第12話 析の認め、つかの間の休息

始まってから大体が一刻を過ぎていた…


未だに俺の放つ拳の剛撃が、魔力の爆発と共に大地を抉りながら陥没させ…


冴子の光剣術を交えた魔法剣によって、光と共に撒き散らされる炎と雷で大地を焦がして行き…


さくの放つ神通力によって空間圧縮からの膨張爆発による大気の暴圧が巻き起っていた…


「流石ですね。創生の力無しで私と平常と付き合えるとは…大雷おほいかづち兄様もご満悦をされますよ。父様」

「だが、全然及ばないだろ?創生の力に無い唯の不老不死の状態では、八等厄神である大雷に一歩も近づけは出来ない」

「そうですね…本音を言いますと、今の段階でやっと火雷ほのいかづち姉様に近づく事が出来ると断言致しましょう。もっとも、どちらのお二方もお相手となるならば…たぶん、一分も持たないと思いますが」

「まだその段階か…現状として、最初の時のお前と対峙できるとするなら、誰と戦えるんだ?」


冴子の問いに、柝は「ふむ…」と呟いた後に、口を開いていった。


「現状では、今の父様と母様では私と若雷のみしかまともに戦えないでしょう。五等厄神程度である自分達二人では、上の階級の厄神の力となったら、話が別になってきます。ですが…そうですね。六等厄神であります鳴雷なるいかづち姉様、伏雷ふすいかづち兄様の二人ならば、初期地点に立てますでしょう」

「そうか…ちなみに、七等厄神となればどうなるか?」


俺のその問いに、柝は首を横に振って答えてきた。


「七等厄神となれば、もはや神仏の領域です。火雷姉様、黒雷くろいかづち兄様、土雷つちいかづち兄様の三人は、その気になればこの地上を焦土の地獄に変える事が出来ます。そして、この三人の中で一番凶悪なのは…黒雷兄様となります。あの兄様は八雷やくさのいかづちの中でも物凄く好戦的で、相手を殺さないという誓約の上で死ぬよりも辛い目を合わせるぐらいに残忍なお方です」

「そうか…形成化していない時ですら、千方衆ちかたしゅうの鬼達と互角に遣り合って居たからな」

「そう言うことです。逆にあの人が父様を甚振りつけたいと願っていますから、要注意人物として頭に入れておいてください」

「分かった…ということで、続きを始めようか?」


そう促しながら、俺は魔力を創生の力に変え…拳に纏わせていた。


不老不死になってからは、俺は武器を持つ事を止め、己の拳と魔力、そして…

創生魔法の源である創生の力を放つ事にしていた。

上手く扱えない時は、武器に頼る事は必要であるが…それは同時に甘えであり、俺自身の成長に繋がらないと思い、武器を捨て、己の拳一筋にした。

それと同時に、拳に魔力を纏わせる事により、時には対象を木っ端微塵にして、時には対象を刃物で切り裂く等、多彩な事が出来るようになった。


その一方で考えるなら、武器を持つ事による制限が生まれる事も分かった。


例えば…剣。

刃物代表として、一番の考えられる一般的な武器である。

しかし、剣といっても、多彩な種類があり、それぞれの得手不得手がある。


現に、冴子が前使っていた大剣は、長い上でのリーチがあり、威力も申し分が無い反面、己の筋力によっては振るう事が叶わず、それが足かせとなり、隙を作る事になる。


一方で、今の冴子が持っている片手剣は、大剣の威力と長さを犠牲にしている反面、前よりも筋力の負担が減り、何よりも速さが優れる様になり、隙の無い細かい動きが出来るようになる。


現に、冴子が片手剣と盾を装備する事で、今まで無駄だった動きが無くなり、オーガという種族とは思えないぐらいしなやかに動き、相手の急所を的確に、淡々と狙える様になった。

無論、人型の急所の全ては、俺が叩き込んだんだが…


なお、冴子に武器を持たせている理由としては、スキルの関係である。


”魔法剣”は勿論の事、”不屈の鉄壁”は武器を持たないと発動が出来ない。

よって、冴子に武器を持たせる意味で、両方のスキルを生かせる意味を込めて、俺が片手剣を選んで、剣を学ばせてやったのだ。


まぁ、最初は本人が渋っていたが…理屈をつけて実戦を何回か試したら納得をしてくれたのが幸いだった。


しかし、今度はそうは違う…

あの八人を、冴子と同じ様に考えていかねばならないのだ。

厄神である八雷と対面するだけではなく、これからの長い戦いの為にも…



そう願う余り、俺は…いや、俺と察した冴子は侠気に染まるような顔をして…

創生の力を解放していった…



「”祓い清めよ…火乃迦具土ひのかぐつち!!”」

「”出でよ…予母都志許売よもつしこめ!!”」



冴子の剣からは、猛々しく燃え盛る炎が噴出して天まで上がり、火柱となった剣の炎は柝に目掛けて向かっていき…


俺からは地面に溜まっていた黄泉の瘴気から黄泉醜女よもつしこめを招来し、柝を拘束する為に突撃していった。


無論、柝も無策の状態ではなく…


「やれやれ…”禁――水呪。志許売よ、坂本成る桃の実の前に去れ”」


柝もまた、俺の創生の力を下に水を招来して火をかき消し…そして、黄泉醜女に黄泉祓いとされる桃の実を投げつけてかき消していった。

だが、この二つは元からの偽攻撃フェイクであった。


「なっ―――!?」

「気付くのがおせぇんだよ」


俺と冴子は繰り出した瞬間に突撃をし、柝の本体の所まで接近し、そのまま二人同時に一撃を与えてやった。



「―――――お見事。父様、母様」


俺達二人の一撃喰らって怯み…苦痛の表情を浮かべながらも、柝は元の体を形成し直して立ち、拍手をしていた。


「まさか、一ヶ月も立たない内にここまで成長しますとは、素晴らしい物です」

「その割には、お前自身は余裕だな…」

「これでも思念体みたいな物ですからね。父様の魔力を依存して形成している…と言えば、もう分かりますよね?」

「つまり、俺からの魔力供給が止まれば、お前は形成できないと言う事だな」

「ご名答…ただ、今この痛み、この屈辱は…私、柝雷の物で御座います。ああ…何百年…いや、千何百年ぶりでしょうか…形の形成されていない、私達厄神が…どれだけの月日が経過し、仮初の肉体として現世に現れた事にどれだけ喜ばしい事でしょうか…。分かりますよね?お二方!!」


やばい。

柝を本気にさせてしまったようだ。

そう警戒した俺達はすぐさまに戦闘態勢を構えて堪えようとした。

だが…


「流石に、其処までの余力は御座いません。今先ほどの一撃で、魔力が無くなりかけておりますし、ここは大人しく帰ります」

「むっ…そうか」

「まぁ、次回からは本格的に殺す気でやらせて貰いますから…なんならば、若を招来して二人同時なんてものはどうでしょうか?」

「それはいずれ考えていた。むしろ、それぐらいして貰わねば、こちらが浮かれ腑抜けてしまうだろう」

「相変わらず、お前は自他共に鬼教育をするなぁ…錦治」

「流石は父様です。だが…まずは後ろの彼女達の底上げですね」


柝はそう言いながら、半場呆れ顔で八人の姿を見ていた…

もう一度、俺達の様な鍛錬を施さないといけない事に。


「正直、予想外でしたよ。まさか、子を残す為の彼女達までもが、私達や父様、母様の長い時の旅に加わるなんて…」

「察してやれ。あれでも寂しがり屋なんだ…大神伊耶那美神様も同じ事であろう?」

「否定はしませんよ。あの方も、怒声を言って分かれた後も泣いてましたし」

「やはりな…まっ、長い付き合いになる奴らだ。許してやれ」

「畏まり、父様…」


そう言って、柝は目を閉じながら俺の中に戻って行った…

流石に、疲労も半端無いだろうな。


「んで、柝抜きになったんだが…今度はどうするんだ?」

「いや、今日は早めに切り上げて戻ろう。日数は少ないが…まだ慌てる様なものじゃないしな…」

「そうだね。あいつ等も、始めての不老不死による臨死を味わったんだ。負担は大きいはずだ」

「そうと決まれば、戻るぞ。冴子」

「あいよ。旦那様」


二人でそう言いながら、八人の元へと向かっていった。






「さて…本日の鍛錬はここまでだ」

「流石に回復したとは言っても、完全じゃないからな。城に帰ったら、全員分の適正装備とか考えるから、後で錦治と私に相談しながら選んでくれ」


二人で言葉をかけてやると、八人それぞれに考えてはいたようだ。

特に、エミーとクラリッサの二人は自分の剣について考えてはいたようだし…

何よりも、攻撃する手段を持っていない加奈子の場合は、重要な物であった事に違いは無かった。


「錦治君。私は足手まといになると思うから…」

「逆だ、加奈子。お前の場合は、今後要になる可能性がある。回復担当は貴重な役割でもある。例え不老不死であっても、皆の傷を癒し、軽減する役目を担う。そうなる場合、武器としてではなく、回復魔法を増強させる杖とかが必須かと」

「そ、そうなのね…錦治君って、その辺に関しては割りと確りしてるね」

「ゲーム等の仮想ならば、その辺に関しては難易度にあわせて調整すればいい。ただ、今俺達が居るのは紛れも無く現実だ。夢の…ましてや悪夢などと違って、リセットなど出来ない。況してや、不老不死になったとなれば、完全に後戻りは出来ないからな。死んでその場で復活し、何度も同じ苦痛を味わいながら死に、それが永遠に繰り返されるなど、覚めない悪夢と呼ぶ者に相応しいからな」

「うん…今日ので、身に染みたの」

「だから、そうならない様にお前も頑張って貰わないとな…皆もそうだ。各々、役割を担う分を考え、それで編成してくれ。恐らくは、色々とやらねばならないかもしれん」



俺はそう言うと、皆の緊張が走っていた。

が、今更の事だから、今後を考えようとしていたその時…

全員から腹の音が鳴っていた。


無論、全員の緊張もそこで途切れてしまい、思わず笑ってしまったようだ。


「…まぁ、緊張しすぎてもアレだから、飯にしてリラックスをしよう」

「賛成!」

「初日でこれだと、今後が気が重くなるけど…仕方ないわね」

「そうですわね。何事も一歩ずつ進まないといけません」

「エミー、王女様。あんた達は普通の飯で良いんだっけ?」

「あとで血液を貰えれば大丈夫です」

「こう見えても、大喰らいですよ。サエコ」

「レン師匠はどうされますか?」

「シャルと一緒に王城の食堂で食べようかな」


そう和気藹々と喋る皆を余所に、俺は加奈子の傍に寄っていた。


「とりあえず、深くは考えるな…何時ものようにすれば良い…」

「うん…分かったの」

「その分、夜は優しくしてやるから」

「…!?うん…♪その…久しぶりだから、本当に優しくね…♪」


やはり、オークになっても臆病ながらも甘えてくるこいつには頭が上がらない。

俺はそう思いながら、加奈子の頭を撫でて王城に戻っていった。





「んで、全員で飯食いに来たと言うわけか…」

「そう言うことだ。それよりも、上達したな。直幸」

「こう見えて、あっちの世界では肉屋の息子だ。肉料理とコロッケなら任せろ」

「そうだな…本当にこのコロッケ美味いな」


あの後、十人揃って王城の食堂に入っていったら、騎士団全員が丁度飯時で入り込んでいた為、ごったがいになっていた。

そのため、厨房では直幸と江崎姉妹を筆頭に、亜人となったの元人間の料理人達全員が必死で飯作りをしていた。

そのため、俺達全員も着替え直して厨房に入り、一緒に手伝ってやった。

やはり、兵士の食事が一番消費が激しい分、量も半端ないな…


まぁ、今は大分落ち着いて、直幸がこっちに来て話が出来る分の余裕があって、江崎姉妹達と九人も一緒に賄いのコロッケを食べていた。

それにしても…材料があった分なのか、直幸が冗談でコロッケを作り始めたら…

まさか爆発的にヒットするとはな。

おかげで、直幸がこっちの世界用のコロッケのレシピを作り上げて公表したら、城下町の各飲食店でコロッケが流通してしまうとは、驚きものだ。

その内、ミノタウロスの乳を使ったクリームで、クリームコロッケでも作るとか考えそうだな。


「それはともかく…なんか色々ありそうだな」

「だな。まぁ…政治と紛争事は、こちらにまかせてくれ。お前は皆に美味い飯を作るだけで、安心できるんだから」

「おぅ!任せてくれ!お前に色々教わった飯作り、やって見せるからさ!」

「頼もしいな。…あと、上島と上村。あいつ等を慰めてやってくれな」

「ああ。山田の件、まだ引き摺ってるからな」


一応、王城に帰ってからは一度あの二人にあっていたが…

かなり突き詰めていたからな。

しかも、俺が声かけ時には普段と同じ態度であった故、余計に辛い物である。


まぁ、こればっかりは本人達次第からだな…頑張れとしか言えない。

と、思いつつ…冴子達の方を見てみると…


「もぅ…♪お姉様ったら…♪シャルは寂しゅうございましたよぅ…♪」

「ああ…ごめんよ、シャル。随分と寂しがらせてしまって…♪」


八寵姫に加わったとはいえ、蓮の奴はシャルトーゼの旦那だ。

妻を寂しがらせるのはあんまり良くないな…

と、思っていたら…エミーとクラリッサの二人も怪しい雰囲気が漂っていた。

と言うより…


「王女様…いけませんです…ああぁ♪」

「ふふっ…純血種の乙女の血は美味しゅうですわ…♪」


まさか、クラリッサが攻めでエミーの受けの状態で吸血するとは…

先が思いやられるな。

して、残りの皆は…各自の赤ん坊を抱っこしていて、授乳をしていた。

まぁ、冴子から宣言したとはいえ、まだ乳飲み子だからな…仕方ないか。

ちなみに、冴子はクラリッサの子を抱きかかえて、同じ様に授乳させていた。

…本人は母乳が出ないから、抱いてる子を口寂しくさせない為の仕草であるが。


「それよりも、お前んとこの嫁増えたな。しかも王女様まで娶っちゃうなんて」

「成り行きだ…それよりも、江崎達も本格的に妊娠したそうだな」

「ああ、やっとだ。本当、同種族だと妊娠し辛いんだな…」

「まぁ、亜人の生態はまだ詳しくないからな。そこは偉い学者様に任せてやればいいと思う」

「そうだな。おっと、今から仕込みを始めないと、晩飯で腹空かせた連中が来るからな。また後でな、錦治」

「ああ、頑張れよ。直幸」


俺はそう言って直幸を厨房に見送った後、残っていたコロッケを食べていった…





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