第34話 兄弟との決着

まさかな…この日が来るとはなぁ…

執務室で王国各地に飛んでいたアラクネ達の情報の中にて、緊急で来室してきた『原初の森』担当の隊員二人がデカイ繭を携えて、床に置かれていった。


「ご苦労。アラクネの隊員諸君…次の指示があるまでは余暇を取ってくれ」

『はっ!』


俺はアラクネ隊員達に待機指示を与えると、彼女達は敬礼をしてから退散をし、音を立てずに去っていった。


しかしまぁ…俺達が最初にこの異世界に来た場所である『原初の森』にて…

この二人が見つかるとはな。


「蓮。繭を頭部部分だけをカットしてくれ」

「分かった。兄さん」


蓮はそういいながら、後ろでシャルトーゼが見守る中でアラクネの蜘蛛足で糸を切断をしていった…


本当、アラクネ同士での糸操作は簡単なのだな…


そして、繭の頭部部分から…その憎たらしい顔で睨みつける二人の姿が現れた…


「よぅ…今はどんな気分だ?西園寺」

「錦治ぃ…!貴様ぁ…!!誰を許可を得て見下して…!!」


その続きを言おうとした瞬間、蓮とシャルトーゼを含めたアラクネ達が、一斉に刃物を突きつけていた。

…ここまで来ると惨めなものだな。


念の為、西園寺と森宮の奴ら二人を繭拘束したまま椅子に座らせて、尋問を開始していった。


「さて…何処から聞こうか?」

「何を抜かした事を言う!貴様如きに話す事などない!!」

「そうか。なら、この王国に対して行った蛮行に対する罪状で、お前達二人を…」

「処刑するというのですか!?」

「いや、そんな野蛮な事はしない。それに…”何の力も持ってない”今のお前達二人に、恐れを抱く事も無いな」


俺のその一言に、西園寺の奴は血管がぶち切れるほどにまで顔を真っ赤にして、俺を睨みつけていた。

それを見かねた蓮は刀を手に掛けようとしたが、俺は止めていた。

こいつら二人に、屈辱的に行うとするなら、もっといい方法があるからな…


「とりあえず、そんなに俺や蓮が憎いなら相手になってやる。が、そんな状態で相手をするのもアレだからな…一度身奇麗にしてから、指定した場所でお前らと決着をつけてやろう」

「良いだろう…!見ておれよ…!!塵屑がっ!!」


そんな風に吠え面だけを叩く西園寺を余所に、亜人雄の騎士団員達に繭に包まれ状態の二人を整備された牢屋に投獄していった。


…とまぁ、西園寺を捕獲する事になったとはな。


「どう思うんだ?お前達」


俺のその言葉に、隠れていた蓮達を除く残り八人の面子が全員顔を出してきた。


「なんていうか…以前あった時の様な異質感は無いな」

「魅了も何にもない状態ですね」

「ぶっちゃけると、マジ今一状態な二人だわ」

「西園寺の一族にあるオーラすらもない状態でしたわ」

「はっきり言って、屑勇者からただの屑男に成り下がった状態だわ」


冴子、加奈子、直子、美恵、良子の意見からはそんな感じであった。

その上で…


「確かに、あの炎上する王都の時と同じ人物とは思えませんですね」

「始めて見ましたけど…あそこまで相手されないほどの魅了不足になるならば、憐みを感じますね」

「あれが父上を殺した男なんて…神からの加護を捨てた男の末路と呼びますね」


フェイシャ、エミー、クラリッサもまた西園寺達に対して辛口な意見が出てた。

どうやら、本格的に神の加護が消えているようだな…

通りで神からも探知されない存在になっていたとはな…



「兄さん。いや、兄貴…俺から言わせるなら、ありゃあもう廃人だ。何の価値もない、本当の意味での屑男としか言えん。今すぐにでも首切り落として、晒してやりたいんだがな…」

「レン様…お気を確かに…」

「大丈夫だぜ…シャル。お前こそ、奴に魅了されてないな?」

「大丈夫でしたわ。むしろ、憐みという感じを致しましたわ…」


二人かもそんな意見が出るとはな…

もはや、あの二人には何らかの作用が働いてるに違いない。


「蓮。お前は奴をどうしたいんだ?」

「言ったじゃねぇか、首を切り落としたいんだとよ。そう言う兄貴は?」

「そうだな…俺としては、首を切り落とすなど殺すなどより、もっといい方法があるんだからな」

「例えば?」

「”今”の奴の全力を受けて、その力の分だけ返してやるだけで…あとは生かすだけという方法がな」

「はっ。それこそ一番の拷問じゃねぇか」

「俺の性格で分かるだろ?思い上がった奴には生かす方が屈辱だと言うの事を」

「そうだったなぁ…兄貴の性格の裏はそう言う奴だったもんな」



そう言って笑う俺達二人に、他の皆は若干白い目で見ていた…

まぁ、外道には外道の礼儀と言うものを教えてやらねばな。





半日ぐらいが経過して…

身なりと睡眠、そして食事を与えて体調を万全にさせた西園寺と森宮を拘束し、何時も使っている鍛錬の場にしている平原にて二人の拘束を外した。


「何の真似だ!愚弟!!」

「別に。どの道、お前ら二人の処罰は避けられないからな。どうせなら、お前ら二人を万全状態にして蹴りを付けた方が良いと思って、ここに連れて来た」

「何故、そこまでの事に拘るのです!」

「お前らが俺達にやられた際に、『あの時体調が悪かった』とか『身なりが悪いからだ』とかの言い訳を言って散って欲しくないからな。それと…この平原は、何時も俺と冴子を含めた創生魔法持ちの奴らの鍛錬場だ。ここなら、派手にやり過ぎても問題は無いからな。好きなだけ暴れていいぞ」


そう言って、俺は二人が使っていた剣を投げ渡した。

無論、良子に頼んで鍛え直した物だ。

すると、西園寺ら二人は無言で剣を取り、剣を構えてきた。


「虚仮脅しもいい加減にしろ…そんなに俺を馬鹿にしたいのか?」

「むしろ、それは俺の台詞だ。今のお前らに何の羨ましい物も尊敬に値する物も何も無い。唯の人間とハイエルフなだけの”一般人”にしか見えない」

「ほざけぇ!!」


そう言って、西園寺と森宮の奴等は全力で剣を振り、俺を切り刻もうとした。

しかし…


「何だ?その一撃は?あの時の傷つけた光剣術は使えんのか?」


俺はそう言いながら、闇の創生の力で奴等の剣を受け止め、剣撃を防いだ。

…どうやら、あの光剣術は親父のスキルを発動していたものだな。

だが、そのスキルも消え去っているようだ。


今の奴等の剣は、”ただ高速に振り回してる”だけに過ぎなかった。


「だ、黙れ…黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇぇぇぇ!!」

「ならば!これならどうです!!」


そう言って、森宮はハイエルフ特有の古代精霊魔法の火炎魔法を使い、俺を焼き払おうとしてきた。

だが…それも、今の俺にとってはただの火の魔法に等しかった。


「森宮。お前の魔法はその程度か?それとも、他の四人も連れないと、まともに魔法が使えないのか?」

「そ、そんなはずは…!?」


あまりの結果に喪失する森宮を余所に、フェイシャが俺の傍によってきた。


「キンジさん。この女…僕に任せて貰えないでしょうか?」

「どうするつもりだ?フェイシャ」

「未だに、己自身の欲望や信念…渇望そのものが見えない上位エルフ様に、私の中に潜む渇望という物を見せ付けてやりたいのです」

「…良いだろう。ならば、お前の渇望そのものを、俺が一つ余さず見届けよう」

「ありがとうございます。キンジさん」

「良子。同期としてお前もどうなんだ?」

「私のはまだ未完成だから、遠慮しておくわ」

「そうか…」


俺はそう言いながら、茫然とし続ける西園寺達を余所に、フェイシャは歩いて…

ショートボブの銀髪を一掻きして立ち塞がった。


「…なさけない。これが、あの時のガリ痩せポズマーウッドエルフの主であるサイオンジと、ハイエルフのモリミヤですか。確かに、キンジさんが言う様に何の価値もない、ただの屑に過ぎないですね」

「ほざけが…!この糞ガキが!!貴様如き女未満の奴が俺を罵るとは!!」

「自分の立場を分かっていないようですね。貴方達は、帝国の勇者だったという事に自覚してない上に…貴方達、いやお前達帝国は私の故郷である妖精国を焼き払い、数多くのエルフ族を殺し、奴隷にし、難民を作った…そして、難民先にてひっそりと暮らしていた第二の私達の故郷まで被害を与えた。そこで、私の中にある渇望が生まれた。私の渇望…それは、”自惚れた略奪者達を断罪してやる”と言うものなり!今こそ、その渇望を具現化した私の創生魔法を見せてやる!」


そう言って、フェイシャは己の中にある渇望と魔力を結びつけ、創生の力を解き放っていった。

あの時以上の力を持って…


「”おいでなさい。冥府を守護する番犬ケルベロスよ。汝が探す咎人とがびとは目の前にいるぞ。安息の日々を過ごし、再び現世に帰るまでの浄化の時を待たず飛び出す愚かなる者達を、無限の灼熱の吐息と全てを噛み砕く牙で飲み込め!!創生…!残酷な咆哮クルーォリィ・ロア炎の爆風フレイム・バースト!!”」


詠唱を終えたフェイシャの後ろに、巨大な炎と化した地獄の番犬が現れ、奴等を睨みつけ…大地を揺るがすような咆哮を上げて突撃し、二人を飲み込む様に口を広げて飲み込んでいった…


そして、飲み込んだと同時に、天に届く様な火柱を上げて炎の渦を作り上げた。


…無論、フェイシャ自身も手加減というものを知っている上での行動なのか。

奴等二人が居た場所以外を大地抉り、焼き尽くすだけに留まり、奴等二人に何も被害を与えずに終っていた。

いや、わざと焼かなかったのは、先程の俺の趣旨に沿った物なのだろう。

奴等二人に屈辱と言う名の絶望を与える為に。


「…見事な物だな」

「キンジさん程じゃないです」

「だが、あの時以上に出来る子になったぞ。いい子だ…」


そう言って俺はフェイシャの頭を撫でてやると、彼女もまた目を閉じて甘んじ、至福の時を受けていた。


その一方で、大地を焼く以外にも何か起きていないかを周りを見回してみたら、幾つかの残骸らしき物体も焼き焦げて転がっていた。

どうやら、監視していた使い魔達も焼き上げていたようだな。


まぁ、これも例の魔術教団やノスフェラトゥ、そして悪魔国と帝国の奴等に見せつけてやったから、問題は無いだろう


問題は…目の前の二人なんだが。


「糞が…!!糞が糞が糞が糞が糞がぁぁぁぁぁ!!俺をコケにしたなぁぁ!!」


そう言って、西園寺の奴が激昂して俺に剣を振るってきた。

それと同時に、先程から黙っていた冴子が目の前に立ち、盾だけで防いでいた。

無論、”不屈の鉄壁”を発動させながらな。


「冴子。今回は防がなくても良いんだぞ?」

「幾らお前が不死身でも、こいつの剣で切り刻まれる所なんて見たくないんだ」

「全く…お前はお節介だな」

「お節介で悪かったな。バーカ」

「貴様らぁ!俺を無視する…」


その瞬間、冴子は裏拳で西園寺の胸で殴りつけ、森宮の所まで吹き飛ばした。


「いい加減にしろよ!この駄目男!!お前、分かってるんだろ?今まで楽して、適当に威厳を吐き散らして成長していない自分の事を理解してるだろ!!」

「煩い!俺は…俺は!俺は親父の道具じゃないんだ!!俺は俺だけ為の力で!!コレまでの権力や!勇者の力や!女の犯した力は!全部俺の力なんだ!!」


その瞬間、クラリッサが俺に見せた事のない怒りの顔をし、西園寺の胸倉を掴み上げて、華奢な腕で何度も西園寺の顔を殴っていた。


「…自分の為の力?自分だけ役に立つ為の力ですって?とんだご自愛な志でありますね?ふざけるな、この野蛮人が!お主等みたいな、身勝手な異世界人どもの所為で、私の愛する父上はおろか、父上なりに大事にしていた民、各国の住民を略奪虐殺をしてくれたな!!お主等のような人間が来なければ!私達の世界は、争わずに平和を築けたかもしれない!!それをお主等は自己愛の為に多くの民を傷つけ、平和を壊してきた!!それがどれだけ重いか分かってるのか!?」

「き、貴様…あの土人の王の…!!貴様如きに…何が分かる…!!勝手に…!!勝手に運命などと…!!決め付けられ…!!狂育された…!俺の身を…!!」

「お主の事など知らん!私からすれば!お主の様な人間はただの屑だ!!自分の決められた道しか歩けず、親から与えられえた玩具を振り回すだけの子どもだ!」


そう言って、クラリッサは渾身の力を込めて西園寺の顔を殴りつけ、鼻の軟骨を圧し折って吹き飛ばしていた。

そんな怒り乱れるクラリッサを、俺は優しく肩を叩いて後退させてやった。


「よくやった…クラリッサ。慣れないパンチで痛めただろう?加奈子に見て貰え」

「キンジ…すまない」

「いや、身勝手な事を吐く親の仇を成敗するその姿。見事な物だ。尊敬に値する」


俺が彼女に敬意を称してやると、静かに涙を流して後ろに下がってくれた…

その一方で、西園寺は鼻血をダラダラと流しながら起き上がろうとしていた。

だが…森宮の方が違っていた。


「錦治様!どうか…どうか、これ以上勇助様を痛めるのはお止めください!罰は私が全てお受けいたしますから!!」

「菖蒲…!貴様ぁ…!!何を言う…!!」

「もう…やめましょう…勇助様。これ以上、貴方様を傷つく所は見たくはございません…貴方様が行なってきた罪は、私がお受けいたしますから…」

「誰の…!許可を得て…!俺を下げろと言った…!ふざ…けるな…!お前は…!俺の…!役に立つ…!!女だろ…!!最後は…!戦って…!死ねよ…!さも…!なくば…!!俺が…!!殺す…!!」


西園寺が口から血を吐きながら剣を抜き、森宮に目掛けて剣を振り下ろした。

無論、咄嗟の行動であるが…俺は森宮を庇って奴の剣を全力で受け止めるために切られてしまった。


「…!?錦治様!?」

「愚弟…!?何故…!?」

「ふん。何だろうな?”理不尽な死を見たくない”と思って、勝手に動いただけかもな。それと…お前ら二人に越えられない壁を見せてやりたいという衝動が、出ていたかもな」


あからさまに致命傷を受けて出血してるのにも拘らず、平気に喋り続ける俺に、西園寺ら二人は深い絶望を味わっていた…

それもそうだろう、目の前の宿敵である奴が”不老不死”であった事に。

致命傷から全快する俺の姿を一部始終見ていた西園寺は、ついに意識を手放して気絶していった。


無論、隣に居た森宮に支えられながらである…


「森宮。最後に聞くが…お前は、そいつに殺されかけながらも愛したいのか?」

「…はい。私は、この方を支える為に西園寺の一族に拾われた孤児ですので」

「そうか…蓮」

「…お呼びで?」

「もう一度こいつらを拘束しろ。加奈子は魔法で治療をしてやれ」

「どうするつもりなの?錦治君」

「森宮に選択肢をやる。こいつと共に、命を落とすか。それとも、やり直すかのどちらかだ。まぁ、どっちに選んでも…人間を止めて貰うが」

「亜人化魔法を使うの…?」

「ああ。…美恵、直子。お前達にも協力して貰うぞ。冴子、良子、フェイシャ、エミー、クラリッサ。城に帰ってから行う俺の悪行諸行には許してくれ」


その俺の言葉に、他の皆は黙って頷いていた。

そして、俺は森宮に告げた…


「今日の深夜までに、答えを決めておけ…ついでに、糞兄貴は明日の朝まで目が覚める事が無い様に魔法もかけておく。良いな?」

「…はい」


森宮は力なく返事を返したのを確認した俺は、蓮に拘束するように指示し、蓮の糸によって二人は再び繭上に包まれていった…




「…これで良かったの?兄さん」

「ああ。殺す価値のない…憐れな男だ。結局、こいつは親父達一族に縛られて、何も出来なかったエリートの成れの果てだ…。だが、これは俺達にも言える事であるがな…」

「どういう事?」

「俺達も、勉強が出来、才能があった上に神から玩具チートを貰ったならば、こいつと同じ道を歩んでいたかもしれないな…と」


その言葉に、皆は沈黙してしまった…





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