第7話 装備面、そして次の襲来

まず最初に、俺と冴子の二人はがっちりと装備を付けていった。


冴子は先ほどの胸当てに加え、両腕に動きやすい鉄製の籠手と両足に鉄の具足を嵌め、軽装鎧みたいな格好をしていた。


逆に、俺は上下タイプの皮の鎧に、冴子と同じ手足に鉄の防具、ついでに体の半分を隠せそうな、大きい木の盾を貰った。


「ごめんね、錦治君。色んなものを作っていたら錦治君用の鎧が完成できなくなったの。代わりにその盾で何とかして貰えるかな?」

「いや、上出来だ。これなら防げそうだ」


その代わり、俺と冴子の二人にはそれぞれの武器を渡された。

盾を持ってる俺には片手でも扱える手斧を持ち、両手が開いている冴子には同じ身長ぐらいの長剣を渡された。


一方、直子、加奈子、美恵の三人には、次郎さんが改めて持っていた魔力を高める魔法石を幾つか持っていたので、その石をベースにした杖を携え、次郎さんと花子さんに教えてもらった魔法で援護。


最後の良子は、何か別の発明をしていたらしく、怪しい笑みを浮びながら手製の弩を構えていた。





森の茂みの奥から、昨日の悪女勇者三人とは比べ物にならない青銅の鎧を着込んだ戦士三人、まともそうなワンピースローブを着こなした魔法使いの二人合わせて計五人組の生徒が、こちらに向かってきた。


…あいつら、D組の中で上位成績者の連中だな。

男のアイツは、D組の中で一位の奴で、あのクラスを纏めていた奴だ。

そして、その周りにいるのは、取り巻きの女子四人で、うち二人は魔法使い、残りの二人は簡単な鎧とスカートといった、如何にも女剣士系勇者と呼ぶに相応しいぐらいの分かりやすい装備だった。


…しかし、あいつらやる気があるのかと言いたくなった。

実を言うと、昨日レベル上がったついでに調べたのだが…

どうやら、俺はレベル1上がると凄く体力と魔力が上昇していた。

現在は体力が1600、魔力が1000のどう考えてもボスクラスだ。


その事を話した次郎さん(レベル28)花子さん(レベル30)に話したら

物凄く驚かれていた。

本当、トロールキングとは恐ろしいものだ。

原種のトロールキングとあったら警戒しなければ。


一方、俺以外の皆も頑張ってレベルを上げており、加奈子は20、冴子は21、直子は脅威の30、美恵は22、良子はトップの36になり、全員体力が300、魔力が200以上になっていた。


おかげで、魔法戦になっても困らないだろう。


対するあいつ等は…


「ねぇ、錦治っち」

「なんだ?直子」

「あいつ等、マジふざけてるよ。全員レベル5」

「…よく分かったな」

「次郎さんから教えてもらった分析アナライズ魔法で見たんだけど、本当に酷いレベルだわ。しかも、経験値も少ない」

「下手すれば、出遅れ組みかもな」


大抵、こういった集団による班行動で、よくあることなのが…先にフライングしてやらかす側と、普通に計画通りにやる側、そして、計画を練りすぎて動けずに半日過ごしてしまって出来ない側の三つだ。

…そして、こいつ等は一番最後の半日どころか二日過ぎてやっと村を出たレベルの連中だと思う。


「なぁ、次郎さん。人間の城側にいる魔物って、何か凶暴な奴とか居ますか?」

「居るとすれば、群れからはぐれた単独ゴブリンや、草食の大型虫ぐらいだと思われるな。大抵、この森に住むゴブリン達よりも弱い」

「そうでしたか…ならば、先手必勝だな」


と、俺がそう言いながら前に出ようとした時に、直子が服を引っ張って俺を制止してきた。


「どうしたんだ?」

「…錦治っち。何か嫌な予感がする。もしかしたら、別に勇者がいるかもしれない…」


その言葉に、俺の脳裏に何か走った。


昨日の次郎さん達への勇者の襲撃。


昨日の悪女三人の低レベル。


そして、今日の五人の低レベル。


その瞬間、俺は完全に悟った。

敵はまだ何処かに居る…


が、同時に良子が素早く行動を起こし、直子に問いかけてきた。


「直子。方角だけでも良い。あの五人以外に何かいないか調べて」

「う、うん分かった…」


良子の言うとおりに、直子が索敵魔法を使い、辺りの生命反応を探知していった。

そして…


「こっちの方角よ!良子っち!!」

「…いけぇ!!」


良子の弩が、火薬の爆発と共に玉が発射され、玉の中に蓄積された風の精霊石が炸裂し、隠れていた人物を当てていった。



「うわっ!?風精霊シルフの追尾弾だと!?」


良子の弩の風精霊弾によって木から落ちてきたのは…D組の担任で、俺達のかつてのE組の担任だった。

そして…


「随分と優男になって分からなかったが…よくもまぁ教師になったじゃないか…斉藤。20年前俺達を追い落として、のうのうと帰れ、人生の謳歌を歌ってたそうじゃないか」

「き、貴様!次郎!!花子達と共に消えたんじゃなかったか!?」

「おかげさまで、妻の花子とは一緒に別行動に居たんだよ。よくも俺達の巣を強襲した挙句、恵美を殺しやがって…」


そう言いながら、次郎さんが力いっぱいなって、杖をへし折りそうだった所を、俺が次郎さんの肩を叩き、静止した。


「錦治君…」

「悪い。次郎さん…ちょっと、尋問は任せてくれや」


そういった瞬間、俺はD組担任の斉藤の足を、踏み潰した。


「いぎゃああああああ!?」

「わりぃ。加減間違えて足の骨粉砕してしまったわ」

「錦治君…改めて、君の性格は性質が悪いね」


次郎さんが飽きれながら俺に問いかけてきたが、まぁこれは性根がこんなもんだから仕方ない。

隣に居た冴子が「あいつ、喧嘩腰になると、ああなるから」と言わんばかりに顔を横に振っていた。


同時であるが、例の五人組の生徒達がやってきたので、俺は冴子達に指示しておいた。


「冴子、お前が指示取りながらそいつ等を相手してくれ。俺はこの先公を締め上げて、色々とお話したいから」

「…分かった。直子、美恵、手伝え。良子と加奈子は支援を頼むわ」


冴子の返事に皆頷き、五人組の勇者生徒に向かって、一斉に襲い掛かっていった。



一方、俺と次郎さん、そして花子さんの三人で、この担任元勇者を生かさず殺さずの領分で徹底的にボコり続けた。

特に、花子さんが振り下ろす鉄の杖が、無言の怒りが込められるほど骨が砕けようとも振り下ろし続けられていた。

大事な女親友の息子と自分の子供を殺された怒りと共に。


同時に、過剰に殴りすぎて死なれては困るので、適度に痛めつけては花子さんに回復をさせて、もう一度殴っては回復の繰り返しを続け、やっと吐かせる事に成功した。


「あ、ああ、そうだよ!俺があいつ等に代わってお前ら魔物を狩ってレベルを上げさせていたんだよ!!」

「そのために、数十匹も居たオーク達やゴブリン達を殺したわけか。しかも、かつてのクラスメイトとその子供らを」

「何がクラスメイトだ!お前ら怪物になった奴らなんざ知らねぇ!!大体俺は反対していたんだ!今回が内の高校に選ばれていたなんて!」

「選ばれた…?」

「そうだよ!お前らみたいな屑と天才の混合した連中と、特待の差が激しいほど、この世界の神様の馬鹿が選んで来るんだよ!!そして、その度に修学旅行という名の自動転送をさせてかき集め、自分の娯楽目的で俺らをk」


その瞬間だった。

D組の担任の斉藤が、いきなり開いた異次元空間のゲートから出てきた大きな一つ目と触手の目玉が付いた怪物ゲイザーが現れ、斉藤の頭を一気に喰らった後に消えていった。


”だめじゃなーい。ネタばらしをしちゃったら、というわけで、ペナルティーとして消失ロスト刑に処しちゃうね。あっ、それとそこの貴方達も気をつけなさいねぇ。出ないと、マジぶっ殺す”


あの神の声の後、俺達に途方のない空虚感が漂った。


全ては、あの神の気まぐれによって決まってる…






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る