第24話 夜更かしからの淫魔の襲来

その日の夜…

就寝前に営みばかりであったが、数日振りに書籍を読みふけて勉強をする事に。

無論、一人ではなく何時もの面子で。


「…あふぅ。眠い」

「先に寝ても良いぞ。冴子」

「ん。やだ」

「体壊すぞ…といっても、心配無用であるか」

「そう言う錦治っちこそ、少しは休めたら?幾らタフでも、この前みたいに…」


さり気にこの前の事で心配していた直子に、俺は無意識で頭をポンポン叩いた。

何度でも蘇るとはいえ、あの光景を見せ付けられるぐらいに、ぼろ糞にやられた事にショックを受けていたからな…


「俺の事は心配すんな。むしろ、お前達の事が…まぁ、良いや。あまり人の事をあれこれ言うのもどうかと思うからな。キツイと思うなら、休むから大丈夫だ」

「そう?錦治っちが一番無理をしてるかも知れないから…心配に」

「…そうだな。ちょっと焦っているかもしれないな…あのお袋に手出しが一切に出来なかった自分に対して、物凄く腹が立っている事にな…」


その言葉に、冴子を含めた五人は勿論、エミー、蓮、フェイシャ、クラリッサも言葉を無くしていた。


…正直に言えば、あれこそが『魔王』に相応しいだろうな。

圧倒的な力を”弱者”に全力でぶつけ、心を徹底的に折って挫折感を味わせて、強大な絶望を叩き込む…


俺の推測では、間違いなく奴が今代の魔王を倒したんだろう…


「さっき考えてたのがな…恐らく魔王を倒したのは、お袋だと思う」

「やっぱり、錦治もなのか…?」

「冴子も考えていたのか?」

「ああ。あの人…あいつの力は、恐らくこの世界の一般的な魔族や魔物、人間や亜人では絶対に倒す事が出来ない程の力を持ってしまってる。それこそあの神が言っていた、”上か、下かの上位の神”と互角に戦えるぐらいの力を持ってる。私はそう睨んでいるな…」

「姉御が其処まで考えていたなんて…」

「私だって考えるさ、直子…アイツの創生の力を諸に受けた身としてはな…」


そう言いながら、冴子は己の手を見ながら考え事にふけていた…




大体一刻が過ぎたぐらいか…

全員、睡魔に襲われてウトウトし始めていた。

恐らくは限界なのだろう…そう思って、俺は立ち上がろうとした。


その時である。

この部屋に何者かが入り込んでいる事に気が付いた…

無論、その子とは皆知っており、侵入者が姿現すまでは気付かないふりをすると決めていたようだ。

それと同時に、部屋の中に甘ったるい香水の匂いがし始めていた…

しかも、若干ムズムズする様な…


「…!?これ、媚薬の香水です!!?」

「やはりか…ならば」

「お待ちください。ここは私が…!」


そう言った美恵は、俺が真似て使っていた”馬車ガロッパーレ”を放って、隠れていた侵入者達を一網打尽で捕獲していった。

…やはり、元は自分の創生魔法だから、扱いに長けていたのだろう。


「やるな。俺の猿真似で作った魔法を習得するとは」

「元はガロッパーレ・インフェルノと同じでしたから、容易い事ですわ」

「それもそうか…」


俺はそう言いながら美恵の肩を叩いてバトンタッチをした。

さて…目の前に現れてきたのは、甘ったるい香水に角と翼を生やし、無駄に下着姿に近い衣装を着た女悪魔達…間違いなく、淫魔族のサキュバスであった。

それも、ご丁寧に俺達の人数分合わせた10人もだ。


うん、正直な話を言うとな…女系亜人の中で一番嫌いな魔物はサキュバスでな…

お袋みたいな悪魔族の女デーモン並に反吐が出るほど嫌いであった。

特に、浮気性的な種族的性格にな…


そんな俺の怒り混じりな魔力の胎動に、サキュバス達はおろか、他の皆も引いているぐらいにヒシヒシと伝えていたみたいだ…

ただ、それぐらいに一番嫌いな種族に俺は静かに話していった。


「お前ら…誰の差し金だ?事によっては、魂すら残らんと思え…」


そう言いながら、俺は捨てる予定だったカップを手に取りながら、目の前でどす黒い魔力で覆いながらドロドロに溶かしきっていった。

勿論、俺のその行動にサキュバス達は悲鳴を上げて腰砕けになり…中には失禁をしてしまったのか、水溜りを作っている奴まで居た。


流石に俺の脅しに困ったのか、エミーが俺の腕をツンツンして、交代してくれと意思表示してきたのだ。


「…?どうするんだ?エミー」

「その辺にしてもらって良いですか?錦治様。彼女達、何か様子がおかしいと、思いまして…」


そう言いながら、エミーは紳士的に彼女達に接近し、警戒心を解く様に抱きしめながら言い始めた。


「貴方達、一体この夜更けに何の用ですか?いくら淫魔族でも、礼儀を弁えると思いますが…」

「い、いきなり訪問して…精気を頂こうとした事はお詫びを申し上げます…」


サキュバス達のリーダー格の奴が弱々しく喋りながら答えてきた…




どうやら、聞いた所によると…このサキュバス達もまた悪魔国から流れてきた。

しかも、悪魔国自体が完全に内乱状態で、悪魔族、淫魔族、そして…残っていた吸血鬼族の貴族達による三つ巴で争っているとか。

そして、彼女達…淫魔族の中でインプよりも下で最下級のレッサーサキュバスは巡回のレッサーデーモン達の目を盗んでから命辛々に逃げ出し、この王国に流れついて来て…たまたま王城に居た俺から放つ極上の精の臭いがしたから、それで本能的に襲おうとしていたらしい。

全く持って迷惑極まりないのである。


「まぁ、事情が事情だから仕方ない…今回襲って来た事には許そう」

「あ、ありがとうございます…」

「但し、俺から精を取る事は禁じる。そもそも、嫁持ちの男に精を取ろうとする行為には、少々不快極まりないのだ」

「う、うぅ…私達は、餓えるしかないのですか?」

「かと言って、このままするのもあれだからなぁ…そうだ。クラリッサ、彼女ら全員の居住域はまだあったはずだろう?」

「確か、ありましたね…どうする積もりで?」

「野放しするぐらいなら、雇った方がいいと思ってな。念の為聞くが、亜人族の精に関しては、どうなんだ?多少は摂取しても問題は無いのだろう?」


俺の問いかけに、淫魔族の女達は騒然としていたが…リーダー格の女は頷いて、答えてきた。


「い、一応…大丈夫ですけど…?」

「そうか。実はな…」


そこで、俺は淫魔族の女達に、昼に出していた亜人族の話を持ちかけてやった。

すると、女達は最初は嫌がってはいたが…本番は無しという条件をつけてやると渋々ながらも了承していた。

しかも、彼女達全員は人間を淫魔に変える素質も生まれた時から備わっており、上手く行けば捕虜の人間兵士…特に女兵士を淫魔に変えて、当て馬にする事も…

そうすれば、人間からは「悪魔に変えられた」と亜人族に過度が立たない上に、亜人族も繁殖目的で人間から転じた淫魔とやれて、淫魔になった人間も精補給も容易になるし、一石二鳥ならぬ一石三鳥になるだろう。

まぁ…それも、女性陣の声を聞かねばな…


「利害はあっているんだけど…なんかなぁ」

「ちょっと、ドン引きしちゃうかな…」

「うーん…合意の上なら良いんだけど、ちょっとえぐい」

「合法的な売春としてなら問題はありませんが、倫理的といわれたら少し…」

「日本だったら、確実にアウトだわ」

「まぁ、異世界で彼女達が淫魔だからという意味では、問題ないけど…兄さん」

「それでも、ちょっとアレですね…キンジさんが教えた本に出てくる、オークがエルフを襲ってしまうお話みたいで…女としては考えますね…」

「流石の策士である吸血鬼族でも、ドン引きする内容です…」

「キンジよ…もう少し、恩情を上げてやったらどうですか?」


うーむ…やはりそうなるか…

まぁ、後は本人達が何処まで許せるかになるな…

とりあえず、保留にしておくか…


この後、慰安に対する保障については後日交渉するという事で満場一致で解決、彼女達を仲間に引き入れる事が出来た。

だが、リーダー格のレッサーサキュバスのミリシャは、俺の精に諦めて居らず、泣いて土下座までして懇願してきたので…口だけなら許す事にした。


あと、彼女達は一度男女の本番を契ってしまうと、その男性しか愛せなくなり、他の男性の精を受け取れなくなるとか…

良くある浮気性だとか言われているサキュバス達は最上級のクィーンかアークサキュバスぐらいで、大半のサキュバスは男性が亡くなるまで愛し続けるとの事らしい。

…どうやら、俺の中に要らぬ誤解もあるようだな。

その事だけは謝罪した上で、俺のお袋における真情を話してやったら、怒ってはいたのだが…あの堕落聖母の横山真理恵だと分かった瞬間に、全員腰抜かしては怯えていたのは複雑だった。



というよりも、彼女達から聞いた話では…糞お袋の奴は、悪魔族全体にとって、厄災と呼ぶに相応しいぐらいの悪行を行なっていた…


”悪魔国の全域で、悪魔族、淫魔族の赤子を奪い、殺して、贄として喰らっていたらしい”


…やはり、源は其処から来ていたのか。

そうなると、あの女の力はとんでもない事になるな。


「錦治…」

「分かっている。あれはもはや、第八等厄神に相当する」


俺はそう断言して、皆に緊張を走らせた。

奴はもはや、『魔王』どころではないからな…







――――――――――――――――――――――――――――――――――――



丑の刻三つ…つまりは深夜二時あたりに該当する時間で、魔物等が活発になる時にて、半壊状態になった魔王城の大地に、女物のスーツを着た青肌の悪魔が立ちはだかっていた…


「ふん。無様だな…葛葉命」

「横山…真理恵…!何故…魔王様を…討った!!」


魔王軍の屍骸が散乱する中…生き残りであった葛葉命はよろめきながらも、前に立ちはだかる真理恵に睨みつけていた。

精鋭部隊であり、今年の良い人材であったB組の生徒を皆殺しにし、あまつさえ自分が”手塩にかけて育てた”魔王生徒を、たった一人の悪魔に殺され、奪われ、そして蹂躙された事に憤りを覚えていた…


20年前、魔王軍組として転送された葛葉は、過去に勇者組として現れた、横山真理恵に激しく憎悪し、生き残った魔王軍の組の皆で異世界から脱出する方法を命を掛けて見つけ出し、やっとの思いで脱出して人材を探し、西園寺達の一族が手を掛ける進学校に潜り込む事が出来、度々に間引いて人材を確保し、ここまで成長させる事が出来た…

そして、演劇部だった自分の才能を使い、魔王軍を盛り立てて復讐を果そうと、躍起になっていた所を…かつて、自分達を追い詰めていた勇者だった女が悪魔として現れ、魔王と魔王軍を壊滅させてしまった…

しかも、自分達が見た事もない”おぞましい創生の力”を使いながら…


「何故?あんなのが魔王?笑止。あんな惰弱で愚能な『王』など羨ましくも何の妬ましくも無い。まさしく塵に等しい物だ。私の愚息の方がまだ使える」

「なん…だと…?」

「それにな。貴様らなど眼中に無い…この地に息を潜める”アレ”を監視しに、来たまでよ…」


そう言いながら、今代の魔王がいた場所を…地面に蹴り一つ入れて、亀裂を生じさせて…暗黒の世界が見える隙間を作り出した…

そして、真理恵は…問いただした。


「出て来い。災厄の大妖怪:”太歳たいさい”」


その瞬間…亀裂からは無数の目玉を浮び上げた肉塊が湧き出て、真理恵を睨んでいた…

その眼差しは…”全ての生き物に死の災い”を招く祟りの目であった…


”通りゃんせ、通りゃんせ…御通りなさいまし…通ってもいいですよ…”


その肉塊は動揺の”とおりゃんせ”を謳いながら、蠢いて胎動をしていた…

その動きを見るならば…女陰の中を蠢いているみたいでおぞましく、嫌悪を抱き吐き気を催す物だろう…

いや、全ての生物が見るなら、この肉塊は不快極まりが無く、憎悪に値する…


どう考えても、”この世界では存在してはいけない”…存在自体が邪神であった。


そんな邪神を前に、真理恵は密かに笑いながら見ていた…


「第八等厄神を越えた、”第九等厄神”…記録に記載もされず、存在すらも否定されていた。正しく”まつろわれた神”に値するおぞましき怪物…時貞。貴様は狂っているな。こんなものを生み出して、今更楽園ぱらいぞも無いだろうに」


真理恵はそう言いながら笑い、目の前の化け物に対して憐みの目で見ていた。

真理恵から言えば、これがこの世界の世に出れば、確実に滅ぶであろう。


自分と同じ第八等厄神である国塚がアスモデウスと呼ばれる由縁は、淫婦として人々の世を乱す存在である…

だが、それでもまだ子を成して繋ぐという意味があるから、この位で収まってるのであった。


だが、この厄神は違う…

全てにおいての桁外れの質量…

死の災いを運ぶ厄災を撒き散らす化け物…

正に天災であった…


”この子に七つの、お祝いにお札を納めに、参りますぅぅぅー…”


童謡を歌い続ける肉塊から、不気味で不快な肉が混ざる音が当たり一帯に響き渡っていた…


無論、亀裂から遠く離れている葛葉の魔王軍の生き残りにも聞こえ、皆恐怖を与えていた…


この場にいれば…死よりも辛い地獄を味わうであろう…

だが、動けずにいた…


何故なら、この化け物達から逃れる事が出来ないと悟っていたからだ…


そして、肉塊の隙間から無数の蟲が湧き出て…今か今かと飛び出しそうにしていた…


大百足、ツヅカムシ、大蜘蛛…


どれも生理的に嫌悪を抱き、人間に災いをもたらす生き物…

そんな蟲達に続き、鬼、大蛇、白骨の化け物達が次々と湧き出てきた…


「百鬼夜行か…」


個々に湧き出る化け物達は、全て”太歳”の瘴気に当てられて湧き出たもので、常世に落とされた妖どもの大軍勢…

”元の世界”でも、不浄とされ隠匿された化け物達は、次々に出ようとして、今かと飛び出そうとしていた…


”太歳”から逃れる為に…


そのため、湧き出る化け物達は暴れ、喚きながら、地面を気にし、焦り、慌て、全身全霊を搾りながら逃げ出そうとしていたのだ。


恐怖…地面に蠢く物に負った絶望すぎる死からの逃れ…それこそが何より凄まじい共通点を持っており、爆発力となっている…化け物達全部がこの厄神から逃れる事しか考えてないのだ…


そして、一匹の大百足が真理恵目掛けて飛び出した。

しかし、そのスピードは弾丸を発射したみたいな速度であり、いくら悪魔族に転じた身としても無事ではすまない。

だが…真理恵は軽くあしらう様に手で払い、払い飛ばされた大百足は潰れて、微塵も残らずに消えた…


それと同時に、大蜘蛛、鬼、大蛇、腐り果てた狐、白骨化した牛など…

まさに百鬼夜行の洪水の如くに噴出してきたのだ。


”行きはよいよい、帰りはこわい、行きは好い好いとして行ったしてもぉ…帰りは怖いですよぉぉぉぉ…こわいながらも通りゃんせ、怖いですけれども、御通りなさいまし通りゃんせ、通ってもいいですよぉぉぉぉぉ…!!”



その瞬間、肉塊から無数の巨人の手が湧き出て、飛び出した化け物達全てを…一つ残らず掴み、握り、そして潰していった…


ただそれだけで、何の意味も無かった…


自分の中から出る化け物達を殺したいから殺す…



”キィーヒャヒャヒャヒャヒャ!!ヒャーヒャヒャヒャヒャッヒャ!!”


この魔王が済んでいた大地に、不快極まりない笑い声が駒出していた…



「図に乗るな。卑しい化け物が。貴様みたいな力だけしか能が無い奴等に、羨ましいとは思わんし、妬ましいとは思わん。私の言葉すら理解すら出来まい。それこそが貴様の弱点だ」


そう言いながら、真理恵は太歳の亀裂の目の前に立ち、手を翳して…創生の力を解放させ、創生魔法を発動させていった。


「”オン・カカカ・ビサンマエイ・ソワカ。地蔵になりし幼子を守護する菩薩。三途の川に石積む水子を救済しようとするその様を、私は無様に笑いて、貴様の救済という諸行を踏み躙ろうぞ…我こそは堕落聖母成り…創生!堕落聖母だらくせいぼ鏖地蔵菩薩みなごろしじぞうぼさつ!!”」


詠唱を終えた真理恵の頭上には、磔にされながら焼かれ、腹を引き裂かれた地蔵菩薩の姿が出現し、その裂かれた腹から無数の水子の怨霊が洪水の如くに流れ、太歳に向かって突撃していった…


”赤子だぁ…赤子だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!”


無論、太歳にとっては赤子など供物程度にしかならない上で、真っ先に肉塊から手を伸ばして喰らおうとしていた。

だが、その赤子達も負けじと肉塊や手を喰らいついていた…


その光景を見るならば…もはや地獄絵図を通り越した何かであった…


無論、それを遠くから見せられていた葛葉達は…現実逃避をしたいぐらいに…

精神を崩壊しかけていた…


そんな魔王軍の様を隣に、大淫婦バビロンの国塚萌は冷静に眺めていた…


「やはり、この形に落ち着きましたか…まぁ、これは必然でありましたからね。そして、これにより私も”彼女”達と無事に交渉が出来ますでしょう」


国塚はそう言いながら、悪戯用のおもちゃを持ってではしゃぐ子どもの様になる二つの厄神に、ニチャリと口を開いて笑っていた。


「ああ…我が主よ…早く御出でくださいませ…。そして、楽園を完成し時こそ…私は晴れて錦治様と添い遂げる事が出来ますでしょう…早く御出でくださいませ」


国塚は密かに呟きながら…祈りを捧げていた。


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