第9話 初めての亜人化

皆の下にやってきた俺に、冴子が最初に声を出した。


「…全部聞いたよ。私ら、もう戻れないんだね」

「ああ…だが、希望はまだある。それだけだ」

「そう…だね。…本当、錦治って凄いな」

「そうでもねぇよ。…ぶっちゃけると、一番俺が不安だ。あの時にもう戻れない。それだけが不安だ…」


俺のその言葉に、冴子を含め五人とも沈黙した。

何も考えず、自分達のやりたい事をして、馬鹿騒ぎしていた、

あの学生生活に…


あの進学の事ばかりで、それ以外の事を無気力でしか見ていない学生連中の中で、好き勝手にやってきた俺達の世界が…

だが、戻れないならば、自分達で新しく作れば良い。

その為ならば…


「なぁ…一つ聞いて良いか?」

「いや、それも聞こえてた」

「錦治君が、私達を含めた亜人の王になれば良いの…」

「そうだね…錦治っちが纏めて、私らの好みの国に変えちゃば良いと思うよ…」

「…私達も手伝う」

「ええ。私達を見捨てなかった錦治君だからこそ、なれば良いと思うわ。少なくとも、私達は錦治君に命を捧げても良い」

「お前ら…」


予想に反して、改めてこいつ等五人の気持ちに、俺は頭を下げた。


「すまない。俺の我儘について来てくれて」

「良いよ。どうせやる事も無いんだし、今はぷらぷらと旅をして、好きな事をしつつ、良い土地を見つけて、そこで国づくりとやらをやっていこう。錦治」

「そうだな…ありがとう、冴子。加奈子。直子。美恵。良子」


俺がそう言うと、後ろから次郎さん達が歩いてきた。


「纏まったみたいだね。錦治君」

「次郎さん。そちらは?」

「花子と話して、君たちに協力しようと思う。その前に、斉藤の死体を埋葬した所だ」

「そうでしたか…」

「さて、錦治君。君に試練が一つ出来ている。分かってるだろうね?」

「ああ、あれですね…冴子ら、ちょっと下がっててくれるか?」


俺がそう言いながら、後ろに下がっていく冴子ら五人を確認した後、俺は美恵の特性の縄で縛られた、D組の五人組に近づいていった。


「く、来るな!?」

「よぅ、久しぶり、直幸なおゆき。後ろの可愛い子を引き連れてE組抜け出した後ぶりだな。D組の生活は楽しかったか?ああぁ?」


俺が”優しく”声をかけたら、佐藤直幸さとうなおゆきと取り巻きの四つ子姉妹の長女、江崎幸恵えざきゆきえ、次女の智子ともこ、三女の早季子さきこ、四女の智慧ちえの女子四人も「ひっ」という声を上げて、直幸の側によっていった。


一瞬、女子から不快な臭いもしてきたが、あえて言わないで置いた。


「ぜ、全然楽しくなんか無いじゃないか!お前らが好き勝手にやってた所為で、E組脱却してもなお、E組野郎と言われ続けたんだからな!?」

「そうかそうか。だがなぁ、そいつはお門違いだ。お前、D組を纏めようと躍起になっていたが…実際は違っただろ?E組とかD組とかそんなの以前にお前らがどんなに頑張っても、俺達が真面目にやろうが、あの組の連中はお前の言うことなんか聞かないで暴言吐いて愚痴垂れる連中なんだよ」

「なっ…何を…?」

「お前、気付いてねぇのかよ。あいつ等は一度E組になった奴らには、何回脱却しても落ちこぼれという烙印を押し続けるんだよ。格差社会では一度落ちこぼれの烙印を押された奴をしたと見下し、どんなに這い上がろうと落とし続けないと自分らが落ちるからだよ。だから、這い上がる奴を追い落とし、自分の席を守る。そんな連中が見てきたから、俺達は好き勝手にやってあいつらを困らせて居たんだよ。分かるか?」


そういってやったら、直幸の奴が口をパクパクさせながら動揺していた。

それと同時に、江崎姉妹長女の幸恵が目をギッと睨んで反論してきた。


「だったらなんなのよ!あんた達がやってきた事で、どれだけ迷惑をかけたと思ってるのよ!」

「じゃあ聞くが、お前らなんかの努力はしたか?脱却はしても、そいつらを黙らせる様な凄い事をしてきたか?じゃなければ、お前達が幾ら脱却して正論を言おうが、そいつらはお前らの意見を踏み潰して自分らの意見だけを押し付けてくるだけだ」

「くっ…」

「それにな…たぶんお前ら帰る場所なんか無いわ。今頃斉藤が亡くなった訃報が流れ、他のC組やB組の連中の所に逃げ出してるだろう。ああ、この前城に死体搬送された連中はどうなったか?それだけは知らんわ」

「あの三人は…王国の隔離施設に放り込まれた。もうまともな精神をしていない…んで、なんで俺らもが…そう…なっ!?」


直幸が声を上げてる最中に、俺は直幸の横を掠めるように斧を振り下ろし、後ろにあった木を押し潰し、へし折って倒した。


「今から選択肢をやるわ。一つは、人間らしく俺達に殺されるか。まぁ、あいつ等ほどじゃないが、ミンチ一歩手前までは容赦なく殺るがな」

「ひっ…!?」


その言葉に、女子全員が恐怖の余りに何かを出していた…

うん、脅しすぎたのは分かるが、流石にコレは俺も自分でドン引きだ。

その様子から見るに、後ろから七人の冷ややかな視線が感じたが、あえて置いておこう。


「二つ目だが…死ぬ事が無いが、この森のゴブリン達の番になるか。まぁ、コレを選んでも、人間としてはお終いだがな」

「ぐっ…外道が」

「んで、最後の三つ目。コレが一番まともだと思うが、お前達全員を俺の魔法で人間から亜人に変えて、俺達と共に亜人連合の一員になる。それ以外はほぼ自由に行動しても良い」

「…はっ?」

「つまりは、お前達五人は俺達の仲間になれと言ってるんだ。亜人になったら、後は好き勝手に行動しろ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!俺達をゴブリンやオークにすると言ってるのか!?」

「そうだ。上手くいけば、オーク達よりも強いミノタウロスやオーガにする事だって出来るぞ。まぁ、その代償として、神の加護である生き返りは受けれなくなるがな」


その言葉に、直幸五人らは沈黙していたが…

直幸自身から声を出してきた。


「少し…相談させてくれ。それだけの時間は本当に…」

「ああ、良いぜ。但し、逃げ出そうと考えた時点で、最初の一つ目を選択したと認識し、速攻で殺すからな」


その言葉を聴いた江崎姉妹達は泣き出し、直幸が慰める形で、人間としての最後の会話をさせてやった。


その間、俺も冴子らと次郎さん夫婦に顔を合わせて、亜人化を話し合った。


「というわけだ。その魔法は同意無しでは発動しないらしい」

「それにしても、お前は脅しすぎなんだよ…お漏らしさせてどうすんだ…」

「アレぐらいの脅しをしておかないと、心が折れんからな」

「やっぱり、錦治君って敵に回すと怖いね…」

「同感だわ…味方であってよかったと思う」

「…錦治君なら、脅されても良いかな。私」

「美恵…貴方って本当に…まぁ、私も分からないでもないわ」

「正直、すまなかった。反省はしてる」

「して、錦治君。結局彼らをもし亜人に変えたら、管轄は誰に任せるのだ?」

「今の所、直幸をあちらのリーダーにして、残りの姉妹を部下として任せます。あとは直幸を俺が責任を持つ形にしておこうと」

「つまり、第二班という形にするんだん」

「そう言うところです、次郎さん。それに、コレから先、亜人に変えた人間全員を纏めたところで、全員が俺を慕うわけではない。ならば、その中で信用置ける奴をリーダーにして、纏めさせていけば、管理は楽になると思いますね」


俺がそう答えると、次郎さんは「ふむ…」と答え、ある程度は納得をしてくれたみたいだ。


「分かった。でも、君に忠告しておく。群れを作るとなると、確かに班分けは大事だ。しかし、班リーダーだけを信用していてはいけない。中には班リーダーをそそのかして謀反を企てる部下も居るから、そこは気をつけて配慮しなければならない。覚えておいて」

「そういえば、次郎さんはゴブリンを統率してましたからね…分かりました。肝に銘じます」

「うむ。どうやら、決まったらしい」

「その前に、加奈子。花子さん。五人の手当てをしてもらえませんか?」


俺のその言葉に、加奈子はハッと気付き、花子さんも応じるように前に出て、五人の怪我を回復魔法で癒していった。


「美恵。五人分の覆える布地はあるか?」

「…一応、あるわ。でも、何故?」

「変化中に服破けて、裸のままでうろつかれても困るからな。と言う訳だ。俺は後ろ向いておくから、今着てるもの脱いでおけ。…あと、全員分は洗濯して置くから」


直幸と江崎姉妹達は「うげっ」とした顔をしながらも、俺が後ろ向いたあたりで服を脱いでいった。

無論、男女を尊厳を守るために、俺の方は直幸をシーツ状の布で覆い、残りの四人は女六人によってシーツで隠しながら脱いで、全員分の

病院にある患者用のワンピースみたいな服を着せていった。


鎧を除く脱いだ服は、花子さんが持って行って洗うと言ってくれたのでお任せすることにした。


「では、覚悟が出来てるか?」

「ああ。その代わり、約束守れよ」

「分かってる。お前達は付いて来るだけで良い。後は自由にやれ」


そう言って、俺は神が言っていた”俺にしかない”亜人化の魔法を解き放っていった…





具体的なイメージとしては、同じゴブリンやオーガが欲しかった。

だが、それだけでは、何か物足りない。

もっと、戦力になって、便利な種族は無いだろうか…

あっ、乳製品が食いたいなぁ…


「あっ、やべっ、雑念入った」

「おい!?うわっ!!?」

『きゃああぁぁぁ!?』


直幸達が悲鳴を上げた瞬間、眩い光と共に体の変化が起きて行った。



全体的に身長が伸びて行き…


足全体が牛の体毛と牛の引き締まった筋肉質になり…


腕が太く、二の腕まで筋肉質になり…


頭の天辺には太い角が二本生えていった…


なお、女性陣の方は全員貧相だった胸つきが、乳牛の如くに肥大し、体格に合わさったナイスバディーになった。


そして、オプションとして、五人とも全員尾骨部分から牛の尻尾が生えていった…



見事に五人全員、男女の人間から雌雄のミノタウロスになっていった…




「せ、成功したみたいだな…」

「ねぇ、錦治。なんで…あいつ等全員頭以外牛なんだ?」

「…すまん、冴子。発動中に乳製品が食いたいと雑念入ったから…あいつ等全員ミノタウロスになってしまった」

「おまっ!?な、なんて事を…!!?」


冴子の驚愕と同時に、前以上に逞しくなった直幸がドスドスと二本の牛足で歩いてこっちまで近づいてきた。


「おい!錦治!!お前、なんで俺達牛になったんだよ!!」

「お、落ち着けい。顔は前の同じまんまだからまずは確認しろ」

「ああぁ!?…あっ、どうも。雑賀さん」

「良子で良いわ。して、それに映る顔はどうかしら?」


良子から渡された手鏡を見て、ふむふむと言いながら顔をぺたぺたさわり、あとの頭に生えた角と尻尾を触って、足なども調べていったら、何か満足したようだ。


「あー…肌は若干日焼けした色みたいだが、悪くはねぇな」

「だろ?それにな、そのミノタウロスは上位の亜人種だから、人間の頃よりも力があって便利だぞ。あと、女性陣はあれだが…」


そういって、俺と直幸はゆっくりと江崎姉妹の方へを視線を合わせた。



「うわぁ…これ、凄く大きい…」

「幸恵姉ちゃん、そんなにプルンプルンさせないでよ」

「智子姉ちゃんもでしょ?小さいのもアレだけど、大きいのも問題だわ」

「あのぉ…お姉ちゃん達、胸張って痛くない?ちょっと痛かったから、揉んでいたら白っぽい液体が出ちゃって…」


うん、完全に乳牛ホルスタインタイプのミノタウロス亜種だ。

これは言い逃れ出来んな。


「きぃ~ん~じぃ~…?分かってるよね?」


俺の後ろで、冴子がボキボキと手の骨の音を出しながら、俺の方へと黒いオーラを纏って睨んでいた…


その後、冴子にボコボコにされた後、責任とって一人で狩りに行きました。酷い。




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