第11話 不老不死に対する”試練”

翌日…

再び例の鍛錬を行う為に、あの平原に来ていた。


「さて…今日からは容赦せずに付き合って貰うぞ」


無論、俺と冴子だけではなく…例の八人も含めて引き連れていた。

ちなみに、子ども達全員は花子さんや江崎姉妹に預けていた。


「今気付いたんだけど…王女様は大丈夫なの?」

「問題ありません。ギルバートからは『もう教える事がありません』と言わせてしまったぐらいに、剣を学んでましたので」

「へぇー、基礎的な剣術は大丈夫なんだ」


直子の問いにクラリッサはそう答えてきたのを、直子を含め皆が感心していた。

普通だったら、おてんば姫と言わせる物であるが…


「基礎的なのは普通に出来ているならば大丈夫だ。だが、今から俺達がやるのは人外魔境に等しい物だ。言葉悪くすれば異常領域の世界だ」

「はっきり言うが…皆が”王の寵愛”、”不老不死”の二つによって、スキルの”成長限界突破”が付加されているんだ。これによって、通常のレベルの上限がなくなって成長が更に拡大されていくんだが…逆に言えば、不老不死による臨死体験を何度も受けなければならないんだ」

「ちょっと待って、冴子さん…それじゃあ、もしかして…」


加奈子の指摘に、俺はどす黒い顔をしながら言った。


「全員不老不死だが…全力で殺す気でやらせて貰うわ」

「ちょっと…錦治君。怖いんだけど」

「どうしてもやるのでございますね」

「無論だ。良子、美恵。というより、手加減なんかしていたら成長できん」


そう言いながら、俺は八雷やくさのいかづちを招来していた。


「”御出でませ…柝雷さくいかづち”」

「やっと久々に出れたよ…って、初対面の人達に威厳が無かったわ。コホン…」


寝惚けながらの招来で威厳が全く無く現れたさくであったが、一瞬にして雰囲気を変えて、八人の前に立ちはだかった。


そして、静かに息を吸って、声と共に息を吐き出した時…

平原の空気が一瞬にして緊張が走った。


「我を呼び出したのは何処の人どもか…?」


その言葉と共に、平原に黒い雷雲と共に雷鳴が鳴り響いた。

八雷の中で比較的大人しい柝でも、威厳のある言葉に八人全員が冷や汗を出し、緊張をし続けた…


「こ、これが錦治様の使役すると言われる厄神様…!?」

「八雷の柝雷です。父様と母様の命により、貴方方の鍛錬のお相手を致します」

「遠くから見させて貰ってましたが…改めて近づいて見ますと、恐ろしく感じます…見た目に騙されて近づいてはいけないと言うぐらいに…」

「物分りが良い王女であって良かった。父様との子を成させて正解であった…では、始めましょうか?死は儚き生き物為にあり…」


柝はそう言いながら、自身の力である神通力と黄泉の瘴気を繰り出して…

全員に戦慄を仕掛けてきた。


「柝。俺達二人は最初静観で居る。好きにしてくれ」

「畏まり、父様。では…」

「私がお相手です!行きます!!」


最初に出てきたのは、エミーであった。。

吸血鬼族の得意とされる小剣術…フェンシングと西洋剣術を混ぜた片手剣の剣を持って柝を切ろうとして接近したが…


「ふむ。貴族礼儀としては良い剣技だ。だが、殺す為の剣技としては今一です」


陽炎の様にエミーの剣を交わし、その反撃とばかりに少年とは思えないぐらいの神通力による増幅した身体的馬鹿力を持って、エミーの胸を裏拳で叩き潰して、よろめいたその隙に鳩尾と背中の重なる所に、膝と肘の両方使い挟む形で叩いて潰した。


「かはっ…!!?」


無論、頑丈な吸血鬼族でも、一瞬で潰せる力に耐えれなかったエミーは、口から大量の血を吐いて地面に倒れ、何回か痙攣した後に絶命した…


「まず、一人目…さぁ、次は…?」

「次は私達だぁぁぁ!!」


次に前に出てきたのは…良子と美恵と直子の三人だった。

良子が自前で開発した弩型銃を乱射し、直子が援護用の風魔法の風刃ウィンドカッターを繰り出しながら牽制し、美恵が闇魔法による追撃しながら使用人時代で使っていた双剣を剣技を使って接近した。

だが…


「のろい、にぶい、欠伸が出るほど遅い。全くなってはない。特に其処の一つの眼差しを持つ人…狙いが定まってない」


そういった瞬間、柝は良子の腕を神通力で捻じ曲げてへし折り、後に蹴り上げて胴体に命中させて背骨を砕いて内臓を潰していった。


「うぐっ…!!」

「良子!?」

「良子っち!?」

「よそ見するな、この馬鹿者が」


その隙に柝は直子に近づいて足を砕き、すっ転んだところで足で胸を踏みつけて心臓を踏み潰していた。


「あぐぅ…!!」

「直子!!貴方ぁ!!」

「貴女は確か、父様の付き人でしたね。他の二人とは違って出来が良い。だが、自惚れてはいけない」


接近してきた美恵の双剣を軽やかに交わした後、柝は美恵の首を掴み、一気に力を入れて首の骨を折っていた。

無論、声も出せるわけもなく…三人と一緒に命を落とした…


「これで四人…残りの四人はどう出る?」

「ふっざけるなよ!この糞アマモドキが!!」

「僕達を舐めるなぁ!!」

「見くびらないで欲しいです…!」

「やらせてもらいます…!!」


残っていた蓮、フェイシャ、クラリッサの三人が刀と剣を持って突撃し、蓮とフェイシャの二人は雲井心陰流くもいしんかげりゅうの居合いを持って柝を切ろうと、クラリッサは冴子と同じ魔法剣を繰り出して切り裂こうとしていた。

一方で、加奈子は回復魔法にある補助魔法を使って、三人を援護する形であった。

だがしかし…


「なんだこれは?まるで、当てさえすれば良いと言ってるような物ではないか。なるほど、分かった。では、当ててみろ。当ててみれば良いがね…」


その言葉を吐いた瞬間、柝は三人の斬撃を受け…首、胴体、手足とバラバラに…

と、思いきや蜃気楼の如くに残像として消え、同じ場所に立っていた。

そして…同時期に切りかかった三人の胴体を締め上げる様に神通力で潰しながら果実の様に破裂させ、そのまま即死させた。


そして、最後に残った加奈子に…ゆっくりと近づいて行った。

無論、攻撃役ではない加奈子にとって、無力に等しいだろう…

それを理解していた加奈子は、柝に対し恐怖の一色に染まって動けずに居た…


「さて、生き残った最後の哀れな小鳥を締め上げようではないか…案ずるな。今楽にしてやろう」

「ひっ!?」


そう言いながら、柝は両手を伸ばし…加奈子の首を掴んで締めて行き…そして、首を締め上げた後、へし折って殺していった…




大体、三分ぐらいが経過した辺りに…


「そろそろだな」

「ああ。全員一斉に復活する」


その言葉通りに、全員から白い煙を上げたと同時に体が元通りに再生をし…

完全な状態で蘇生完了した。


だが…八人全員の表情からは、恐怖に染まっていた…


「はぁ…はぁ…!?」

「わ、私達…確かに死んだよね!?」

「これが…錦治君と冴子が受けていた…死と再生…」

「こんなものを…毎回受けていましたなんて…」


最初に蘇ったエミーは過去吸状態で震えて、直子、良子、美恵も同じ様に震え…

皆寄り添うに地面にへたり込んでいた。


「ぐっ…痛みには慣れていたとはいえ…」

「これが…キンジさん達が受けていた不老不死だなんて…」

「あまりにも…酷い物です…」


予め、ある程度理解していた蓮、フェイシャ、クラリッサの三人であったが…

やはり、早々に死ぬ瞬間の出来事になんて体験したくは無いだろう。

そんな感じの感想の元で立ち上がってはいた。


そして、最後の加奈子は…蘇生し終えた後は俺に抱きついて無言で震えていた。


「これで分かっただろう?不老不死で不意に死ぬと言う事は、何度も同じ苦痛を味わいながら死に、そして蘇る…その事を、胸の中に刻み付けておけ…加奈子、虐められていたお前には物凄いキツイ体験であったが、忘れないでくれ」

「怖かった…怖かったよ…錦治君!!」


そう言いながら泣きついてくる加奈子に…俺は勿論の事、冴子も加わって撫でてやっていた…






大体一刻ぐらいが過ぎてから、全員の落ち着きを取り戻した所で…


「さて…一度目の死を体験をしたので、本日の残りの鍛錬は見学にする」

「むしろ、蘇生したその日は弱体化をするからな。ゆっくり休んでくれ」

「姉御が言うように、力が入らないや…」

「ここは大人しく従うわ」

「加奈子、皆と一緒にあっちに…クラリッサ。加奈子を頼む」

「錦治君…ごめんね」

「任せてください、キンジ。…むしろ、近場で見させて貰います。人外魔境での戦う様を」


そう言って王女は残りの面子を引き連れて、後ろに下がる事にした…

残っていた柝は待ちくたびれていたかの様に欠伸をしていた。


「待たせたな。柝」

「遅いですよ。まぁ、父様達の初日もあんな感じでしたからね」

「そうだな…んじゃ、やらせて貰うよ。”色男”」


冴子のその一言により、その場の空気が凍りついた。

分かってはいるが…柝に”色男”は禁句だ。

そして、それが柝との鍛錬の始まりの合図であった。


「相変わらず、母様は減らず口を叩きますねぇ…今回は何回”殺して”差し上げましょうか?」

「抜かせよたわけ。今日こそ、その美顔を切ってやるよ」


そう言って、本格的の鍛錬の火蓋が切られた瞬間に、冴子が居た場所には地面が陥没するほどの神通力の圧力が掛っていた。


しかし、既に冴子はその場には居らず、柝を切っていた。


無論、その柝の体は既に幻影であり、別の場所に姿を現していた…




――――――――――――――――――――――――――――――――――――





やはりと言うべきか…

あの方達の戦いは尋常ではなかった…


厄神様が私達を捻り曲げた空間の圧力…


サエコが繰り出す斬撃と共に出て飛び散る魔法の残滓達…


そして、キンジが繰り出す闇の瘴気を纏った拳の剛撃…


その三つだけであるが、それだけで平原の地形が地獄へと変わるほどの戦いが、目の前に繰り広げられていた…


「王女様…もう宜しいですよ」

「カナコ。貴女は大丈夫ですか?未だに震えておりますが…」

「大丈夫…とまでは言えませんが、ある程度は大丈夫です」


そう言いながら、私の服から握り締めて震える彼女の姿に、私は彼女をそっと抱きしめるほか無かった。


その一方で、レンとフェイシャの二人はカタナを握り締めてはいたが…


「駄目だ。兄さんが言うように力が入らない…」

「デスペナルティとは本当にあるものなんですね…レン師匠」


あの二人も、一度死んだ事により一時的にステータスが落ちている事に気付き、まともに剣を握れなくなっている気付いたようですね。


無論、それはあそこに居る四人も同じ事であった。


「直子、美恵、エミー。今はどんな感じ?」

「うん、錦治っちの言う様に魔力が安定しないよ…」

「同じく、魔力が形成されにくいです…」

「皆さんはタフですね…私の場合は恐怖で動けないですのに…」

「トップバッターであんな死に方されたら、そりゃあトラウマものでしょ…」


互いに、そんな会話をしつつも実体験を元に色々と考えてはいるみたいですね。

無論、ダンピールとの筋力があるとはいえ、私も剣を握っても重く感じるぐらい筋力が低下しているのが目に見えていた…


実を言うと、私自身もこっそりとレベルを上げて98までにしていたのですが…

今では20ぐらいダウンした気分を感じるぐらいだ。

ただ、時間を立てば立つほど、じわじわとだが筋力が回復していくのは体感しているので、それほどまでは不安には成らないのですが…


「あそこまでレベルを上げると成るならば、どれぐらいの経験を積めばいいのでしょうか…」


私はそう呟きながら、目の前の荒ぶる光景を見ながら剣の柄を握り締めながら、苦い顔をしていた。


別に悔しいと言うわけでもないし、屈辱を受けたわけではない。


ただ、愛しい人の立つ場所が…余りにも遠すぎる事を実感していた。







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