第40話 一つの契り、『王』の素質

フェイシャとの一夜が明け…

俺はシーツに包まれて未だに眠る全裸の彼女を余所に、天井を見上げながら、茫然とふけていた…

煙草があったら、たぶん無意識に吸っていただろうな…

そういえば、この世界に着てからは一本も吸っていない。

健康体であるならば問題はないが、今の物寂しい気持ちからするなら吸いたい気持ちであった。


そんな風に茫然としていた時、フェイシャも起きて、俺の顔をジッとみていた。

まるで、冴子達が初夜を向かえた時の恋する初心な乙女みたいな顔をしながらである…


「…凄かった」

「何か?」

「キンジさんのあれ」

「…皮肉な事に、女の扱いは俺の糞親父の遺伝だ。あんまり好きではないが」

「でも、優しさがあった。痛がる僕に合わせてくれたりとか、その…」


恥ずかしがって言うフェイシャを、俺は頭を撫でて中断させた。

…あんまり、この手の話は苦手だからな。


「フェイシャ、俺が言うのアレだが…」

「うん…」

「自分を大事にしろ。あとは、皆と仲良くな…」

「うん…サエコさん達とは、宜しくするよ…」


そう言って、フェイシャは起き上がって服を着替え始めた…




全員、朝食を終えてから…俺達は橋を渡る準備をしていた。


「すまないな。余計な時間を食わせて」

「いいさ。私らも大人だ…その辺に関しては理解している」

「なんていうか…本格的にあの駄目糞親父に似てきて自己嫌悪に堕ちる時は…、あるなぁ」


冴子とそんな会話をしながら、俺は橋の上に転がる死体を退かしては、竜車が通れる幅を確保しようとしていた。


「それにしてもだ…直子達三人から聞いた上で遠くからお前の創生を見たが…」

「ああ、あれか…」

「三人して言ってたよ。私達よりも怖いと…そして、もう一つの創生を見た時は手の届かない場所へ行きそうだったと…」

「そうか…」


冴子が言うように、俺の創生は…はっきり言えば死者軍勢変成と輪廻転生であり、軽々しく扱えるものではなかった。

…死を尊ぶ余りに、俺の中にある黒い渇望が魔力と結んでから、形勢をされて具現化したのだろうな。


だが、美恵との違いを上げれば、俺の創生は純度の高い闇。

闇は夜の象徴でもあり、常世の国の象徴でもある。

決して聖邪の概念で区別される色でなかった。


しかし、村人はおろか…あのギルバートさん達ですら畏怖させるものであった。


”君の力は…まるで死神だ。あんな…アンデッドとは違う何かのを出すのは…私としては恐ろしすぎる”


と、ギルバートさんからはっきり言われた。

宗教的価値観とは、やはりこうゆう概念を生み出しかねない。


分かってはいたさ…


普通、生命と魂は輪廻の輪に繋がっていると言っても、理解をする者は少ない。

…一度話して置くべきか。


そんな風に考えていたら、一つの違和感を覚えていた。


…水鳥の遺体と、猿渡の遺体がない。


「おかしい。あいつ等の死体がない…!」


確かに、血痕は残っていたため場所ははっきりと分かっていたが…

その場所に遺体すらないとは…

アンデッドとして蘇ったとか?


「あ…気付いたか、錦治…」

「冴子。何か知っているのか?」

「ああ、うん…あいつ等の死体は…それぞれの組の監視者が持ち帰ったよ」


…やはり、見られていたとはな。


「すまん!お前とフェイシャ達で精一杯だったんだ!!」

「いや、構わん。猿渡は…警戒しておかないとな。アイツの死体を利用して、奴を蘇生するかもしれないしな…だが、水鳥の奴を持ち帰ったのは何故だ?」

「分かんないよ…そんなの」

「そうだな…」


冴子と話していた時、蓮とフェイシャが慌てて走って俺の方へ辿り着いた。


「兄さん!大変なんだ!!」

「ま、魔王軍が…!魔王軍が魔法映像を使って全世界に発信してきた!!」


その言葉に、俺と冴子は頷いて、皆がいる場所へと戻っていった。





旅団の竜車郡の中心にて、直子がドワーフの町で購入していた大玉の水晶を操り、魔王が発信している魔法映像を中継投影をしていた。


「よくこんな操作方法を見つけたな…」

「本当は鏡の方が良いんだけど、それだと全員に見せられないからね」

「そうか。音声とかは大丈夫か?」

「それも大丈夫だよ、錦治っち。どうやら、水晶から出る映像は音声再生もしてくれるみたい」


そう言いながら、直子はメイジの素質を最大限にふるいながら、水晶から出てる魔力を竜車に掛けられた天幕へと放出していった。


…バソコンとかにある映画プロジェクターに近いな。これ。


と、そんな事を内心ぼやきながら、演説台に立つ角を生やした女と…

その後ろにある水鳥の巨大な遺影写真が鎮座する供花で埋め尽くされたバックが映し出された…


…ちょっとまて、あの悪魔の女は何処かで見た事がある顔ではないか?


「あれ…一昨年あたりにいた元B組担任の葛葉先生じゃない?」

「言われて見れば…あの女教師だな」


葛葉命くずのはみこと

当時、一年だった俺達が一度だけ見た事があるB組の地味な担任教師であったが、半年もしない内に転勤したとだけ聞いて以降は、何も話を聞かなかった。


…よく考えたら、この世界の魔王軍勢も俺達の元の世界にちょっかいを出してはいたかもしれないな。


そして、葛葉が口を開き、魔物となった人間達に向けて一声を放った。


”我々は、一人の英雄を失った…何故だ?一握りのエリートの人間の所為か?否!!これは諸君らが勝利への浮かれによって油断が生んだ結果である!諸君は人間族の次に亜人族への軽視をしていたのではないか?諸君が愛した水鳥沙耶は亜人を軽視して挑んで戦い、死んだ。何故だ!?これこそが、諸君ら魔族の中にある怠慢と傲慢があったからこそ、油断が生まれたのだ!!水鳥沙耶は諸君らの中にある油断を思い知らせる為に死んだのだ!!戦いはこれからである!!”


ゴチャゴチャと御託を並べながら演説し続ける葛葉に、俺は呆れながら飲み物を口にし、一言ぼやいた…


「プロパガンダ…だな。葛葉め、水鳥の死を利用してあてつけに放送したか」

「ふぇ?」

「ど、どういう意味なんだよ…錦治」


学生組の連中は一斉に呆けた顔をして俺を見つめ、ギルバートさん達ら現地人の皆はおろか、デュミエール達原生亜人達も見てきた。


「今、葛葉の奴が演説しているあれは、魔族向けのプロパガンダであってな…。水鳥の死んだ事を良い事に、奴は魔王軍全体への士気を高める為にワザと葬式と言う形で、中央の魔王城にいる魔族を含め、全世界に駐在する魔王軍に在籍する連中へ演説を開始した」

「なぁ…それ。昔、俺が見てたガン○ムのアニメに出てきた敵役の親玉がやっていた演説とそっくりではないか?」

「話が分かりますな。次郎さん」

「と言っても、俺自身はレンタルビデオでしか見た事が無いけど…」

「今じゃあ、光ディスクでの記録媒体で綺麗な映像で見れますよ。…まぁ、話を脱線してしまったが…あのアニメ映像の作品でもあったが、身内の死を利用して軍と民の結束の士気を高める道具としてるのだろう」


俺のその言葉に、学生組は息を呑んでいた…

そして、俺の隣にさり気に近づいていたフェイシャは、寄り添いながら…映像を直視していた。


「フェイシャ、今のうち覚えておけ。あれが…魔王軍の親玉の一角だと」

「はい…」


俺がそう言うと、フェイシャは俺の服を握り締めながら、ギッとした目で見続け居た…



”水鳥は、諸君ら甘い考えを目覚めさせる為に死んだ。戦いはこれからである。諸君の親も兄姉も、人間亜人の無思慮な抵抗の前に死んだ。この怒り悲しみも、我々は忘れてはならない!それを水鳥は、死をもって我々に示してくれたのだ!我々は今、この怒りと結集し、人間と亜人に叩きつけて、始めて真の勝利を得る事が出来る。この勝利こそ戦死者全てへ最大の慰めとなる!魔族よ立て!全ての悲しみを怒りに変えよ!立てよ魔族よ!!魔王軍は、諸君らの力を欲しているのだ!!魔族に栄光あれぇぇぇぇぇぇ!!魔王軍に栄光あれぇぇぇぇぇぇぇ!!”


葛葉の演説が終えた瞬間、葛葉の演説台前に沢山いた原生魔物と、転生した人間魔物達から団結声を血気盛んに上げて賛同していた。

そのあたりで、魔王軍から放つ魔法映像の放映は終了し、何も映らなくなった。


「…ギルバートさん」

「何だ?」

「先ほど、俺の創生が怖いとありましたが、俺としては今の魔王軍演説みたいな、戦争の道具にする連中の方が怖いです。これは、人間亜人、魔物、魔族問わずに、多くの命を大義名分を掲げながら殺戮を行なう連中こそが、死神だと思いませんかね…?」


俺のその言葉に、ギルバートさんはだんまりしながら、目を閉じてから何か考えながらふけていた…

どっちが正義とか、もはや分からなくなってきたからな…



「相変わらず、品の無い演説ですわ」


その瞬間、俺達旅団全員は一斉に声のする方へ顔を一斉に向けた。

…あの国塚萌が、竜車の天幕の上で座っていたからだ。


「何の用だ!!国塚!!」

「あら?そんなに剣幕立てて怒鳴らなくても宜しくてよ」

「貴様が西園寺の女だからだ。まさか俺達を始末しに来たと言うのか?」


そんな俺の一声に、国塚は呆れながら羽を広げて竜車から降り立ち、俺の前まで近づいてきた。

無論、しがみ付いていたフェイシャは毛を逆立てるほどに怒りに満ちて睨みつけながら威嚇をし、冴子達五人も駆けつけて俺の前に立って牽制してきた。


「そんなに警戒をしなくても宜しいです。大体、私は勇助様の女になった訳でもないですのに」

「どういう…まさかお前、親父からの監視者か?」


俺の指摘が当たったのか、国塚はにんまりと笑いながら俺を見つめていた。


「ええ。そこの土呂口美恵と同じく監視者として勇助様を監視しておりました。無論、錦治様。あなたも監視対象として見ておりましたわ」

「まさか貴方…当主様の最上級SP!?」


美恵の指摘が命中したかのように、国塚は笑いながら俺達を見ていた。


「ええ。ご当主様の直属のSPでもあり、かつて貴方が所属した使用人の中での侍女頭でもありましたわ。女は何でも出来なければなりませんですから」

「気に食わないですわ。錦治…君のお父上の密偵だったなんて」

「それも偽りでもありますわ。なんせ、私は本当の悪魔ですから」

「…純粋の魔族というわけか。糞親父や西園寺を監視する訳が分かるが、何故…俺まで監視されるのだ?」

「それは、『王』の素質を持つものですからね。まだ少数ですが、亜人族を束ね結束を作ろうとする貴方様の素質に興味が湧きましたゆえに…それに、一つだけ勘違いをされておられますわ。その『王』の素質を持つ者は、他にも居られると事だけ、お伝えしますわ。あと、貴方さえよければ…この体を肉欲の堪能として奉仕させても宜しいですよ」

「…他にも居るのか。国を作らずに動く連中が…あと、個人的に言わせてるが、お前の様な尻軽なサキュバス族は好かん。あの糞お袋と同じ売女など…」

「ええ。どちらも癖が強いですわ。あと、その言葉…少し遺憾をお伝えします。私は心底気に入る殿方しか体を許しません事を…では、ごきげんよう」


そういって、国塚は翼を広げて大空へ飛んでいった…




『王』の素質持つものか…

気になるが、今の所は伏せておこう。



そんな気持ちの中、俺は次の目的地へと目指す準備へと始めた…








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