第8話 神の語りと報酬

斉藤の頭部無しの死体を呆然と見ていた俺であったが、次郎さんは冷静に判断し、斉藤の死体にある噛み傷などを見て考察していた。


「ゲイザーとは、厄介だな…」

「ゲイザーって、あの魔物は異次元怪物の?」

「うむ。異次元空間に漂う魔物で、召喚主によるか、先ほどの神の代行の下で出現する神気出没で強力な魔物だ。となると…斉藤は確信的な内容を知っていて、消されたとなるならば、一大事だな」

「でも、何故俺達まで消さなかったのだろう?」

「もしかしたら知っている人物であったかもしれないが、知らない事も大事であろうな。そうであろう?神と名乗るものよ」


次郎さんが天に向かって話しかけた時、例の神が声を上げてきた。


”ずぅずぅしいじゃない?亜人魔物で世界が終っちゃった臆病者さん”

「確かに、戦わずに逃げた俺がお前に対して言う権利などはない。だが、何も知らずに巻き込まれた後輩達を含めた俺達がお前に一つ言う権利があり、斉藤みたいに権力を誇示するような連中じゃない。だから、あえて言わせてもらう。どうして俺達を争わせるんだ?」


次郎さんの問いかけに、神から溜息交じりの声が聞こえてきたが、直ぐに返答が帰ってきた。


”はっきり言うわ。あんた達を集団で転送するのは、この世界の住民を増やす事よ。元々が前任者の神が居たんだけどね、どうもそいつが私に丸投げ放棄してとんずらしちゃったのよ。んで、その結果バランスが崩壊しちゃって魔物と人間の人口が激減しちゃったわけ。んで、それを維持するために、私が前にいた世界…つまり、あんた達の現代世界の人間を選別して、人間と魔物に分け隔てながら転送してたわけ”

「ということは、お前の勝手な理由だったわけか?」

”言っておくけど、私はあくまでも転送するのとバランス崩壊の阻止するだけなのよ。さっきの人間だったあいつは、20年前のあんた達の勇者側の連中にこっそり付いてきて、真実を知っていたから、保全のために消去したわけ。もちろん、全部聞いて居たら、あんた達も対象だったわけなのよ。まぁ、今回のはイレギュラー案件だから、処罰は無しにしておくわ”

「そうか…まぁ、斉藤が生きていた時点が問題だったからな」

”あー、それと一つ。そこのトロールキングの奴に言っておくけど、あんた達亜人は魔王を倒せる権利もあれば、人間達を征服できる権利もある。但し、どっちにしても帰れないことは覚悟することね”


その言葉に、俺は激しい怒りが湧き起ころうとしていた。


「なんだと…!?」

”ぶっちゃけるとね。あんたら亜人になるタイプは大抵何処か歪んだ考えを持ってたりするのよ。特に、親が原因で何らかのトラブルを抱えたりとか”

「…否定はしない。俺のお袋が、母親でありながら浮気をやめられずに親父に愛想付かされて離婚し、俺を下宿に捨てて何処かに消えたぐらいだからな。そんな環境で育った人間など、まともなはずは無い」

「錦治君…」

「冴子も、直子も、美恵も、良子もまた、親同士の仲が悪くて心の中に問題を抱えており、加奈子もまた両方の親を亡くし、親戚の人間に盥回しされた挙句に下宿に放り込まれたんだ。こんな環境で歪まない人間など居るか!」


その俺の声に、神がため息交じりながらも返答してきた。


”道理でね。これほど厄介な心の傷があったとはね。おかげで、亜人の割には能力が高いわけね。…仕方ないわね、あんた達E組とそこの先任者達に対する特別警戒処置は解いておくわ。逆にD組やC組の勇者側になった生徒達に悪影響を与えかねないから”

「そうか。あんがとよ」

”ついでに、あんたの場合は特別に教えてやるわ。あんただけの魔法はねぇ。攻撃魔法が無い代わりにに、対象の人間を屈服させた相手のみに同じ亜人怪物に変える事が出来る暗黒魔法が特典に付いてるわ”

「へぇ、何で教えるんだ?」

”あんたみたいなキングクラスがどっかんどっかんと攻撃魔法を使って御覧なさい?あっという間に壊滅しちゃうわ!…まぁ、一応は攻撃魔法あるんだけど、大抵は他の五人と協力しなければ使えないわよ。その代わり、あんたには亜人怪物を作って使役できる権利があるわけ”

「同じゴブリンやオーク、トロールやオーガにか?」

”他にも居るわよ。肌が褐色だけどミノタウロスやケンタウロスみたいな大型や、リリパットなどの小型の亜人にも。但し、相手の同意無しでの怪物化は不可能だから気をつけてねぇ”

「何故教えたんだ?E組の連中である俺達落第者に」

”ぶっちゃけるとねぇ。あんた達の方を頼った方がバランスが取れそうなの。ここまで統率取れた最下級クラスなんて、見た事が無いし、他のクラスの魔物になった生徒連中は、A組の子達以外は皆ビクビクして動けてないのよ。中には、人間を襲えずに餓死して亡くなった生徒とかいたからね”


大体分かった。

恐らくA組の連中は、熟練者ベテラン勇者並に動き、魔物の連中は魔王軍に合流したんだろう。

B組の連中ならば、ある程度は徒党を組んでひっそりとやろうとしてるだろうが…C組とD組の連中は違う。

本当の意味でこいつ等は一般学校の”ゆとり世代”と呼べるぐらいに、まともに塾も通えず、ただ流されるだけで高校まで上がった連中だ。

無論、そんな自分の足で立てない連中などに、いきなりサバイバルをやれと言ったら厳しいだろう。


「錦治君…何か知ってるような顔をしてるが」

「次郎さん。今の学生は、貴方達が知ってるような教育を受けた子供はほぼ居ないと言った方が良いでしょう。そこで倒れて縄で縛られている五人組みたいに、受験戦争等の競争といった教育を受けずに、ひたすらに流れて生きていた何も考えらずに生きてきた奴らみたいな生徒が、今の現代教育を受けた子供です」


その言葉に、次郎さんと隣に居た花子さんは黙ってしまった。

20年前と言えば、まだ学生が盛んだった頃だ。

バブル崩壊後に、就職が困難になり、卒業する前に色々と職を必死で探さねばならない世代だっただろう。

無論、今の俺達もそんな困難な時代でもあるが、次郎さん達の世代の頃と比べたら比ではない。

しかも、崩壊前に名前だけ書けば受かったバブル世代と次郎さん達の氷河期世代と比べたら、今はなりふり構わず職を探せばある時代の人間の苦労よりも厳しさは分かるはずだ…


”まぁ、そんなわけで…なんか時代の荒波とかに揉まれてもなおも動く素質と、私が適当に与えた王の称号を含めるとあんたを移動ボス…つまりは人間側に脅威を与えるレイドボスに変えた方が、何かしらと便利なのよ。どう?リスクに合わせた情報にしては対等な内容でしょ?”

「…妥協しろってか。気に喰わないが、仕方ない…。だが、次郎さん達はおろか、俺達をどうしても帰せないのかよ?」

”それは無理。というより、こっちに来た魔物になった人間ならば、完全に魔物から人間に戻せるけど、半分人間が交じった亜人は戻すのは不可能なんだよね。だから、あんた達が魔王倒して元の世界に帰っても亜人怪物のままなのよね。これも、一定数のバランスが無いと崩壊するから、亜人枠を取り続けないといけないんだし…”

「ふざけるんじゃねぇ!そんな理由で、俺らをゴブリンなどの亜人にしたのかよ!!」

”だからよ!その代わりの権限として、あんたみたいな王の素質のある奴に、同じ亜人に変える力があると教えたの!!…それをしていって、自分達の国でも作って、あとは第二の人生でも歩めばいいじゃない。あんたが同じ亜人怪物となった奴らを保護して、国を繁栄すれば、やられる心配もないし、自分達の技術で発展すれば、あんた達が住んでいた世界と同じ文明を気付けるんじゃないかな”

「…帰れないなら、自分達で作れと?」


なんとも言えん。

現に帰る場所がないなら、自分達で作れ…とはな。

…今反撃した所で、何も変わらないならば、やるしかないな。


「…分かったよ。ならば、なりふり構わずにやっても良いんだな?」

”あー、そこは自由で良いわよ。どうせ、また人間と魔物が減ったり、あんた達の亜人怪物が減ったら補充するだけだから。どうせ、二度と帰れない旅行なんだし…まぁ、私を恨みたいなら恨んでどうぞ。あんたも同じ立場なら、似たような事をしてるだろうし”

「…ちっ、本当に気に喰わないな」

「錦治君。これ以上は無理だ。俺達を含めて全員を亜人から人間に戻って、日本に帰るのは諦めた方が良い。…帰りたかったが、俺も花子も今は死にたくないんだ」

「次郎さん…分かった。神さんよぉ!今は本当に妥協してやる。だが、もし…」

”ふん。私の所まで来てぶん殴ってやるって?やれるならやって見なさいよ。…ただ、いずれにせよ、あっちに居てもあんた達は”

「そんなものはどうでも良い。俺達は、俺達のペースで生きてきた。だから、それを邪魔したあんたには一生許さない。だけど、あんたは意図的な手出しはしない事を言った。その言葉、覚えといてやる」


俺がそういったら、例の神の声がプツンという音と共に聞こえなくなった…


「熱くなって申し訳ない。次郎さん…」

「いや、君の意思の方がはっきり言えたし、代弁してくれた。改めて、ありがとう。錦治君」

「お礼を言うのはまだ早いですよ。これからが本番です…花子さん」

「な、なんでしょう?」

「ちょっと、頼みがありますわ…」


そう言いながら、俺は冴子達の居る例のD組の五人の元へ歩いていった。






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