第30話 デーモン:山城要

あの夜から明けてから、一番最後に目を醒ました私はぼんやりとしていた。

うん、なんていうか…残党として新生王国に投降した際に、酷い目に合うかなと想像をしていたけど、思ったよりも横山君に優しくして貰ったり、葛葉先生達も安心できる場所を提供してくれたりと感謝するばかりであったし…

何よりも、あの会議の場で私を含めて人間の良心を持ってると言ってくれた時は本気で嬉しくて、彼にぞっこんになりたかった…


だけど、既に彼が既婚者だったから、そばに従うだけでも良いかと思った矢先…

あの大淫婦バビロンが横山君を無理やり交じりあって終った事には激昂した…

だけど、虚しくも私の剣は空を切るだけで終った上に、奴に横山君の前で暴露をされてしまった事にはショックを隠せなかった…


それでも、横山君…いえ、錦治君に更に優しくされてしまった上に、謝罪させてしまった事に私は頭が真っ白になるぐらいに錦治君の事しか考えられなくなってしまい、彼の為なら何でもしたくなってしまった…


勿論、投降時に錦治君達のステータスを全て分析魔法で調べて、魅了持ちだとは知っていたのだけど、純粋に彼が好きになってしまった事には、魅了など関係は全く無かった。


その上で、彼女達の許しを得て彼と一晩抱かれていたのだけど…


「は、激し過ぎて…思い出すだけで恥ずかしくなりそうです…」

「うっわぁ~…先輩って、乙女だね」


隣に居た直子さんの言葉通りに、私が乙女なのか初心過ぎる反応をしてしまうこの恥ずかしさに、少し同情をされてしまった…


「でもぉ…先輩の『わたくしの中に沢山入れてください!!』って言いながら、目をギュっと瞑って喜んだ姿は可愛いなぁと思いましたよ。しかも、おっぱいをプルンプルンと震わせながら♪」

「ちょ…直子さん、思い出させないでぇ…」

「うん。見た目は生真面目だなと思っていたけど、うまくやっていけそうだね♪キシシッ♪」

「うぅ…意地悪ですよぉ…」

「私は真面目モード以外は悪戯娘ですから♪」


そんな直子さんを見かねたのか、錦治さんが軽く手刀を入れられたみたいです。

勿論、本人は反省の色はしておりませんでしたが…






全員着替え終えて、朝食を取り終えた後は錦治君と冴子さんと共に王城内を歩く事にしました。

まだ来たばかりですので、色々と覚えておくと良いという事で。

ちなみに、今後は内政中心をしながら、私の生まれる予定の子どもと共に皆様の赤ちゃんを保育して欲しいとの事らしいです。

なるほど、実母兼乳母になって欲しいのですね。


「本当なら、あいつ等自身で育ててやりたいんだけどね…」

「いかんせん、愛着が湧きすぎると…俺達の長すぎる人生に対して、老いて行く最後の別れ時が辛くなるからな…」

「それもそうですね…」


これも、錦治君と彼女達の業と言いますか…彼ら十人についている”不老不死”その物が、子どもに接する事に抵抗が出ている原因なのですね。

一応、人間から悪魔族のデーモンに転身した私も”不老長寿”になって、寿命制限が無くなってはいるのですが…”不死”となれば違ってきますからね。

不慮の事故で亡くなって、永遠の別れとなる恐れがあり、それ以外である不死者との別れが辛くなりますし…


だがしかし、全く接しないわけでもなさそうで。

一日一回は定期的に会いに行ってるそうです。


何せ、まだ生まれたばかりだから、物心が付くまでの間は親として接するとか…


とまぁ、そう考えている内に、育児室に辿り着きました。

すると、其処には驚くべき光景が…


「あだだだだっ…こらぁ!あかり!!人の髪の毛を引っ張るんじゃないの!!」

「きゃっきゃ♪」


ゴブリンの乳児の女の子が直子さんの髪の毛引っ張りながらはしゃぎ、オークの女の子の赤ちゃんは直子さんの事を心配して見つめながら、残りの子はスヤスヤ寝ていた…


どうやら、直子さんの子が一番の年長者らしいですね。


「ん?ああ、先輩。来ちゃいましたか」

「物凄い元気な子ですね」

「あかりはこの中でも一番元気な子だからね。というよりも、このお城に来る前までは私の背中におぶられながら生活していたんだし」

「以外とタフな子ですね…」

「そこはもぅ、コブリンの子ですから。…ん?あかり。おっぱいが欲しいの?」

「だうー」

「そっか。もうそんな時間だもんね。ちょっと待ってね」


そう言いながら、直子さんはあかりちゃんを抱っこしてから授乳をし始めてた。

小柄な女の子でも、ちゃんと母親になってるのですね。


「…羨ましいのかな?」

「い、いえ。私もちゃんと母親になれるかなぁと思いまして」

「大丈夫よ。先輩もちゃんと母親になれるよ。私が保証してあげる」

「ありがとう…直子ちゃん」

「へへへっ♪所で、先輩と言うと堅苦しくなるから…要っちと呼んでいい?」

「良いですよ。私も直子さんではなく、直子ちゃん呼びますから」

「うん。そっちが気が楽になっていいよ。それじゃあ、宜しくね要っち♪」


そう言ってニッコリ微笑んでくれる直子ちゃんに、私は軽く握手していた。




その後は、乳母係のミノタウロスの女性達がやってきて、一緒にお世話する方法などを教えて頂いた。

魔王城で見たミノタウロス原種の雄雌達とは違って、人間から転身した彼女達は比較的に温厚でおっとりとしていて、気難しい関係にはならない事に安心した。


ただ、私以上の胸を持っていることには、驚きを隠せなかったのですが…






次に、執政室に案内をされました。

私以外に生き残ったメンバーがお役に立てないかという事で、内政に携わる仕事関係をする事で、場所と仕事内容を知る必要がありますね。


「うぅ…キンジよ。助けてくれぇ…」

「またか…どれ」


錦治君が、執政室の机で煙を上げている王女様と、隣で立っていたエミーさんの尻目に幾つかの書類の案件を握って目を通し、何かを納得した後に口を開いた。


「エミー、筆の用意を」

「承知しました」

「西南のはぐれ盗賊団に対しては派兵、東北のオーク氏族の支援に食料提供を、南のドワーフ族鉱山には資金提供を、それから…」


錦治君が幾つもある提案書素全てを、目を通しただけでそれぞれの対応策の打ち出して、エミーさんが割り当てられた提案書に内容とサインを全て書いており、ほぼ片付けてしまいました…

魔王城でも、ここまでテキパキと内政仕事をする人が居なくて、全員で頭を抱えながら提案書を処理をしていたのに…


「本当…錦治君って、ある意味凄いね…」

「そういえば、シミュレーションゲームていう戦略ゲームだったっけか?あれ、元の世界で加奈子と対戦していた時は訳の分からんレベルで張り合っていたからなぁ…」

「た、例えば…?」

「とある戦争ゲームで、加奈子が中○軍で人海戦術中に、錦治がシ○ア軍の自爆トラックで大壊滅させてきたぐらいに。しかも、本拠地目掛けてだし…あの時の加奈子は本気で絶叫上げてたからな」

「え、えげつないです…ね」

「ちなみに、あの手のゲームで一番強いのは良子なんだよな。錦治ですら一歩も近づく事すら出来ずに終らせてしまったぐらいだし」


そんな話を冴子さんから聞いてて、思わずドン引きしましたよ…

むしろ、進学校内でそんな風に遊んでいたとは…



その後は、錬金術を含めた開発室、騎士団及び兵団の訓練所、食堂を回って行きながら、一通り挨拶を済ませていきました。


あと、淫魔族のサキュバスリーダーのミリシャさんと会った時に、若干嫉妬的な目線で見られていたのは内緒ですかな。

しかも、錦治君の目の前で私以上の爆乳を震わせながらで。

勿論、錦治君はそんな彼女をこめかみグリグリをしていたのですが…



そして、最後にベッドの上で寝ている葛葉先生と、看病していた皆と挨拶をしていた…


「先生はどんな調子です?」

「うん。ご飯はちゃんと食べてる感じかな…」


私の友人であるのぞみが安堵の声で伝えてきたのを、私はホッとした。

そして、錦治君達を部屋の外で待機させて貰って、先生に近づいていた。


「葛葉先生、おはようございます」

「おはよー、おねえちゃん」


…幼児退行してしまって、私達が兄姉と認識するぐらいに弱ってしまってる。

一応、18歳以降は見た目年齢は歳を取らなくなる悪魔族であるが、20歳以上年が離れている私達からすれば複雑すぎた。

だけど、同じ年として認識するならば、そう接するしかなかった…


「…命ちゃん。今日は大丈夫?」

「うん、こわいゆめもみないし。おねえちゃんたちがいるからだいじょうぶ」

「うんうん、今日は大人しく部屋でゆっくりしていてね」

「はーい、おねえちゃん」


そう言って、私は先生をゆっくりと横にさせた後に毛布を被せ、優しくポンポンしてあげたら…先生は眠る様に静かに息をしていた。


自分の夢をひき潰された上に、数多くの子どもを生贄にして作り上げて生み出すあの堕落聖母である横山真理恵の創生魔法と太歳という化け物の戦いを見れば、余りの無力感で心が壊れるのは当たり前だ。


しかも…あんな化け物をその気になれば屠れるあの女の余裕っぷりに、魔王軍の誇りを踏み躙るものは…いや、もうそれの事を考えるのはやめよう。

その怒り、憎しみは…錦治君達が引き継ぐと言っていたから。


「それじゃあ、望。もしも先生が発作起したら…大輔君を呼んで」

「う、うん…分かったわ」


ちなみに、先生には幼児退行の他に、男狂いになるもう一つの人格が出てしまう発作が起きる事がある…


魔王軍の為とはいえ、時には枕営業をしていた先生であったが…本質は性に対して恐怖と嫌悪感を持っていて、私達女子の前で泣く事もあったが…

今じゃあ逆で、性衝動で抱かれないと不安になって狂い出すほど男狂いになるのだ。

そのため、生き残った男子の中で先生の事が元から気にかけていた大輔君を…

当て馬としては申し訳ないけど、先生とやってもらう事にしていた。

避妊の魔法は掛けてるとはいえ、万が一妊娠した場合でも責任取ると言っていたのだけど…子を持とうとする私としては心苦しいものだった。


出来れば、先生と結婚して、普通の家庭で暮して欲しいと願うだけ…


だれど、今の先生の状態が元に近い状態までに回復する時まで、この関係は続くかもしれない…

そう思いながら、私は部屋を後にしていた…







午後からは、錦治君達十人は平原に出て鍛錬と証した地獄の訓練を行っていた。

流石に私は一般側なので、遠くからの見学となりますが…


「…戦力的に見れば、あの十人だけで魔王軍と名乗れますよ」

「そうなのか?カナメよ」

「ええ。魔王軍でもあそこまで強くなれる人ってそこそこにいないのです。それこそ、魔王役となる人物が桁外れの創生の力を持って統率するのですが…」


騎士団長のギルバートさんに私はそう言いながら、尋常じゃない力でぶつかり、土煙を上げる皆さんを見て、私は思わずこう思っていた。


あの人達なら、いずれは…


ただ、あの人達はあの人達だ。

魔王となるならば、魔に近し者のがなるべきだ。

彼らは彼らなりの王として動くのが、通りであるから…

少なくとも、心が人間であり続ける人達の考えだから…


「そういえば、カナメも創生魔法が使えるのか?」

「えっ?あっ、一応は使えますが…」

「やはり、異世界出身者が多いのだな…」

「でも、葛葉先生除いて、私を含めて生き残ったメンバーは戦力外に等しい創生魔法しか使えませんので…」


実際に、私は魔王軍に転送された時に使える様になってはいましたが、先生から素質を見出された時に使えるだけであるといわれて、一般兵よりも一個上の位の部隊長にしか配属されなかった。

そりゃあそうです…闇の魔力を剣に纏わせて、邪を切るだけの力なんて…

魔王軍からすれば使えないに等しいですし。


やはり、当時学校で次に成績のいいクラスであるB組に在籍していたとはいえ、ギリギリの成績を維持してきて、必死に喰らい付いていた私からすれば、置いて行かれるのが怖かったのだろう。

それが渇望となって発動できたのが…間に合わせの創生の力だったのだから。


だけど…今ではその程度で良いと認識でいる。

確かに、前線であんなぶつかり合いをするのは無理ですが、あの子ども達を守る分の力としてなら、十二分に使える力だ。

なので、私は私で頑張る様にしよう。




鍛錬が終って、衣服だけボロボロになった皆さんと共に王城に帰った後、夕食を取ってからは…うん、全員抱かれてました。

それ以前に、錦治君…私をそんなに激しくしないでぇぇぇぇ…♪

本当に、子どもが出来ちゃいそう…♪


「でも、本来ならハーレムって、一般女性から見ると嫌われるんだよね」

「そうね。複数相手するなんて」

「た、確かにそうですが…あん!錦治君、少しゆっくりでお願いします!」



やっぱり、異世界で女性が多いとこうなるんですかな…?

魔王軍の時も、原種魔物以外は男子少なかったですし…


そう思いながら、私達は夜の蜜月を営んで一日が終りました…






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