第10話 衝動からの道連れの懇願

その後の会議内容は、吸血鬼族の難民を移民として取り扱う際に、彼らの殆どをどう対処するかのと、魔術教団に暗躍する悪魔族の対処との事…

限が上げたら止まらない物ばかりであった。

まぁ、その辺については、おいおいでやるとして…


「そういえば…蓮とフェイシャの二人が見かけないのだが…」

「ここに、兄さん」

「お待たせしました」


俺のその一言と共に、背後に蓮とフェイシャの二人が立っていた。


「何処に行っていたのだ?」

「実は、王女様とギルバートさんの命により、僕達二人は密偵になってたんだ」

「キンジさん達二人がいない間に、お役に立てないかと考えた末で、剣の修業のついでに国中を駆け巡ってました」

「そうか。お疲れ…」


労いの言葉をかけながら二人の頭を撫でた俺に、二人は目を細めて受けていた。

…要らん苦労をさせているようだが、これはこれで考えた末での行動だろう。


「蓮、フェイシャよ。何か見つかりましたか?」

「今の所は、ノスフェラトゥ達の動きはありません」

「軍備増強で停滞してるぐらいです。魔術教団の方も同じく」

「そうか。では、本日の会議は終了します。各自、自分の役割通りの仕事に従事してください。ギルバート、後は頼みます」

「ハッ!」


クラリッサはギルバートさんに命じた後、会議に集った人員全員を解散を命じ、部屋を退出させていった。


「さて…俺達はどうするか…」

「半月とはいえ、旅に出ていたんだ。今日はゆっくりしよう」

「そうだな…」


俺と冴子のその言葉に、直子、美恵、良子、加奈子達を含め、蓮とフェイシャ、クラリッサもこちらに寄ってきた。

そして、クラリッサが俺達に言ってきた。


「キンジ、サエコよ。今宵は、部屋にゆっくりされるが良い。前に使用していた部屋を綺麗にして置いたからな」

「そうですか…では、お言葉に甘えて」

「無論、後で来させて貰うぞ♪」


その王女の笑顔に、俺と冴子は二人で言葉を詰まらせていた…


「では、お二人の荷物を含めて、お供しますね」

「ああ、ごめんよエミー。一緒に来て頂戴」


冴子の言葉を受けながら、俺達三人は以前使った部屋に向かっていった。





その後は、荷物を整理し終えて一息ついた俺達は、円形テーブルの席で寛いた。

だが、丁度その時に、残りの四人達がお茶と菓子を持ってやってきたのだ。


「お疲れ。錦治っち」

「王宮の貯蔵庫には使いきれないお茶の葉や保存食が沢山あったから、少し頂いて来たわ」

「おっ、サンキュー。直子、良子」

「錦治君もどうぞ」

「すまないな、加奈子。お茶菓子は、美恵の手作りか?」

「ええ。久しぶりにお作り致しました」

「そうか。ありがとうな、美恵」

「いえいえ、”これから”の事をすれば、容易い事ですわ」


…?今妙なニュアンスがあったが、気にしないで方向で俺と冴子はお茶と菓子を口に入れて食べていった。

だが、少しした瞬間、意識がグラっと来たみたいだ。


「錦治…少し眠いや」

「俺もだ…悪いな皆。少し眠りに着かせてもらうよ」

「ええ。おやすみください」

「むしろ、眠っていた方が助かるわ…」


やっぱり変だ…

普段のこいつらなら、そんな事は言わないが…

そして、ベッドに腰掛ける前に四人の表情を見てみたら…

何かを覚悟した顔で俺達を見た後、エミーに何か話をかけている四人の姿だった…







次に目覚めた時は…俺と冴子はアラクネの糸で全身を拘束されていた。


「な、なんだこれは!?」

「ていうか錦治!私とお前の肩見てみろ!血がついてる!?」


冴子の指摘通りに、俺と冴子の肩には血がべったりついた上に、四つの牙の穴が…

その上で、部屋の様子を見ていたら…四人の他に…蓮、フェイシャ、そして…


「王女…何の真似だ…!!」


あの王女クラリッサも、口元に血が付いていてこっちを見ていた。

その一方、エミーにも口元に血が付いており、こちらも見ていた。


なんと言うことだ。

全員、クラリッサとエミーを介して、俺達の血を飲んでいたのだ…


ただ…全員表情は…物悲しい表情をして泣いていたのだ…

そして、一番最初に口を開けてきたのは…直子だった。


「もう…我慢できなかったよ。錦治っち、姉御…」

「二人して酷いわ…不老不死になっていたなんて…」

「私達を置いていかないでください…」

「ごめんね…錦治君、冴子さん…喋ってしまったの」


迂闊だった…あの二人がこうも早く喋ってしまう事に…

だが、冴子の血を飲んだのは何故だ?

まさか…


「お前達!冴子の血を飲むのはどう言う事か分かっているのか!?」

「知っているから飲んでいるんだよ!!蓮っちから聞いたわ。姉御のスキルの…”王の寵愛”は、適合者によって付加されるという事も…」

「蓮…お前、まさか…」

「ごめん、兄さん…エミーの屋敷あたりからフェイシャと共に着いて来てた…」


まさかな…あの時のエミーの同行から来たとは…

そして、「紅衣の森」でのあの出来事も知っているのだ…


それと同時に、冴子が縛られながらも怒りに震えていた…


「お前ら…自分達が何をしたか分かっているのか!!」

「分かっているからこそやったのじゃ!もう…お主等三人だけで…苦しむな」


クラリッサの言葉の瞬間、冴子は怒りから悲しみに転じた…

エミーだけでなく、こいつらを道連れにした事に…


「馬鹿野郎…私らなんぞほっとけばいいだろ…子どもも作れなくなるんだぞ」

「覚悟したまでよ…」

「私達四人は勿論…王女様、フェイシャは既に子どもを産み落としたわ。直子の時早めの魔法で」

「通りで早いはずだ…だが…」

「ええ。咎は受けます。代わりに…」


そう言いながら、エミーを除いた全員は俺達二人の前に膝間付いた。


「私達は永劫、貴方達の傍に居ます」

「ですので、どうか…最後までお供させてください…」


懇願してきたのだ…


その時、俺は静かに、蓮の縛ったアラクネの糸を燃やし切りながら動ける身に、ひたすら機会を待っていた…



この馬鹿達の頬を叩く為にも。


だが、その前に冴子が先に動き出して、隠し持っていたナイフに炎を纏わせてながら糸を引き裂いて、全員の所に飛び出していった。


「てめぇら!全員そこになおれぇ!!」


その大声と共に、冴子は全員の頬に拳で殴りつけて、地面に叩き伏せていった。


「何が置いていかないでだ!何が覚悟しただ!お前らのやった行動は偽善だ!!特にエミー、お前の手助けは要らん世話だ!人間はこんなもんに頼らなくても、永遠に生きていけるんだよ!!」


と、怒号を散らした冴子であったが…一瞬にして冷静になって語り始めた。


「お前ら。私らを殴れ。確かに、私と錦治の二人は勝手に神によって不老不死にさせられ、責任を背負わされた。だが、私と錦治は後には引いてはいけない物を見てしまったからだ。だが、それは私の身勝手だとは思ってる。そこは謝るし、お前らが気が済むまで殴られる事も望む。だが…だからといって…エミーの様に私の因果まで引き継ごうなどとしないでくれ…頼むよ…」


そう言って崩れ泣き始めた冴子を…同じ様に糸から脱出した俺が肩を叩いてた…




一時して…全員の身なりを綺麗にした後、血痕が付いた服などを処分して着替え直した俺達は、全員で冷静になって話し合った。


「…つまりは、国塚に唆されたとの事か」

「ごめん、兄さんには話しておくべきだった…」

「だけど…あの悪魔はキンジさん達の不老不死化も知っている素振りでした」

「…何か、奴から伝言は無かったか?」


俺のその言葉に、真っ先に反応したのは良子であった。


「…『貴方達の一般的な状態では、永遠に彼らに近づく事は出来ない。むしろ、二度と会えないぐらいに遠い所に行くでしょう。だけど、あと一人寵姫ちょうきが決まりしだいでは、貴方達も不老不死の道が目覚め、彼と共に八寵姫として歩めよう』…彼女から聴いた言葉こんな感じだったわ」

「やはり淫魔か…男女の心に隙を入れてくるのが上手いな。糞が…」

「ごめん…冴子。貴方を傷つけてしまって」

「ああ。はっきり言わせて貰う。エミーは私の不注意で”王の寵愛”を受けた。だが、残りのお前らは意図的に”王の寵愛”を受けた。元から子を成す事が出来ない私からすれば、お前らの行為は最低で許せない」

「姉御…ごめんなさい…」

「だから、私から進言する。罰として、お前らの産んだ子どもに、親だと名乗る資格を剥奪する。それだけに値する行為をしたんだ。コレが成されない限りは、お前らを錦治からの寵愛を受ける事が無いと思え」


そう…冴子は7人に対して一番キツイ罰を与えた。

各自産んだ子どもに対し、母親だと名乗る権利を剥奪したのだ。

理由は、自身だけが持つ不老不死だろう。


「何故、その罰を与えるか分かるか?お前らは適合者として不老不死になった。だが、あいつ等は通常の時間で生きるが…私や錦治、エミーを含め、三人はもう体の時が止まった状態で無常に進む時の中で生きていかねばならない。だから、そうなれば…自分の産んだ子どもが墓に入るところまで最後まで見届けなければならない。それだけじゃない、その子どもの子ども…つまりは孫、ひ孫…子孫が生まれるところを見て、そして老いて死んでいく始終を見続けなければならん」

「冴子…お嬢様…」

「美恵。お前なら分かるだろ?馬鹿である私でさえ、この有様に気づいた事を…それでも、私は錦治を守らなければ成らなかったんだ。あの国塚に、錦治を闇に落とされ無いようにする為に、太極である光の私が…」

「サエコ…それは、違います…」

「違わないさ。ここにいる八人の寵姫が、光と闇の対になった、四行属性である事にも…気付かなかったか?加奈子やエミー、そして王女様は気付いてないかもしれないが、あんた達三人にも創生の力が宿っている事を、そして蓮。お前も、さり気に創生の力を持っていた事も、私は知っていた」

「やはり、貴女が最初に気付いてしまいましたか…冴子さん」

「女の感を舐めるなよ。だからだ、国塚は吹き込んできたのだ。そして、策に…」

「だから言う、愛しい人達よ。お前達八人は、これからは俺と冴子の共に道連れとして共に過ごす事になる。その為に、自らの我が子とは縁を切る義務を課す。そして、共に生きて、生きて、生き抜いて、この世の最後の結末を見届ける事。それこそがお前らがこれから唯一の善行だと、思い知るが良い」


俺がそう硬く重苦しく語り終えると、一人ずつ語り始めた。


「最初は…ただ錦治さんと姉御と別れたくない気持ちで一杯でやってしまった」

「離れたくない。二度と別れてたくない。それだけの一杯で…」

「ゆえに、私達は悪魔の誘惑に負けてしまいました…」

「だから、私達は咎を背負って生きていかねばならない」


「その為にも、世継ぎの子どもを産み落とし…」

「二人の全てを一つ残らず調べあげ…」

「その機会をずっと待ってました…」

「そして…私という因子を持って、彼女達を満ちびいた…」


『だからこそ、私達は貴方達二人と共に歩ませてください…』


「それが望みだったか…」

「幼稚すぎるんだよ…馬鹿野郎。だが…ありがとう」


そう言い終えると、俺と冴子は力を抜けて地面にへたり込んでしまった。

無論、八人共に駆けつけさせてしまいながら…


「さて…覚悟と望みを聞いた所で…子を産んだ者達にはもう一つ進言を…」

「何かしら…錦治君」

「あの子達はまだ生まれたばかりで幼すぎる。物心がつくまでは、お前達母親が世話をし続けろ…」

「無論、そのつもりです…キンジさん」

「あと…フェイシャ、美恵。お前ら二人はこっちにこい」


その言葉に、フェイシャと美恵は俺の傍に寄った後、二人にある呪いを掛けた。

そう…エミーと蓮が持つ、アレになる…両性具有になる呪いを。


「っ!?キンジさん!!?」

「ちょ!?こ、これはなんですか!?」

「お前ら二人への懲罰。レミーと蓮の二人だけでは不公平だから、闇属性であるお前ら二人は連帯責任として両性具有の呪いを掛けて置いた。解呪は出来ん」

『そんなぁ!?』


俺のその懲罰に、冴子は少し笑い出していた…


「なるほど、こりゃあ傑作か…だが、それなら八人の調整は楽だな」

「そう言うことだ…とりあえず、今日は寄り添え…その権利は与える…」


俺はそう言いながら…”王の寵愛”を受け、不老不死になった者達を全員こちらへと誘った…




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