第28話 堕落聖母と魔人マリエ
直子の調整も終った所で、後からやって来た亜人族の族長達、吸血鬼族や淫魔族あたりの皆も揃い、最後に入ったデュミエールや上島、上村の二人も席に座り、資料を整理していた皆も席に座った。
俺が立って説明すると言う事で、直子には俺が座っていた席に居る事にした。
少し不安がっていたが、「大丈夫だ」と声かけてやると素直に頷いて応じた。
一方、冴子を含めた残り八人も俺の近くの席に座る事にしていた。
まぁ、こればっかりは仕方ないからな…
そして、最後に…魔王軍残党代表である悪魔族のデーモンになった女子先輩の、
「山城先輩、協力に感謝します」
「いえ、大丈夫です。本当は佐藤君が代表になるべきだったけど、葛葉先生との付き添いが大事だから、仕方ないです」
そう答えてきた山城先輩に俺は無言で応答をし、着席を促していった。
「さて、本日お集まり頂き、ありがとうございます。今回の会議の一件でございますが…」
「堅苦しい挨拶はよしておくれ、トロールの青年よ。今回は魔王軍の残党が持ち歩いていた資料と魔王軍が滅びた原因を見せるんじゃろ?」
「話が早くて助かります。実は、その時の魔水晶の記録が手に入りました上に、古き知識を持つ皆様方のご協力にお願いを申し上げる所存です」
「ふむ…じゃが、儂等とてお主等が言う厄神という邪神はあまり詳しくはない。そこは大丈夫じゃな?」
「それはそれで構いません。現状として知って頂くだけでも構いませんので」
俺のその言葉に、族長達は頷いて応じてくれた。
あとは…ショックで倒れるものが居ないかどうかだな。
「ミリシャ、テレーズ、ヘルツ。お前達は大丈夫かね?」
「一応、リーダーとして見るべきだと思いますので、覚悟してます」
「ノスフェラトゥ達の戦いの前に、魔王軍の壊滅した現状は知りたいですわ」
「同じくだ。カーミラやストリゴイ達にも知らせなければならないし、エミーが管轄するヴァンパイア達に不安を与えてはいけないからね」
「そうか。デュミエール、それと上島上村…お前達も大丈夫か?」
「大丈夫ですわ。私も騎士団員の端くれ、ギルバート様の次に引っ張る者として恐れを抱いてはいけないのです」
「同じくだわ」
「ああ。参考適度にはならんと思うが、見ておきたいからな」
「そうか…では、これより記録の映像を流します。直子、頼む」
「う、うん。分かった」
俺の指示を受けた直子は、魔水晶に魔力を送り込んで、映像を再生していった…
薄気味悪い大地が広がり、立派な居城が構える暗黒の大地…
これが、この世界の魔王が住む大地で、勇者達一行の最終目的地か。
そんな魔の物が生息する大地に、場違いの現代物である女物スーツを着こなして歩く女悪魔が威風堂々と歩いてた…
間違いない、お袋である横山真理恵の姿だ。
そんな歩くお袋に合わせて、魔王城から無数の魔物が溢れ出し、部外者の侵入を排除しようとやって来た。
俺と同じである亜人族最強の魔物、トロールキング。
この大地に住むベヒーモスの王、キングベヒーモス。
数多のアンデッドを束ねる不死王、ワイトキング。
生粋の悪魔族で魔王に忠義を尽くす騎士王、レイバーロード。
どれもが最上位の魔物であり、並みの勇者なら苦戦する相手であろう。
それに加えて、それぞれの王が統率する魔物達も集って、一斉にお袋へ目掛けて突撃していった。
しかし、そんな魔物達もお袋に傷一つ入れる所か…泥一つも浴びせる事が出来ず、苦痛の表情を浮かべながら死に絶え、アンデッド達は塵となって消えていった。
「やはり、お袋に力技には無理なんだな…」
「ちなみに、どれ位の強さなんだ?あの魔物達は」
「通常のボスクラスの強さはあると思う。例えるなら、王都が陥落した時の俺の二倍ぐらいの強さだな」
「それを何もしないで倒してしまうとはな…」
冴子の言葉通りに、映像を見る限りではお袋は何もしてないだろう。
だが、俺と冴子なら分かるが…あれは創生の力が漏れた程度の威力なのだろう。
それも、呪殺となれば、漏れた力だけで殺せるぐらいの力があると俺は睨んだ。
「未だに、何故魔物達が大量に死んだのかが理解できないわ…」
「先輩は創生魔法はご存知で?」
「え、ええ…葛葉先生の講義受けてた生徒全員は知っていたわ」
「あれは、お袋の創生魔法の力が漏れただけですね。それでお袋に触れようと、近づいた者を片っ端から創生の力による呪殺で一掃したのでしょう」
俺のその説明に、山城先輩はおろか、その場にいた全員が騒然となった。
近づいた者だけで呪い殺す力など、想像出来ない物だからな。
映像に戻していくと、今度は見覚えのある連中がお袋の前に立ちはだかった。
そう、あのB組の連中全員だ。
しかし、その人数は僅か10人ほどであった…
他の連中はどうしたのか?
「今年のB組の生徒の中で、出来の悪い子達は各国の前線に出て、西園寺の勇者組にやられてしまったわ」
「通りでな…ちなみに、水鳥は俺達が仕留めてしまったが…」
「分かっているわ。それも戦争の一環として皆受け止めていたし…先生の演説は要らなかったけど、お馬鹿な魔物達を統率する為に仕方なかったぐらいだわ」
「まぁ、セイレーンという種族は魔物にとってアイドルみたいなものだからな」
「えっ、そうだったの?錦治っち」
「一応、女形の魔物は花形になりやすいからな。大体基本男型なのが魔物だし」
そんな豆知識は置いといて、映像に戻していくと…生徒が声を荒げてた。
”魔王軍に所属していない悪魔が暴れてると聞けば、女一人か!”
”よくも大事な仲間達を…!!”
”名乗りやがれ!悪魔国の悪魔族なら容赦なく殺す!!”
悪魔となった三人がそう言ってきたのに対し、お袋は鼻で笑いながら答えてた。
”猿の様に喧しく吼えるだけか?小僧ども。先程の獣の方が立派だぞ”
その煽りを受けたあいつ等の半分は、愚かにも突撃していった。
しかも、そいつら全員もまた創生の力を持っており、お袋の前に放っていった。
だが…あのお袋の前では創生の力を振るう事は叶わなかった…
お袋自身が持っている創生の力による無力化によって。
しかし、先程の魔物とは違って、全員呪い殺される事は無かった。
どうやら、創生の力を持っているだけでも呪殺に対して対抗が出来るみたいだ。
創生の力が使えないと分かった奴らは、全員で一斉に攻撃を仕掛ける事にした。
それも、無駄に終る事になるが…
あの文武両道であるお袋に、学芸程度の武道を究めた程度では勝てる訳がない。
ものの一分もせずに、ポケットに手を入れたままのお袋に太刀打ち出来ずに全滅していき、一人残らず心臓を踏み潰されて死んでいった。
”血が赤いな。完全に染まりきってないようだな…なぁ?葛葉命”
そのお袋の前に、今度は壊れる前の葛葉命が立ちはだかった。
それも、演説の時とは違って完全武装した女魔将の騎士の格好をして。
”忘れもしない。あの20年前と同じ姿で悪魔になるとは…横山真理恵。いや、堕落聖母の魔人マリエ!!”
”ほぅ。今の私を覚えているとは、流石は元女優を目指そうとした天才子役で、演劇部のスターだ。羨ましく、妬ましいなぁ”
”ほざけぇ!よくも勇者側に居て人間のままで帰った奴が、悪魔になって戻ってくるなんて、私達を侮辱したくせに!!”
”それが貴様の本音か。面白い女だな”
その挑発を皮切りに、葛葉命率いる魔王軍全員が総突撃をしていった。
無論、今年度以前の生徒達全員を引き連れて、たった一人の悪魔を倒す為に。
だが…それでもお袋に”誰一人も傷を入れれず”に落ちて死んでいった。
残されたのは、残党として投降した山城先輩達数人と葛葉命だけであった…
しかし、全員地面に伏せられた上に、今代の魔王であったB組の生徒の奴を持ち上げられているお袋の姿を見せ付けられた上に、目の前で捻り殺して投げ捨てて満足した所であった…
「あの女…ここまで無双するなんて…」
「正直、俺も驚いている。だがな、一つ付け加えるならば…お袋は一度も創生の力をフルに使ってない。これがどういう意味か分かってるな?」
俺のその言葉に、更に沈黙が広がっていった。
奴は、一度も本気を出さずに壊滅させてしまったと言う事を見せ付けられた。
その事実に、俺を含めて思い知らされたのだ。
そして、地面に伏せられ激痛を走らせながらも未だ動こうとする葛葉に、お袋は見下しながら言葉を発した。
”ふん。無様だな…葛葉命”
”横山…真理恵…!何故…魔王様を…討った!!”
その葛葉の言葉に、お袋は鼻で笑いながら答えてきた。
”何故?あんなのが魔王?笑止。あんな惰弱で愚能な『王』など羨ましくも何の妬ましくも無い。まさしく塵に等しい物だ。私の愚息の方がまだ使える”
”なん…だと…?”
”それにな。貴様らなど眼中に無い…この地に息を潜める”アレ”を監視しに、来たまでよ…”
そう言いながら、お袋は反動で壊した魔王城を尻目に、地面に蹴り入れて亀裂を生じさせて、其処が見えない暗闇を眺めていた。
その先の映像を続けようとした時、山城先輩が手を上げてきたので、俺は直子に映像再生を一時的にストップさせた。
「どうしたのですか?」
「横山君。この先を見るなら、本気で覚悟して頂戴。この先は…悪魔ですら絶望させる物が映りこみます。だから…」
「…第九等厄神、”太歳”が映るからか?」
その言葉に、山城先輩は絶句をし、厄神について知っている何時もの面子もまた言葉を失っていた。
第八等厄神の上に、更に居た事に…
「キンジよ…まさか、お主は知っていたのか?」
「この前の調べていた厄神に関する書物の中に、禁忌と書かれたページがあって、その先を読み解いていったら、第九等と書かれていた厄神の一覧が載っていた。そして、その中に現在お袋や国塚が関わりのある神があった。それが太歳であり、その神は厄神を越えた化け物。廃れた神と書いて廃神とも言われる」
クラリッサの問いに俺はそう答えると、クラリッサは青ざめていた。
よもや、この世界にそんな邪神が存在するとは知らなかったのだろう。
…しいて言うなら、俺も元の世界における太歳の存在をあまり知らなかった。
元は中国の伝奇で伝わる大妖怪であり、陰陽道や風水術に出てくる八神将の一人吉祥の神で木星の守護を意味する神、太歳神を裏にひっくり返した妖怪だと俺は解釈をしていた。
しかも、この妖怪はあまり詳しく語られてはいないが、木星の位置と共に地中を移動する肉塊の化け物で、万が一太歳を掘り当ててしまった場合、木星が移動し終える前に埋めなければ一族が死に絶えるという言い伝えがあり、話の男が家の裏側で太歳を掘り当ててしまい、埋めるのに間に合わずに一族郎党に祟り呪われ死んでしまったとの事。
つまりは、存在をするだけで祟り殺す化け物と認識されてるのだ。
無論、この世界に太歳を呼び出し、世界に暗躍しようと画策してきた奴が居るのだろう。
…国塚が、太歳に関して気にしていたのはそのためであったのか。
だが、俺達にもその事実を知る権利があるはずだ。
なので、俺はその先を見る事に決定をした。
「恐らくは、その太歳とお袋の戦いが納められているのだろう。意図的に誰かが撮影をして、邪魔立てされない様にする為にな」
「国塚萌が渡してきた理由がそれだったのね」
「やはり、国塚か…アイツの目的は何なのだ…」
正に、俺が言う本音としてはそれであった。
アイツの目的は一体何なのだ?
西園寺の奴を裏で操り。
俺達の乱戦に加わり。
敵に資料を送りつけては忠告したり。
あまつさえ、警告まで発してくるとは…
本気で色々と考えさせられる奴だ。
”種違いの実の妹”の癖に、何を考えているのかが分からん…
だが、そんな奴からのメッセージならば、見るしかないだろう。
「直子。映像再生を続けてくれ」
「うん…分かったよ。錦治っち」
俺は直子に指示しながら、再び流れる映像を全員で見ていった。
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