第12話 乳製料理作り
翌朝。
俺達は朝食を済ませて、やっと森の外へ出発する事にした。
草食竜の荷車…竜車の中には荷物だけを載せて、一番軽い直子を除いて、全員徒歩で移動する事にしていた。
…流石に、大型亜人を含めたの面子全員が載せて移動出来るほど、草食竜には力がなかったからだ。
ただ、歩くことで筋力が付く分、何かしらの運動にもなるからな。
ちなみに、直子は歩かせると酷なのもあるが、以外とこの草食竜は直子に懐いていたので、調教を含めて任せることに。
「そういえば昔読んだ小説では、ゴブリン族はウルフライダーと言われて、狼を乗りこなして戦うほど、動物の扱いには得意と聞かされていたな」
「へぇー、そうなのか。…直子?そいつはどうなんだ?」
「うーん。わりとのんびり屋だね、姉御。今なんかも『皆で何処に行くのー?』なぐらいな気持ちで歩いてる感じかな」
「はえぇー、分かるもんだなぁ…なんか、私にも特技があれば良いんだけどなぁ」
「そのうち見つかるぞ、冴子。基本、オーガは戦いの中で生きる戦鬼だから、焦る必要はない」
「そうか?…私としては、不安なんだがな…」
そういって来る冴子に、俺はフォローを入れていた。
「万が一、俺が強くても、孤立無援で敵陣に乗り込んで囚われた時、その救出できる面子として主戦力になるのは、お前と直幸の二人だ。俺のトロールの種族や、直幸らのミノタウロスの種族の二つは、基本は強いんだが、その分速さが犠牲となっている。その代わりとして、力は俺ら二種族よりかは劣るが、スピードの速いオーガによる速攻で、相手の敵陣に乗り込んで無双する事も可能だ。それぐらいの汎用性という物があるんだよ」
「そうか…って、佐藤。お前何飲んでるんだよ?」
冴子の言うように、直幸は若干げっそりとなりながら、木のコップに入っていた牛乳を飲んでいた。
「…見ての通り牛乳だが」
「飲みすぎは体に毒だぞ…」
「と言ってもな…今日の朝起きてから大変だったんだぜ。幸恵ら四人とも胸が張り過ぎて痛いと言って、ずっと搾ってあげたんだから…」
そういって、その話を聞いてた江崎姉妹を見てみると、褐色の肌ながら顔真っ赤になって下を向いていた。
原種のミノタウロス雌がいない現状、この四人を攻める事が出来ないし、むしろミノタウロスに変えた俺に責任があるからな。
そういえば、乳製品のチーズは、塩があれば出来るんだっけか?
…おっ。
「なぁ、江崎ら。直幸。今日絞った奴はまだ残っているか?」
「んー…一応、雑賀さんから貰った寸銅鍋に溜めているかな」
また、余らせて鍋にしていたのか…
だが、好都合だ。
「だったら、今日の夜余った分はくれないか?ちょっと試したい事があるからな」
「…もしかして、チーズでも作るつもりか?」
「正解だ」
その言葉に、冴子ら五人、次郎さん夫妻、そして直幸ら五人全員が目が点になって驚いていた。
「正気か!?ミノタウロスの母乳だぞ!?」
「見方を変えれば、ミノタウロスの母乳は牛の乳そのまま、むしろ、四足の動物の乳ならばなんでもチーズにすることだって可能だ。美恵、今ある木の実の中で、レモン並みの酸味が強い奴なかったか?」
「…一応、あるわ」
「OK。上出来だ…後は、生クリームがあれば十二分だが…今回は無しで作ってみようか」
その言葉に、他の全員から空笑いの声が聞こえていたが、そんなのは気にせず、俺達は難なく森の先に進んでいった…
夕飯もとい晩飯…
早速、実践する事にしてみた。
「して、どうすんだよ…」
「とりあえず…これ、四人分全部混ぜた奴なんだよな?」
「ああ、そうだが…?」
寸銅鍋に入ってたミノタウロスの乳…通常の牛のホルスタイン種で約20~30リットルに対し、どう考えても2~3リットル。
それが四人分だから、大体8~12リットルか…
これが、原種のミノタウロスだったらもっと凄い量になるかもな。
「まぁ、まずは焚き火の火で煮詰めてみるか」
「全部か!?」
「あのなぁ…生の牛乳は加熱殺菌しておかないと、腹壊すぞ。それにさっき…お前が気分悪くなっていたのは、生のままで飲んでいたから生クリームに分離してない原液を、そのまま飲んで気持ち悪くなってるだけだからな」
その俺の言葉に、「何で知ってんの!?」という顔された五人のミノに、冴子が気付いてフォローしてきた。
「…もしかしてさぁ、錦治。お前、小学校のあの事件を覚えてたのか?」
「…あれほどインパクトのある事件はなかった。酪農への見学旅行にて、当時のある馬鹿がこっそりと加工してない牛乳を水筒に詰めて、飲んで腹壊してトイレで爆発した事件を」
「…うわぁ。あれか、錦治っち」
冴子、直子の二人は思い出したようだ。
…正直、あれ以上思い出したくない事件は早々にない。
当然、そいつはマジで説教された上に、当分あだ名が○○○マンだったからなぁ…マジ迷惑。
「そんなわけで、搾りたてならば腹は早々に壊さないが、時間たった奴は一度は殺菌をしておかないと、乳の中にある雑菌と油分で確実に腹を壊す。だが、鍋で煮込む場合は弱火で長時間煮込み続けないといかんからな。今度、何か入れる容器を作らないとな…」
「して、横山君。今回はチーズを作るんだよね?それからどうするの?」
「そう急かすな、江崎。とりあえずは、今回は塩と酸味の強い果実でなんとかしてみるか…本来なら、レモンがあったら簡単に分離するが…」
昔、一回試した事がある方法で、俺はそのチーズ作りをやる事にした。
最初は鍋に入れた乳を、大体60℃から70℃…鍋の肌部分と乳の境目が小さい泡でプツプツ出るぐらいにまで暖め…
大体そこまで加熱したら火から離し、美恵から貰った酸味の強い果実を絞った果汁を鍋に入れ、素早くかき混ぜて放置。
して、しばらくしたら…もろみみたいな沈殿物と水分が分離してるのを確認し、綺麗な布地を別の鍋に蓋する形に被せ、先ほど分離した乳を布越ししながら集める。
布に残った白い物体を、更に別の器に入れて、塩味をつけるために岩塩をほんの少量だけ入れてかき混ぜ、完成。
して、完成したのが…ミノタウロスの乳で出来たカッテージチーズの完成。
塩味にしたのは、元々チーズ=塩気がある俺のイメージからである。
「って、本当に出来上がった…」
「本来なら、この状態ならば塩をかけないで、更に押し固めてから堅くなった所に塩水に漬け込むことで、よく外国で見かけてるあの丸くてでかいあのチーズになるんだ。まぁ、そっちになると乳酸菌とレンネットと言う凝乳酵素を入れないと駄目なんだが…」
「あっ、やっぱ酵素が必要なのね…」
「そう言うことだ、良子。あと、塩振りかけたのは、中の水分を更に飛ばしておく意味も込めて入れてた。あと、俺自体がチーズは塩辛いというイメージがあるから。ちなみに、天然のレンネットは、牛以外にも羊や山羊の複数の胃の最後部分とかにあるから、普通ならその胃袋を乾燥させて、そっから抽出する感じにやるかな…まぁ、大雑把なチーズの作り方としてはこんな感じだな」
「…他にも、作れるチーズはないの?」
さり気に美恵が聞いてきたので、俺は少し考え…思い出した。
「一応、コレとは別のチーズの作り方として…昔、聖徳太子が愛用して食べていたと言われる
「蘇?」
「もしかして、錦治君。君はまさか…?」
次郎さんの疑問に、俺は無言で答えて、次郎さん達二人は口を開けてた。
うん、中学の日本史で、アレだけの情報だけで実践するアホなんて、早々にいないだろうな。
無論、俺の場合は、塩で煮詰めてから捏ねた後に、冷やして保存をしていたんだが…
「とまぁ、そんなわけで…即席手抜きだが、チーズの完成だ。余った分はちょっと色々試しておくわ」
そんな疑問顔をする皆の中を余所に、俺は出来立てのチーズを口に入れてみた。
…ミノの乳からすれば濃厚だが、やはり薄味だな。
あと、やはりチーズ独特の臭さがあるから、改良してみようか。
「…食えない事はないが」
「塩気がない方がいいかも知れない」
「うーん…なんか、パンか何かに挟んだ方がいいかも」
「…何か飲み物が欲しくなる」
「たぶん、大人ならお酒が欲しくなるかもね」
五人とも、そんな感想で返してきて…
「うん、これは葡萄酒あたりが欲しくなる味だ」
「あと、臭いさえどうにかすればいけるわね」
次郎さん夫妻も、満更でもなさそう…
「…うん。牛乳飲み続けるよりかはマシだな」
「うーん…」
「自分で搾ったお乳で出来たとはいえ」
「なんか複雑な気分だね」
「でもまぁ、捨てるよりかはマシだよ」
直幸と江崎姉妹もなんとかいけそうだな…
とまぁ、乳製品関係はこれで大丈夫だし、後は他に食料を考えておかないとな…
羽鳥と兎の肉を干し肉に熟成させるのも、この先の長旅には厳しいし、何より野菜分が欲しい。
…森から出たら、香草以外の食べれる植物を美恵と共に探そう。
そう思った俺は、森を出る前の一日の夜を明かした…
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