第33話 勇者の”魅了”、西園寺の成れの果て

更に数日後…


蓮の調子も戻ってきたし、あとは例の如くにノスフェラトゥ達が仕掛けて来ても大丈夫な様に、俺達十人と騎士団…後は義勇兵である各亜人部族達の連合部隊を鍛え上げていくだけだな…


だが、ここまでしても向こうから仕掛けてこないとは…


一体どうしたものか…


「キンジ様。宜しいでしょうか?」

「シャルトーゼか。あと、蓮も一緒だな」

「久々にアラクネ隊による諜報部が動いたからね。どうやら、ノスフェラトゥ達全体が、協力関係であった魔術教団とひと悶着が起きているらしいよ。兄さん」

「協力関係だった同士か…何が原因だろうな?」

「恐らくは、魔術教団が複数のレギオンを使用する事に、吸血鬼族として大反対されてる模様です。あと、魔術教団の悪い情報としましては…前王国での各農村から集められた若い娘達を使って、コープスを大量に生み出しているとかも…」

「そうか…前王国の税として連れて行かれた若い女娘達の行方は、全て魔術教団その物に実験体もしくは生贄として捧げられていたのか…一つ聞くが、帰還したアラクネの娘達は大丈夫なのか?」

「念の為、ナオコ様を筆頭にメイジ部隊の方々と、ハナコ様やカナコ様を含めたプリースト部隊で進入した際の呪術関連の解呪と浄化は受けております」

「うむ…いくら生命力が強いアラクネとはいえ、あまり無茶はして欲しくない物だな…」

「それ、僕とシャルにも言ってるつもり?兄さん」

「否定はしないな。蓮はともかくとして…シャルトーゼはお前の妻で有り、子を作って育てる母の役目もあるんだからな。騎士としても役目も分かるが、無理は禁物だ」


俺のその言葉に、シャルトーゼは顔真っ赤になって恥ずかしがり、蓮に寄り添いながら照れていた…

意外と、まだ初心な所があるんだな…


「もぅ、兄さん…シャルは僕以外の”男性”からそう言われるのは慣れてないんだから…」

「ああ、すまんな…とりあえず、いざと言う時の為にお前達二人含めアラクネ隊全員は隊長を万全にしてくれ」

『了解!』


二人は敬礼をした後に、執務室から退出して行った。



次に入ってきたのは…要とミリシャであった。


「錦治君。悪魔族の資料をなんとかまとめて見たわ」

「要姉様との仕事、大変でしたぁ…」

「ご苦労。要…やっぱり、呼び捨て無しは駄目ですか?先輩」

「もぅ…私はお隣のミリシャさんと同じく貴方の妻になったのですから、名前で呼んで構いませんよ」

「そうですよぅ~…私も元気な赤ちゃんを産みますからぁ~」

「最後の一言は、夜以外のときは控えて欲しいのだがな。ミリシャ…ともかく、執務室ではどうしても敬語になりかねないのですので。ご容赦を」

「致し方ないですものね。錦治君が実際に指揮部隊を立ててますし…」

「近接戦闘ではギルバートさん、魔術に関してはエミー達、兵器技術に関しては英雄人狼ヴェオヴォルフの皆さんや上島達の方が上だからな。だが、総合的で見るとなる場合、最終的に俺の判断で委ねられる事になってるからな…」

「むしろ、キンジ様の作戦がどれもえげつなさ過ぎますぅ…」


うん。ミリシャの言う通りに、俺の作戦は現地の人や元の世界の人間から見ればとてつもなくえげつないらしい。

吸血鬼族に有効打として、酸化銀を詰め込んだ弾頭砲弾を空中で爆発させてばら撒いて飛行能力を奪い、その上で隠し水路を仕込ませたエリア一帯まで誘って、そこで孤島状態に作り上げた所で一網打尽にするというもの。

無論、そんな簡単に上手く行く訳が無いので、第二案である水計や火計、果ては俺達”不老不死”達を誘い餌としての一斉砲火という案も出し惜しみなく提案をしていた。

ちなみに、俺達の創生魔法は最後の切り札として、通常の戦争では極限の状態になるまでは使用を禁止していた。

俺はともかくとして、冴子は勿論の事、あの八人それぞれもまた創生魔法を覚醒させて行ってるからな…まぁ、蓮に到っては既に覚醒していたらしいが、今まで使わなかったのは、自分のスキルと混同していたらしい。


それに…簡単に創生魔法を使って戦争を変えるという行為が、俺の中では許せる訳が無かった…

あの時…あの村を自分が許容できる範囲の”力”に取り憑かれて愉悦に浸る…

あの西園寺勇助馬鹿兄貴の姿を思い出すからだ…


そういえば、アイツ…本当に何処に消えたのだろうか?


「そういえば…淫魔族や悪魔族の間での、西園寺の噂はどうなっていたんだ?」

「ああ。西園寺君ね…魔王軍の間では物凄く悪い噂しか流れなかったわ」

「あのサキュバスキラー・サイオンジね。あいつ、悪魔国の間では、淫魔の娘を絶対に出すなと言われるぐらいに、未婚の淫魔族の子達がアイツに連れ攫われてしまいましたわ」

「…誘惑された奴らは、全員帝国に連れて行かれたんだな」

「そうなるわね…私達も気をつけなければ」

「いや、俺を含めた魅了持ちだが…あれは未婚で処女の女性にしか効かないんだ」

「ほぇ?だから既婚の淫魔や悪魔の女性が攫われなかったんですね」

「ああ。ただ、アイツは女が屈服されない事に凄い嫉妬心を持っているからな…特に彼氏持ちとかの奴が居たら奪うぐらい。まぁ、行方不明となってるならば、帝国で攫われた奴等が反乱を起してる可能性が高いな」

「…どうしてですか?錦治君」

「アイツの場合は魅了状態の女性を無理やり襲ってる様なものだ。心から好きになってる女性で無ければ、一時離れてる状態になれば元通りだ」

「キンジ様とは大違いですね」

「いや、アイツの場合は本心で好きになっていた女は、取り巻きのハイエルフ達五人だけだったと思う。特に森宮菖蒲は幼少の頃からずっと西園寺の奴の世話をしていたからな…生活面から性欲面までな」

「ある意味、専属メイドみたいなものですかね?」

「そうとも言う。たぶん、西園寺が何らかの事が起きた際も抱きついて、一緒に飛ばされたんだと思うな…」


そう言いながら、俺は窓の外を見ていた…






――――――――――――――――――――――――――――――――――――



王都から南に下った所にある『原初の森』にて…


「糞が…!横山真理恵…国塚萌…天風愛宕…!!どいつもこいつも俺に屈服しなかった女どもが…!!」

「勇助様…おいたわしや…」


襤褸切れと化した勇者の服を着て…

刃こぼれだらけになった剣を松葉杖にして歩く西園寺勇助…

同じ様に襤褸切れになりかけの布地を纏って、勇助を支える森宮菖蒲…


その二人が、森に生息しているオークやゴブリン、そして魔物アラクネを八つ裂きにしながら森を出ようとしていた…


あの時、天風愛宕あまかぜあたご愛宕陣あたごじんによって壊滅した帝国空軍の責任を取らされ、帝国を支配していた叔父達に勘当された勇助は、取り巻き五人と共に国を出て、どさくさに紛れて手に入れて全て揃った各国の秘法と共に魔王城に乗り込んで、魔王と戦おうとしていた…


しかし、到着した時は魔王軍が横山真理恵の堕落聖母によって壊滅して、魔王を殺されてた所を目撃してたのだ。

無論、先を越された”叔母”に激昂した勇助は突撃しようとしていた。

しかし、創生の力何も持たない、ただの光剣術と神から貰ったチート能力と古代精霊魔法”しか”持っていない勇助達勇者組は無力にしかならなかった。


その上、第九等厄神:太歳が横山真理恵とぶつかった際に、魔王の大陸が亀裂が沢山入り、勇助達は亀裂に落ちていったのだ…


幸い、勇助と菖蒲以外の四人は転送石によって、脱出をしたのだが…二人だけは運が悪く、転送石を落としてそのまま”下”へ落下してしまったのだ…



そこからが、底が暗くて見えない地下世界を歩き彷徨い…見た事もない化け物の世界の中を二人だけで歩き続けたのだ…

そして、運良く”上”にいける亀裂を見つける事に成功し、脱出を図ったのだ…


しかし、その代償として…二人は完全に神から貰ったチートの加護などが消えてしまい、干渉されない対象へとなってしまった…


おかげで、ただの剣術と魔法でしか戦えない上に、魅了持ちすらも消えた勇助は菖蒲と共にある場所を目指し、ひたすら歩き続けた…


唯一知っている憎き弟、横山錦治がいる王国の王都へ…



その為にも、今居るこの森を抜けて、雑魚を殺し続けてレベルを上げた。

その上で、何時もは飽きるほどの女を犯していた性欲は菖蒲にぶつけながら、ひたすら屈辱の晴らす機会を待つ為に歩き続けたのだ…



そして…森を抜け…あの時自分が愉悦して燃やした村の跡地を見た勇助の目は、狂気に染まっていた。


「待ってろ…愚弟…せめて、貴様だけでも道連れにしてやる…」

「勇助様…私もお供致します…」

「当たり前だ…!お前は…お前だけは役に立つ女だからなぁ…!!」


そう言いながら、勇助は獣と化して菖蒲を押し倒し、”女”を犯し始めた…

だが、菖蒲はそんな勇助を優しく撫でながら耐えていた…


自分が本気で愛する男の為に…




その時であった。

二人の繋がった体に、無数の蜘蛛の糸が飛んで来て、二人を一つの繭状態にし、完全に身動き取れない状態にされた。


「…!…!!」

「間違いない。西園寺勇助と森宮菖蒲だ」

「これは蓮姉様に報告をしなければ」


二人を拘束したのは、王国直属の亜人アラクネ達であり、二人に悟られない様に複数人よる糸拘束で素早く繭にしたのだ。


「…っ!魔物アラクネ達がこっちに来ている!!」

「急いで!蓮姉様やシャル姉様以外の私達では勝てない!!」


亜人アラクネ達はそう叫びながら、勇助達を拘束した繭を抱えて、王都用である転送石を掲げていき、その場に居た亜人と繭全てを転送していった。







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