第11話 男達の話と女達の欲気

その日の晩、焚き木の火守りは俺と直幸、そして次郎さんの三人でやっていた。


「男三人で火守りとはね」

「うん。しかも、デカイ三人がいるとな」

「野生の魔物達はまず襲ってこないだろうな」


実際にそうであった。

暗闇の中では殺気立つ魔物達で多かったが…

オークメイジ、ミノタウロス、そしてトロールキングの、並みの魔物では太刀打ちできない上位種の亜人怪物が三匹も居れば、襲いたくとも襲えないだろう。


ちなみに、女性陣は全員荷車の中で熟睡。

特に、江崎四姉妹に到っては、バスのシートを改造しただけで作っただけのベッドであるが、久々の柔らかい寝床に安心して、死んだように眠っていた。

…寝床の話を聞いただけで、本気でこの国の情勢に腹が立ってくる。


「…本当はな。俺達が乗っていた旅行バスが動くんだったら、全員乗せて余所の国へと逃げていたんだが…無理だったな」

「いや、その様子だとすると、虎の子の騎士団とかに囲まれて、強制連行されていただろうな。昔の世界史で学んだ」

「そう…だな。斎藤先生は、全員を抜け出す力があればよかったのに」

「…直幸君。あいつにはそれほどの器な男ではないよ。あいつは保身のためなら友人すらを突き落とす男だ。20年前でも、あいつは勇者側に選ばれたのにも拘らず、一人で逃げ出し、戦わずに逃げ回って、その後に太い面をしてのうのうと現れて現世に帰ったと、風の噂で聞いた。今回の担任に掛けられた呪いが無かったら、真っ先に生徒を置いて逃げていたと思われる」

「次郎さん…」


次郎さんの話を、直幸はずっと耳を傾けてる合間に、俺は焚き火に木をくべりながら、考えていた。

ああいう大人には、絶対になってはならない。

俺のお袋や、養育費をやる代わりに親子の縁を一方的に切ってきた、資産家であった親父みたいに。


正直に言えば、俺達の周りから知っている奴等の親は大半が屑であった。


己の保身ばかりで、他人のことは一切触れず、ただ自分のために生きていくこの社会を作っていく屑に。


今ならば、ぶん殴りたい気持ちだ。

だが、そんな常識が、ここでは通用しない。

あるとすれば、ただの弱肉強食。

力が弱いものが、強いものに食われる。

しかし、その先は、強いものが弱いものを守らない。

ただ、食って散らかすだけの世界。


だがしかし、ここではその間違った弱肉強食を覆せるチャンスはある。


そのためには力をつけないと。

それは胸に思いを潜めながら、火に木をくべていた。


「そういや、直幸君。一つ質問だが…」

「なんでしょうか?」

「彼女達とは、既にやったか?」


次郎さんの発言に、俺と直幸は飲んでいた水を噴出した。



「なっ!?なっ!!?」

「何を言ってるんです!?うちらはまだ学生ですよ!!?」

「はっはっはっ、まさかそこまで慌てふためくとは、初心だな。俺達学生時代の奴らは、異世界に来たとたんに、宿屋でやり始めた連中だっていたと言う話だ。今の学生は中々身が堅いな」


次郎さんのその言葉に、俺達は少し固まってジト目で見てた。

昨今、草食系とかさとり世代とか言われているが、正直に言えば俺達の世代は身構える事が多い。


経済面とあるが、男女と付き合って、子供生んで育てるのにも凄く手間がかかるこの時代。

誰が好き好んで付き合っていけるかなど、考えたくは無い。

どちらかといえば、友人感覚で性無しで付き合いたい方が普通だ。


「ただまぁ、俺から言わせるなら、そろそろ気持ちを受け答えた方が良い。何時までも、彼女達が待っていると思っていたら、向こうから攻めて引っ付きたいほど、亜人達の性欲と言うのは凄いからな。今は亡き妻で、花子の親友だった恵美も、若い頃は俺を無理やり襲ってやられた事があったからなぁ。はっはっはっ」

『…マジですか』


いやはや、亜人の性欲とは恐ろしい。

いや、むしろそれは…子を残して子孫を繁栄させ、種族を拡大したい種の本能だろうな。


そんな中、最初はたじたじであった直幸だったが、何かを悟ったのか立ち上がっていった。


「俺、幸恵らに気持ちぶつけてきます」

「おぅ。若いのは今の内に気持ちをぶつけておけ。年老いてからは大変だぞ。俺と花子みたいに」

「ははっ…それじゃあ、錦治。明日な」

「ああ、お休み…」




そういって、直幸は牛の尻尾を上げながら、荷車の中へ入っていった。

同時に、次郎さんも立ち上がっていった。


「さて、そろそろ俺も花子の所に戻ろう。ああ見えても、寂しがり屋であるからな」

「おやすみなさい、次郎さん」



俺がそう返すと、次郎さんは無言で手を振り、荷車の花子さんの居る側に入っていった。


さて、あとは一人で火守りを…


「…錦治君♪」

「うおぅう!?」



まさか、俺の後ろには…美恵が立っており、俺を抱きしめてきた。

しかも、その大きくなった豊満なアレを、背中に押し付けながらである。


「み、美恵…あ、当たってるんだが…」

「…当ててるの♪…錦治君、何時まで立っても、襲ってこないし、さっきの次郎さんの話、聞いたら、収まらないの♪」


やばい、凄い冷や汗が掻いて来た。

だが、勇気を振り絞って、俺は顔を後ろに向けたら…


そこには、美恵以外にも他の四人も起きて俺を見ていた。

しかも、目が人間の時のアレではなく、完全に雌の野獣の眼光で。


「お、おい…待て。まだ俺達は未成年だぞ…」

「…関係ない♪もうすぐ、私達大人♪」

「というより…私ら全員ずっとお預け喰らってるんだぜ…♪」

「錦治君…♪もう待ちきれないよぅ…♪」

「観念するね、錦治っち…♪」

「私ももう我慢の限界だわ♪花子さん以上の情熱と熱情を、五人全員に与えてもらわないと…ねっ♪」


「ねっ♪じゃねぇよ!!お前ら落ち着け…アッー!!!」



遂に、俺は一線を越えてしまったようで、その後の意識がなかった。

ただ、意識が消える前に、荷車から直幸と次郎さんの悲鳴も聞こえてきた…








朝…


森の鳥達の囀りと共に、俺が目を覚ました。

…焚き火が消えて、灰だげが残っているのは記憶にあったが、俺自身にシーツが被せられ、シーツの下は何も穿いてない状態であった。


同時に…俺の後ろには、シーツに包まれて幸せそうな顔で寝てる冴子ら五人も寝ていた…無論、シーツの下はアレである。


「…やってしまった」


いや、戻れないから別に気にしないんだが…

気持ちの問題としては複雑であった。

一度経験をしたら、やめられないぐらいに欲することに。


「…ん?錦治君、おは…キャ!?」


最初に起きた加奈子は、自分の身の状況をに驚き、シーツで全身を隠すように覆っていった。


「…覚えてないのか?」

「…うん。美恵さんに進められた、お香を嗅いだら…」


嫌な予感がした。

同時に、冴子、直子、良子の三人も起きて、身の境遇に気付いて体をシーツでバッと隠し、俺の方へジト目で見ていた。


「…お前らもか」

「…変態」

「…姉御、その言葉はないと思うんだけど。でも、錦治っちたら大胆だわ」

「…皆をお嫁にしなきゃ、恨むわよ」


どうやら、三人とも記憶があるようだ。

ソレと同時に、俺は思わず五体倒置で土下座していた。


そして最後に、美恵が起きてきて、こういってきた。


「…計画通り♪」

『本当に、お前の仕業か!!?』



全員一同、揃えて声を上げていた。


だが、美恵も先ほどからのニヤケ顔から、真面目な顔をして俺達にむけて言ってきた。


「…でも、錦治君と皆。そろそろ覚悟決めないと。…私達、これから戦争をするかもしれない。…そうなったら、錦治君は跡継ぎを、他の皆は錦治君の子供を守って、繁栄させないと」

「うっ…否定はしない」

「…でも、それとは別に、私今日危険日だから、宜しく、パパ♪」


そういって、にたぁと笑って朝の準備をする美恵に、冴子と直子が呆れながら俺の肩を叩き、加奈子と良子の二人は顔真っ赤のまま頭をフリーズさせたままであった…


良いのか?こんなんで…








なお、朝起きてきた直幸の顔は、ミノタウロスとは思えぬぐらいにげっそりとなっており、逆に江崎四姉妹は肌が艶々に。

そして、次郎さんと花子さんの二人は相変わらず賢者顔であった。南無








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