシャの前に正座をし、リューミャの亡骸前に手を置き、無意識の中で生み出された、先ほどとは別の創生を発動させていた。
「”若ければ、道行き知らじ、
詠唱を終えた瞬間、リューミャの亡骸から淡く白い光を放つ魂が浮かび上がり、フェイシャの方へ向かっていった。
「…それは、リューミャの魂だ。フェイシャ…お前が受け取れ」
「キン…ジ…さん?」
「お前が育め…リューミャの魂と共に生き続けろ…それが、生き残ったお前の善行だ…」
そう言い終えた瞬間、俺は脱力する様に倒れ、意識を失っていった。
…どうやら、本格的に魔力が枯渇による昏睡だ。
そんな風に考えた瞬間、そこから先の記憶がなかった。
次に意識がハッキリしたのは、何も無い無の空間であった。
…どうやら、意識と無意識の中の世界…
”うわぁ…創生魔法の中でもなんて物を編み出したんだ。あんたは”
その上、あの神と直接話せるようになったようだ。
”うるせぇんだよ。大体、なんで俺達があんな魔法が扱えるようになったんだ”
”あー…正直に言うとね。まさか、あんた達までもが扱えるとは思ってはないと思って…説明を省いちゃったのよ。…本当にごめん!!ここまで予想が付かないぐらい混乱していたの!!”
”まぁいいや…それよりも、俺の創生の事だが…あいつ、リューミャの魂はどうなるんだ?勝手に輪廻転生をさせた様なもんだし”
その俺の問いに、神の奴はうろたえながら答えを渋っていた。
”…分からないわ。輪廻とかのそんな概念、まだ教えられてないんだし…”
”おいおい…お前の前任者は何も教えないままとんずらしたのかよ…”
”うん…この世界のシステムとかの構築とかもよく分からないんだし…”
ここまで来ると、深い溜息しかなかった。
斉藤の奴が、何か知っていたとあるが…今は黙っておこう。
”とりあえず、現状の解釈として、俺がフェイシャの体の中へリューミャの魂を流した。その状態で子を孕んだら、アイツからリューミャの新しい姿で生まれ、第二の人生を歩めるという解釈で良いんだな”
”た、多分それで良いと思うわ。というより、あんたの渇望が恐ろしすぎるわ。まるで死後の世界を選定するような神様みたいな…”
”恐らくは、理不尽な世界に悲憤する余りに、せめて理不尽に死んでく者全ての者を愛でたいとあるんだろうな。必要以上に殺し、快楽を選んだ者には罰を…命を尊ぶ者にはもう一度再会を…と”
”…はぁ。まるであんた達の元の世界にある仏教や神道みたいなものじゃない”
”恐らくはそこから着てるのだろう。信じるものこそ、諦めなければきっと夢が叶う…そんな豊かな世界から生み出された考えだ”
”…降参よ。あんたともう一人の白い奴なら、いつかは…おっと、時間の様ね。ここでお別れよ”
”そうか。また会いそうな気がするな”
”嫌でも会うかもよ。私も現実にいるんだから…”
その神の言葉を聴いた瞬間、俺の意識は白く輝いていった。
「うっ…ここは?」
「キンジさん!良かった!!」
毛布に包まれていた俺を、フェイシャは抱きついてきた。
「フェイシャ…?という事は、竜車の中か…」
どうやら、俺は眠り続けたらしい。
…アレだけの魔力消費だ。
他の皆よりも一斉に使い切ったのだからな。
「錦治!?良かった!目を醒ましたんだな!!」
「冴子…迷惑かけたな」
冴子の掛け声と共に、何時もの五人が集まってきた。
「そうか、丸一日寝ていたのか…」
「ああ…フェイシャから全て聞いたよ」
「…あれは、俺がフェイシャばかりに目を向けていた所為であり、フェイシャもリューミャを目から離した結果でもあった。…水鳥も含めた、魔王軍も妖精達を迫害して国を侵攻していたのもわかった…」
俺が倒れて意識を手放している間、事の顛末をフェイシャが伝えたようだ。
自分の責任だと言っていたが、俺の責任でもあった。
旅団の主たる者が、責任を問わないでどうするんだと。
しかし、ギルバートさんと村人からのお咎めは無かった。
一人の死者を出してしまったが、全体的な被害は出さなかった事でだ。
だが、俺はやりきれない気持ちで一杯であった。
無論、そんな気持ちを冴子達の学生組、次郎さんやデュミエール達の亜人組、ギルバートさん達騎士達全員にもあり、皆同じ気持ちであった。
そして、蓮もまた…同じ気持ちであった。
「…本格的に、あの子に
「ああ」
「最初は迷っていたが、手加減はいらない。あの子が弱音吐こうと叩き込む。それが、あの子を強くする為の力となるから…だから」
「分かった。それ以上は言うな。…あとで冴子達に相談する」
互いにそういいながら、俺は冴子達の元へと向かった。
「…頼む」
「錦治…お前は…」
「…そこまで頼み込まれたら、はいとしか言えないよ。錦治っち」
「錦治君…あまり追い込まないで」
「私達なら大丈夫だから…」
「だから、自責の念で彼女を入れるのはやめて」
「お前ら…」
どうやら、俺の見当違いのようであった。
冴子達全員、フェイシャのことで気付いていたようだ。
…ならば、早めに言うべきであったな。
だが…
「分かってはいるが…俺は西園寺とは違うからな」
「それも分かっている。それに、そのままにしておけば、いずれは…」
「ああ。アイツは必ず落としに来る…あの糞親父みたいに。あと、俺を殴りたい奴が居たら手を上げて、好きなだけ殴ってくれ」
「誰が…殴れるかよ…」
冴子の言葉に、皆消沈していたので…抱きしめてあげた。
本当にすまない…
その後、俺はフェイシャと竜車の中で二人っきりになっていた。
「…話は分かっているだろうが、フェイシャ。お前を正式に娶りたい」
「良いのですか…?こんな僕を…」
「半分はお前への責任を…もう半分は俺の気持ちだ…」
そんな甘ったれな言葉を吐きながら、俺は頭を下げていたが…
フェイシャは逆に俺と同じ様に頭を下げていた。
「顔を上げてください、キンジさん。逆に、僕は救われました…あの時…貴方が集落に来て僕達を助け、怒り狂う僕を引きとめ、泣き怯える僕と死を待つ彼女を貴方は守ってくれた…御礼を言いたいのです…」
「フェイシャ…お前…」
「それに、僕の中に眠るリューミャが言うのです…自分を信じなさいと…」
そう言いながら、フェイシャはゆっくりと着ていた服を肌蹴させ…
俺に迫ってきた。
「…一夜限りの恋人は嫌です。これからは、貴方達六人の前では、女として…、生かせてください…」
そんな言葉を言いながら、体を震わせてる男子の格好していたダークエルフは、少女となって俺に抱きしめ…
俺もまた…彼女を抱きしめてあげた…
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