第9話 急遽帰還からの大淫婦の”提供”
転送石のおかげなのか、俺達四人は王都の城下町入り口まで飛ぶ事が出来た。
しかしまぁ…移動が楽な反面…ちょっと酔った。
「うえっぷ…エレベーターをジェットコースター並みのスピードで乗った気分」
「大丈夫か…?冴子」
「とりあえずは…エミー、それと…テレーズだっけ?あんたらは?」
「異常は有りませんわ」
「問題ありません。と言うより、お二方は魔法転送なれてませんか?」
「私らの元の世界にはこんな転送魔法どころか、魔法すら無いんだよ」
冴子の言葉に、二人は「へぇー」という感じで返していた。
まぁ、実際に実感しないと分からんからな。
それはそうと、王都の様子だが…
「僅か1ヶ月というか…たった数十日でここまで復興してるとはね」
「元の世界でも、プレハブの仮設住宅ぐらいならそのくらいのスピードで出来ているだろう?」
「それもそっか。王城はまだ復旧進んでないしね」
「石造りで、瓦礫の撤去すら儘ならないからな…とりあえず、町に入るぞ」
そう言って、俺は冴子達を引き連れて城下町へと向かった。
城下町を歩いていると、前以上に多種族の亜人が沢山見られた。
ゴブリン、オーク、オーガはもちろんで…
身なりの良いトロール、コボルト、リザードマンの原種…
人狼、アラクネ、ハーピー、ケンタウロス、ミノタウロスの獣人種…
そして、今回の旅では見かけなかった、蛇女のラミア、蟲人のモスマン、魚人のサハギン、植物人のアルラウネ等の異色系の種族…
そして、ドワーフ、ホビット、ノーム等の小人族…
巨人族からは小型タイプのサイクロプスの一族が住み着いていた。
…ちなみに、エルフ族と悪魔族は見かけ無いのだが…
「あっ!ヘルツ!!見つけたわ!!」
そう言って、テレーズは町の復興を視察していたヘルツ達吸血鬼一行に飛びだし、彼に抱きついていった。
「うわっ!?テ、テレーズ!?どうしたの!?」
「どうしたのじゃないわ!!私と合流するの忘れてたでしょ!!」
「あっ…いや…その…」
そう言って上目遣いのジト目で攻められる彼を余所に、俺は近づいていった。
「順調に仕事をしてるようだな」
「あっ!?錦治様!!ご機嫌麗しゅう御座います!!」
「いやいや、敬語は良いから…それより、彼女との関係は?」
「ああ、テレーズですか?実は同じ氏族であり、ストリゴイの自分とカーミラの彼女とは知り合いだったのです。って、テレーズ…君から処女の匂いが…」
「あっ…す、すまない…それは…」
「そこの錦治様に操を頂かれてしまいましたが…純潔は大丈夫ですわ」
「ああ…やはりトロール族の…」
「まぁ…保障の交渉は騎士団長のギルバートさんに直接進言しておくから…」
「ああ、それだったら大丈夫です。しかも受胎までしちゃってますが…純血種のカーミラが産まれるのでしたなら問題ないです。吸血鬼族全体の安泰の為にも」
「もぅ…本当なら、貴方と交わりたいのに…♪」
「だから…君の性欲は困るんだよ。あっ、ごめんねハニー達、彼女も一員だから」
『大丈夫でーす♪ヘルツ様ー♪』
そう取り繕う吸血貴族達を尻目に、エミーが微妙な顔をして見つめていた…
「錦治様…」
「なんだ?」
「同種族があんなだと、どんな気持ちになります?」
「…聞かないでくれ」
そう交わしていたら…王城の方から駆けつけてくる面子が見えてきて…
いきなりタックルを喰らってしまった。
「錦治っち!姉御!おかえり!!」
「うおっ!?な、直子!?」
「会いたかったんだから!!」
「…たった半月だろう」
「大げさだなぁ。直子は…ただいま。直子、美恵、良子、加奈子」
「お帰りなさいませ。錦治君、冴子さん」
「旅は無事みたいだったね。錦治君、冴子」
「おかえりなさい。錦治君、冴子さん」
直子の後ろに、美恵、良子、加奈子の三人が立っており、加奈子は生まれていた赤ん坊をおんぶしていた。
…ん?というか…
「美恵、良子…お前達もおんぶしてるのは…?」
「ええ…♪」
「私達の子どもだわ♪」
意外だった。
まさか早く出産していたとは…
「トロールとサイクロプスはもう少し遅くなかったか!?」
「んー…それが、錦治君が出発した翌日にお腹が大きくなりまして」
「それからが一気に成長したのよね。おかげ様で、無事に三人とも女の子だわ♪」
恐るべし、亜人族の成長…!
と、言わざるを得ない中、ちょっと尋ねてみた…
「…もしかして、王女もなのか?」
「ええ。無論だわ」
「ご無事に生まれましたわ。しかし、男の子のダンピールでしたが…」
男の子か…
まぁ、少しは報われたが…早すぎるだろう!?
「うん…責任取るわ…」
「どんまい、錦治…それはそうと、後で抱っこさせてね。三人とも♪」
「勿論だわ♪」
「むしろ、お嬢様だった貴方様に抱かせたかったのでございますから」
「冴子さんの願望でもあるからね」
「ところで、錦治っち…傍に居る麗人服を着た女の子は誰?」
直子のその指摘に、エミーが前に出てきて麗人ご用達の礼をして挨拶をした。
「お初にお目に掛ります。私の名はエミー・ヴァレンタインと申します。此度錦治様の新しく従者兼伴侶に成った身で御座います。新人の身ではありますが宜しくお願いいたします。奥方様の皆様」
そのエミーの言葉に、待機組みの女性陣からなんとも言えない空気が流れた…
そして…
「すみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
俺はその場で土下座をして謝った…
とりあえず、視察終えたヘルツ達一行と何時もの面子+エミーを引き連れて、王城の中に戻っていた。
「なるほどね…エミーさんはおろか、テレーズさんにまで手を出しちゃうとは」
「一辺、種が余り出なくなるまで搾った方がいいかしら?」
「面目ない…」
当然ながら、あの現場で美恵と良子の二人による説教を一時間ぐらい受けた俺であったが…まぁ、原種のトロールと比べたらまだマシという事で了承していた。
ちなみに、エミーには俺と冴子による暗黙の了解と言う事で、不老不死の件と、”王の寵愛”のスキルが付加された件の二つには伏せて貰っていた。
あの二つだけは、流石にややこしく成りかねなかったので…
それとは別に、意外な事実も分かっていた。
エミーは勿論の事、テレーズやヘルツ以外の吸血鬼族が王都に集り、亡命申請を王国に求めていた事にだ。
しかも、大半が最下級のヴァンパイア、ヘルツと同じのストリゴイ、テレーズの同じカーミラ等の中級の種族もだ。
やはり、最上位の一歩前の種族で上位種であるノスフェラトゥの決起に、吸血鬼社会全体が危うくなっている様子だ。
その様子を、王城で合流したギルバートさん達から聞く事が出来たのだ…
「ていうか…デュミエール。君達三人が騎士団に入ったとはね」
「何かお手伝いが出来るとなれば、騎士が一番でしたからね」
そう言いながら、オーガプリンセスの頃とは違う雰囲気になったデュミエールは部下のデュラとジュラと共に、村の子ども達であったオーガやオークを引きつれながら歩いていた。
どうやら、子ども達は全員見習い騎士として働くつもりのようだ。
その一方で…
「直幸達は王城の料理人になったとはな…」
「彼らは実感していたみたいですよ。これ以上の成長は見込めないと…」
「して、上島と上村は兵器開発部を立ち上げて貢献…な」
直幸と江崎姉妹達は、全員前線離脱して料理の方を目指すとの事らしい。
まぁ、あいつ等は仕方なかったからな…
ミノタウロスにしても、戦闘向きな性格ではなかったし…
どちらかと言うと、俺の飯作りに興味を持っていて、五人で作り合ってる時が、笑顔になっていたからな…
まぁ、アイツならば美味い飯を作る事が出来るだろう。
その一方で、上島と上村の二人は、ドワーフのスキルを持って、国の兵器開発の努力をしていた。
恐らくは、死んでなおも操られてた山田の仇を討ちたいんだろう…
その山田も、俺が旅立つ前日に…あいつ等二人で遺骨を集めてられて供養されたぐらいだしな…
ちなみに、その時に携ったのが次郎さん夫妻で、花子さんのプリースト職にある
その花子さんと次郎さんの二人は…王城の教会や図書館の運営を任され、お供のゴブリン達も雑務として管理運営されていた。
「人間達が見たら驚くばかりだな。自分達よりも下と見ていた亜人達が、前より綺麗かつ円滑に運用されてる所を見たら…」
「そうですわね。では、今からケンタウロスのソフィアさんの共に、城下町へと向かいますわ」
「ああ。また後でな、デュミエール。…成長したな。彼女」
「だな。半月とはいえ、あそこまで変わるとはな…私らのやってきた事は無駄でなかったよ。錦治」
そう言ってフォローしてくる冴子に、俺は賛同していた。
そんな様子を、エミーは勿論の事…他の吸血鬼族達もぼんやりと見ていた。
「これが、亜人の『王』の素質を持つ物の手腕…」
「あの時脅されたのにも、関わらず…」
「襲われた後に謝罪しても許せたのは、その先の未来が明るい物であるから?」
「どちらにしても…この人に付いて行ったら、悪い事が起きないかもです」
ヘルツとテレーズの言葉に対し、エミーはそう言いながら俺達の後に付いてきた。
そして、王城の一番広い会議室に入り、中で待機中の王女クラリッサと対面した。
「ようこそ、帰還致してくれてありがとう。キンジよ」
「お元気で何より…して、この度俺が戻ってきた用件は既に…?」
「ええ。吸血鬼族上位種、ノスフェラトゥ達が我が国の人族を眷属化し、軍隊を編成して悪魔国に再度戦争を仕掛ける事を」
今回の件を述べながら、クラリッサは会議室の王座に座り、従者や密偵達に集めさせていた資料を各人に配る様にお付きの侍女や執事達に指示し、指定した席に着かせる様に俺達を誘導していった…
「さて…キンジ。この度の旅で吸血鬼族を従者に加えた上、北の山に難民として隠れ住んでいた鳥人族も悪魔族から保護したらしいですね」
「はい。大元の原因が帝国による侵略が要因でしたが…どの国も疲弊状態であるとの事ですかな。特に、悪魔国は吸血鬼族の反乱も相まってか、かなりの混乱の状態にあるとの事で」
「察しの通りです。先日、私と同じダンピールの密偵で調査した所、吸血鬼族の反乱と言う因果の所為で、反乱とは無関係である吸血鬼族の氏族がかなりの数で我が国に流失したの事です。その上、元から悪魔国からの密偵に属する悪魔族が先日の我が国に内乱要因となりかねた、亜人掃討計画を立ち上げた貴族達に接近してきた魔術教団にも関わっている事が判明しました」
その言葉に、皆が動揺をしており…特に吸血鬼族の皆が酷く動揺していた。
「じゃ、じゃあ…私達が国を負われたのは!?」
「元より、国内にいた悪魔族の思惑でしょう。帝国とのこれ以上の疲弊を避ける上で、反抗的で独立疑惑を持っていた吸血鬼族を国から追い出し…その際には、我が国を誑かして内乱を起そうとした魔術教団の犯人に仕立て上げようという、魂胆が見えていました」
「そうだったのか…だが、何故今回のノスフェラトゥ達の再度反乱が立ち上がる切っ掛けになったのですかな?」
ヘルツの問いに、クラリッサはある報告書を取り出して読み上げていた。
「その原因となったのが、キンジ達と帝国の勇者サイオンジ達の戦い…先日にて起きたあの『王』の素質を持った者達の乱により、計画が完全に狂ってしまった魔術教団側の焦りによる物でしょう。彼らの悪魔族は、力を貸していた貴族達を魔術で誑かすついでに、ノスフェラトゥ達にも働きかけ、反乱の戦力集めとして王都に奇襲をさせるつもりでありました。…ですが」
「どうしたのだ?何があった?」
そんな俺の問いに、王女は少し震えながら答えた。
「その奇襲情報はある人物によって防ぐ事が出来て、密偵達だけで抑える事が…出来ましたが、この王都にノスフェラトゥたちの軍隊との戦いが、避けられなくなりました」
「…そのある人物とは?」
「…
その言葉に、俺は戦慄をした。
あの国塚が、悪魔族のデーモンである国塚が…純粋な悪魔族が居る悪魔国の裏を取って、俺達の新生王国に情報を流したのだ。
アイツは…勇者の帝国、魔王軍、そして悪魔国までも裏切っても、何の為、誰の為に忠義を持ったまま行動しているのか…
俺には見当がつかない。
それとも、大淫婦という組織で動いてるのか…
そんな整理のつかない状況では在るが、今は次の軍となる吸血鬼上位種の軍勢にどう対処するか議論をせざるを得なかった…
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