第26話 元魔王軍の生き残り来訪

やり始めてから大体一刻…いや、一時間半ぐらいか…


”わりぃ、錦治。今日用意した弾薬が底に尽きた”

「”いや、上出来だ。この威力ならば、通常のヴァンパイアぐらいなら倒せる。ご苦労だったな、上村。上島にも生産宜しくと言ってくれ”」

”ああ!伝えとくぜ!ありがとな!錦治!!”


上村の無線が途切れたのを確認した俺は、地面に寝転がって息を上げてる冴子とさくの姿を見て、満足した。


”第五等程度ならば、兵器でも十分通用すると”


つまりは、火力による物量作戦は通用するんだと。

まぁ、完全に倒せると言えば、疑問視をするのだがな…

そう思いながら、俺は冴子と柝の所まで歩いていった。


「随分と息が上がってるな」

「お、お前なぁ…タフすぎるんだよ…」

「あ、あんな物量で攻められたら、溜まったものじゃないです…」

「そうか。だがな、あれぐらいの砲撃ぐらいで根を上げていたら、本物の戦争に立ち向かえんからな」

「まぁ…昔見た戦争のニュースでは、これに飛行機からの空爆があったからな」


そう言いながら冴子は起き上がった後に、同じく寝ていた柝を引っ張り起こし、着ていた服をはたいてやった。


「すまんな、柝。お前ら厄神にも兵器が通用するかの実験もしたかったからな」

「もぅ…事前に話し合いはさせてくださいよ。あれが鳴雷なるいかづち姉様だったら、怒って辺りを雷落としまくってましたよ」

「…やはり、怒りっぽい人か?」

「うん、物凄く…というより、温厚なのは私と若だけなんですから…」

「そうか。それはすまんかったな」


そう言いながら俺は柝の頭を撫でてやると、「ふにゃぁ…」という感じに融けて和んでいた…

だが、直に「ハッ!?」と我に返って咳き込んでいたので、直に止めておいた。

…ある意味、中学に挙がりたてな子どもに近いな。


「も、もぅ…ともかく、一応の兵器などは私達にも効きますが、特効というわけではありませんので、ご注意ください」

「ああ。善処するよ…」


忠告に対しての俺の返答に納得したのか、柝は元の魔力の塊に戻し、俺の中へと消えていった…


「さて…これで魔術教団やノスフェラトゥの連中に脅しが通用したな…」

「ん…?どういう事だよ?」

「そのまんまの意味だ。アレを見てみろ」


冴子の疑問に、俺が指で指すと…そこには使い魔らしき飛行物体が飛び去る所を一緒に目撃した…

大方、俺達の戦力を視察していたのだろう…

だが、結果としてはあれであるが…



「良いのかよ?見られて」

「ああ。一般兵士の手の内は見られたが、俺達の潜在はまだ見られていないし、戦力の全体図も理解していないだろう。内通者を作ろうにも限度があるからな」

「それもそっか…」

「んじゃ、帰るか。直子達もスッキリしただろうし」


そう言いながら、俺達二人は皆と合流して王都に帰る事にした…







あの後、着替え終えてから食堂で飯を食う事にしていた。


「よっ、調子はどうだ?直幸」

「ああ、順調だ。錦治。それにしても…一気に人が増えたなぁ…」

「元捕虜の兵士の中には、炊事班も沢山居たんだろう」

「それもそっか。今日は何にするんだ?」

「本日のお勧めでも。良い香辛料が沢山入ったんだろ?」

「ああ。獣人族の旅商人が安く沢山仕入れてくれたからな。たっぷりと有るぜ」

「そうか。だからカレーの匂いが充満してるんだな」

「まさかなぁ…カレー粉の元であるウコンとかも、南方の集落とかで普通に沢山栽培されているとかの話があったからなぁ。あっ、ちなみにルーは自家製で作り上げてみたぜ」

「おお、ついに俺を越えたな…」


直幸とそんな他愛のない会話をしていたら、江崎四姉妹も此方にやって来た。

うん、前以上に良い感じに顔色が良くなっているな。


「幸恵、智子、早季子、智慧。離れて大丈夫か?」

「うん。問題ないわ」

「新人で入ってきたサキュバスの子達、働き者だから助かるわ」

「おかげで、大分負担が減ったよ」

「これも横山君の交渉のおかげね」

「…いや、俺だけの結果じゃないからな。彼女達の話を聞いたら、色んな問題が出てきたからな」

「まっ、外交関係と武力関係はお前らに任せるしかないからな。王城内の人材に溢れそうな時は遠慮なく俺ん所にまわせよ。種族年齢性別問わずに、上手く扱うからさ」

「そうだな…その時は頼むぞ」


そう言いながら、俺はサキュバスになった元女兵士の給仕さんからカレーを受け取り、軽く平らげていった。


うん、下ごしらえされた羽鳥の肉が良い感じに出汁になっており、爽やか風味に作り上げられていて、良い物だ…


「おっ?今日はカレーか?」

「うわぁ…♪おいしそう♪」

「そういや、加奈っちてカレーが好きだったね」

「うん、実に良い香りですね」

「久しぶりにあっちの世界らしい食べ物が食べられるわぁ…」

「まぁ、そう慌てるな。ちゃんと人数分も用意してあるから…そういえば、蓮とフェイシャ、エミーとクラリッサは?」

「ああ。蓮とフェイシャは諜報部の情報整理を。エミーはクラリッサのお付き…というか、サボり防止の監視で」

「ああ。そろそろ呼んで来ようか…」


と思って俺が立ち上がろうとしたその時、蓮とフェイシャの二人が慌てて食堂に入ってきて、俺の所まで駆けつけてきた。


「どうしたんだ?騒々しい」

「に、兄さん!大変なんだ!!」

「魔王軍の将のあの女が…数人の部下を連れながら白旗を上げて此方に!!」


魔王軍の将…葛葉命か。

その報告を受けて、俺は連達二人を引き連れて真っ先に向かっていった。




城下町の入り口にて、あの葛葉命を担ぎながら、魔王軍の旗と白旗を上げた悪魔族の兵士達数人が、騎士団と共に歩いていく所で俺達は合流した。


しかし、肝心の葛葉命は…どこか遠くを見る様な正気を失った目で、精神崩壊を起し、何かのうわ言を言い続けていた…

流石に尋常じゃない様子なので、俺はギルバートさんに頼み込んで接する事に…


「ギルバートさん、ここは俺に任せて貰えないですか?」

「ああ。キンジか…丁度良かった。ここに居る兵士全員が、お前達と同じ世界の出身者だったからな」

「やはりでしたか…では」


そういって、俺は葛葉を抱えてる兵士に話しかけて言った。


「其処に抱えてられているのは葛葉命先生だな?」

「お前は…今年入ってきたE組の横山錦治だな?」

「ああ。お前達は…一つ上の先輩たちだな」

「よく覚えていたな。そう、俺達は…去年この世界にトリップして、葛葉先生と共に魔王軍を指揮していた、前年度のB組の人間だった。無論、今年のB組の奴等も仲間に引き入れて、勇者となったA組の連中を打破しようとしていた所を…あの化け物みたいな女悪魔がやってきたんだ」

「化け物みたいな女悪魔…?」

「私が先生から聞いた言葉では…横山真理恵と…」

「…先輩達、よく生き残れましたね。あの堕落聖母と対峙して」


俺のその言葉に、後ろに居た女子の先輩二人が泣き始めてきた…

やはり、お袋の奴が無双したのか…


「あれが…噂で聞いていた堕落聖母なのか…」

「しかもあれ、俺のお袋だからな…」

「通りでな…後輩の中でとんでもない奴と呼ばれたお前が、あの悪魔の子とは…国塚萌の進言通りに従って良かった…」

「…あっちはあっちで、大淫婦バビロンと呼ばれる勢力の頭だからな」

「分かってる。だが、堕落聖母よりかはマシだ。堕落聖母よりかは…」


そう言いながら、先輩達はガチガチと口を震わせながら怯えていた。

かなりヤバそうだな…


「とりあえず、一時は監視付きになりますが…身の安全は保障しましょう」

「た、頼む…一刻も早く忘れたいのだ…あの化け物同士の戦いを…」

「それは…厄神同士の戦いですか?」

「…その時の光景を記録した魔水晶ならここにある。ビデオと同じ要領で再生が出来るはずだ…あとはその辺に詳しい魔法使いに聞くがいい」

「ああ、了解した…ギルバートさん各員へ。彼らを丁重に保護してくれ」

「了解した」

「それと…後日有識者を会議室に集めて、緊急会議を行う」


俺の指令に、騎士団員全員が魔王軍残党である先輩達と葛葉命を保護し、葛葉に到っては担架に乗せて医務室に運ぶ事にした…

幾ら敵対側の悪魔…それも魔王軍とはいえ、あそこまで衰弱していたら保護するしかなかった。

それぐらい、あのお袋に対して心を折られたのだろう…


そう思いながら、俺は無言で連とフェイシャを引き連れて王城へ戻った。



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