第24話 剣の稽古
アレから一週間…
特に変化の兆しも無く、毎日が訓練と農作業で忙しい日々であったが、実に平和な日々を過ごしていた。
…まぁ、先日の飲酒した件はギルバートさんと協力して説教しておいたからな。
当分は懲りるだろう。
蓮からも「ろ過していないから、あのまま飲むのは危ないかも」と言ってたし、もう少し暇になったら、酒樽の中に入れて保存しておくのも良いかもな。
孵化したアラクネ子ども達も、シャルトーゼの子アラクネとは仲良くしており、現在は村人アラクネの裁縫を学んでいるそうだ。
どうやら、子ども達は基本的に争う性格ではなさそうだから、そちらの道にて進ませた方が無難かもな。
さて…どうしたものか…
「兄さん、少し話があるけど…」
「どうした?蓮」
蓮の誘いに、俺は素直に応じて付いていく事に…
「んで、話とは何だ?」
「久しぶりに…兄さんと手合わせを願いたいかな…?」
分からんでは無いが、俺も蓮と同じ
だが、あれは中学以来全く手を出していない。
入学当初は剣道部に入っていたとはいえ、それも半年もしないうちに退部した。
全くと言って良いほど、蓮から見れば素人同然の剣まで落ちている。
それを踏まえての手合わせというのか…
「言いたいことは分かるけど、兄さんも心陰流を思い出して欲しいんだ。あの男が…万が一…」
「アイツが?まさか…たった一回見ただけで学んでしまっただけの男が、俺やお前の剣を見切れるというわけか?」
そう返してやったのだが、蓮の目からは真剣そのものであった。
流石にそんな目をしていたら、俺もはぐらかすのを止めた…
「分かった…だが、言っておくが…俺はお前よりも三年以上もブランクがある。分かっているな?」
「うん。それに、兄さんが斧などの重たい物ばかり使っていたのは、剣で人を殺めたくは無いという意思からなんでしょ?それも学生時代から知ってるから」
「お見通しというわけか…木刀を持て。…構えろよ」
俺はそう言いながら、人型になった蓮との”死合い”を始めていった…
両者共に、木刀を構え…奇声と共に木刀を振るい、鍔迫り合いをして、一歩も揺るがずに構え続ける…という動作を繰り返して時間が経過していた頃…
「ほぅ…これが剣道というのか…」
「レンお姉様とあの人…凄い気迫だわ」
何時の間にかギルバートさん達の元騎士達も集まり始め、他の学生組や村人、果ては次郎さん達やデュミエール達も集まり始めて、俺達の”死合い”を観戦していた。
そんな中を気にせず、俺達は再び構えを変えて、にらみ合いをしていた…
蓮の奴が、中段の構えから居合いの構えに変えてにじり寄るのに対し、俺は上段の構えからゆっくりと脇構えで応じる様ににじり寄っていった。
『イァァアア!!』
両者、奇声による掛け声と共に、蓮は居合いの構えからの一閃を放ち、俺は脇構えからの逆袈裟切りを放ち、互いの剣を相殺していた。
それと同時に、互いの剣激の嵐が巻き起こるかのように激しい撃ち合いをし、互いに剣の衝撃を流しながら、五分五分の勝負であった。
「凄まじいものだな。これが騎士ではない兵士が相手だったら、何度斬られているのだろうか?」
「むしろ、彼が剣を持って居たら、私は命が無かったかもしれない…」
「あの時のシャルトーゼに放った斧の一撃を見た時、彼は素人な技ではない、手馴れの武人だと思ったよ」
「言うようになりましたね。ギルバート…まさか、平民出身だったの貴方と、貴族出身だった私と、こうも話しながらお互いの感想を述べ合うとは、夢の様です。…今は、亜人になって、身分を捨てて言える位に解放された事に、私はあのお二方に感謝しております」
「それは私も同じだし、フローゼも同意している。…お互い、見えない所を背いていた結果のツケだと思ってる」
そんな二人の会話を聞こえていた。
価値観の固定…それも、身分の格差による物等の価値観の差が膨れ上がる時、他界の関係に溝を産み、やがては争乱による離別へと発展する。
今回の彼らの歩み寄って、俺達の死合いを見て述べ合うぐらいには、彼らにあった身分による腫れ物が取れたのだろう。
と、考察しながら、蓮との死合いをそろそろ終らせようと思っていった。
このまま行くと、俺も心陰流の殺を発動しそうだからだ…
そう思って、俺は八相の構えを取り、不動の如くに動かないで居た。
すると、蓮も応じるかの様に、居合いの構えから上段よりも上に剣を構え、月の輪を作る様に、刀をゆっくりと円を書くように振るっていった。
「終わりにしようか、蓮」
「いいよ…兄さんこそ、”潰れないでね?”」
蓮の目が狂気に染まった時、俺は応じるかの様に鬼神の眼力みたいな目で、臆せず蓮の猛撃を防ぐ事にした。
「…ハィヤアアアアアア!!」
円が頂点に達した時、連は奇声と共に袈裟斬りの猛襲を仕掛けてきた。
だが、そんな蓮を余所に俺は冷静に八相からの袈裟切りで、蓮の木刀ごと叩き折ってやった。
無論、俺のその袈裟切りの衝撃と連の袈裟切りの反動が合わさって、蓮は地面に叩き伏せられるように倒れていった。
「掛け声無しの不動明王の様な一撃…まさしく雲井心陰流の活法、不動剣は健在の様だね。兄さん…」
「正直、まだ未完成では有るが…これがじっちゃんだったら、剣を折らずに刀を突き出しただけで、相手の殺意を消す事が出来る」
これが、俺がじっちゃんから教えてもらった、雲井心陰流の活の極意である。
殺の極意である”相手を命を切る”のではなく、相手の邪念…つまりは、相手の”邪な考えを断ち切る”為の極意である。
昔はコレを極めてみようと思っていたが、俺の中にある邪念…親父とあの男への執着心がある事に気付き、そんな精神の下で幾ら修行をした所で、自分の邪念を祓う事も出来ない人間に活の極意を極められる訳が無い。
そんな心情の下ゆえ、いずれは殺の極意にある”人を斬りたい”衝動に駆られる恐れもあり、この異世界に来る前では雲井心陰流を極めずにいた。
「その様子だと、まだ自分の剣を信用してないみたいだね」
「ああ。正直、まだ自分を見極めてないからな」
「…僕から見たら、兄さんの剣は曇りが無いぐらい、羨ましいよ」
「逆に、俺から見たら、お前の剣は水の様に透明で、尊敬に値する」
剣を握って交えた後の癖だ。
蓮の奴は、俺の剣が曇りが無いといって羨ましいと言い…
俺は逆に、蓮の剣は水の様に透明で尊敬に値すると言う…
同じ時に剣を握ってからは、何時も互いに掛けている言葉である。
「とりあえず、今日はここまでにしようか。他にもやる事がある」
「そうだね。そろそろお昼だし」
俺と蓮はそう言いながら、観戦していた全員に呼びかけて飯の時間にする事に。
だが、その日の午後…俺は、いや、俺達は初めての経験をする事になる…
王国がやらかした…非道に値する外道勇者部隊の対峙と…
あの男の襲来に…
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