第29話 太歳ト鏖地蔵菩薩、ソシテ大淫婦

再生し直した映像から、亀裂から見える暗闇に今、お袋が問いかけていた。


”出て来い。災厄の大妖怪、太歳”


その瞬間、その亀裂からは無数の目玉持った不快な肉塊が蠢きながら湧き出し、お袋を睨んでいた…

正にその眼差しは、”全ての生き物に死の災い”を招く祟りの目をしていた…



「キャアア!?」

「こ、これが太歳!?」

「もはや化け物その物じゃないか!!?」


やはり明々白々、こんな異形の化け物…この世に存在してはいけない。

しかもだ、その肉塊の動きはまるで内臓みたいに…男の俺が言えば女性のアレの中を見せ付けるぐらいにグロテスクで、嫌悪を抱き、吐き気を催す物である…


”通りゃんせ、通りゃんせ…御通りなさいまし…通ってもいいですよ…”


その不快な肉塊の化け物は亀裂から湧き出ながら童謡「とおりゃんせ」を謳い、その場に居た生き物全てに憎悪と恐怖を植え付けていた。

正に居るだけで負の感情を振りまく、”この世に存在してはいけない”邪神だと言わざるを得なかった。


だが、そんな邪神の前にお袋は笑っていた。

それはとてつもなく邪悪な笑い方をして…


”第八等厄神を越えた、”第九等厄神”…記録に記載もされず、存在すらも否定されていた。正しく”まつろわれた神”に値するおぞましき怪物…時貞。貴様は狂っているな。こんなものを生み出して、今更楽園ぱらいぞも無いだろうに”


時貞?楽園ぱらいぞ

またしても疑問を投げかけるような単語を呟いているお袋であったが…

一体何処まで知っているのだと言いたくなる。

だが、皆そんな疑問の前に、お袋の堂々とした態度に恐れを抱くばかりであった…


俺と…冴子を含む何時もの五人と当事者の山城先輩を除いて。


「時貞って…人の名前だよな?」

「少なくとも、昔の人の名前だよね…」

「美恵っちは、歴史詳しくなかったっけ?」

「私は日本史に関してはあまり得意では…」

「私もだわ…歴史に詳しい錦治君なら分かる?」

「該当するとなるなら、天草四郎時貞ぐらいしか知らないな。だが…あの人物は江戸時代初期…つまりは、約三・四百年前の時代の人間だ。それに、魔界転生と言われる作品で怨霊化した話でも二百年ぐらい前の話だしな…それに、楽園ぱらいぞとは隠れ切支丹キリシタンが使っていたパラダイスの言葉をもじった奴だと思う」

「あ、ある意味博識ね…横山君は」

「そうでもないさ、先輩。俺の引き出しから出る知識からすればこの程度ぐらいしか思い出せない。たぶん、お袋は何かを知っていると思うが…」


その言葉を言いながら、再び映像に戻していった。

今この場と合わない訳の分からん言葉をあれこれ考えるぐらいなら、今映ってる現状を整理した方が良い。

そう解釈しながら、俺は再び進めた。


その太歳の胎動を眺めていたお袋であったが…


”この子に七つの、お祝いにお札を納めに、参りますぅぅぅー…”


未だに謳い続ける化け物からは、無数の蟲が湧き出し、蠢いていた…


百足、ダニ、蜘蛛などの生理的に嫌悪を覚えるような毒蟲達が、今か今かと抜け出そうとしていた。


そして、一匹の大百足がお袋に目掛けて弾丸の速度の如くに飛び出し、突撃して行った。

しかし、お袋は涼しげな顔をして手で払い、大百足を地面に叩きつけてやった。

無論、百足は原形止めることなくひしゃげて潰れ、汁を撒き散らし消えていた。

それを皮切りに、蟲以外の魔物、妖怪達が蠢いて飛び出し、洪水の如くに流れて突撃してきたのだ。


鬼、大蛇、腐り果てた狐、白骨化した牛…


どれも恐怖を煽り、おぞましい怪物であり…通常の魔物や亜人からすればとても叶う相手ではない。

それが百鬼夜行の洪水になって迫ってきてるのだ。

だが…それらが、太歳の使徒ではなく…太歳の中から飛び出して逃げ出したいという、必死のあがきもがくの行動であったと悟った。


”行きはよいよい、帰りはこわい、行きは好い好いとして行ったしてもぉ…帰りは怖いですよぉぉぉぉ…こわいながらも通りゃんせ、怖いですけれども、御通りなさいまし通りゃんせ、通ってもいいですよぉぉぉぉぉ…!!”


太歳が謳い終えた瞬間、肉塊から無数の巨人の手が伸び出して、百鬼夜行である妖怪達を一つ残らず掴み、握り、潰し殺していった…

それと同時に、肉塊からは不気味な笑い声で木霊していた…


「ひっ…!?うぐっ…!!」

「こ、これを魔王軍の生存者は見せ付けられたのか…」

「い、いえ…これはまだ序の口です…ここからが本番です」

「大丈夫か?直子」

「ま、まだ大丈夫…姉御達は?」

「私は平気…錦治、これは一体何なのだ…」

「何の意味もない。奴にとっては、中に居た魔物や妖怪なんぞ、蟲を潰す感覚で遊んでいるだけに過ぎない。俺からの目で見たら、そんな感じだ。そして…」


俺の中に居た厄神達が、怒りに満ちていた…

どうやら、太歳クラスの厄神は排除するべきだという認識を持ってるようだ。

だが、八柱の内未だに二柱しか使役出来ない現状では、耐え忍ぶ他無かった。


八雷やくさのいかづち達も皆怒っている…」

「そうか…そう言う事か…」

「ああ。だが、これ以上に酷いのがあるらしい」


その時である。

映像に映るお袋が声を上げて対峙してきたのだ。


”図に乗るな。卑しい化け物が。貴様みたいな力だけしか能が無い奴等に、羨ましいとは思わんし、妬ましいとは思わん。私の言葉すら理解すら出来まい。それこそが貴様の弱点だ”


そう名乗り上げた後、お袋は手を翳して創生の力を解放させ、創生魔法を発動をさせてきたのだ。


”オン・カカカ・ビサンマエイ・ソワカ。地蔵になりし幼子を守護する菩薩。三途の川に石積む水子を救済しようとするその様を、私は無様に笑いて、貴様の救済という諸行を踏み躙ろうぞ…我こそは堕落聖母成り…創生!堕落聖母だらくせいぼ鏖地蔵菩薩みなごろしじぞうぼさつ!!”


詠唱を終えたお袋の頭上には、磔にされながら焼かれ、腹を引き裂かれた地蔵菩薩の姿が出現し、その裂かれた腹から無数の水子の怨霊が洪水の如くに流れ、太歳に向かって突撃していった…


「なっ――――!?」

「こ、これがお袋の力…!?」


俺と冴子は、お袋の力を予想以上の物であると知らされた…

さくの言葉から水子の怨霊が関わっていると教えられたが…それが数千、数万、いや…あの量からすればそれ以上の水子…つまりは赤子や幼子の怨霊が、無数に湧き出すほどに”お袋に贄として消えた子ども”が太歳に向かっているのだ。


そして、赤子の大群に対して太歳は…まるで玩具か飯を貰った子どもの様に騒ぎ胎動し、肉塊から百鬼夜行の化け物や巨人の手を放出して捕えてきた。

だが、赤子達も負けじと物量で攻めながら、化け物や巨人の手を食いかじって、先にある太歳の肉塊へと進んでいった。


…この光景を例えるとするなら、生物テロ後の知性のないゾンビ等が蔓延る終末世界の最後と言えるような、おぞましく…そして終わりなき絶望そのものだ。


「これが…堕落聖母じゃと…!?」

「恐ろしや…恐ろしや…」


族長あたりの年配者達は、まるで度が過ぎる神への罰当たりの行為を行う悪魔に己達が信ずる神に慈悲を求めており…


「いやっ…いやっ…!」

「テレーズ、大丈夫か!?」

「耐えられない…こんなの酷すぎますわ…!」


流石の悪魔族の派生である淫魔族のミリシャや吸血鬼族のテレーズやヘルツ達もまた、この非道同士による創生の力の戦いに心が折れかけているようだ…


一方で、騎士団の全員は…全員絶句して茫然と見つめていた。

もはや理解の範疇を超えている。

以前の王都陥落の光景どころじゃない、おぞましすぎる光景である。


流石にこの映像を流し続けるのはいけないと判断をし、俺は直子に止めるように指示を出そうとした。


だが、俺と冴子は…直子を含めた残りの八人の表情を見て驚きを隠せなかった。

全員、怒りに満ちていた。

直子、美恵、良子、フェイシャは勿論の事、冷静であるエミーや蓮、そして…

比較的に温厚であるクラリッサや、あの加奈子までもが怒っていたのだ。


「…錦治さん」

「どうした…直子」

「私…いえ、私達は…あの人を倒して見せる」

「物凄く長い道のりになるぞ…」

「分かってます。だけど、ここに居る皆…子どもを産んだ者達全員は、あの女の力には…」


直子がそう言いかけ様とした時に、俺は直子の肩を優しく叩いた。


「お前の…いや、お前達のその憎しみ、怒りは俺に預けてくれないか?」

「錦治…さん?」

「子どもを産んだお前達だからこそだ。憎しみによる復讐は合わん」

「でも…」

「だから、突破する為の力への努力をしてくれ。その代わり、前にフェイシャに後藤へのトドメをやると言ったように、お前達にお袋へのトドメを暮れてやる。それでいいだろ?」

「…うん」


そう言いながら素直に応じた直子の頭をポンポンと叩いて、映像を止めるように改めて指示を出して前に出た。



「見ての通りだ。これが魔王軍の壊滅後にて、魔の物が住む大地にて厄神同士の化け物の争乱が起きてしまった。以上が魔王軍の残党が命辛々持ち込んでくれた貴重な情報でした。…山城先輩、本当に感謝します」

「…いえ、当然の事をしたまでです」

「そして、改めて言わせて頂きます。…魔王軍に下って魔物に転じた人間達に、良心があると言う事を教えて頂き、有難く存じます」


俺がそう告げると、山城先輩は手を覆って静かに泣き出していった…



その後、落ち着きを取り戻した会議場にて議論を交わされていった。

結果としては…魔王の大地におけるこの戦いの記録は機密保持で合意。

そして、堕落聖母と太歳に関しては絶対不干渉という事で合意した。


今すぐにでも向かいたいと言う気持ちがあるが、俺からすれば圧倒的にレベルが不足し過ぎている。

先輩達の精鋭部隊で、生存率が一割を切ってる時点でほぼ絶望的だと言わざるを得なかった。

だが、堕落聖母と共に居た大淫婦バビロンの国塚萌から言わせるならば、あの二つの神がぶつかり続ける限りは動く事がないし、災厄をばら撒く事はありえないと名言。

それに、各国に飛び散る事がないとの事なので、不干渉一貫で置く事に。

元々内戦勃発前に、こんな情報が飛んできた事自体がイレギュラーであったので先輩達魔王軍残党が結集し直して、魔王の大地を取り返すという意見があったら真っ先に断るつもりであったが、葛葉含めて全員が戦う意思を放棄してる時点でこの話が流れてこなかったのが幸いであった。


その後は、王城防衛が出来そうな人材が居たら紹介を頼むと先輩にお願いをして解散を告げた…







会議の後に、直子から魔水晶の扱い方を教えてもらった俺は、一人であの映像を見続けていた…


あの光景…お袋が創生魔法を使い太歳を押し止めてる現状を見て、あの時の俺に対するお袋の見下す言葉に思い出しながら、静かに怒りを溜めていた…

無論、お袋に対するものであるが…半分は自分への不甲斐無さへの苛立ちに…



男は強くなければならない…

昔はそういう男が先導をし、一人の女性…お姫様もしくはヒロインと共に人生を歩むのが、ファンタジーの王道であった。


だが、今の若年層向けのライト小説におけるファンタジーの男主人公では、まず前に立つ事が無く、自分よりも強い女や男の子を前に立たせてヘラヘラしてて、それでなく何も努力せずに神様から貰った玩具や力を使って俺が強いと豪語し、ご都合的に女達を侍らせてハーレム気取りをする男が出てくる事が多い。


少なくとも、俺は…あいつ等を守るために力を揮い、時に手を汚し、スケベ心を抑えながら、あいつ等に力を付けさせる為なら何でもした。


そして、この世界で亜人に変えられながらも、五人とは違うハイスペックな力を手に入れた俺は、更に力をつけていこうとし、彼女達を困らせない様に極力女性関係とは結ばない様にはしていた。


しかし、現状ではなんだ?

結局は押される形ながらもやってしまい、子を作り、その上にこの異世界からも女性関係を結んだ上に、自分の腹違いの弟までも亜人の女に変え侍らせるとは…

その上で天狗になっていた俺に鼻を圧し折ってきたお袋に苛立ちを覚えながら、何も出来ずにウジウジする自分に反吐が出ていた…


だが…いい加減、この考えから打破する事にしなければ…

俺が皆の怒りを預かると豪語した代わりにはな…


そう思って、俺は映像を止めようとした時…映像の中に極僅かながら写る奇妙な境目を見つけた。


なんだあれは?

そう思った俺は、魔水晶を操って拡大させようとしてみた。


その時である…

その魔水晶に延ばす俺の手に、別の悪魔族の肌を晒した女の手が出てきた。


「その先の秘密は、まだよろしくないですよ。錦治様」

「国塚…また何の様だ?」


俺は若干苛立ちながら答えていた。

しかし、国塚は俺の苛立つ声に対し平静を保ちながら魔水晶の映像を止めていき、何処から取り出したか分からないティーセットを取り出して、俺の座っている机にハーブティーを差し出してきた。

一応、香りを嗅いでみたが…媚薬とかの反応は無かった。


「お気を鎮めて下さいませ。貴方様が血の気を沸騰させて内乱を速く静めてしまう事にはなりませんので」

「ふん。貴様如きに宥められるとはな…何も入ってないだろうな?」

「媚薬や睡眠薬になる薬草如きに頼る悪魔などは、三流以下の屑であります。真の悪魔などは、心が憔悴し切った時に優しく抱きしめながら堕落させるものです」

「淫魔と変わらんな」

「本質は一緒ですわ」

「そうか…改めて聞くが、何故今更太歳とタイマンしている事をばらしたのだ?」

「錦治様以外の方々が、中々理解されない状況に助言をしたくなりましたので…あと、ちょっとお会いして交渉したい人物が氷人国におりますが…これが予想外に難航しておりますので、そのついでに寄らせて頂きました」

「ふん。そのついでに貞潔を頂こうというわけか?」

「本望ならそれが望みますがね。何せ、貴方様と交わった時に、始めて魔王を産む事が出来ると信じておりますので。言い忘れてましたが、悪魔族と淫魔族は自分の意思によって自由に受胎する事が出来ます。だから、たった一回交わるだけで腹に子どもが宿りますわ」

「なるほどな…そして、今俺が一人だから近づいたと言うわけか。淫婦が」

「ええ。彼女達から離れた貴方だからこそ、頂きに参りましたわ。旦那様」


その瞬間、俺は力を解放して殺気立たせようとした。

しかし…能力の力は出せても体を動かす事が出来なかった。


「くっ…貴様の力か!」

繰人形くびとかたは、死体を操作するだけでもないでございますわ。意中の人を拘束し、自分の思い通りに動かす事も出来ますわ…」


くっ…何処からだ?

俺は茶の匂いを嗅いだだけだし、茶には魔力や薬物は入ってなかった…

あとはあいつが触れただけ…まさか。


「うふふっ…私の体を触れた時点で、その人を操る事が出来ますわ」

「迂闊だった…」

「そして、ここに来る前に…口煩い9人の姫君もまた繰人形で身動き取らせない様に頂きましたわ。…誰も助けが着ませんわ」

「糞…がっ…!」

「では…一度限りのチャンスを、頂きますわ」


そう言って、奴は俺の意識を奪いながら接近してきた…





意識が戻った頃は、俺は物凄い虚脱感の中に怒りを灯していた…

この女に、不貞を結ばれた頃に対して…

そんな俺の怒りに対し、俺と結ばれた国塚は、俺の服を正した後に修道服を正し直していた。


「ご馳走様でしたわ」

「…覚えていろ」

「ええ、忘れませぬわ。ああ、あと言い忘れてましたが、魔力やレベルは奪っておりませんので、ご安心を…」

「だが、俺は穢された…」

「では、誰かに浄化でもしてくださいな」


その瞬間、国塚の胴体が横一線に切られていた。


「あら?これは嫌ですわ」


そう言いながら、国塚は切られた反動で倒れながら、黒い灰燼として砕け散り、そして再生してきた…


「どういう吹き回しですか?山城先輩」

「黙れ!淫売!!よくも横山君を穢してくれたな!!」

「部外者なのに、何故其処までいきり立つのですか?ああ、そういえば先輩はまだ誰も恋もした事もない処女でございましたね。誰にも相手すらされずに、一人で慰め続け、魔王となった彼に恋をして告白したのにもフラれた挙句に、親しい先生も頭が壊れて生き残った男の子にびったりになって嫉妬した所に、優しくしてくれた錦治様に惚れて彼女達の仲間になろうと考えていた矢先に、私に先越されて不貞を結ばれた事に怒り狂ってるのですかな?」

「――――――っ!?言うなぁ!!」


激昂した先輩は剣を振るっていったが、国塚は灰燼化して塵となって消えさり、下衆な笑い声をしながら木霊させていた。


「やましろかなめはいんらんしょじょ。おまえはじぶんでなぐさめることしかできないおんなだ。くさい!おまえはくさい!!おまえのなかには、くさったらんししかない!」

「黙れ!黙れ黙れ黙れぇ!!」

「いい加減にしろ!この淫売が!!二度と姿を現すな!!」


国塚の下衆な笑い声が遠くなっていく事によって、俺は自由に動ける様になり、助けに来てくれた先輩の傍に寄っていった。


「先輩!大丈夫ですか!?」

「よ、横山君…ご、ごめんなさい…私が遅れたばかりに…」

「…アイツの事はどうでも良いです。それよりも…いや、アイツの言葉の事は」

「横山君、いえ、錦治君…ごめんなさい。わ、私…君が妻が居るのに…好きに」

「先輩…それは違います。俺の中にある魅了効果による発情です…」

「ううん、違うわ…本当に…」


先輩が泣きながら答えている間に、廊下から走って駆けつける足跡が聞こえて、俺が居る部屋に入ってきた。


「錦治!大丈夫か!?」

「大丈夫だ。と言いたいが…国塚にやられた」

「やっぱりか…アイツっ!!」

「なんで、山城先輩がここに?」

「彼女に助けられた…詳しく話は皆と合流してからだ」


そう言って、俺は合流した冴子達と共に泣く山城先輩を俺達の部屋に連れて行く事にした…




結局、俺は一部始終の事と悩んでいた事を先輩を含めて全部話した。


「すまん。俺が一人で考え事がしたいと言ったばかりに…」

「やった事に関しては仕方ないよ。女が男を襲うという話は珍しくないし…」

「でも、心を貶しながら襲うのは外道だわ」

「あと一歩間違えれば、錦治君の心が死ぬ所でした。いくら不老不死になっても、心が死んだら駄目になります」


俺の言葉に、冴子と良子と美恵は答えながら俺が触れていた魔水晶の残留魔力を調べていた。

一方、加奈子はクラリッサとエミーの協力を重ねながらの浄化魔法で、俺の中に入り込んだ国塚の魔力を取り除いていた。

国塚の奇襲によって、身動き取れなくなっていた時も、真っ先に加奈子が自身に浄化魔法を掛けながら拘束を解いて、皆を回復させて後に駆けつけたとの事。


未だに、若干の拘束力がある国塚の魔力を完全に取り除くまでは、俺は加奈子の浄化魔法を掛け続けられていた。


「すまんな。加奈子…負担を掛けさせて」

「ううん、大丈夫ですの。錦治君、無理しないで…」

「逆にお前達に申し訳ない気持ちだ…あと、先輩はどんな感じだ?」

「直子さんが見てますけど…」


そんな加奈子の言葉通りに、山城先輩は直子を中心に、フェイシャと蓮の三人に慰められていた。


大分落ち着いて泣き止んではいたが…俺の目の前で自分の内心を暴露された事にショックを隠しきれなかったようだ。

その事も皆に話しておいた。

しかし、俺としては…前回のテレーズの事も合ってか、これ以上女性関係を持ちかけるのは良くないと思っては居たんだが…


「錦治っち…いや、錦治さん。頼みがあります」

「なんだ?直子」

「先輩を娶ってくれませんか?」


直子の言葉に、我が耳を疑った。

山城先輩を、娶れと?


「何を言ってるんだ?直子。お前、自分が何を言ってるのか分かって」

「分かっています。でも、これは国塚への復讐でもあり、私達の望みでもあり、そして…私達の考えでもあります。錦治さん…貴方にとって最低な行為になると理解してますが…どうか、好意のある女性とは子ども作って頂けませんか?」

「直子…どうしてだ?」

「私らは、姉御から罪を背負いました。それゆえに、子を成す事が出来ません。ですので、先輩みたいな女性と結んで、子を成して欲しいのです…」

「それが望みなのか…だが」

「錦治。最低な行為だとわかるが、私からも頼む…」



冴子を皮切りに、皆が同調し始めてきた…

そして、加奈子までも…


「うん。あの人に種を取られたと言うなら、あの人がやった事に価値のない事で有ると証明しなくちゃいけないの。錦治君、私達も我侭減らしますから…」

「馬鹿野郎…なんでこんな時に言うんだ…」


俺はそう言いながら腕を目に当て…自然と頬から流れるものを感じながら、この馬鹿達の言葉に考えていた。


本当に馬鹿だろ…普通のハーレムなんかはそんな事考えないだろうに…

本当に馬鹿だろ…


仕方ない。

あいつ等がその気で破滅させてくるならば、俺は徹底的に足掻いてやる。


「分かった。だが、その前に本人の気持ちが必要だ」

「うん、分かった…」


そう言いながら、直子は先輩を連れてきた…

紫肌であるデーモンでありながら、未だに高校生の殻を破って大人の女性にへと変化したばかりの少女に見えていた。

そんな彼女に、俺は起き上がって真正面から見つめていた…


「…先ほどの言葉、まことですか?」

「…はい」

「こんな節操の無い男でも宜しいのですか?」

「皆様から聞いた話では、あの女は貴方その者を奪おうとしてると聞きました。ですので、私なりの復讐として、貴方に抱かれて子を成そうと思います…」

「そうでしたか…」

「そして…先に暴露されてしまいましたが…好きです。例え、妻にならなくても傍に置かせてください。子ども達を育てさせてください…」

「ならば、俺からも言わせて頂きます…どうか、自分を大事にしてください…」

「はい…!!」


先輩のその返事と共に、残りの皆が一斉に此方にやってきて、俺と先輩を隠して行く様にして被さっていった…


まるで、俺を守るかの様に…






一夜や明けて…

何時ものように皆が着衣無しの状態で寝ている所を、俺が密かに起き上がって、体の調子を見ていた…


国塚の言う通りに、ドレインされた形跡も無く…俺の体内に残っていた国塚の創生の力である残留魔力の形跡も残っていなかった。


どうやら、本当に大丈夫の様だが…念の為警戒をしておこう。

それと…冴子達とは別に抱いてしまった先輩であるが…実に幸せそうに寝ていて可愛く見えた…

本気で、恋をしたかったのだな…

そんな皆の光景を眺めながら、俺は新しく気持ちを切り替えて動く事にした


国塚には絶対に堕ちない事と、お袋をぶん殴るまでは抗い続けよう…

西園寺に関しても、アイツも一回はぶん殴らなければならないが、あの二人には先にやらなければならない。

そのためにも、今解決する問題全てを取り払わねばな…


そう決めた俺を余所に、皆が一斉に起きてきた…


新しい一日を始める前に、この馬鹿達を愛し続けなければな…



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る