第27話 魔王軍の考察
魔王軍の残党である元生徒の先輩達の魔水晶と、追加で貰った資料を見ていた。
魔水晶の映像化は直子が得意ので、映像化するまでの間は、有識者全員で資料を調べていった。
…どうやら、20年前より以前は俺達の世界から各国でランダムで選ばれていたのだが、丁度20年前の代から…つまりは俺の親父やお袋、次郎さんや花子さん葛葉命あたりの日本の高校生、それも、俺達が居た進学校の高校を当たりやすくさせる様に意図的に介入する技術も出来上がっていたらしい。
しかも、それも西園寺の一族が率いる帝国側と、葛葉命あたりの当時の魔王軍の残党組による影響によるものであった。
だが、それもあくまで確率を上げるものだけであって、年によっては別の高校や他国の人間達が巻き込まれる事も多々あった。
まぁ、最終的な結果としては、現在鎮座している神が管理運営によって選ばれる事が多いのも、研究の結果で解明されていた。
しかし、魔王軍に所属していた生徒の中には、このシステムとは別に色んな視野にて観察し、考察を書き上げている生徒も少なくとも居た。
”俺達が居た元の世界はおろか、この世界もまた一つの階層の一つであり、その下の階層や上の階層が存在しうる。そして、その階層の先には自分達以上の化け物が蠢いており、上と下の化け物同士が狙い続けている”…と
この考察を元に、俺は一つの仮説を立てていた。
恐らくは、俺達の元の世界も、今みたいな異世界と混ざり合うような地殻変動を起して波乱に満ちて混迷極まる事になるかもしれない…と。
そして、その混迷の世界の中にて上と下の化け物代表が暴れ、破滅へと導かれる可能性もあるんだと…
全く持って迷惑極まりない話だ。
自分達よりも力強いもの同士が最上層昇るもしくは最下層落ちて、互いにいがみ合いながら、中層の世界の生き物を巻き込んで破壊をもたらすなんてな…
勝手にドンパチしたければ、それこそ自分達で世界を作ってそこで隔離して争えと言いたいぐらいだった。
だがしかし、もう一つの話としては…これは異世界に飛んでっだ連中達の末路であるんじゃないかとも考えられる。
良くある異世界ファンタジーで、神の加護や魔王の力を得たチートの連中が勝利した後、その行き着く先は何処に行くのだろうか?
大半は元の世界に帰りましたや、今居る異世界で王様になって平和に暮しましたなんていうハッピーエンドで終るだろうと思うが、それで終わりじゃないと思うんだよな…
俺としては…力を持ち過ぎた者達は、その先の階層に進む、もしくは降りる事で更なる世界にて力をフルに扱い、更なる力をつけるんだろう。
そして、そこでも持て余る力を得た者達は更に進み続け、最終的には双方の階層あたりに到着し、そこで互いに離れすぎた階層同士でいがみ合って争いを起こすのだろう…
俺達の創生の力や神々の力は、その連中が残していった残骸を取り込んでるか、もしくは拾ってしまったのかもしれないな…
それも、信念や欲望などが混ざった”渇望”や”執念”によって引き寄せられてしまう形でな…
だが、そう考えるならば…自分達の元いた世界の人間が選ばれるのが分からん。
そこを判明しなければいけないな…
「なんかなぁ…さっぱり理解出来んよ。錦治」
「いや、それが普通の答えだ。冴子。むしろ、こんなもの分かってしまうんなら学会に提出して議論して貰った方がいいレベルだ。まぁ、大半の学者は脳が拒否して嘘論文として抹消するだろうがな…」
「異世界なんて、普通はありえないからね。錦治君」
「そうだな…それよりも加奈子。いい加減俺の左腕に胸当てながら擦り寄るの、止めてくれないか?」
「…今日の私は嫉妬モードですの」
「ミリシャ程度のサキュバスで妬くなよ…それと直子。何気に股座に座るなよ…ていうか、ローブのスカートを捲ってから座って腰振るな」
「チッ…バレちゃったかぁ…」
「…そんなにしたいのか?」
『したい!!』
二人からの言葉に、俺は頭を抱えながら考え込んでしまった。
…なるべく、セックスレスにならないように配分を考えねばな。
そんな事を考えていたら、冴子から「何時も御免な…」な感じで肩を叩いてた。
ただ、そんな茶化した行為など気休めに等しいからな。
「まぁ、後で考えておくから…それよりも直子、もうすぐ再生できそうか?」
「あっ、うん。何時でも再生できる様にしたよ」
「そうか。分かっていると思うが…これから映し出される映像は…」
「分かってるよ。あの真理恵さんの虐殺が映し出されるんでしょ?」
「それもだが、もう一つの戦いには気をつけろ。最悪、葛葉命みたいになるかも知れないからな」
「うん…もしも、私がおかしくなりそうになったら、後ろから抱きしめて」
「ああ…」
俺が直子に性的な悪戯を受けながらも降ろさなかった理由がこれである。
あの葛葉命が、恐怖からの解放なのか知らないが…精神が完全に壊れてしまって頭の年齢が退行してしまった。
まるで、低学年の小学生の女の子並に幼児並の思考で、臆病な子どもになって、部屋の隅でガタガタと震えながら怯えていた。
無論、余り影響が無かった先輩達も当時の事は怯えてはいたが、あそこまで精神崩壊を起すほどではなかった。
なお、先輩達の意見では、葛葉命を引き取って静かに暮したいとの事。
自分達の元の世界への帰還野望や魔王の復活等どうでも良い、今は戦いから逃げ出したいと述べていた。
本当なら叱責をしたい所であるが、一般人から魔物、それも悪魔になってから、ずっと元の姿になって帰るという一心で戦い続けたが…自ら悪魔になった上に、無双的な才能による努力もしないで成り上がった、たった一人の元勇者に敗れ、あまつさえ化け物みたいな創生の力を見せ付けられて壊滅させられてしまえば…
例え、どんなに屈しない誇り高い魔物でも心が折れてしまうのだろう。
況してや、葛葉命は20年の間もこの異世界の隙間から元の世界を行き来して、自分の悪魔から人間に戻ろうと躍起になって、人化の術を使って人間のふりをし続けて人材を集め、魔王軍を盛り立てながら同じく魔物となった人間達を集めて戦い続けたのだ。
それを、あのお袋が踏み躙った上に、アレと対峙する為に邪魔だから排除したと述べてしまったぐらいだ。
その上で、トドメがあの化け物同士とのぶつかり合いだからな…
それで心が壊れないなどと言われたら、無理に程がある。
そんな心情から、先輩達に葛葉の看病するついでに、この城で働かないかと持ちかけてみたら、あっさりと了承した。
仕事内容に関しては後日言い渡す事にして、現在は監視付きながらも雑用をさせながら、女性陣は幼児退行した葛葉の世話をしていた…
全員、悪魔族だったから親近感はあるだろうし、問題は無いだろう…
それくらいの大事な争乱を納めた映像の魔水晶であるため、精神に耐え切れない者が居そうであり、況してや直子が映像の操作を行うからな。
操る者の精神が壊れてしまったら、誰が再生できるか分からんからな…。
そう思いながら、俺は直子の頭を撫でてやると、直子が「えへへっ…♪」と言いながら喜び、顔を摺り寄せてきた。
…一児の母親になりながらも、やはり根本的には子どもみたいに甘えたいと言う衝動があるみたいだな。
そんな懸念をしながらも、俺は直子を安心させていた。
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