第10話 料理

結局の所、五人共にミノタウロスに変化してからは、何事もなく馴染ませていた。


直幸は雄のミノタウロスらしく、筋肉を動かしてみたり、持っていた銅の剣よりも重たい大木の棍棒をぶんぶんと素振りをして、鳴らしていっては納得していた。


一方、江崎四姉妹は乳牛ミノタウロスでありながらも、雌のミノタウロスと同じ筋肉を付いている為、長女と次女の二人は同じ様に筋力を試したり、姉妹で大人しい三女と四女の二人は美恵と同じく裁縫を学んだりして、小さくなった自分達の服を補修して着替えれる様にした。


なお、長女の幸恵と次女の智子の剣士鎧は、完全にサイズが合わなくなり、良子に上げて青銅の塊にしてもらった。


「青銅ね…強度には申し分は無いけど、この量じゃあ今一ね…」

「どうせなら、直幸の鎧の補修用に回したら?あいつも同じ青銅の鎧を着込んでいたから、たぶん二人ぐらいで丁度良い感じになるかと」

「そうね。分かったわ、錦治君。試してみる」


そういって、良子は直幸の鎧を改良するように、火炎の魔法で使いながら、鎧を叩き始めていった。




一方、俺の方は…

先ほどの冴子のしばかれた痛みを抑えながら、狩猟してきた大量の羽鳥と兎…あとは川に入って魚まで採取してきた奴を捌いていた。


「しかしまぁ…いい加減、塩気のある食い物が食いたいな…」

「あんたねぇ…あっ、そういや、佐藤達の荷物、見てなかったな」

「ああ、そうだな…何か調味料があるかもな」


そういって、俺は隣の冴子を置いて、直幸の所へ向かった。


「んっ?どうしたんだ?」

「そういや、お前達の荷物。まだ見て無かったよな?」

「そういえば、そうだな…」

「なんか、調味料は無いか?塩なら何でも良い」

「…ああ、塩ならあるんだが」


そう言いながら、直幸は気まずそうな顔をしながら、自分の荷物とは違う麻袋を手に取り、中から拳台の岩塩が転がり出して来た。

正に上出来だ。


「実はなぁ、この森の外にある近辺の村には岩塩が取れてな。丁度買ったのは良いんだが…叩いても壊しにくいし、細かく出来なくて使いもんにならんかったんだよ」

「上出来じゃねぇか!あと、岩塩はノミと金槌がないと砕き難いほど硬いんだよ。ちょっと貸してくれや」

「別に良いよ。全部やる。その代わり、今飯作ってるんだろ?」

「そうだ。今から美味いもんを作ってやる。待っておれ」


そういって、俺は直幸から岩塩を貰い、すぐさま岩塩を使い始めた。


早速、俺は岩塩を布袋に入れ、その上に別の麻袋の中に入れ、良子の余っていた鉄の塊の下地にし、金槌で叩きながら飛び散らずに割った。

そして、大体細かく砕けた岩塩のかけらを、密かに作っていた花崗岩のすり鉢へと放り込み、更に砕いては削り、砂上の塩を作っていった。


その様子を、冴子ら五人と次郎さん夫妻、そして直幸ら五人も声を上げて感心し、細かく砕いた砂塩を、直子が見よう見まねで作った瓢箪型の木の実の容器に入れていった。


その後は劇的にやっていった。


先日の羽鳥のグリルに全体的に塩を振りながら焼いて行き、


加奈子がやっていた香草の肉炒めにも塩を少量入れ、


最後の内臓の煮込みにも塩を入れながら味をつけて、加減しながら煮込んでいった…


そして、全員分の更に盛り付けをし、並べていったら…


完成した。


簡易的ではあるが、完全なグリルチキンと、野菜炒め、そして内臓スープの完成で、やっと人間時代らしい料理になった。


ついでに、魚は開きにして塩振って串刺しにした。


早速、俺は先日のリベンジとして食事をありつけてみた…

美味い。

若干グリルチキンに塩を使いすぎたか、実際にこれぐらいの味付けが一番好きだった。

約三日ぶり、ジャンクフードほどの味付けではないが、これほど塩気の効いた食事は久しぶりだった。


同時に、皆も美味い美味いと言いながら、冴子ら五人や次郎さん夫妻もおかわりも出るほど美味く出来ていた。

やはり、魔物すらもいない時代の、先人達が塩を使い始めたのは偉大であるわ。


それと同時に、直幸らミノタウロス五人達は…泣きながら飯を喰らい、完食していった。


「美味しい…」

「こんなに美味しい料理久しぶりに食べた…」

「ああ…ここの国の人間の料理よりずっと美味しい…」


幸恵、智子、直幸の三人はそう言いながら、じっくりと味をかみ締め、残りの早季子、智慧も無言でありながらも泣きながら味わっていた。


「…なぁ、辛い事があるなら話してしまえや。ここにはもう、お前らを馬鹿にする奴はいない」

「い、良いのか…?錦治…?」

「ああ。どうやら、そっちの事情とやらは見えてきそうだからな」


改めて、俺達は勇者側になった奴らの境遇を、やっと聞く事が出来た。





この世界の国は幾つがあり、大半の国が人間が治める国であるが、その国によって、A組からD組の勇者組みは割り振られていた。

A組の赴任した国は一番経済力があり、亜人と魔物を有効活用するぐらいに寛容で、割りかしらと動きやすい国であるとか。

その次のB組の赴任した国も、A組の国ほどではないが、それほど苦労をする国でもなく、割と勇者に対しては優遇だったりする。


対する、C組とD組の赴任した国…つまりこの森を含めた領土を管轄する国は一番貧乏ながらも、圧制でかつ魔物や亜人ところか、余所の人間すらも冷遇するほどの排斥主義の国であった。

しかも、勇者だからという理由で無理難題は押し付けながらも、給金は余り出さないどころか、満足な食料を支援しないほど問題であった。

なお、失敗して蘇るたびに罵倒はされ、冷や水ぶっ掛けられながらもう一度旅路に出されるそうだ。

なお、先ほど言っていた例の悪女三人は、勇者続行不能という事で、王の機嫌を損ね、王宮魔術師達の実験台にされたそうな。


一方で、近隣の村々は酷い有様であった。


王からの重税により住民の生活は困窮、家財道具から食材まで一切の生活物資を勢として差し押さえられながら、昔の歴史の教科書にあった帝政ロシアにある農奴(奴隷農民)と同じ冷遇をさせれていたとか。

無論、こんな村の状況だから、宿に泊ろうにも泊れず、味の無いパンをずっと食わされては満足に寝る事も出来なかった。

だから、出来る奴らの大半はこの国から脱出して別の国に逃げ出したり、もしくは例の悪女三人らは夜盗みたいな感じで亜人怪物を襲っては、食料などを強奪していたそうだ。

なお、斉藤は担任放棄が出来ない呪いの関係で、残っていた直幸らと悪女三人を意地でもバックアップして、共に逃げ出そうと画策してたらしい。


改めて聞くと…腹立たしさが倍増してきた。


「ひっでぇなぁ…その王様」

「よく、圧制をする王様って話は聞くけど、コレは酷いと思うの」

「ていうか、何処かの北の将軍様並に酷いじゃん」

「…民衆を愚弄にする王は、滅びがあるだけ」

「そうね。でも、辺境の村の人までコレほど圧制に追い込むなんて、相当なやり手かもね…」

「だな。少なくとも、食料用の魔物が減ったのは、恐らくは近隣の村人が食糧確保のために乱獲したからだと思う」

「そうだわ。きっとそう…錦治君?」


七人の談義の中で、俺は静かに考え…そして、一つの答えを出した。


「…王国をぶっ潰す」

「ま、マジかよ…」

「き、錦治君…流石にそれは厳しいよ」

「そ、そうだよ錦治っち!相手は国の王様だよ!軍隊の数がどれほどなのかわかんないよ!!」


「今すぐとは言わない。亜人の数を増やして、攻め入る。それだけだ」

「…ということは?」

「亜人化の魔法と…亜人の繁殖力で増やすつもり!?」


「そうだ。それ以外に、俺達も力付けてやられない体を作るのだ」

「でもね、錦治君。…途方も無い時間になるかもしれないよ?」

「それでも、良いのかしら?」


「元より、帰れないんならば建国でもやり遂げろと神が言った。ならば、俺達と他の亜人怪物を集め、国をぶっ潰して新しい国作りをしてやろう。それが出来んならば、今の王国の中心を潰すだけだ!」

「出来るのか、錦治…」

「出来る出来んじゃねぇ。出来るようになるまで、生き続けるんだよ」

『よ、横山君…』


全員から咎められようとも、頑なになる俺の意思に…ついに皆が心を折られ、溜息付きながら返事を返してきた。


「分かったよ…ここまで大馬鹿な奴だとは思わなかったが、これも腐れ縁の幼馴染だ。最後まで付きやってやるよ」

「冴子…」

「うん、確かにそうだね…何処かに行って放置するぐらいなら、誰かのために動く錦治君ならほっとけないもんね。私も微力ながら…頑張るの」

「加奈子…」

「はぁー…姉御と加奈っちも物好きねぇ…。でも、錦治っち。ちょっとばかし、頭の悪い私でもカチンとくる事もあるんだよ。だから、その

抗争、付き合ってあげるんだからね」

「直子…」

「…争いは駄目。でも、放っておけない。錦治君が痛むの、もっと駄目。だから、私も手伝う」

「美恵…」

「正直ね。錦治君が暴れたいなら一緒に暴れてあげようと思っていたけど、流石にこれは私個人としても許せないわね。錦治君に出会えるまでは、ずっと縛られていた私自身として、人の自由を束縛する権力者なんて不用だわ。改めて、協力するわ。錦治君…」

「良子…お前まで」


この五人ならば、ここまで同調するとは思わなかった。

そして、次郎さん達も…


「正直、国を変えようと考える子を見るのは久しぶりだよ。かつての俺達が住んでいた時代の日本でも珍しかったのに、今では更に希少な考えだよ。最後まで見てみたいものだね…」

「そうね…久しぶりに、私も熱くなってきたわ。付き合ってあげるわ」

「申し訳ないです。次郎さん、花子さん…」


と、ここまでは来たんだが…残りのこいつ等は…


「…錦治。君達の自由さはある意味羨ましい。何時も大層な事を言って本当にやり遂げる君の姿に羨ましいと思う。だけど、俺達もそう出来るならば…付いて行きたい」


直幸の言葉に、江崎四姉妹も同調するように頷き、皆俺の方を見ていた。


「ならば、付いてくるか?」

「無論だ。そして、改めて君を追い越したい」

「やれるもんならやってみろ。牛人の王に成れる位にな」


そういって、俺…横山錦治は、元D組トップの佐藤直幸の手をがっちりと掴んだ。






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