第23話 勇者消息の考察、上位吸血鬼の対策
西園寺と森宮の行方不明…
あの神ですら感知が難しいとなるなら…世界の何処かに飛ばされたか…
もしくは、死んでばらされたか…
いや、死んだならば神の奴が感知するはずだ。
ならば、この異世界そのものから飛ばされて戻ったか…
いずれにせよ、奴ら二人がいなくなったと言うことは、帝国が弱体化するのではないだろうか?
そうなれば、今まで帝国に押されていた各国…妖精国、悪魔国、氷人国、人魚国全てが追い返しに出てくるであろうな。
ただまぁ、現状としては…俺達に直接影響があるとするなら、妖精国と悪魔国の二ヶ国の動向になると思うがな…
そもそも、人魚国は海以外の場所に侵蝕する気が無いとは分かるが…氷人国とは一体どんな亜人族が居るのか分からん。
まぁ、言葉からするには…雪女やイエティなどの氷の精霊系だとは思うんだが…
まず見かけない連中にあれこれ考えるのは愚作だろう。
ここで伏せておこう…問題は、悪魔国だ。
この世界の歴史文献で調べてみたら、魔王軍とは別で動いている悪魔族が独立を果たして作られた国で、常に魔王軍や人間とは敵対意思を示して攻撃を行なう、ある意味一番危険な国だと認識されていた。
その昔は、魔王軍の中で穏健派、もしくは和平派とも言われた彼らではあるが、魔王の人間亜人の絶滅を掲げる思想に見限って戦争を起こし、当代の魔王を討伐する事で独立を勝ち取っていた。
しかし、時代が移り変わり…穏健派だった悪魔族でも魔王と同じ急進的な考えを持つ者が増え始め、クーデターを起して穏健派の政権を打破、今の悪魔国として生まれ変わったと伝えられている。
なお、その当時の穏健派であった同じ悪魔族である吸血鬼族は、そのクーデターによって悪魔国内では冷遇措置をとられていたが、長引く帝国の侵略で疲弊した国の現状を見て立ち上がり、現悪魔国の政権へクーデターを起こす事になった。
しかし、結果としては見ての通りに惨敗し、吸血鬼族は難民となって各国へと散り散りになり、数を減らしてしまった…
残った悪魔国内で実権を握ってるのは、純潔の悪魔族と淫魔族の二種類で…
他の亜種悪魔達は少数派として細々に生きているとか。
「いずれにせよ、これ以上の王国内での悪魔国の奴等による侵略には、釘を刺す必要があるな…」
そう言いながら、密偵のアラクネ達の情報を見ていた俺であった。
それにしても…蓮の奴、結構の数の人間をアラクネに変えていたんだな…
まぁ、ギルバートさんに言わせると、元は
おかげ様で、アラクネ達の諜報活動が盛んになって、情報が集りやすい。
…今後は、アラクネの他に密偵に使える種族が居たならば、育てる必要がある。
一方で、王城内に集った騎士団以外の義勇兵の数も増えてきており…
一般的な戦士系の亜人族の殆どは、ギルバートさんやデュミエール達が担当し、ゴブリンメイジやオークメイジと言った魔法使い系の亜人族達は、次郎さんやヘルツが担当、オークプリーストやオーガプリーストと言った僧侶系の亜人族達には、花子さんとテレーズに担当に付けさせて教育を行なっていた。
また、亡命した吸血鬼族は数は少ないものの…各人共に通常の一個小隊に匹敵するほどの戦力を持っている為、指揮官育成として育てていく事にした。
あとは…不穏分子であるノスフェラトゥ達の力が気になるし、それ以前にあの魔術教団の実力も気になるな…
まぁ、そんな配分で考えながら…今度は今代の魔王がどうやって滅んだのか…
その点に気になるところだ。
勇者がやって来てないとなるなら…恐らくは『王』の素質を持つ、どの勢力が討ったかになるだろうな。
国塚萌の
それとも、あの糞お袋の…
ちなみに、カールさんとヘルガさんと後二人だけになった
部下達のドイツ系米兵の人達は、未だに連絡が来ないと言ってるからな…
いずれにせよ、あの四人が帰ってこない現状として、米兵部隊のあの人達全員は温存しておきたい。
特に、戦車に関しては貴重な戦力だ…
弾や砲弾などは、町に在住するドワーフ達や上島上村の二人が頑張って生産してくれてるおかげで、重火器の使用は可能になったが…問題は戦車の燃料だ。
石油系の物資は早々に手に入らないし、油田がありそうな場所には危険な魔物が潜んでいる。
特に、聞いた話では、竜族のドラゴンが石炭や石油を食っていると言う話が聞くという…
ていうか、ドラゴンが石炭等を主食にするって…某狩りゲームに出てくる火山の
とりあえず、現状のあれこれを資料見ながら考えてたら…後ろから良子が来た。
しかも、俺の頭に胸を乗っけながら…直子の悪い癖を真似るなよ…
「もしかして、また考え事?」
「そうなるな…重火器類が安定して使用できる様になったとはいえ、王都全域による防衛となるとな…」
「確かにね…私達十人、いえ、錦治君と冴子の二人だけでは厳しいものね」
「そうだな…良子。お前、震えてないか?」
俺の指摘に、良子はそのまま抱きついてきて震えを増してきた…
訳有りだな…
「…もしかして、俺に付いて来れるか不安になってるのか?」
「…そうよ。不思議ね…前の人間だった時や異世界に来た時は、私がリードしていたのに、今では足手纏いだわ…」
そんな事を言いながら薄っすらと泣く良子に、俺は良子の頭に痛くない拳骨した後に、優しく撫でてやった…
「良子…お前は勘違いしているな」
「何を?」
「お前は全然足手纏いなんかじゃない。確かに、総合戦力的で見ればお前が一番成長が遅いのも知ってる。だが、それだけじゃないだろ?物事の頭がいいお前がいるからこそ、俺や冴子が遠慮なく突撃できるだろ?だから、もしもお前が力が無いと思うなら、参謀になれよ。今まで俺…いや、俺達の右腕としてきたお前が抜けるとかは、無しだからな」
「錦治…君…」
「だからよ。泣くな…辛いと思ったら、遠慮なく俺達に任せろ。それと同時に、今の加奈子みたいに色々と教えて、お前…いや、お前達を鍛えてやるからさ…」
「うん…本当、不思議ね。もう大分前になるけど、私がこの一つ目になって、錦治君が本気で抱きしめてくれたの…私、あの時は嬉しかった」
「そうか…」
「だから…」
そう言いながら、良子は着ていた王城内用の制服を着崩しながら半脱ぎになり、座っている俺を跨いで来た。
「まだ時間が早いけど…抱きしめて」
「本当、可愛いな…」
そう言って、俺と良子は…トロールの雄とサイクロプスの雌となって乱れてた…
軽く二回ほど終えたあたりでスッキリして着替え直した俺と良子は、冴子と合流して騎士団の訓練を見ていた。
「そっちはどうなんだ?」
「問題は無いかな…皆やる気は満ちて入るみたいだし」
「そうか。ただ、なぁ…」
「ああ。まだ圧倒的に人数が足りないな」
冴子の指摘通りに、正規部隊である騎士団はおろか、義勇兵であるゴブリン等の亜人族の数が足りてなかった。
一応、王都に来訪する亜人族の部族が来るのは絶えてないが…それでも数がまだ少ない…
密偵の情報によると、ノスフェラトゥ達の上位吸血鬼族が下級のヴァンパイアの数を増やし続け、おおよそ1500から2000ぐらいに集めてるとか。
そうなるならば、倍か…もしくは強力な個体の種族が加わるか…
どちらにしても、難しいだろう…
念の為、各亜人族の族長には他の協力要請の信書を送っては貰っているが…今の所返答が無いらしい。
それどころか、「自分達だけで戦う」と活き込んでいる部族の連中も居るとか。
正直、そんな次期ではないんだがな…
そんな事を考えていたら…冴子が良子の体に寄って来て、良子の体を嗅いでた。
「良子…さっき、錦治とした?」
「ちょ、ちょっとだけ…」
「そうなのね…ああ、いい匂い♪」
「うっ、ちょ…やめっ…♪」
恥ずかしがってる良子を余所に、冴子が良子にセクハラし始めてきた…
うん、これはこれで絶景であるが…流石に公共の場で乱れるのは感心はしない。
なので、痛くない拳骨で冴子を止めた。
「こら、あまり困らせるな…あとで二人同時に構ってやるから」
「うぅ…名残惜しいが、仕方ないなぁ」
「と言うよりも冴子…貴方、最近何か目覚めてない?」
「ん?いや、そうでもないよ…ただ、可愛いからいいなぁと思ってね」
そう言いながらウットリする冴子に、良子は若干たじたじしていた。
黙ってて悪かったが…冴子はああ見えて両刀使いの素質があるんだわ。
勿論、男女のそっちの意味で。
「とりあえず、まだ成人していない未成年がいるんだから、公の場では控える。いいな?」
「そうだな。この前、デュミエールにセクハラしたら二人に怒られたからな」
「それ以前に、未婚で初心な娘に手を出すなよ…お前」
俺がそう忠告したら、冴子が「てへぺろっ☆」してきたので、良子と共に手刀を叩き込んでやった。
痛くは無いが、衝撃で怯んでいたな…
その後は、直子が見ていた魔法使い系の部隊を視察、加奈子が見ていた僧侶系の部隊も視察し終え、錬金術の実験をしていた美恵と合流し終えた後は、政策にて携わっていたエミーと、密偵の仕事を終えてきた蓮とフェイシャも合流し終えてから、クラリッサが居る執務室へ向かった。
「現状としてはこんな感じだな」
「うーん…厳しいですね」
「ああ。圧倒的に人材不足だ。個々の能力は申し分が無いが、相手が吸血鬼族の上位種だ。ごり押しされて、死人が出始めたらあっという間に制圧される」
互いにそう言いながら、執務室の中央にあった大型のテーブルにて小規模会議を行なっていた。
本会議をする前には、クラリッサとは必ず小規模会議する様にしていたのだが…
中々進まないのが現状だ。
まぁ、毎日がほぼ変わり様が無いからな…
一方で、俺達の会議で上がってくるのが…人間を保護及び人間兵の捕虜についてだった…
一応、あまり上がっては無いんだが…少なくとも前王政権の人間至上主義な兵の残党は結構多く居て、俺達が訓練している合間に攻めて来るものだった。
ただ、現状として、普通の人間が強化している亜人族にまず勝てるはずがなく、殆どが生け捕りに近い捕虜として扱われていた。
そこで、毎度ながら上がってくるのが…彼らを亜人族に変えるか、それとも…
亜人族の性処理として扱い、駒の出産道具にするか…
無論前者は悪くは無いものの…殆どの捕虜が俺達亜人族を憎んでおり、まず信頼すらしてくれない状況である。
俺の亜人化魔法は、互いに信頼関係が無ければ発動が出来ず、仮に使っても何も変化が無いか、もしくは化け物に転じてしまうかのどちらか。
一方で、後者に関しては…従来通りの亜人族に対する褒美と繁殖方法だ。
特に、亜人族の雄を士気向上させるとしては一番好ましく、忠義心も上がる上で亜人族が人間の女性に種付けすることで、特定の亜人族の数を増やす事も出来るのであった。
ただ、後者に関しては倫理的に一番非道にもなるのだ。
特に、未婚の人間女性の始めてを陵辱して無理やり生ませるのだからな…
そうなれば、人間との信頼関係に溝は深くなるのは確定で、余計に敵を増やしてしまう。
現状としては、それは避けたいところであった…
「正直に言うとさ…錦治で例えるなら、発情日でヤッちゃうようなもんじゃん。そうなるとさぁ、普通の人間の女性なら体も心も壊れちゃうかも知れんな」
「そうだな…冴子でさえ、半狂乱に成るぐらいにきついからな…」
「むしろ、冴子さんの場合は回復魔法が無いですから、女性の快感には、連続で耐え切れないかも知れないの」
「と言うより、加奈子の回復魔法掛けながらの錦治の相手は反則だと思うんだ…」
そんな冴子と加奈子のやり取りに黙りながらも、俺は話を続けた…
「それでしたなら、間を取って吊橋効果で引っ付けて、男女の恋愛に発展させるというのはどうでしょうか?」
「それこそ一番無理だ、美恵。偏見の無い辺境の女性や男性ならともかく、逆の人間至上主義の兵士だ。常に人間以外の亜人や魔物を憎んでいる者に、恋愛にはまず発展はしないだろうよ…」
「そうでございますね…」
「仕方ないわね。現状保留でしておきましょう」
良子の意見で〆ようとした時、直子がさり気に手を上げてきた。
「皆…一番見落としてるかもしれないけどさぁ…錦治っちのいう性処理や亜人化とかのその前に、人間達をそのまま兵として使ってみてはどうかな?」
「その手は最初に考えてたさ…ただ、式に応じてくれるとなれば、疑問かな…」
「居るじゃない。エミっちとかの吸血鬼とかがさぁ」
その直子の指摘に、蓮とフェイシャは納得してエミーを見て、その視線のあまりにエミーがたじろいでいた。
「えっ?わ、私がですか!?」
「というより、吸血鬼族には魅了効果あるじゃん。あれで血を吸わないでおけば兵として動かせるんじゃないかなぁと思ってね」
「なるほど、テンプテーション作戦か」
「いわゆる、淫魔族に伝わる魅了兵士作戦ですね。吸血鬼族にも備わってるし、上手く行けば兵の数は確保できるし、維持費も掛りませんですね」
「まぁ、人道的といわれたら疑問だが…妥協案としては最適だな。ありがとな。直子」
そう言って俺は直子の頭を撫でてやると、「ニシシッ」と笑って喜んでいた。
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