第25話 勇者達の襲来、宿敵登場

午後の昼食後…


見張り台から鳴り響く警鐘の音に俺達は準備万端の状態にして、敵の様子を確認していた…


たが、その敵の様子が…全員異常なものであった…



「直幸、あれはかつての奴らだよな?」

「あ、ああ…間違いない。全員D組とC組の勇者の連中だ」


直幸が言うように、全員が俺達の同じ学年の制服の上に鎧を着込んだ勇者達…

D組とC組の混合パーティーであった。


だがしかし、奴らの目はそんなものではなかった。


全員、眼が死んだ魚の様に光が無く、なにやらブツブツと言いながら…俺達亜人側の連中に殺意を向けていた。

しかもそれは、尋常じゃないほどの殺意で、刺し違えても倒すというぐらいな物であった。


「…この前、加奈子と良子を馬鹿にして、俺がミンチに変えた奴もいるな。だが、アレは…」

「このあたりの草原一帯に僕の糸を張り巡らせて見たけど…あの子達からは、もはや自由意志なんてものが無いよ、兄さん」


蓮の言葉に、俺は少しだけ考え…そして、結論を出した。

…本気で奴らを殺せる連中だけ、前に出す。


「ギルバートさんとフローゼさん…人間は殺せそうですか?」

「悪人でない人間に剣を抜くのは少々気が引けるが、あの子達に向けるならば、大丈夫だ」

「シャルトーゼは?」

「今は貴方達に従おう…」


これでよし…

あとは…冴子達はどうするかだ…


「錦治!私も連れて行け!」

「冴子。分かっているのか?この前みたいな甘いことは言えないんだぞ」

「ああ。それは分かってる。だけどな、お前ばっかり人殺しを背負わせ、あとは黙っていろとか許すわけには行かない。…私を巻き込め。他の四人を巻き込ませたくないのは知ってる。頼む」

「…ならば、俺の背中を守れ。お前と俺の脇は蓮が守る」

「分かった」


そんなやり取りをしている時、直幸達も走ってきて、俺の目の前に立ってきた。


「おい!錦治!!なんで俺は前に出ちゃあいかんだよ!!」

「直幸。お前は手加減なしで人は殺せるか?今回のはお遊びじゃないんだよ。全く知らない人間よりも、本当に知っている、かつてのクラスメイトだ。正直、お前と江崎達がD組とC組の人間を殺せるとは思えん。…それに、一週間前のあの時、本気であいつ等を殺せそうなのは、俺と冴子、蓮のたった三人だけだ。分かってくれ…」

「何故…私も殺せないと分かったの?」


直幸の前に、良子が立って俺を見つめていた。

正直に言えば、良子の覚悟というものは知っていたが、俺としては疑問だった。

先日の騎士団撃退時といい、最初の村の騎士団への襲撃時といい、俺としては良子が人殺しなど出来るような女ではないと知っているからだ。


「良子。正直に言えば、俺はお前と他の三人に人殺しをさせたくは無い。その上お前達には大事な役目があるんだ。分かってくれ」

「嫌よ!もうこれ以上、錦治君の後ろばっかりにいるわけには…」

「お前達には大事な役目があるからだ!…万が一、俺や蓮が倒れた時は、お前とあの三人の中にいる子どもと共に、逃げてくれ。頼む…」


俺のその言葉に、良子達四人は驚きを隠せずにおり、冴子と蓮は納得をした様な顔で俺を見つめていた。


「な、何故分かるの?」

「最初の一週間目の…あの交わって時以降、殆ど休まずに交わっていただろう?あれで子どもが出来ないとは限らない。それに、学生時代から知っていたが…、冴子を除くお前達全員、”女性の日”が来ていないのは大体分かっていた…だから、頼む…俺達が普通通りに帰ってきたら、責任を取るから、今は大人しく後ろから守ってくれ…」


俺のその言葉に、良子は渋ってはいたものの…加奈子、美恵、直子の三人と共に無言で頷いてくれた。


「ありがとう。村の皆も守ってくれ…次郎さん、村での指揮はお任せします」

「ああ。行ってきなさい…村の皆と彼女達は俺達に任せてくれ」

「君のおかげで、私達は進化するほど強くなったわ。恩返しの為に守るから、頑張ってきなさい。若き後輩たち…」

「ありがとうございます、花子さん…では、行くぞ!」


その掛け声と共に、俺達六人は村の門を開け、出陣しようとしていた。

その後ろから、デュミエール達オーガも駆けつけてきたが、俺は一言も掛けずに彼女達を置いて出ることにしていた。


「何故!何故なんですか!?私達も戦えます!!お願いですから!私達も連れていってください!!」


そんな声も、俺は蓮と冴子にも無視する様に促し、ギルバートさん達にも暗黙の了解の下で促しておいた。


「何故なんですか!?お答えください!!」

「…分からないの?お姫様。錦治っちは、お姫様達が足手まといだと言ってる。私も言えた義理じゃないけど、最初から高ランクの亜人怪物は、成長が遅い。…錦治っちで、やっとレベル20に慣れたのに、お姫様達はまだ10も行ってないじゃない。だから、勇者が20人もいる戦場に出るなと行ってるんだよ。同じ土俵に立てない身として、はっきり言わせて貰うよ。…無駄死はいけない、大人しく下がってみてろ…って、錦治っちなら言うよ」


門が閉まる頃に、直子からのそのきつい言葉を聴いたデュミエールから、泣く音が聞こえてきた…

オーガとしては屈辱だろう…

だが、本当の無駄死には、俺が許さないし…

何よりも、あの男が着ていたなら…彼女は死ぬよりも辛い目に合うからな…



女に対して鬼畜なあの男のさがにな…







例の元学生の勇者達が先に見えるほどまで近づいた俺達は、まだ抜刀の許可を出さずに、俺が前に出るようにして出向いた。


万が一の事も考え、冴子は俺の後ろに。


ギルバートさんとフローゼさんは右横の後方へ。


蓮とシャルトーゼは左横の後方へと下げておいた。


そして、奴らが目の前まで迫った時、俺は語りかけてやった。




「よぅ?久しぶりだな。元気にしていたか?俺は亜人に代わってしまったが、お前達よりも元気に過ごしていたぞ…っ!?」


分かっていたが、どうやら言葉も聴けなくなるぐらいに”頭”を改造されてた様だ…


学生勇者達全員が口から涎を出る所か、唇を噛んで血が出るほどまでに力んでおり、殆どが狂戦士バーサーカーのような狂気に包まれて剣を振るい、詠唱なしで魔法も唱えてきた…というより、無理やり発動させた様に見えた。


『ギギ…ギギギ…ギギギギ…!!』



全身に血管が浮き出るほどの筋肉増強…


頭につけてあるサークレットには何かを埋め込まれる…


そして、何より体中から何かの魔力で帯電するかの様に身体的拘束をされている事に気付いた。


いくら神からの死なない特典付きでなった勇者とはいえ、ここまでされてたら、もはや廃人を超えた、屍者操作系の生体兵器と呼ぶに相応しい。


一言で言うなら、哀れとしかいえなかった。


「…冴子。分かっているな」

「…ああ。分かっている」

「よし、ギルバートさん。お願いします」

「了解した」

「蓮、始末は任せる」

「うん…せめて、苦痛を与えずに殺る」

「…行くぞ!」


その掛け声と共に、六人全員が一斉に動いた。







最初にギルバートさんとフローゼさん達…


こちらは、王国の騎士団紋章の入った剣を見て、学生勇者達は一瞬動きを止めていたが…リザードマンのギルバートさん達が一人の勇者を戦闘不能にした時に、初めて敵と認識して三、四人ほど向かっていった。


次に、蓮とシャルトーゼ達…


こちらは、アラクネ二体の蜘蛛亜人ということで、速攻で10人ぐらいは釣れ、蓮達を一気に倒そうと掛かって行ったが…既に蓮とシャルトーゼが罠を仕掛けており、二人がかりで鋼糸と化した糸で学生勇者達を拘束し、死なない程度に鋼糸で傷を入れていき、二人から出すアラクネの毒を糸を通して流し込む事で、勇者達をアラクネ毒による魔物化させることで戦闘不能にしていった。

…なお、こいつら全員アラクネ化の適正に入っていないため、魔物のアラクネになるのは間違いは無かった…



最後に、そんな二組に向かわず、俺と冴子の二人に突撃した残りの勇者達は、人間の限界値を越えた力量で叩きつけてきた剣撃と、魔力限界値を超えて発動させた魔法を俺達二人に目掛けて撃ってきた。


無論、そんな攻撃も冴子の”不屈の鉄壁”によって全部防がれ、反動で動けなくなった勇者から一人ずつ、俺と冴子の二人がかりで斧と大剣による切り刻みで行動不能へと追いやっていった。


そんな調子で、一人を戦闘不能しては生かさず殺さず、一人ずつ始末しながら、俺はこいつらを操っている連中がいないか索敵していった。


…が、幾ら探しても見つからず、こいつらを操っている親玉が見つかる気配が、一切見当たらなかった。


「おかしい。洗脳強化の場合は、必ず誰かが監視役としているはずだが…」

「兄さんも気付いた?僕達もそれを探る為に糸を飛ばしていたんだけど…」

「同じく、レンお姉様と探しても見つかりませんですわ」

「キンジ。何かおかしい…この場から離れた方がいいかも知れん」

「ですね。…冴子、どうした?」

「…みんな!私の前に集まれぇ!!」


冴子がそう叫んだと同時に、”不屈の鉄壁”をフル発動させて地面に剣を挿し、結界を発動させてきた。


その言葉通りに、俺達は冴子の周りに密着し、結界内に潜り込んでいった。

すると…空から見たことの無い火球の大群が降り注ぎ、あたり一面を焼き尽しながら大地を焦がしていった…


「なっ…!?これは…!?」

古代精霊エインシェント魔法!?王国にはハイエルフがいないから、使えるはずがない!?」


ギルバートさんが言うハイエルフが使う古代魔法…これほどの破壊魔法を扱う奴は一体誰が…


いや、心当たりがあった。


どうやら、俺は予想を違っていたようだ…

こんなかつての学生をゴミ同然に扱う連中なら、やりかねん作戦だ…


「兄さん!冴子さん!!アレを…!!」

「…あいつ等!?」

「やはり来たか…!!」


目の前にいたのは…紛れも無くあの男の姿であった…

その男の周りには、人間としてみるなら美しいと言える女エルフと、サキュバスの女が立っていた…


「やれやれ…王国から報酬の秘法を手に入れるために、”王国の辺境の村にて騎士団を二回も潰した強力な亜人を倒してくれ”という依頼を受けてきたら、まさかここに居たとはな…ゴミ屑の愚弟ども」


忘れもしない、あの煽り…

自分以外の人間…特に男と価値の無い女には見下す…

人間として一番許せない奴がきた…


「ほぅ…?男を捨てたカマは化け物女に、子供を産めない糞は雑鬼となったか。これは笑わせてくれるな!ハッハッハッ!!」


蓮や冴子を馬鹿に…

俺達を常に見下し、自分の才能と権力で学校を支配していた男…


「…戯言はそこまでにしろぉ!!西園寺勇助さいおんじゆうすけ!!」


西園寺勇助。

A組の主席で、学年一天才と呼ばれ。

俺達の生涯の中で、一番許せない男。

あの親父の遺伝子を一番強く引き継いだ、異母兄弟の長男であった…





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